RSリベリオン・セイヴァ―
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第十八話「知らぬが仏?」※修正
前書き
後ろの視線に気付かない一夏は、比奈と一緒に楽しい外出を楽しんでいたのだった……
ド―テーの狼は、リア充の最前線に立たされる……
近づく臨海学校に備え、IS学園の生徒達はこの準備に向けて大忙しの様子だった。
「ようやく念願のパラダイスまであと少しだ~!!」
教室内がやけに騒がしい。前日でもハイテンションではしゃいでいるのは太智である。
「清二! 今から一緒に買い物へ行かないか?」
「ああ、いいけど?」
ハイテンションな太智を見て、やや苦笑いを浮かべる清二。
「海パンでも買うのか?」
と、何気でもなく問う清二。
「違うって、カメラだよ? カメラ」
「カメラ?」
首を傾げる清二へ自慢げに太智が説明した。
「おうよ! 高性能なカメラで夏の水着ショットを撮って撮って撮りまくる!!」
「その願望はまだ耐えることなく続いていたとは……」
「ところで? お前の方こそ何か買うのか?」
今度は太智が清二に尋ねる。
「俺は、アロハシャツぐらいでいいよ? 海で泳ぐようなお遊戯はしない」
「ほう? どうして?」
「俺みたいなグロテスクな肥満ボディーを見たら、どうせ女子たちは嫌な顔してバカにしてくるからね? なら、まだアロハ着てビッチ共へ愛嬌よく振舞っていればいいよ?」
「お前……ちょっとSが入ってんぞ?」
「どうせ太智も泳がないんだろ?」
「そうだな? 写真撮る以外は釣りするぐれーだろうな? 海水って髪乾くとパサパサするし嫌なんだよな~?」
「やっぱ、海なんか行ってもつまらないよね……って、狼? さっきから様子が変だぞ?」
清二は、隣で顔色を悪くする俺を見た。
「……うん、ちょっとね?」
「どうした? 体調でも悪いのか?」
と、太智。しかし、違った……
「どうしよう……弥生から、買い物につき合うことになっちゃった!」
「……え? 弥生ちゃんと?」
清二は、それほど驚かなかったが、それ以上に驚いたのは太智だった。
「マジかよ!? いやぁ~……長生きはするもんだぜ? あの弥生がね?」
「はぁ……どうしよう!」
「彼女はいつも、お前と一緒に居るじゃん? だから、どうってことはないと思うけど?」
太智はそう述べるが、俺は弥生に関してはそれどころじゃない!
「ちょっと! アホ兄ぃ居るー!?」
そんなとき、一組の教室から妹の舞香が押しかけてきた。
俺が振り向くと、そこから大股で俺の元へ不機嫌そうに歩いてきて、こう叫んだ。
「アンタ! 今から荷物持ちやってくれる!?」
「はぁ?」
俺は首を傾げた。
「これから、友達と一緒に臨海学校で準備する物買いに行くの!」
「そう、いってらっしゃい」
「だから! アンタも一緒に行って荷物持ちしろっていうの!?」
仁王立ちしてそう叫ぶ舞香に、俺は溜息をついた。
「何で俺が?」
「アンタ男じゃない?」
「だから?」
「男なら、女の言うこと聞くのが当たり前でしょ!?」
「そんな道理ない」
「あるわよ!? 大体、女が居るから男ってのが生きて行けるんじゃないの!?」
「あのな……?」
「男と女が戦争したら、絶対に女が勝つってことは当然よ?」
「……」
ハッキリ言い返せないんじゃない。舞香の言っていることが下らな過ぎ、呆れてものが言えないだけだ。
「そんなことないよ? 僕たちだってIS使えるんだよ?」
と、清二が言うと、それに対して舞香の容赦ない言い返しがくる。
「うっさいわね! デブは黙ってなさいよ!?」
「な、なに……!」
よくも禁句を……と、清二は席から立ちあがろうとしたが、それを太智が止める。
「よせ、相手にするな……」
と、太智は言う。
「とにかく、俺も暇じゃないんだ。他を当たってくれ?」
そう俺はキッパリと断った。
「な、何ですって!?」
「弥生と約束がある。諦めてくれ?」
「はぁ? あの天弓侍さんがアンタなんかと約束するはずがないじゃない!?」
「あ、狼君!」
そんな時に、タイミングよく弥生が現れてくれた。
「あ、弥生ちゃん! ごめん、今行くよ?」
「いいえ? 私も支度が整いましたので」
「じゃ、そういうことで?」
