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はて迷外伝 最強の剣と最強の盾
前書き
俺達「は」何を求め「て」「迷」宮へ赴くのか……なんちって。
本編の方の書上げにちょっと時間かかりそうなんで片手間に書いたこっちを先に投稿します。
ある、王国があった。
この世界では珍しくもない、武の神を主神に祀った王国だった。象徴存在として国の在るべきを語る主神と、その主神の意を継ぐ王統貴族によって統治される国家型ファミリアだ。
他国と小競り合い、領地を削り合い、利権を貪り合う。そんな騒乱が耐えぬ国々の中で、この王国は別格だった。多くを望まぬが故に領地が特別大きくはないが、王家に連なる血筋が悉く武才に秀でた者達であったために所持する騎士団は周辺で最強を誇った。昔から王家の長は武芸と学業を修めた男子がなるものと伝統的に決まっており、力強い国王の存在が後ろ盾となってかその士気も高い。故にどの国も彼の王国には手を出さず、国内は平和が保たれていた。
だが、ラキア王国が周辺国家の統一に乗り出してからはその平和も長く続かず、王国も侵略を受けることとなる。周辺国家と同盟を結び連合軍を結成したことで一方的な展開は避けられたが、終わりの見えぬ戦いに国内は次第に疲弊していった。後に「百年戦争」と呼ばれる長い長い戦いの始まりである。
一時はラキア王国との和平も考えていた連合だが、ラキアの戦神アレスは非常に好戦的で利益よりプライドを優先する存在だ。幾度か和平を匂わせる書を送っては見たが、あちらの反応は芳しくない。何よりここで連合軍が敗れれば、その後方に広がる少数民族や国とも呼べぬ集落までもが為すすべなくラキアの支配を受ける。それだけは避けねばならなかった。
戦争末期、勢いを増すばかりのラキア王国に押され始めた連合軍に小さな吉報が告げられる。連合の中心戦力だった彼の王国にて婚礼を終えたばかりの王妃のご懐妊が告げられたのだ。この頃になると王国は少しでも兵士を増やすために男性優遇社会を形成していた。
主神の加護を受ければ男女問わず強くなる事は出来たが、戦争という場所に於いてこのシステムは不確定性が強かった。折角偉業を達成し強く成長しても、正規兵、他国兵、傭兵の入り混じった戦場の中でも数多いる自国の兵士の能力を更新する余裕が神にある筈もない。また、国家間の戦争に於いては国王や将兵より主神を先に捕えた国が勝利するため、戦場に主神が赴くなど以ての外。結局、戦場は体力と筋力で勝る男を全面に押し出さざるを得なかった。
国王は、産まれいずる我が子が男であることを切に願った。
唯でさえ士気が下がる一方の国内で唯一の戦意高揚に繋がる吉報だ。子を授かるのは勿論喜ばしい事だが、連合の瓦解目前という今だけは違う。この国は力強い国王の存在によって士気を保ってきた国。誕生するのは次期国王の座に座る未来の武王――すなわち嫡男であることが望ましい。数十年前に当時の国王の第一子が男だと判明した時、連合は一時的にラキアに対して優勢に立つほどの指揮の高まりを見せた。国内だけでなく、同盟を結んだ他国にとってもこの王室の事情は大きな支えとなっているのだ。
平時であれば嫡子誕生というだけで士気は高まったろう。だが、この時だけはそれでは足りなかった。他国の侵略によって広大な土地を得たラキアの物量に押され、連合は心身ともに疲弊しきっていた。時代は戦の象徴にして花形となった男を求めていたのだ。
――間もなくして、王妃の帝王切開が行われた。
嫡子は、男――そう、世間には発表された。
これで士気を取り戻した連合はラキアの猛攻を凌いだ。更に、オラリオ内の勢力変化を知ったラキアがオラリオに今まで以上の大戦力を送るも失敗。これにより他国を侵略するだけの余裕を失ったラキアは連合を警戒してか領土内に撤退し、停戦の申し込みを連合へと送ってきた。
