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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico?ドクター・プライソン~Prologue for Episode Ⅳ~

 
前書き
前話のあとがきの通り、本来書きたかった日常編を後で加えるかもしれないので、サブタイトルのナンバリングは未定にいたします。
 

 
†††Sideすずか†††

夏休みに入って数日。私は学校や局の仕事に余裕がある日やある時間は、本局の第零技術部――スカラボにお邪魔するようにしてる。スカラボの主のジェイル・スカリエッティさん(みんなからは親しみを込めてドクターって呼ばれてる)や、私の師匠であり、配属されてる第四技術部の先輩でもあるマリエル・アテンザさんのご厚意で、ドクターの技術を学ばせてもらえるようになってからもう随分と経つ。

「あぅ~、プログラミングが複雑すぎる・・・」

なのはちゃんの愛機・“レイジングハート・エクセリオン”の新機能であるブラスター、アリサちゃんの愛機・“フレイムアイズ・イグニカーンス”の新機能であるヴァラー、フェイトちゃんの愛機・“バルディッシュ・アサルト”の新機能であるライオット、あとヴィータちゃんの愛機・“グラーフアイゼン”の新機能であるツェアシュテールングスフォルム、といった開発を初めて1ヵ月。遅々として進まないプログラミング作業に焦りばかりが募る。

「まぁ、そこまで焦る必要はないさ、すずか君。何も今すぐに必要な機能ではないのだから」

スカラボの奥、チーム海鳴の中でも私しか未だに入れてない研究・開発室にわざわざ私専用の作業デスクを設けてもらった。そんな私のデスクの上にコーヒーが注がれたマグカップが置かれたから、私は「ありがとうございます、ドクター」コーヒーを淹れてくれたドクターに体を向けてお礼を言う。

「確かにみんなの新機能搭載は急ぎではないですけど、だからと言ってのんびりし過ぎるのもどうかと・・・」

「ふふ。まぁ、君のペースで作業を進めてくれたまえ。スピードより正確さが求められる作業なのだから。・・・何か困りごとがあればいつでも声を掛けたまえ。我々スカリエッティ家もまた、君の師なのだからね」

「・・・ドクター。ずっと考えていたんですけど、これまで門外不出だったスカリエッティの技術をどうして私にも教えようって思ったんですか?」

「そうだね~。・・・すずか君は憶えも良いうえに元からの才も良い。それに覚悟も何事にも挑戦しようという気概もある。技術者として必要なものだ。だから私もマリエル君も、君を応援したいのだよ。それに何より友達、仲間思いのとても優しい女の子、だからかな」

次元世界屈指の天才って称されるドクターからそこまで言われちゃったら弱音なんて吐いてられない。コーヒーを飲んで、「よしっ」気合を入れ直して作業に戻る。みんなの新機能フォームは強力な戦闘力を叩き出すけど、それ以上に体にもリンカーコアにも負担が大きくなる。だから未成熟な子供の内は使用厳禁ってことになってる。だから今すぐ必要なバージョンアップじゃないんだけど、なのはちゃん達からのリクエストもあるから、開発に着手した。

「ドクター。そういった発言は――」

「ロリコンと言いたいのだろう!? いつになったらその不名誉な称号を取り払ってくれるんだい!? 騎士イリス、君の所為で私の胃は・・・!」

スカラボの秘書であり、スカリエッティ家の長女、ウーノさんがいつの間にか私とドクターのすぐ後ろにまで来ていた。そしてドクターは、シャルちゃんの冗談による不名誉がなかなか消えないことに頭を抱えた。

「うぅ。それでウーノ。私に何か用かい?」

「はい。そろそろクイント・ナカジマ准陸尉、ギンガ様、スバル様がいらっしゃいます」

「あー、もうそんな時間かい? すずか君。君はどうするかね?」

ドクターとウーノさんの視線が私に向く。私はもちろん「行きます、見学させてください」そう答えて、開いてたモニターやキーボードを閉じる。そしてドクター達と一緒に応接室へ。ソファに座って待つこと数分、ビィーってインターホンが鳴って『クイント・ナカジマです』通信が入った。