と、舞香にそう言い残して俺は弥生の方へ駆けていった。
「あ、ありえない! ありえないわよ!? どうして、あんなクズが、天弓侍さんなんかと!?」
「あきらめな? 愛の力は強大なんだぜ♪」
そう背後で太智がニヤける。
と、まあ俺はこうして弥生と共にモノレールに乗ってメガロポリスのショッピングエリアへと向かった。
*
「一夏ちゃん! おまたせ?」
比奈の自宅の外で、一夏は彼女の支度を待っており、それほど長くはかからなかった。
「ごめんね? 待った?」
キャスケット帽に半袖とチョッキ、短パンに二―ハイソックス越しにスニーカーを履いた私服で比奈が出てきた。
「いや、別に待たされなかったぜ?」
「じゃあ、早く行こう?」
と、彼女はバイクのヘルメットを被り、一夏の手を引いて彼の単車まで向かった。
「それにしても、よくバイクのヘルメットあったな?」
「昔、お父さんがオートバイに乗ってたの。出て行くときに置いてったんだと思う」
「そうか……じゃ、行こうぜ!」
一夏がバイクに跨り、その後ろに比奈が跨った。彼女は両腕を一夏の腹部に回してギュッと後ろから抱きしめるように掴まった。
「しっかり、掴まってろよ?」
「うん!」
一夏はアクセルを回し、バイクは爽快なエンジン音と共に彼女の自宅から走りだした。
「気持ちい―!」
直に風を受ける爽快感が、比奈にはツボだったようだ。
「でも……免許取り立てで二人乗りして大丈夫?」
「こんなご時世さ? メガロポリスのポリ公なんてみんな適当だよ?」
「ふぅん……世知辛いね?」
そう、IS社会が到来してからというもの、女尊男卑や何らかの影響で男たちは、あの手この手で権力を欲しがろうともがき始め、ついには日本の警察にも賄賂というものが当たり前のように流行っていた。そして、中には暴力団やテロにも加担する警官まで現れたとなれば世も末である。
「今時、あんな奴らに公務なんてものする資格はねーよ?」
一夏のいう台詞は、確かにこの時代で言うには最もな言葉であった。
そのままバイクは加速を続けて走りだし、田舎からメガロポリスのショッピングエリアまでは約二十分程度で到着した。
「うわぁ! 一夏ちゃん、見て見て!?」
バイクから降りた途端、比奈の目の前には見たこともない刺激的光景が飛び込んでくる。山のように、いや、それ以上に巨大な迫力を持つビルや建物、そして湾の中を行き交う遊覧船。全てが彼女の目を魅了した。
「へぇ? 嫌がってたくせに興奮気味だな?」
と、はしゃぎ回る比奈を見て意地悪そうに一夏がにやけた。
「んもう! いじわる……でも、すっごい所だね? 首が痛くなっちゃいそう」
「人柄を覗けば、便利な場所なんだけどな……」
皮肉にもそうである。ISと女尊男卑、そして、それに被れる人間達すらいなかったら、今頃このメガロポリスは世界に誇る大都市になっていたことだろう。
「それよりも! 早くお買い物に行こ?」
興奮が止まらない彼女は、一夏の手を引いて駆け出していく。
「ちょ、ちょっと? そう引っ張るな?」
ショッピングモールは、本当に比奈を夢中にさせた。女の子を夢中にさせるようなファッションセンターやジュエリーショップと雑貨店、どれも比奈には新鮮なものだった。
「一夏ちゃん! あのお洋服可愛いね?」
ガラス越しに展示されたマネキンの着た洋服を見ている比奈のもとへ一夏が歩み寄る。彼女が見ている物は、オシャレなワンピースの服だった。
「へぇ? 綺麗だね……」
「いいなぁ? こういうの着れる子たちって……」
値札を見ると、数万もするブランド品だった。さすがに二人の所持金では無理がある。
「すまない……俺の金じゃとても……」
「別に欲しくはないよ? ウィンドウショッピング。それだけで十分だよ?」
比奈にとって、見ているだけで都会を満喫している気分と変わりなかった。
「そうか……でも、飯ぐらいは食おうぜ? ハンバーガーとかさ?」
「ハンバーガー? あれって、テレビのCMで映ってるあの食べ物?」
「何だ、食ったことないのか?」
「う、うん……」
一夏は驚いた。ハンバーガーなんてコンビニでも売っているジャンクフードだ。誰しもは一度ぐらい食べているものだと。
――まぁ、あの里は確かにコンビニすらなかったからな?
