夕立
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3部分:第三章
第三章
「あれっ!?」
「ない!?」
「ないの?」
「あれっ、おかしいですね」
「何処にも」
二人は制服のあちこちや鞄の中を探す。しかしである。その肝心の学生証がどうしても見つからないのであった。
そんな二人にだ。先輩はクールに告げてきた。
「見つからない場合は」
「どうなるんですか?」
「その時は」
「サービスなしだから」
実にクールな言葉である。この時もだ。
「わかってるわね」
「げっ、食べられないんですか!?」
「飲めないんですか」
「そうよ」
またきっぱりと言う先輩だった。
「わかったわね」
「わかってますよ」
「それで探してます」
「けれどそれでも」
「何処にあるのかしら」
真理耶も林檎も必死に探す。しかし中々見つからない。やっとそれぞれ見つけた時には二人共汗だくになっていた。
「やっと見つかったよお・・・・・・」
「滅多に出さないものだから」
「あってよかったわね」
そんな二人に素っ気無く告げる先輩だった。
「じゃあフリードリンクにフリーデザートね」
「はい、御願いします」
「それじゃあ」
こうして二人は何とかそのセットを頼めた。そのうえで早速皿の上にケーキやクレープやアイスクリームをてんこ盛りにしてそのうえ甘いジュースを持って来てだ。飲み食いをはじめた。
菓子もフルーツも飲み物も次々と二人の胃の中に消える。その時だった。
「ねえ林檎ちゃん」
「何、真理耶ちゃん」
「あのさ、あれどう?」
こう林檎に言ってきたのである。店の中央のそのドリンクやデザートのある場所を指差しての言葉である。
「あのお菓子」
「あっ、チョコレートフォンデュ」
「あれいいわよね」
溶けたチョコレートが上から下に流れている。それを見ての言葉だ。
「行く?」
「うん、行こう」
林檎は笑顔で真理耶の言葉に頷いた。
「それじゃあね」
「よし、じゃあ行こう」
こうして二人はそのフォンデュに向かった。しかしである。
デザートをチョコレートにかけようとするとだ。これが。
「あれ?」
「何これ」
「上手くかからない」
「そうよね」
細く長い串に突き刺したそれをチョコレートにかけようとするとだ。しかしこれがだ。中々上手くいかなかったのである。
「ただ通すだけなのに」
「何かムラができるけれど」
「どうしてよ」
「何かおかしいけれど」
「あのね、あんた達」
ここで二人のところに先輩が来て言う。
「何してるのよ」
「何ってチョコレートフォンデュ作ってるんですけれど」
「そうですけれど」
「何勢いよく突っ込んでるのよ」
そんな二人を呆れた目で見ている。
「全く。そういうのじゃないのよ」
「そうなんですか?」
「突っ込むんじゃないんですか」
「突っ込むのじゃなくてかけるの」
先輩はこう二人に話す。
「ゆっくりと入れてね。それで塗るようにしてよ」
「それでやるんですか」
「そうだったんですか」
「全く。フォンデュ知らなかったのね」
「はい、ちょっと」
「実ははじめてです」
二人はあらためて先輩に話す。話をするその間もデザートを刺した串を手放さない。
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