「クイント准陸尉、どうぞ」

ウーノさんが応じるとプシュッと音を立てて入口のスライドドアが左右に開いた。そこにはクイント准陸尉と、娘のギンガちゃんとスバルちゃんの3人。

「やぁ、いらっしゃい」

ドクターが迎え入れると「お世話になります、スカリエッティ少将」クイント准陸尉はお辞儀して、「今日もお世話になります」ギンガちゃんが続いてお辞儀。最後に「なります」スバルちゃんがお姉ちゃんのギンガちゃんの後ろに隠れるようにして小さくお辞儀した。

「あ、すずかちゃんも居るのね」

「はい。こんにちは、クイント准陸尉、ギンガちゃん、スバルちゃん」

「「「こんにちは」」」

ギンガちゃんの後ろに隠れてたスバルちゃんだったけど、私との挨拶だとちゃんと前に出て挨拶してくれる。だから「何故私の時は・・・」ドクターが気落ちしちゃうわけで。そんなドクターの姿に私やウーノさん、クイント准陸尉は苦笑するしかなく。

「ではいつも通りお嬢さま方はこちらで着替えてください」

応接室の奥、転送室の奥、そのさらに奥に次元世界最高クラスの技術が眠る開発区画に移動するためのもう1つの転送室がある。そこは四角形の部屋で、スカリエッティ家の居住区とさっきまで居た転送室へ繋がる面以外の左右の面には、私もお世話になってる第二研究・開発室、そして私もまだ知らない真の第一研究・開発室へ続くトランスポーターがある。

「お嬢さま方はこちらへどうぞ」

「では私は先に行って検査の準備をしておこう」

ウーノさんがギンガちゃんとスバルちゃんを連れて、居住区へと続くスライドドアの奥に消えて行った。ドクターも第二研究・開発室へ転移するためのトランスポーターに乗って、その姿が消える。転送室に残った私とクイント准陸尉はウーノさん達をそのまま待つことに。そして着替えが終わるまでの間、「すずかちゃんも大変ね」クイント准陸尉が声を掛けてくれた。

「うちのギンガとそんなに歳が変わらないのに、技術者として、魔導師として頑張っていて」

「あー、はい。でも、それ以上に楽しいですから。友達のデバイスを診ることも出来ますし、戦闘で護れることも出来ますから」

戦闘面でも技術面でもチーム海鳴のみんなを支えて、護ることが出来る。それに「エンジニアはずっと夢でしたから」将来の夢がこういう形で叶えることが出来た。だから大変さもまた楽しさの1つになってると思う。

「そっか。うちの娘たちも、すずかちゃんやチーム海鳴のみんなのように目標や夢を作って、頑張って突き進んでほしい」

クイント准陸尉がそう言って、将来のギンガちゃんやスバルちゃんの成長した姿を幻視しているのかとても温かな笑顔を浮かべた。

「お母さん、お待たせ!」

と、そんなところに入院服のような服に着替え終えたスバルちゃんがやって来て、クイント准陸尉に抱きついた。遅れて「お待たせしました」ウーノさんとギンガちゃんがやって来た。そして私たちは第二研究・開発室へと向かうためにトランスポーターに入って・・・

「転移します」

ウーノさんの操作でトランスポーターは起動して、私たちは第二研究・開発室へ転送された。そこはハニカム構造(いわゆる蜂の巣みたいの六角形状の部屋が集まってる)で、その内の1つであるメンテナンスルームに移動した。

「準備は出来ているよ。ギンガ君、スバル君。いつものように奥の検査台に横になってくれたまえ」

「はい」「うん・・・」

操作台前に立っていたドクターの指示に応えたギンガちゃんとスバルちゃん。2人は操作台とアクリル材の壁に隔たれた部屋に設けられた検査台の上に横になった。検査台に環状魔法陣のようなスキャナーが展開された。そして私たちの居る操作台側の部屋にモニターが何枚も展開されて、2人の身体の詳細が表示される。

