魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico49-B大力は禍の元
†††Sideはやて†††
パンフレットに載ってる地図通りに敷地内をルシル君と手を繋いで走って、後々に混雑することを見越して真っ先にジェットコースター攻略に向かう。目指すは全長3.8kmってゆう長さを誇るジェットコースターの乗り場。
「ここのジェットコースター、それぞれ長所別に何種類もあるようだな」
パンフレットのアトラクションの説明欄を読むと「みたいやね。速度一、高低差一、全長一、仕掛け一などなど」の種類別のジェットコースターが8基くらいある。
「もちろん・・・?」
「フルコンプや!」
ルシル君と笑い合って、目的のジェットコースターの乗り場に到着。すると係員さんが「お席は空いてますよ。どうぞ!」って、わたしとルシル君をコースターのあるホームへ上がるための階段を開けてくれた。一応、キュロットスカートってゆう股下のあるスカートやから下着が覗かれることはないんやけど、「俺が先に行くよ」ルシル君が先に階段を上がってくれた。ん~、紳士やね~。
「こちらへどうぞ~。足元にお気を付けてください」
ホームに上がると、コースターにはすでに他のお客さんが乗り込み終えてて、別の係員さんがわたしらを最後尾席に案内してくれた。まずルシル君が奥の席に入って「はやて。手を」座る前にわたしに手を差し出してくれた。わたしは「おおきにな♪」その手を取って、隣の席に立つ。そんで2人一緒に席に座って、安全バーを降ろした。
「あなたにもあれくらいの紳士さがあれば・・・。男装してる女の子に負けてんじゃない」
「いや、俺には無理。なんか恥ずい」
そんなところに、前のカップルさんが今のわたしとルシル君のやり取りのことでそんな会話したんやけど。ルシル君が「男装女子・・・俺のこと?」ガーンとショック受けてもうた。服装は完璧に男物なんやけど、やっぱ顔立ちが女の子寄りやからかな~。
「気にせんで、ルシル君。ほら、そろそろ動くようや」
発車を報せる音色がホームに鳴り響いた。そんでゆっくりとコースターが前進しだして、坂道を登り始める。上昇から急降下するまでのこの短い時間のドキドキ感がたまらへん。とうとう上り坂の頂上に着いて、ガタンとコースターがゆっくりと下りに入った。となれば後は一気に「ふぁ・・・!」加速しての急降下。
「海底トンネル・・・!」
レールの先には海が広がってて、海中へと続くトンネルが設けられてた。トンネルに侵入するその瞬間、入り口の周りから水柱が幾つも噴き出して来た。
「うぉ、冷たい!」
「おお、すごい! 透明なトンネルや! 海中の透明度もすごいし、海の中を走っているって感じみたいやな!」
透明な海中トンネルの中をすごい速さで走ってくコースター。海ん中をこんな速さで通過できるなんて夢みたいや。海中トンネルを抜けた後は、コースに沿って右に左に曲がっての横Gに翻弄されて、上昇からの下降にはふわっと無重力を感じて、ループ時はルシル君と一緒に「おおおおお!」万歳して、3分と長いような短いコースターを楽しんだ。
「ルシル君、次は速度一に行こ!」
「あ、ああ!」
今度はわたしがルシル君の手を引いて、ここから近いジェットコースター乗り場へダッシュ。すでに楽しんだらしいお客さんとは入れ違いにホームへ上がる。そんで係員さんの案内で先頭車両の一番前の席に座ることになった。
「一番楽しめる席になったな」
「そうやね~。迫力ありそうや」
席に着いて少し、他の座席も埋まったことで「カウントダウン、開始!」係員さんの号令で『Standby ! 4,3,2,1,Fire !』そんな音声が流れた瞬間、コースターがものすごい速さで発進して、「ふぁ・・・!?」かなりのGが掛かった。飛行魔法で飛ぶ時のGとかの諸々は魔法で制御できるから気にならんけど、やっぱこうゆうのが当たり前なんやもんな~。
「すごい加速だな」
一瞬で最高速に至ったコースターはループを繰り返しては、さっき乗ったばかりの全長一のコースの真下を通ったり並んだりする。後ろのお客さん達は歓声や悲鳴を上げてるけど、わたしはあまりの風圧に口も開けらへんし、この速度で体の自由が無いってゆうんは初めての体験やから・・・
「ちょ、ちょう怖い・・・な・・・」
「大丈夫だ。俺がついてる」
「っ! ルシル君・・・」