アレスは今度こそ本気でオラリオを攻め落とす算段だったらしく、この敗戦は完全に予想外だったらしい。加えてさしものラキアも百年続く戦争は堪えていたらしく、国の財政が傾き始めていた頃だった。そこに来ての士気高揚による一大反抗が止めを刺したのだ。
こうして百年戦争は両陣営の思惑の一致によって終戦。長きにわたる戦乱に終止符を打つ切っ掛けとなった嫡男は『連合に救いをもたらした偉大なる子』として持て囃され、アウグストの名を授かることとなった。
この歴史の巨大なうねりの影で。
王妃と同時期に懐妊した一人の使用人が女子を出産し、静かに職を離れて赤子と共に故郷へ帰ったことを知る者は少ない。その使用人が連れ出した子の眼の色が、王室特有の翡翠色をしていた事を知る者もまた――少ない。
そして、終戦から15の年月が流れたある日のこと――ダンジョン10階層。
「つ、疲れたぁ~~~~っ!!帰る!もう帰ろう!!」
栗色の髪をカチューシャでまとめた剣士の少女は、言葉通り心底疲れ果てた声で剣を鞘に納めた。彼女の周囲には一人の男と、無数の魔物の死骸と魔石、ドロップアイテムが散乱している。その半分以上が一撃で急所を切り裂かれており、少女の剣術の腕が非凡ならざるものだということが理解できる。
安物のマントを棚引かせてはいるが、疲労困憊のその姿では格好もつかない。ただ、その翡翠色の瞳だけは彼女の強い意志をたたえるように輝いている。
そんな彼女に男は呆れたようなまなざしを送った。
「だから言っただろう。臭い袋を使って魔物をおびき寄せて一気に倒しステイタスアップなど無謀なのだと……日進月歩の成長など、やろうと思ってやれるものではない」
男はどうやら少女の仲間らしく、体躯に似合わぬ巨大な盾と、それに並ぶ巨大な片刃の大剣を背中に収めて少女へ歩み寄る。黒髪に浅黒い肌の色が、いかにも屈強そうな肉体を更に際立たせている。
「ンなこと言ってもぉ!!アイズのヤツはもうレベル5だって話じゃない!なのにこちとら未だにしがないレベル1!オラリオ最弱のミジンコなのよ!?綿棒で潰れる極小微生物の地位に甘んじてるとか腹立つじゃない!私は今すぐにでもこのモーレツな冒険者カーストを脱出したいのよっ!!」
「この街の全てのレベル1を敵に回す大胆発言だな……」
両手をブンブン振り回す少女に「まだ元気じゃないか」と内心で突っ込みつつ、少年は冷や汗を流した。
確かにレベル1冒険者はこの街では掃いて捨てるほどいる雑兵の類だが、みんな頑張って生きているのだ。確かにレベルが上がらず日の目を見られない落伍者が多いことも確かだが、今の高レベル冒険者だって昔は1からのスタートだった事を鑑みると割と暴論である。
「俺もお前もまだ冒険者になって間もないだろう。対してあっちは俺達より遙かに前からダンジョンで戦っている。付け焼刃の努力で追い越せるほどこの差は小さくないことぐらい分かっているだろう?」
「………分かってるよ。でも悔しいの!この悔しさをどっかにぶつけたかったの!そしてどーせぶつけるんなら魔物にぶつけて経験値になって貰ったほうがお得じゃないの!!」
彼女はお得という言葉に目がない。が、そのお得の裏側にある事情――すなわち、死のリスクや疲労などの計算は含まれていない場合が多い。だからこそ少年は彼女から極力目を離さないようにしている。
彼女は、放っておくと何をやらかすか分からないのだ。それを少年は経験則で知っていた。
「とにかく、アイテムと魔石を拾って一度ホームに戻るぞ。トール様が心配する」
「心配し過ぎなのよトール様は。あんだけガタイがいいのにどうして気は小さいのかしら?」