「じゃあ、昼になったらハンバーガーでも食うか?」
「え、いいの!?」
比奈にとって、ハンバーガーが食べれるというのは、高級レストランで食事できるのと同じような意味に例えられる。
「その前に、まだまだ見るところは沢山あるんだ。もっと店を回らないとな?」
「そうだね? 行こう!」
と、彼女は一夏の手を引いて駆け出していった。
……しかし、そんな二人の微笑ましい後姿を遠くの看板から半顔を覗かせる、ある人物がいた。
「あの者……何故一夏と!?」
篠ノ之箒である。やはり、彼女も式神比奈の存在を覚えていたようだ……
「誰よ……アイツ」
突如、箒の頭上から殺気めいた声が聞こえた。凰である。比奈を見て、自分の新たな敵と定めた様だ。
「何故、お前もここに居る……」
箒は、凰が自分の上にのしかかっているので苦しい顔でそう言う。
「それよりも、あの女誰?」
「……認めたくはないが、一夏のもう一人の幼馴染であり、私の親戚だ」
「さ、三人目!? アタシを出し抜いてもはや三人目!?」
凰は、認めたくない顔で叫んだ。認めたくない「サード幼馴染」である。
「あら? どうなさいました?」
と、そんな二人の背後からセシリアが前の二人と同じ体制になって現れた。
「どうしてアンタが来るのよ?」
と、凰。
「あら、面白そうでしたからつい……」
「え、なになに?」
さらに、背後にはシャルロットの姿まで……
「あんた! いつ帰ってきたの!?」
凰が突然の登場に驚く。
「今朝来たよ?」
シャルロットは、一様預かりてによって学園生活を続けさせるとして、一番保護率の高いIS学園へ再び通わせることになった。
「うわぁ……! 一夏とあの女の子、なんだかラブラブだね?」
シャルロットだけは目を輝かせて見ているが、ほかの三名はそうではない。ファースト・セカンドの幼馴染は嫉妬の目を向け、セシリアはあんなに仲のいい男女を見て不思議そうな顔を取る。
「何をこそこそしている?」
さらなる人物が最後尾に現れる。
「ら、ラウラ!?」
凰は慌てる。勿論セシリアも身構えして彼女に警戒した。
「待て、敵意は無い……」
「じゃ、じゃあ何の用よ!?」
「そうですわ!」
無理もない。セシリアと凰は彼女にコテンパンにされたことを今でも根に持っているのだ。
「なに、臨海学校での準備をしようと私も買い物に出向いただけだ……そこで偶然コソコソしているお前たちを見かけたに過ぎない」
ちなみに、ラウラはヴォルフから得た教えから改心して、彼に弟子入りしたという。勿論、当のヴォルフは、「弟子などいらん」と断っているのだが、それでもしつこく迫ってくるので、「仮弟子」という条件の元仕方なく受け入れたらしい。よって、今の彼女は一夏に対して逆恨みなどしておらず、むしろ申し訳なさでいっぱいらしい。そして、今は新たな師であるヴォルフを「マスター」と呼んで、強引に彼の部屋に住み着くようになった。ちなみに、彼女が全裸になってヴォルフのベッドに入って来たこともあり、その時は彼女にタオルケットを投げつけて部屋から蹴り出したそうだ。
