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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第九十七話

「レイン……?」

「そ、レイン」

 どこかで聞いたような気がして――名前を聞き返した俺に、回復用のポーションを飲みながら、レインと名乗る赤髪の少女は肯定する。市販のポーションの味を不味そうに顔をしかめた後、こちらを……特に俺とリズの顔を、興味深げに見つめてきていた。

「……何?」

「あ、ごめんね。あなたたち、もしかしてレプラコーン?」

「ああ」

 いきなり興味深げに見据えられて気分を害したのか、リズが胡乱げにレインを睨み返す。種族のカラーが赤銅色だったり、そもそもあまりその色にこだわらず外見にも特に特徴なしと、レプラコーンは外見であまり見分けられない。故の興味だったようで、レインも即座に非礼を詫びる。

「初めて会えた! 私もレプラコーンなんだけど、やっぱり女の子のレプラコーンっていなくて……」

「やっぱりレプラコーン? ねぇ、女の子ってばシルフかケットシーばかりで……」

 どうやらレインの真紅の髪はサラマンダーではなく、レプラコーンの証しだったようで――リズと何か通じ合ったかのように、がっしりと固く握手を交わしていた。出会ってまだ数分と経っていないにもかかわらず、その十年来の親友のようなソレは、そりゃ好き好んで油まみれの鍛冶妖精は選ばんだろう――という俺の言葉を踏みとどまらせた。

「OSSと一緒に追加されたスキルツリーなんだけど、アレはいまいち伸ばせなくて――」

「ああ、アレなら数よりサラマンダー領で取れるインゴットがいいわね! それより特殊能力追加スキルなんだけど――」

 それに何しろ、鍛冶スキルの本格的な考察を始めた二人に、口を挟めるような雰囲気ではなくなっていて。すっかり二人の世界に入り込んでしまったリズとレインを放っておき、風が澄み渡る空を仰いでいると、ユウキがおずおずと話しかけてきた。

「……ショウキ、分かる?」

「……まあ、七割」

 ――本当は分かって五割ほどだというのに、ユウキの尊敬するような目線が痛い、数秒と直視していない。ついつい口から見栄を張ってしまった俺が、純粋そのものな視線を送ってくるユウキに、真実を話そうか悩んでいると。その結論が出るよりも早く、俺の肩にイメージよりも小さい手が置かれた。

「ショウキ? 聞いてた?」

「いや、正直ついていけなかった」

 途中から聞くことを放棄していたが、これは誰にも責められる謂われはない。リズは腰に手を当てながら、ズズイと俺へと身を乗り出してきた。

「あんたに関係する話だったのよ。レインのおかげで悩みが解決しそう」

「悩み?」

 誇らしげにリズはそう語るものの、俺の悩みとは何だったか――と一瞬考えてしまう。そもそもここに来た理由は、ユウキとのデュエルなどがあって忘れていたが、ソードスキルが使えないことの確認だった。彼女のおかげで悩みが解決する、ということは……

「ソードスキルが使えるようになるのか?」

「バカ、そっちじゃないわよ。属性の方よ属性」

「ああ」

 そっちか……と相槌を打つ。ソードスキルに付与することが出来る、という属性。それは先のユウキとのデュエルでも効果を発揮し――もちろん、俺がしてやられる側だったが――個人的にも、活用法はありそうだと考える。もちろんソードスキルが使えない自分には、そもそも関係のない話だったのだが。

「そ、れ、が。レインの鍛冶スキルを応用すれば、何とかなりそうなのよ!」

「あ、ははは……変なスキル振りしちゃっただけ、なんだけどね……助けてくれたお礼もしたいし」

 ――明日にでもスキル振りし直すつもりだった、とは苦笑いをしていたレインの弁。何にせよそのスキル振りが、リズの手によって有効活用される……らしく。もちろんその作業はここではなく、リズベット武具店に行かなければならないが。

「ユウキはどうする?」

「えーっと……ごめん。これからスリーピング・ナイツのみんなと用事があるんだ。本当にごめんね!」

 元々の仲間であるスリーピング・ナイツたちと用があるとして、本当に申しわけなさそうに謝るユウキに、リズは気にするなとばかりに手を振るう。

「いいのよ、そんな気にしないで。どうせ鍛冶の話になるしねぇ」

「じゃあ俺も」

 先程の鍛冶の話についていけなかった俺は、さらにそれ以上の話になると予想して逃げだそうとした。

「当事者兼助手が何言ってんの。とりあえず、街まで戻りましょ? ほら、ユウキにレインも」

「う、うん、ユウキちゃんにはお礼はまた今度」

 しかし回り込まれてしまった。いや、最初から逃げる気はなかったが。リズはユウキに続いて、少しユウキの明るさに呆気にとられていたような、そんな雰囲気のレインにも声をかけると、街――イグドラシル・シティに向かって翼を展開する。