「そう言ってやるな。ファミリアを亡くしたくないが故だ」
二人で黙々とアイテム類を拾い上げる。これもファミリア存続と小遣い確保の為の貴重な資金源だ。一つとて甘く見る事は出来ない。これでも二人はレベル不相応とまで言われる程度には良い武器を使っているのだから、それを維持する金は多いに越したことはない。
「あーあ………なーんか、私の想像してた冒険者と違うなぁ。こう、ガツーンと名を上げて強くなる方法って本当にない訳?」
「あるにはあるが、高確率でガツーンと強い魔物に殺されるぞ」
「それはない。絶対ない。何故ならば、そう……」
周辺のアイテムを拾い終えた少女がすくっと立ち上がり、剣を掲げた。
「私はこのオラリオの歴史にその名を刻む未来の剣王、アーサー!我が剣に一片の曇りなく、我を退ける敵はこの世に無し!……世迷言と笑いたくば笑うがいいさ!笑ってられるのは今の内だけなのだから!」
意気揚々と夢を叫ぶそのちっぽけな冒険者。
しかし、少年はそんな彼女の姿を人生でただの一度も笑ったことはない。
何故ならば彼は、その少女の背中に遠い未来に英雄の姿を見たから。
何者よりも気高く、棚引くマントは勇ましく、掲げた剣は美しく。大陸八方その勇名轟かし、並び立つは戦友のみ。赴いた戦では勝利をもたらし、あらゆる困難はその手で打ち砕く。そんな絵本に出てくるような最強で最高の君主になる資格を、彼女――アーサー・キャバリエルは持っている。
少年は黙って自らの片刃の大剣を掲げ、アーサーの剣と重ねる。
「ならばこの俺――ユーリ・ツェーザルが剣王さえも守る最強の盾になろう。大砲をも弾き飛ばし、城塞よりも堅牢な最強の守護者になろう。喜べアーサー、お前は俺がいる限り一生戦場で盾を抱える必要はない。むしろ……出番を喰ってしまうかもな」
「それもない!最強の盾だけでは攻めが疎かになるでしょう?だから……最強の剣と最強の盾、二人揃って最強だ!!」
今はまだ、二人は本当にちっぽけな光でしかない。
大きな時代に流されるだけの、どこにでもいる存在でしかない。
そう、今はまだ――。
「………でもそれだけだと不安ね。やっぱ最強の王は最強の兵士を一通り揃えといたほうがいいのかな?最強の魔法使いとか最強の射手とか!あ、そう言えば知ってるかしらユーリ?極東には『シノビ』っていう伝説の戦士がいるらしいわよ!そーいうのも仲間に欲しくない!?」
「そういうのを取らぬ狸の皮算用と言うんだ。仲間集めは自分が他者から認められるくらいに強くなったら自然と集まってくるだろう。今は耐える時代なんだよ」
「嫌!そういうの性に合わない!最低でも一か月以内にはレベル2になるってもう決めたの!」
少女の野心は分不相応に大きい。確かに王の素質は認めているが、時折ユーリは彼女をタダの身の程知らずなんじゃないかと思う時があるのだった。
後書き
なお、構想はあるけど基本的に構成がONE PIECEな気がする。
アーサーはとにかく王に憧れる少女で、具体性はないけど本気で王様になろうと思っています。そう考える理由はいろいろとあるけど、まぁ一番の理由は何となく想像がつく感じで。一応言っておくと本人は自分の出生については殆ど知りません。まぁ、ルフィですね。
そしてユーリはユーリで理想の生き方というのがあるのです。そしてその生き方をするためにはどうしても欠かせないものがあって、それをアーサーが埋めてくれるという。ポジションだけ言えばゾロですね。
ちなみに時系列はだいたい原作開始数か月前……まぁ、はて迷本編と同時期くらいです。
気が向いたら続きを書くかもしれませんが、あくまで本編優先です。
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