「……ほう? 一夏のやつが、女と?」
そう、珍しそうに宥めるラウラだが、無関係な彼女とは違って箒と凰は他人事ではなかった。
「おのれ……あんな天然ドジっ子オカチメンコに一夏を取られてなるものか!」
「フフッ……どこの誰だか知らないけど、アタシの一夏に手を出すって良い度胸じゃない? よほど死にたいようね?」
そんな二人の殺気めいた様子を見るとシャルロットが慌てて止めに入る。
「え!? ちょっとやめなよ? 二人とも? 一夏達が可哀相だよ!?」
シャルロットはそう言うも、その他の女達は殺意や興味津々に満ち溢れていて聞こえてはいない。
とにかく、女子たちは一夏達の後を追った。
「うわぁ……これ、綺麗だね? 可愛い……」
二人が入ったのはジュエリーショップ。そこは女性たちの目を魅了する美しい金物が沢山売られている。
「俺にはわからないけどな?」
と、一夏は苦笑いした。なにせ、彼にとっては全部同じように見えてしまうしこんなキラキラしているだけで、どこがいいのかわからない。
「綺麗だね……?」
しかし、店を出ようとしても比奈は気に入った品があったのか、それが目から離れないでいる。
それは。勾玉の形をした緑色のペンダントだった。
「欲しかったら買えよ?」
「うん……でも、わたしのバイト代じゃ足りないかな?」
値札をみると、それなりの価格が値札にかかれている。しかし、そこまで高いという値段じゃない。
「よし……これください?」
と、一夏は比奈が欲しがっているその勾玉のペンダントをレジへ持ってッた。
「え! わるいよ?」
「いいって? 式神に似合いそうだと思うんだ。これかけて境内を奉仕している巫女装束の姿を見ると眩しく見えてさ?」
「そ、そんな……私なんて、ただのバイトの巫女だし」
「でも、いつかは正式な神職になりたいんだろ?」
「う、うん、そうだけど……でも、そんなお高いの……」
「いいって」
と、一夏は会計を済ませて勾玉が入った紙袋を彼女に渡した。
「あ、ありがとう!」
よほど欲しかったのか、結構喜んでくれた。今でも笑顔が絶えない。
「あ、あのエセ巫女がぁ……!」
「あんのお下げ……!」
歯を軋らせる箒と凰は、どす黒いオーラを放っていた。
「ほう、男性からの贈り物……つまり『プレゼント』、というものか?」
ラウラは、関心の様子。
「羨ましいですわ……?」
しかし、今まで女尊男卑に染まってきたセシリアは、とても羨ましく思っていた。彼女は、今まで生きてきた中で彼氏なんて一人もいないのだ。ましてや、好きな男性から物を買ってもらうなどというシチュエーションは彼女にとって夢のまた夢らしい……
「うわぁ~……いいなぁ?」
シャルロットは、微笑ましく見守っている。
――あぁ……ラルフも何か私に買ってくれないかなぁ~?