「ギンガ・ナカジマ、スバル・ナカジマ、両名の検査を開始する」

ドクターとウーノさんがキーパネルを叩いて、2人を検査していく。あるモニターに映るレントゲンのような全身画を見る。映っているのは骨格画なんだけど、普通の人の物とはかなり違う。本来あるはずのない機械部品が映ってる。そう、ギンガちゃんとスバルちゃんは、ある種のサイボーグだ。

BNAC(ビーナック)技術。ドクターが数十年前に確立させた、体の一部や臓器を人工的な物に取り換える技術・・・)

The Body which made Naturalness and Artificiality be Compounded。直訳で、自然と人工を混成させた体。事故などの後天性や生まれつきの先天性などで障害のある体の一部や臓器の代わりに、機械部品を移植することでその機能を補わせるっていうものだ。そんなBNAC技術による全身サイボーグ化されているのはほんの一握り。

(全身をBNAC化できるのは、次元世界広しと言えどその技術を初めて確立させたドクターだけって話)

そのほんの一握りであるシスターズは、ドクターが各管理世界で運営してる孤児院の出身者で、ドクターとは血の繋がりが無い。シスターズ全員が日常生活が困難なほどに体に障害を負ってて、自ら望んでドクターのBNAC技術確立のために被験体になったって、ウーノさんやドゥーエさんから聞いた。

(そして、天才技術者故に色んな方面から狙われるドクターを護るために、自ら望んで戦闘能力を追加されたりインヒューレントスキルっていう特別な能力を保有することになったみたい)

シスターズ達がサイボーグなのは初めての顔合わせから割とすぐに聞かされた。フェイトちゃんのお母さんが起こしちゃったPT事件の発端になったジュエルシード強奪事件の映像に、レーゼフェアさんの手によって腕を引き千切られたトーレさんの姿があったし。
そして、ギンガちゃんとスバルちゃん。そんな2人もシスターズと同じ全身をサイボーグ化されてる。でもその施術を行ったのはドクターじゃない。

・―・―・回想です・―・―・

ドクターやクアットロさんのアドバイスを受けながら武装隊の基本兵装であるストレージデバイスの分解や再組立て、プログラミングなど学ぶ。マリエルさんや私が配属されてる第四技術部での勉強も内容が濃いけど、ここスカラボでの勉強はそれ以上の経験になる。

「あら~、すずかさん。また同じところでプログラムミスですよ~?」

クアットロさんからの指摘が結構キツい。なんていうか・・・ねちっこいというか、声は優しんだけど胸にドスッと来るというか・・・。軽くイジられながらも作業を進めていると「ドクター。お客さまです」ウーノさんが私たちの居る第二研究・開発室にやって来た。

「客? 誰だい? アポもなしに突然来るとは少々・・・」

「いえ。アポは取って頂いています。ミッドチルダ首都防衛隊所属、クイント・ナカジマ准陸尉です」

「あ、そうだったか。今の時間が楽しくて忘れていたよ」

「クイント准陸尉・・・」

聞き覚えのある名前が耳に入ったからつい作業の手を止めてドクター達の方を向くと「知り合いなのかい?」ドクターに訊かれたから、クラナガンの悪夢の時にお世話になった局員さんだって伝えた。

「そうだったのかい。あの事件は実に大変だったね」

「あの、ドクター。本日の予定は・・・の検査となっていますので・・・」

「ああ、判った。ウーノ、クイント准陸尉たちをメンテルームに通してくれたまえ」

「判りました」

ウーノさんが小さくお辞儀して退室。そんな中、「お子さん居たんだ~」私はそう思って、一度会ってみたくなった。だからドクターに「あの、ついて行ってもいいですか?」って、確認してみる。するとドクターより先に「すずかさ~ん? おサボりはいけませんよ~?」クアットロさんがポンっと肩に手を置いてきた。