「よし! レイン、ボクと街まで競争しよ!」

「えっ、ちょっ……」

 そういうや否や、すぐさまユウキはイグドラシル・シティへと飛翔していく。それを「待ちなさいよー!」と叫んで追いすがるリズを見ながら、俺はボーッと立ったままのレインへと話しかける。

「どうした?」

「いや……何か、楽しそうだなぁって。うん、レインちゃんも負けないよー!」

 驚いていた顔から楽しげな顔に変わり、レインも翼を展開してユウキにリズを追う。何か考え事をしていたようだけれど、ユウキの明るさにほだされたらしく……少し哀しげだった表情が和らいだ。ユウキのそういう明るさに感嘆しながら、俺もレプラコーンの翼を解放するとともに、地上を蹴って空中へと飛翔していく。

 ――もちろん、三人のレプラコーンをユウキがぶっちぎるという結果に終わった訳だが。

「またね!」

 と、即席レースに優勝して元気よく手を振るユウキと別れると、レプラコーン三人はリズベット武具店を訪れていた。手早く注文が来ていることを確認すると、店番をしてくれている店員NPCにお礼を言う。

「じゃあレイン、ちょっと工房に……どうしたの?」

「へっ!?」

 店に入るなりレインは物珍しそうにあちらこちらを向きながら、飾られている武器を興味深げに覗き込んでいる。そっと、ある片手剣に手を伸ばそうとしたところに、様々な雑事を終わらせたリズに声をかけられ、イタズラが見つかった子供のように飛び退いた。

「な、なにかな?」

「うん、今更取り繕わなくていいわよ? ちょっと工房に来てくれ……ほら、ショウキ逃げなーい」

 照れたように赤面して顔を伏せるレインと、町に出ようとしていた俺を引き連れて、リズが店から工房への扉が開く。工房へと移動している間に、鍛冶仕事には必要ない日本刀《銀ノ月》を仕舞おうと操作していると、前を歩いていたリズから声をかけられる。

「あ、ショウキ。日本刀は仕舞わないで。今からソイツを改造すんのよ」

「こいつを?」

 腰から提げていた日本刀《銀ノ月》を手に持ち、改めてまじまじとその造形を見直した。美しい――基本に忠実な太刀の造形をしており、漆黒の柄から少し抜いてみると見える、三日月を思わせる銀色の刃には呪術的な紋様が刻まれている。そして日本刀としては果てしなく異常な、柄にあるスイッチと引き金が存在感を醸し出している。

 ……日本刀としては変ではあるが。数えて三代目の、俺とリズが作った大事な武器であり、唯一無二の存在だ。

「そうか……」

 そしてまた、改造を施されて俺の力になってくれるという。方法は本職のリズに任せる他ないが、とにかくまたこの日本刀《銀ノ月》は生まれ変わっ――

「……そうか……」

「……いや、ね。複雑な気持ちは分かるわよ、うん」

 それはつまり、引き金やスイッチ以上にまた魔改造が施される訳で。日本刀としてはさらに異形となっていくソレに、ちょっと悲壮感を感じざるを得ない。リズからもたらされる微妙なフォローに、少し肩を落としているところ、レインが後ろからピョコンと顔を出した。

「わ、凄い。ショウキくん色々武器持ってるんだね」

「え?」

「あ……ごめん、勝手に見ちゃって」

 気づけばアイテムストレージは可視可モードであり、後ろにいたレインにも見えてしまったらしい。勝手に見てしまったことを謝るレインに、「気にするな」とばかりに手を挙げておく。後ろにいたレインに、見えるように展開させていたこちらが全面的に悪い。

「そう? 私も結構コレクションしてたつもりだったけど、ショウキくんには負けるなぁ……」

「しかもソレだけじゃないわよ。店の倉庫まで使って、まったく!」

 許しが出たからかまじまじと俺のコレクションを見るレインに、俺から日本刀《銀ノ月》を受け取りつつも、まだまだある日本刀コレクションにリズは聞こえるようにため息を吐く。