ふと、シャルロットは憧れの青年とのこんなサプライズを願った。女性やIS関連に関してはドSだが、それでも彼女は、ランスロットと共に駆けるそんな彼の姿をカッコいいと思う数少ない理解者である。ただ、ラルフに嫌われているのは言うまでもないが……
「腹減ったか? 式神」
「うん、そうだね? ちょっとそこらで休憩しようよ?」
「よし……ハンバーガー食いに行くぞ?」
「うん! 念願のファーストフードだ……」
一夏達はファーストフード店へ向かう。やはり、比奈に手を引かれて……
店のカウンターで、比奈はペラペラと喋る店員に戸惑っていた。何せ、いきなり「いらっしゃいませ!」と、言ったとたんに「ご注文はお決まりですか?」などと、次々に台詞を言われるために、緊張して何が何だかわからない。とりあえず、ここは一夏が「ポテトとドリンク付きを2セットください」と、フォローに入った。
「美味しい! とても美味しいよ!?」
丸いテーブルに向かい合って食べる比奈は、初めて食べたハンバーガーの味に感動した。
「そうか……なら、よかったぜ」
「それと、このバニラアイスをドロドロにしたような飲み物……これが一番おいしいね?」
「ああ……シェイクだな?」
「シェイクっていうんだ……すごいねぇ? 一夏ちゃんって、こんな美味しい物の食べてるんなんて」
「そうでもないさ、女性が多い店は全然寄らないよ?」
女尊男卑故、女性が多く集まるところなんて男性にとっては嫌な場所である。
「そっか、そうだよね……無理させちゃった?」
「いいや、久しぶりにこの店のハンバーガー食えたからよかったよ?」
「そう? なら……いいけど?」
「それよりも、これ食い終わったら遊園地でも行こうぜ?」
「え、いいの!?」
遊園地、最後に言ったのは幼稚園の頃だった。比奈にとって遊園地では微かな記憶しか覚えていない。
「ああ、せっかくの休日だし……それに、何だか式神と居るとテンション上がるって言うか、楽しいんだよな? 懐かしいって感じもしてきて」
何故だか、比奈と触れ合うにつれて徐々に親しみが湧き、もっと彼女の傍に居たいという気持ちが高まってくる。
「い``~ち``~か``~……!」
二人の遠くの背後の席から隠れてる箒は、既に鬼のような目で睨み付けていた。勿論凰もである。
「ほう……!向かい合っての食事か?」
と、感心するラウラ。
「はぁ……私も一度でいいから……」
と、セシリア。
「いいなぁ……」
と、微笑むシャルロット。
そのあと、一夏は比奈をバイクに乗せて近くの遊園地へと向かった。本来、そこも女性たちがより集まる場所のため、男性らが忌み嫌う場所でもある。しかし、比奈と居ると、一夏はそのようなことはどうでもよく感じた……
そして、後から店から箒達が出てきたが、既に二人の姿は見当たらなかった。
「くそ! 見失ったわ?」
苦虫を噛みしめる顔で凰は辺りを見回す。
「まぁいいわ? 月曜日、覚悟しなさい? 一夏……!」
と、凰はボキボキと指の骨を鳴らして、邪悪に微笑んだ。
*
時を同じくして……俺は、額に汗を浮かべながら弥生とショッピングモールを歩いていた。
「えっと……水着とか、買おうかな? って……」
「そ、そう……!」
俺は、先ほどから冷や汗が止まらない……そして、心臓の鼓動が徐々に高鳴る。
「じゃ、じゃあ……ちょっと着替えてくるね?」
と、俺を待たせて試着室へ……ああ、あの中で弥生が服を脱いで水着に着替え……ああ! 想像しただけで鼻血が……って、まて! 今ここでそんなことしたら、女の店員に変質者と思われるぞ? 今のご時世、それが当たり前だ!!
――と、とりあえず落ち着け!? 静かに、心を無に……なんて出来ない! そうだ、心を落ち着かせて、周囲の音なんて気にしなければ……あ、試着室から脱ぐ音が聞こえる……
俺は、咄嗟に鼻先をつまみ上げる。危ない……もう少しで変質者になるところだったぜ!
――そういえば、弥生は何の水着着てんだろ……?
と、その時、彼女のいる試着室のカーテンが開いた。
「こ、これ……着てみたの」
「なっ……!?」
そこには、赤いシマ模様のビキニを着た弥生の姿が……俺は、咄嗟に鼻先を強くつまんだ。
――こ、これは……!
「ど、どうかな……?」
顔を赤く染めてモジモジさせながら俺の前で感想を問う。
「い、い……いいと、思うぞ! む、胸とか……」
「む、胸!?」
とっさに彼女は、その能満な巨乳を両腕で抱いた。しまった! つい本音を口にしてしまった~!