「いや、構わないよクアットロ。一緒に来たまえすずか君」

「あ~ん、ドクタ~。甘やかし過ぎですよぉ~?」

そうしてドクターと私とクアットロさんは、ウーノさんの後を追うことに。スライドドアと研究・開発室の各部屋を通って辿り着いたのは、メンテナンスルームって呼ばれるらしい部屋。そこに「あれ? あなたは確か・・・」私を見て驚くクイント准陸尉と、それに・・・

(わぁ♪ クイント准陸尉にそっくりだ!)

女の子が2人。1人は私より少し小さい子で、たぶん1つか2つくらいの年下だと思う。もう1人はヴィータちゃんくらい・・・7、8歳かな。クイント准陸尉にそっと寄り添ってる2人は本当に可愛い女の子なんだけど、着ているのはどういうわけか入院服。

「お久しぶりです、クイント准陸尉。第四技術部所属、第零技術部弟子、月村すずかです!」

ビシッと敬礼すると、「ええ、久しぶりね! リンドヴルム壊滅、おめでとう♪ さすがチーム海鳴ね」クイント准陸尉も笑顔で敬礼を返してくれた。そして「私の娘を紹介するね」側に居る2人の女の子の背中をポンと優しく叩いた。

「ギンガ・ナカジマです!」

「あの・・・、スバル・・・ナカジマ、です」

大きい子がギンガちゃんで、小さい子がスバルちゃん、か。私も「月村すずかです♪」笑顔でお辞儀した。

「挨拶もそこそこにして、2人とも。いつものように検査台に横になってくれたまえ」

「はい」「・・・・」

ドクターの指示にギンガちゃんはしっかり返事をして、スバルちゃんは小さく頷いて応えた。その後に2人がチラッと私を見る。どこか不安そうな表情。その意味が解らない私は「ん?」小首を傾げることに。

「ギンガ、スバル。すずかちゃんは大丈夫♪ おかーさんが認めるすごい子だから♪」

えっへんと胸を張るクイント准陸尉の太陽みたいに明るい笑顔に、ギンガちゃんとスバルちゃんは頷いて、ココとアクリル材の壁で隔たれた部屋に設けられてる診察台のようなところに横になった。

「今さらですけどドクター、クイント准陸尉。どうして2人はスカラボに? 普通は医務局じゃ・・・?」

ここは第零技術部。検査するのはデバイスとかの機械類のはずなのに。しかもさっきメンテナンスルームって言ってた。私の疑問に答えてくれたのは「ギンガとスバルはね、私と夫の間に生まれた子供じゃないの」クイント准陸尉だった。

「え・・・?」

「すずかちゃん。見ていて。娘の真実を・・・」

ドクターとウーノさんが操作台のキーパネルを叩くと、2人が横になってる検査台を環状魔法陣が覆った。ドクター達の周囲に展開されたモニターに、2人のレントゲン写真のようなものが表示されて「っ!!」私は驚いた。

「サイボー・・・グ・・・!」

そこには機械部品に塗れた骨格が映し出されてた。シスターズと同じだ。だからハッとしてドクターを見た。ドクターは私を見ることなく「私ではないよ。彼女たちを生んだのは」そう言った。

「え? でも、BNAC技術による全身サイボーグ化は破格の技術で、ドクターしか出来ないって・・・」

「はい。確かにドクターにしか出来ない技術・・・のはずですが」

「それでも私ではない」

ギリッと歯噛みしたドクターと、心配そうに見るウーノさんの様子に、この事態がかなり・・・ううん、とんでもなく異常なんだって判って不安になっちゃう。

「ギンガとスバルはね、3年前、ある犯罪者が根城にしているとされた遺跡の捜査中に私が発見、保護した子なの。保護した後あの子たちが、スカリエッティ少将のBNAC技術と似た技術でサイボーグ化された子供だったと判り、私は少将を頼った」