「え、まだあるの? 後で見せて!」

「……しょうがないな」

「はいそこ調子のらなーい」

 とある倉庫に押し込まれている刀の数々を思っていると、リズからビシリとツッコミを入れられる。そうしている間にも、特に長い距離でもない工房へと到着する。仕事場として使っている鉄の机に日本刀《銀ノ月》を置くと、俺とリズは仕事用のハンマーを肩に構える。

「へー……仕事場ってやっぱり独特な雰囲気。私は好きだな」

 またもや周囲を物珍しげに眺めるレインに対し、リズはあるハンマーを差し出した。リズが造った鍛冶用のハンマーの中でも、かなりの出来の物だった。

「お褒めの言葉どうも! ほら、このハンマー貸してあげるからレインも手伝ってよ?」

「う、うん!」

 レプラコーンとはいえ、店まで持っているとなると難しい。あまり大がかりな作業に慣れていないように見えるレインは、リズから受け取ったハンマーを両手に構え、キョロキョロとしながらも頷く。慣れないことに緊張しているようなところを見ると、レインちゃんは――などと自分のペースを保ちながら話す彼女だったが、そのペースを乱されるのは苦手らしい。むしろ慌てた時の方が、よりレインの本質なような気もするが。

「よ、そ、み、しない」

「痛い痛い」

 どうりで話しているとペースが乱されるユウキの前で、レインがどこか狼狽えていた訳だ。自分のペースが乱されると慌てるところは、ちょっとリズに似ている――と思っていると、そのリズから物理的な文句が飛んでくる。どうやら、まじまじと慌てるレインを見すぎていたらしい。

「よし! んーと、何すればいいかな?」

 そうこうしているうちに、レインは自らのペースを取り戻してしまう。少し残念に思っていると、ドアが勢いよく開けられた音が空間を支配した。たまに桐ヶ谷夫妻が工房の扉をそのように扱うことがあるが、今回は工房ではなく店の扉――つまり、リズベット武具店の入口である。

「物騒な客だな。リズ、ちょっと行ってくる」

「ん。よろしく」

 せっかく振り上げていた愛用のハンマーは行き場をなくし、再び壁にかけ直して俺は工房から出る。とりあえず物騒とは言ったが、どんなお客様かと思いながら店頭に戻ってみると、そこには思いもよらない人物がいた。

「ルクス?」

 キリトと二人でクエストに行ったと聞いていた、二刀を持ったシルフの姿がそこにはいた。どうせシリカ辺りが無理やり扉を開けたんだろう、と思っていたこともあり、そこにルクスがいるとは予想外だった。予想外とはつまり、ルクスがするとは思えない行動ということであり……その非日常を証明するように、そこには彼女の姿だけてはなく、見知らぬ人間がもう一人。

「あ、ああ。ショウキさん。すまない、ちょっと匿ってくれないか」

「匿う?」

 ルクスの癖であるその男らしい口調にも慣れた。彼女が肩を掴んでいた、VRの対象年齢ギリギリなような小さな女の子――もちろんアバターな訳だが。ルクスに庇われるような格好で立った、どこかの民芸品を思わせる少女は、俺の目を見てニコリと笑った。

「プリヴィエート。ショウキ……だったわよね?」

「プリヴィ……はい?」

 藍色の帽子から覗く銀髪の少女が髪をかき分けながら、耳に慣れない言葉で会釈する。その間にも銀髪の少女を担いだルクスが、店内をキョロキョロと見渡しており、店のカウンターへと二人で隠れ始めた。大柄なルクスは限りなくギリギリなようだったが、何とか机の下に隠れることに成功したようだ。

「と、とにかく。ちょっと匿ってくれ!」

 店のドア側から見ると、ルクスの声だけしか聞こえない。少し探せば丸分かりだが、まあ一応即席にしては上出来だろう。その程度の出来ならば、隠れる場所としてリズたちがいる工房を勧めようとした瞬間。

「失礼する」

 再びリズベット武具店の扉が開く。物音がした瞬間にルクスたちの物音は止み、店にプレイヤーの集団が入店する。その物々しい雰囲気は、とてもお客様だとは思えない。警戒する俺に対して、一人のプレイヤーが突出した。