二人の間にやや気まずい雰囲気が漂う。それを打ち消さなければと、俺は適当に彼女へ水着を選んだ。
「ほ、ほら! コイツとか弥生に……」
と、適当にハンガーにかかった水着を取り出して彼女に見せたが……
「そ、それを……着るの?」
急に彼女は顔を真っ赤にさせる。
「へっ……あっ!?」
すると、ハンガーには何ともきわどい水着が……黒いVの字ビキニであった。
――しまったぁー……!!
「あ、いや……その……!」
「い……い、いいよ!? 狼君のためなら着てもいいよ? 私!」
しかし必死の決断の末、彼女はこのVの字ビキニを着ることを選択した。
「い、いや! 無理に着なくてもいいよ!? その……偶然でさ?」
しかし、頑固にも彼女は試着室のカーテンを閉めてしまう……やば! どうしよう……
「あ、あの……ちょっと!?」
「ま、待っててよ!? すぐに着替えるからね!?」
――やっばぁ~……!!
「あ、ああ……いや! 弥生ちゃん? 俺が言いたいのはそう言うことじゃなくて……」
「あんれ? 狼じゃねぇか?」
「……?」
焦る俺の背後から、何やら聞き覚えのある声が……蒼真である。
「蒼真さん?」
そして、そんな彼の隣には一人のクールビューティーな美女が……
――あ、もしかして……この人が弥生のお姉さんか?
「蒼真、この者は?」
と、美女は蒼真に問う。
「こいつぁ、鎖火狼。お前んとこの零を扱う奴だ。んでもって、弥生のボーイフレンドさ?」
「そ、蒼真さん!?」
行き成りそんなことを言いだす蒼真に俺は顔を赤くした。
「ほぉ……其方が?」
すると、美女は俺をマジマジと険しい目つきで宥めてくる。
「ふむ……この少年が、零を?」
しかし、険しい顔から徐々に興味深そうな表情へとかわり、彼女は俺を見るのをやめた。
「狼、彼女は弥生の姉さんの神無だ」
と、蒼真が彼女を紹介した。やはり、弥生の姉だったか? しかし……妹とは対照的になんだか厳しそうな人だな……?
「うむ、気弱な雰囲気に見えるが温厚で正義感に満ちておるな? 妹を救ってくれた話は聞いておる。それとドイツの代表候補生との戦いも……零が選んだ青年なら、この先も弥生は大丈夫だ。狼とやら、これから妹と仲良くしてやってくれぬか?」
「は、はい!」
クールなスマイルを向けられて、俺は顔を赤くして返事をした。
「ところで、蒼真さんも買い物ですか?」
俺は、ふと彼に問う。
「おう! 弥生が海に行ってみたいって言うからな? コイツの水着を買いに来たんだ」
「こ、これ! 蒼真? 余計なことを言うでない!!」
顔を赤くする神無……弥生とは違って別の可愛さが窺える。
「んじゃ、俺たちは先に行くぜ? お前も今日は弥生と楽しみな?」
そう言うと、蒼真は神無を連れて店を出て行った。
――神無さんか……
すごく綺麗な人だ。ただ、今の俺にはその感想しか思い浮かばない。
「ろ、狼君!?」
と、ここでタイミングよく試着室のカーテンを思いっきり開ける弥生が……って、弥生!?
――そ、その格好は……!?