「驚いたよ。私の技術がそっくりそのまま使われているだけでなく、アレンジが加えられていた。始めから戦闘用のサイボーグにするために調整された試験管ベビーを利用している。とんだ外道が居るものだよ・・・!」

ここで完全にドクターが怒りを露わにした。私だって頭にキテる。戦闘用のサイボーグを作るために子供を造った。人道や倫理を大きく逸脱してる。これは絶対に許せることじゃない。

「でね。そんな子たちを見放すわけにもいかなくて、引き取ることにしたの。うちの夫と私との間には子供が出来なくてさ、それに・・・」

「クイント准陸尉とギンガ様とスバル様は遺伝子資質が限りなく一致しており、お2人はクイント准陸尉のクローンであると、ドクターは判断しました」

「クローン・・・!」

「彼女たちを生み出した技術者が何かしらの手段でクイント准陸尉の遺伝子を盗み出し、利用したのだろうね」

「ま、そのこともあって今じゃ誰もが羨む仲良し家族よ♪ 2人を生んでくれた技術者には怒りもあるけど、また感謝もしてたりする。だって、遺伝的に母娘と言っても過言じゃないからね♪」

そう言って満面の笑顔を浮かべるクイント准陸尉は本当に綺麗だった。

「あの、クイント准陸尉。その犯罪者の名前は・・・」

「・・・広域次元犯罪者、ドクター・プライソン」

疑問をぶつけて返って来た名前がそれだった。その名前を聴いた時、「あれ?」どこかで聞いた名前だと思った。記憶を掘り起こしてみて、「あっ・・・!」思い出した。フェイトちゃんが生まれるキッカケとなったプロジェクトFの基礎を作り出した科学者の名前だ。だからクローン技術にも精通してる。そう考えたらゾワッと悪寒が走った。

「・・・彼は本当に・・・狂っているよ」

ドクターのそんな呟きが、すべてを物語ってた。

・―・―・終わりです♪・―・―・

ギンガちゃんとスバルちゃんの検査が終わり、「バイバーイ♪」笑顔でクイント准陸尉たちとお別れした。3人を見送った後、私はパチンと両頬を叩いて気合を入れ直す。

「よし。ドクター。さっきの続き、お願い出来ますか?」

なのはちゃん達の愛機のバージョンアップを引き続き協力してくれるようお願いする。未だにプライソンっていう科学者は捕まってない。チーム海鳴が必ず捕まえるってことはないだろうけど、プライソンのような犯罪者も数多い。そんな人たちの悪行を止めるための力を、みんなに授けたい。

「いいとも。今日は1日暇をしているからね。どこまでも付き合おう」

「私もお手伝いしましょう。ドクターとすずか様を2人きりにするのは不安ですから」

「もうその扱いは無くならないようだね・・・」

ガックリ肩を落として落ち込むドクターに「あの、ロリコンでもドクターのこと尊敬してますから♪」元気づけようと思ってそう言ってみたら「ありがとう(涙)」ドクターは泣いて喜んでくれた。

・―・―・―・―・

――夏も中ごろに差しかかった頃・・・

時空管理局・本局・内務調査部。査察課、監査課、監察課の3つの課に分かれている、管理局そのものや関連組織を取り締まれる権限を有している一種の公安部署である。内務調査部の局員はそれぞれの課の1つにだけ属し、その課に勤めるのに必要な資格だけを持っている。

しかし、中には3つの課すべてに所属し、査察官・監査官・監察官全ての資格を持ち、それぞれの仕事をこなすオールマイティな局員も居る。そんな局員は調査官と称され、執務官クラスのエリートとされている。

調査官になるには条件があり、私情や賄賂に流されない強大な精神力はもちろん、管理局への勤続10年。次に3資格を全て取得して、それぞれの仕事の経験を積むこと5年。最後に筆記・実技試験、現役調査官との面接、承諾を貰って初めて調査官となれる。そんな調査官の特権として、上官からの命令や恫喝に縛られないために、新人でも暫定的に准将の階級を与えられ、調査官としてキャリアが上がればさらに上の階級を与えられる。