 普段の俺と同じように刀を腰に差した、長身のウンディーネの青年。そのプレイヤー集団のリーダー格らしく、殺気立ったメンバーを制していた。

「驚かせてすまない。帽子を被った少女。スプリガンの少年、シルフの少女。そのいずれかが来ていないか?」

 三名のうち二名が当たりだった。さらにスプリガンの少年については、心当たりがありすぎて仕方がない。また厄介ごとを持ってきたらしい、ここにはいないキリトに内心毒づいておくと、そのお客様ではない集団に対応した。

「お客様の中にそういうお客さんがいたかもしれないが、そういうことじゃないんだろう? 知らないよ」

「…………」

 ウンディーネの青年はその刀のような鋭い眼を細め、俺を品定めをするかのように見つめていた。そのまま工房へと伝わる入口に目を向けたが、その前に俺がウンディーネの青年の前に立ちはだかった。

「……ここから先は企業秘密だ。レプラコーンとして」

「……確かにそうだな。何度も失礼した」

 同じか、こちらより少し高い目線の青年と向かい合う。一瞬だけ、一触即発の空気が流れたように感じられたが――すぐにその空気は霧散する。ウンディーネの青年は踵を返して出て行こうとすると、その前に店前に陳列されていた武器を眺めていた。

「いい武器だな。今度は客として来よう。……行くぞ」

 最後の言葉はこちらにではなく、武具店中を舐めるように睨んでいた、他のプレイヤー集団への言葉だった。ウンディーネの青年は一礼とともに武具店を出て行き、他のメンバーもそれに続いていく。扉が閉められて数秒後、静かになった武具店に小さく息を吐く。

「ルクス」

「……ありがとう、ショウキさん」

 もう大丈夫だろうとルクスの名前を呼ぶと、カウンターの下からルクスと銀髪の少女が這い出てくる。やはりどうにも窮屈だったようで、銀髪の少女は大きく伸びをしていた。

「とってもスリリングな体験だったわ。ありがとう……まったくお忍びで来てるのに、スメラギったら過保護なんだから」

「……そろそろ事情を説明してくれ、ルクス」

 先程のウンディーネの青年はこの少女のお付きか護衛役であり、それを嫌ったか嫌がったこの少女が逃げだし、居合わせたキリトとルクスがそれを助けた。そして二手に分かれた後、ルクスは近かったここに逃げ込んできた――といったところだろうか。ルクスの説明も大体そのような流れであり、肝心なのはこの銀髪の少女のことだけだった。

「ああ。この人は……ショウキさん、知らないかい?」

「え?」

 自信満々な顔で胸を張る銀髪の少女の顔をよく眺めるが、確かにどこかで見たことがあるかもしれない。とはいえ、一部の例外を除いてランダムでアバターが生成されているこの世界において、顔を見たことがあると言ったとしても……

「どこかで見たことがある、ような……」

「ごめん、もういいわ。そういう微妙な反応が一番ショック」

「……彼女は人気アイドル、なんだ」

 しなしなとヘコんでいく銀髪の少女を見ながら、気の毒そうな顔をしたルクスが注釈を入れる。そう言われてみると、テレビで見たことがある顔だったが……現実と外見がほとんど同じ、ということは。彼女も俺たちと同じ――

「……違うよ。あのゲームには彼女は行ってない」

 ――SAO生還者なのか、という考えをルクスが小さく否定してきた。当の銀髪の少女は武器が並んだ陳列棚を、まるでケーキでも入っているかのように眺めていた。彼女に聞こえないように、SAO生還者でないと断言したルクスを追求する。

「同じような顔なんじゃないのか? だったら……」

「私たちと同じようにするのも容易いと思うよ。彼女ならね。それに……」

 ルクスは言いにくそうに顔を伏せた後、さらに小さい声で呟いた。彼女が恥ずかしそうに喋る時の癖のようなものだ。

「……ファン、なんだ。彼女の」

「ありがとう!」

「わっ!?」

 要するに目の前でファンだということが恥ずかしかったらしかったが、知らぬ間に銀髪の少女はルクスの目の前に来ていた。驚いて飛び退いたルクスの手を銀髪の少女が嬉しそうに握り、図らずも転びそうになったのを止めた形になる。