案の定、彼女は黒いVの字ビキニを見事着て見せたのだ……そして、俺の鼻の下には赤い液体が垂れ流れる……
*
「うわぁ~! 遊園地だ……」
目をときめかして、比奈は一夏と共に近くの遊園地へ出向いていた。
「でも……いいの? チケット、高かったんでしょ?」
「いいって? ここは、男女のカップルならチケットが半額なんだ? 勝手ですまないが、ちょっとそういう風に見せかけてもらったぜ? 比奈」
「え、えぇ……!?」
比奈は化を赤くする。つまり、はたから見て二人は恋人同士に見られていたのだ……
「そ、そう見えるかな……?」
モジらせてそう一夏へ訪ねる。
「ああ、もうバッチしカップルに見えてたぜ?」
だから、入場するときも「手を組もう?」と、言ったのがわかった。
――でも……
周囲からすればそう思われるが、本当は違うなんてちょっぴり残念である。
「一夏ちゃん! コーヒーカップに乗ろうよ?」
「ああ、いいよ?」
比奈は一夏と共にコーヒーカップの元へ向かうが、その前に彼女は一夏へ一言いう。
「ね、ねぇ?」
「ん?」
「その……手、繋ごうよ? そうすれば、もっとカップルに見えるよ?」
「別に、もうゲート潜ったからいいんじゃ……」
「んもう! いいから?」
比奈は、一夏の鈍感さに呆れて少々無理やり彼の手を握った。
「行こうよ?」
「お、おう……」
妙に一夏は頬を赤くして彼女と共にコーヒーカップへ向かう。
――比奈の手、温かいな? 柔らかくて、良い匂いもする。
彼女の手から伝わるほのかな香りと温もりが伝わってくる。一夏は、そんな彼女の手を握るために何故か心臓がドキドキしてくる。
『一夏ちゃん! いっしょにお手て繋ご?』
途端に、謎のフラッシュバックが彼の記憶を横切る。
「……!?」
目を見開き、咄嗟に比奈を見た。しかし、彼女はキョトンとした顔で一夏を見た。
「どうしたの? 一夏ちゃん?」
「え……あ、いや……何でもない」
「それよりも、早く行こうよ?」
「ああ……」
久しぶりにコーヒーカップに乗るには少し恥ずかしかったが、比奈がはしゃいでくれたおかげで、そんなに自分は目立たずに済んだ。
その次も、様々なアトラクションを堪能した二人は、暗くなるまで遊び続けた。
ジェットコースターでの絶叫の際、比奈は隣に座る一夏にしがみ付き、お化け屋敷は驚いた比奈が咄嗟に一夏へ抱き付いてくるのが何度もあり、広場で開かれたマスコットキャラ達によるパレードは共に手を握り合って見物する。
そして、時期に遊び疲れた彼らは次に向かったのは観覧車だった。観覧車から見下ろすメガロポリスの夜景は見事なものだった。
「綺麗だね……?」
「ああ、こんな世界だってのが嘘のようだ……」
嫌なことばかりの世界だが、それでもメガロポリスの夜景の光は、まるで一つ一つが宝石のように輝いている。
――ずっと、このままでいられたらな……?
ふと、一夏に寄り添う比奈はそう思った。
「ここから、花火が上がったら……もっと綺麗だよね?」
比奈が何気ない言葉で一夏に言う。だが、一夏はそんな言葉から何かのフラッシュバックが蘇える。
『花火がおわるまで、一緒にいてね?』
『うん! いいよ?』
『終わるまで、寝ちゃだめだからね?』
『大丈夫! 大丈夫!』
そして、最後の大きな花火が上がると共に、女の子は一夏に囁く。
『好きだよ……』
薄暗い山の手の展望台を花火が照らしていた……
「……ッ!?」
ふと我に返った一夏は、すぐに比奈を見つめる。
――もしかして……
徐々に冷静を取り戻していく一夏は、夜景を楽しむ比奈をそっと見つめた。
観覧車を降り、一夏と比奈は停車してあるバイクの元へ向かった。
「さて、帰るか?」
「うん! 今日はとても面白かったよ? 本当に……ありがとう」
「また、行こうな?」
一夏は単車を走らせて彼女の里へ帰っていった。
*
バイクが里に辿り着いたときには、既に辺りは暗かった。田舎は、都会とは違って明かりの数が本当に少ない。都会とは違ってやや寂しさを感じさせた。
そのまま一夏は彼女の自宅までバイクを走らせ、そこで降りる。
「式神……今からちょと付き合ってもらいたいんだけど、いいかな?」
バイクを下りた途端、真剣な眼差しで彼女を見ると、比奈もそれに緊張した表情を取る。
「え、どうしたの?」
「こんなに暗くなってしまっているのに、申し訳ないが……ついてきてほしい」
「……いいよ? でも、どこへ?」
「確かめたいことさ?」
「……」
懐中電灯で辺りを照らし、一夏は彼女の手を引く。
――……一夏ちゃん、どこへ連れてくんだろ?