そんな内務調査部である3課のオフィスがあるフロアに、男性局員1人、女性局員2人の3人組が立った。先頭を歩く男性局員は大柄で、名はゼスト・グランガイツ。所属は第一世界ミッドチルダは首都クラナガンの防衛を担っている首都防衛隊。出身はベルカ自治領ザンクト・オルフェンで、イリスの父リヒャルトとは交友関係にあり、それ繋がりで彼女とは何度も模擬戦を重ねている仲だ。
そんな彼の後に続くのは同じく首都防衛隊、その分隊長であるクイント・ナカジマ、メガーヌ・アルピーノの2人だ。彼らは真っ直ぐに目的のオフィスへ向かい、そして「失礼する」査察課オフィスの入口に設けられている受付カウンターに座る女性局員にゼストは声を掛けた。

「首都防衛隊、ゼスト・グランガイツ一等空尉です」

「はい。任務内容は承っております。戦闘可能な高ランクの魔導師でもある査察官1名を同行させたいとのことで。こちらでご希望に沿う課員を何名かリストアップしていますので、ご自由にお決めください」

カウンターに展開されたモニターに10名近い査察官の顔写真や名前、魔導師ランク、簡単な紹介文が表示された。

「「あっ!」」

クイントとメガーヌが同時に声を上げて、「ルシル君!」ある査察官、ルシリオン・セインテストの顔写真を指差した。

「査察官としての経験は浅いですが、それを優に補える知識や知恵や固有スキル、何より空戦S+の古代ベルカ式騎士としての戦闘力もあります。あと大声では言えないのですが、かつて次元世界の犯罪者を震撼させたパラディース・ヴェヒター、その参謀格であるランサーだった少年です。彼、私のイチオシです♪」

女性局員から説明を受けたゼストは「あぁ、この少年がリヒャルトの言っていた、イリスの想い人か・・・」と、別のところで納得していた。

「隊長! 彼にしましょう!」

「私もルシル君を押します!」

クイントとメガーヌからの熱烈な提案に「戦力的にも申し分ない。それに部下からの願いでもあるしな」ゼストは、ある任務へ同行させたい査察官としてルシリオンを選択した。それからゼストは手続きを終え、ミッドチルダへ降りるための次元港へと2人の部下と共に向かった。

「なんとしてでもドクター・プライソンの足取りを捉えたいですね」

「そのための違法研究が行われていると密告(タレコミ)があった山岳地帯の捜査だからね。この日のためにいろいろ準備してきたんだから、しっかりと成果を上げたいわね」

「違法魔導師が多いという危険地帯だ。気を引き締めていくぞ、クイント、メガーヌ」

「「はいっ!」」

前を行くゼストに向かって首肯するクイントとメガーヌ。この捜査が近い将来に起こる悲劇の幕を開くことになろうとは誰も思ってはいなかった。

 
 

 
後書き
ボン・ジュール、ボン・ソワール。
サブタイトル通りエピソードⅣへ続くためのプロローグ的な話となりました今回。原作における戦闘機人事件ですね。ゼストとクイントが亡くなり、メガーヌが囚われてしまうあの事件。それが次回となります。
ちなみに、本来であればこの事件より先になのは撃墜事件が起き、フェイトが執務官試験に落ちるのが原作なのですが、それはゴニョゴニョとなります。

戦闘機人という設定を無くし、BNAC技術による後天的なサイボーグ化という設定を新たに起こしました。戦闘機人ってなんか優しくない呼称だと思うんですよね。戦闘の為の機械の人。スバルとギンガ、ナンバーズ更生組は良い娘たちですから、それだとなんか嫌だなぁと、前々から思っていたので。あとスカリエッティ家の設定も本編の通りに大きく変更しました。
 
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