「ファンの声が直接聞けるなんて最高ね、この世界に来て良かったわ! ね、案内してルクス!」

「あ、ああ……じゃあショウキさん、また……」

 困惑するルクスの手を引いて、銀髪の少女は街へ出て行こうとする。その顔にかけられたメガネは変装のつもりか、と考える俺に対し、彼女は扉を開け放ちながらこちらを向く。

「スパシーバ、ショウキ。今度はファンににしてあげるからね。……って、まだ自己紹介してなかったわね」

 言われてみると、まだ彼女の名前を聞いていない。帽子を脱いでメガネを取った彼女の笑顔は、まさしくアイドルといった――光を感じさせる顔で。

「セブン。こっちの名前はね。……それじゃ、行きましょうルクス?」

 帽子とメガネを装着し直して、変装した――つもりの――銀髪の少女、セブンはルクスを連れ添って街並みに消えていく。それを見送ってリズベット武具店の扉を閉めると、やはりというべきか息を吐いた。髪をクシャクシャとしてから、今の嵐のような闖入者のことを考える。

「……ん?」

 結局、セブンがどうして現実と同じ顔をしていて、SAO生還者でない理由を聞くのを忘れていた。そうしていると、どこからか視線を感じ――気配を感じた方を見てみると、そこは工房へと続いていく扉で。

「レイン……?」

「――――ッ!」

 工房へと続いていく扉を少しだけ開き、あたかもスパイであるかのように、真紅の瞳がこちらを見つめていた。盗み見か盗み聞きか――そんな状態に近かったレインと目が合うと、呆然としていたような状態からハッと覚醒すると、いきなり扉を閉めて工房へと走り去っていく。

「おい、レイン……」

 工房へレインを追おうとすると、リズベット武具店の扉が再び開け放たれた。ルクスとセブンが帰ってきたかと思えば、そこにいたのはこの事態の元凶だった。

「……何だ、キリトか。また厄介ごと持ち込んできて」

「あー……すまない。そこでルクスに会ったから、事情は聞いたよ」

 八つ当たり同然のこちらの言葉に、キリトも困ったように小さく笑う。どうやら今のところあの二人は、見つからずに観光が出来ているらしい……まあ、先程出て行ったばかりだが。

「キリトは知ってたのか? セブンのこと」

「ああ、もちろん」

 セブンというアイドルのことを知っているか、という質問にキリトは即決即断したかのように答える。キリトもアイドルの方面には明るくないだろう、という意図を込めていた質問だったため、当たり前のように返されて多少虚を突かれてしまう。

「どうした?」

「いや……意外だな。お前がアイドルに詳しいって」

「アイドル……? ああ、アイドルもやってるんだったな。ルクスから聞いたよ」

 困惑しているこちらを、さらに困惑させるキリトの言動。その当の本人は、何かを探すようにシステムメニューを弄くっていた。二人きりでクエストに行ったからか、ルクスと最低限会話は出来るようになったらしいが、それはともかくとして。

「あったあった。ほら」

 そう言いながらキリトが見せてきたネットの記事には、先程会ったセブンと瓜二つの人物が載っていた。現実世界の彼女のことだろうが、その記事はアイドルが載っているような記事ではなく。

「七色・アルシャービン。ロシアでVRの研究をして、今は日本に来日してる……アイドルとして」

 その記事に書いてあったことは、大体キリトが言った通りのことで。自分たちがSAOに囚われた時よりも低い年齢であるにもかかわらず、世界的なVR空間の研究者――そして天才少女としてアイドルじみた活動をしているという。そういうキャラやお飾りという訳ではなく、キリトの態度からも『本物の』VR研究者なのだろう。

「その年でVR研究者って点で言えば、茅場や……須郷よりも天才かもしれないな。事実、茅場を『闇』で七色を『光』って揶揄してる同業者もいる」

 学校で工学を学んでいるキリトから、忌憚なき意見が放たれる。自分たちにとってVR研究者と問われれば、思い出したくもないがその二人だ。あの二人より上の存在だとすれば、天才などと呼ばれても頷ける。

「闇、光、か……」

「それより、大事な話があるんだが――」

 そしてキリトの口から《エクスキャリバー》が発見された、ということが語られた。誰かに取られる前に自分たちで取りに行きたい、とも。

 リーダーのユウキを始めとした、一騎当千の謎多きギルド、スリーピング・ナイツ。足にかの《笑う棺桶》のマークをつけていたルクス。茅場以上の天才と言われるVR世界の『光』セブン。突如として自分たちの前に現れた、怪しい行動を繰り返す二刀の剣士レイン。彼ら、彼女らとの出会いとこのキャリバー入手クエストで、俺たちのALOは加速していく――

 
 

 
後書き
次回からキャリバー編に 
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