気になる比奈は、一夏の後に黙ってついて行く。今の彼らの間には謎の沈黙が走っていた。
一夏は、彼女の手を握ったままある山道へ出向く。暗く不気味な道筋に比奈は怖くなって一夏の腕に抱き付きながら歩いた。
――こ、怖いよ……どこなのここ?
徐々に不安が募りつつあり、今すぐにでも帰りたかったが、一夏の頼みなら断ることができなかった。そして、山道を登って出たのは、ある広場だった。そこは……
「し、篠ノ之神社?」
そう、先ほど歩いていた場所は篠ノ之神社の境内へ繋がる裏口の道だった。
「よく、箒に見つからないよう二人で裏山から境内へ忍び込んだよな?」
と、懐かし気に言う一夏に比奈は目を大きくさせる。
「い、一夏ちゃん! どうしてそれを……?」
「ついてきてくれ?」
さらに、一夏は比奈を手を引くとさらに境内の奥へと向かう。そして、もう一つの裏口を見つけた。そこは、上の山道への入り口である。
「ここって……」
比奈は、もうわかっていた。そして、もう迷うことなく一夏と共に上の山道を歩く。
「……ここの展望台で、よく祭りの花火を見たな?」
そこは、展望台へ通じていた。展望台の屋根の下にあるベンチに二人より添って座り、ふたたびメガロポリスの夜景を見下ろした。
「思いだしたの……?」
比奈は恐る恐る尋ねた。
「……何となく、ある女の子と一緒に毎年ここで花火を見ていた」
「……」
「そして……花火が終わるまで俺たちはいつまでもここで一緒に身を寄せあいながら座っていた。そうだろ……? 比奈」
「一夏ちゃん……!」
比奈は、泣きそうな顔をしていた。そんな彼女を見て一夏が慌てだす。
「な、泣くなって? 明日は帰っちゃうけど、また休みの日に遊びに行くからさ?」
「うん……泣いてないよ? 平気……でも、やっぱり寂しいな? ヘヘッ」
「大丈夫、今の学校を卒業したら必ず比奈のところへ帰ってくるから?」
あのとき、果たせなかった彼女の願いを叶えるために……
「やっと、名前で呼んでくれたね?」
「ああ……改めてだけど、久しぶりだな? 比奈……」
「うんっ! ……ぐすっ」
しかし、やはり比奈は泣いてしまった。
「泣くなって? 喜ぶところだろ?」
一夏が、泣きじゃくる比奈の頭を撫でて泣き止まそうとするが、泣いてばかりだ。
「だって……だって……」
「あら、こんな所に居たの?」
と、背後から雪子が現れる。きっと、境内から聞こえた声を頼りに後を付けてきたのだろう。
「雪子おばさん……?」
一夏が彼女の声に振り向いた。
「何となくだけど……思いだした? 一夏君」
「ええ……この場所での思い出は」
「そう、本当によかったわ。比奈ちゃんの事を少しだけでも思いだしてくれて」
「けど……まだ、ハッキリとまでは……」
「少しずつでいいかわ。だんだんと思いだしていきましょう?」
「はい……」
そうだ。焦る必要はない……少しずつでもいいから比奈と過ごした思い出の記憶を思いだしていこう。
後書き
予告
念願の臨海学校だぜヤッハァー!!
この時を何度待っていたことか、今年はこの一眼レフで女共を撮って撮って撮りまくってやるぜぇ!!
だが、そんな俺たちの前にISの開発者を名乗る妙な変質者が現れる。そいつは、蒼真の兄貴と関係する重大な……そして、俺たちにとって最大な天敵であった。
次回
「HAWAIIAN・BLUE!」
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