安全バーをギュッと握るわたしの右手に、ルシル君が左手を添えてくれた。わたしはバーから手を離して、ルシル君と手を繋ぎたいがために右手を翳す。すると人差し指から小指までの4本を握ってくれたから、「おおきに♪」わたしも握り返した。それからホームに戻るまでの1分ちょっとを色々なドキドキで過ごした。
「はぁ・・・、結構ハードやったな~」
「少し待っていろ、はやて。何か飲み物を買ってくる」
乗り場から少し離れたベンチに座って背もたれに体重を預ける。まさかここまですごいやなんて思わへんかった。そんなわたしのために飲み物を買ってこようとするルシル君を「待って!」制止して手招きして、そんで隣の空きをペンペン叩いて隣に座るように伝える。
「?・・・判った」
ルシル君は一度は小首を傾げたけど、お願い通りに隣に腰掛けてくれたから「こうしてれば問題あらへんよ~♪」わたしはルシル君の肩にもたれかかった。
「はやて・・・?」
「ちょっとの間、ひ~と~や~す~み~♪」
かなり大胆なアプローチに入ってるって思うけど、そろそろわたしも本格的に動いて行かなアカンと思うたから。さらに「出来れば頭も撫でてくれるともっと早く回復できると思うなぁ~」なんてネダったみた。
「ぷはっ。あははは! あぁ、いいよ」
「おおきにな~♪」
うにゃ~ってなりそう・・・とゆうか、「うにゃぁ~❤」なってしもうた。今なら告白できる・・・やろか。シャルちゃんも、トリシュも、アイリも、ルシル君にハッキリと好きって想いを伝えてる。そんならわたしも舞台に立つためにそろそろ伝えやなアカンって思う。覚悟を決めるために深呼吸を始める。
「あ、あの、ルシル君、あんな・・・!」
「ん?」
「あんな、わたしな・・・!」
そこまで言いかけたところで「あの、すみません」声を掛けられた。前の方を見れば女性2人が居って、おずおずとわたしとルシル君を見てた。わたしはハッとして「コホン! な、なんでしょうか・・・」ルシル君にもたれかかってた体を戻して居住まいを正した。
「あの、管理局員の・・・ハヤテ・ヤガミさんと・・・」
拙い発音でわたしの名前を口にしたのは50代くらいの女性の方で、「ルシリオン・セインテストさん、ですよね・・・?」ルシル君の名前を口にしたんは20代くらいの女性。顔立ちが似てるから母娘って感じやろうか。ルシル君と顔を見合わせて「そうですけど」ってわたしが答えると・・・
「やっぱりチーム・ウミナリの! あたしと娘ね、あなた達の大ファンなの!」
「クラナガンでの事件で助けられたのよ、チーム・ウミナリに」
やっぱり母娘やった。そんなお2人から、リンドヴルムによる攻撃で大打撃を被った首都クラナガンでの出来事を話してもらえた。鋼の巨人アムティスの起こして竜巻によって倒壊したり吹き飛ばされたりしたビルの瓦礫に押し潰されそうになった時、アリサちゃんやフェイトちゃんの砲撃が瓦礫を破砕してくれたおかげで助かって、その後にわたしやすずかちゃんらの避難誘導で難を逃れたって。わたしの避難誘導も助かった一員やって話なんやけど・・・
(う~ん、憶えてない・・・かな~)
お2人の顔をよう見てみるけど、全然思い出せへん。そんなわたしの考えが伝わってしもうたみたいで「あはは。やっぱ憶えてないか~♪」娘さんの方が笑い声を上げた。
「まぁ、しょうがないわよね。あの時の避難民は何百人と居たから。でもね、あたしや娘にとっては忘れようのない、命の恩人なのよ。だからね、ちゃんとお礼を言っておきたかったの」
「ごめんね。えっと、デート中・・・だったよね?」
申し訳なさそうに謝る娘さんに「いえいえ、気にせんで下さい!」そう言うて両手を振る。ルシル君も「休憩中でしたし」微笑んだ。するとお2人も「ありがとう!」ホッと安心してくれた。
(ん~、ルシル君への告白はまたの機会やな~)
残念なような安堵したような複雑な気持ちや。まぁ、でもシャルちゃんやトリシュの告白もキッパリ断ってるし、今わたしが告白したところでOKが貰えると思うほど自惚れてへん。たぶん、この恋の戦いに勝つ条件はきっと・・・わたしらが告白するんやなくて、ルシル君に惚れさせて告白させることやって思う。
「それで、その・・・最後にお願いが2つほどあって・・・」
「あたしや娘と一緒に写真を撮ってほしいの。それとサイン!」
「「写真とサインですか??」」
ルシル君と一緒に小首を傾げる。写真を撮られることは管理局の総務部・広報課の出してる広報紙なんかで慣れてるから気にならんけど、サインを求められるなんてこと初めてやからちょう戸惑ってしまう。
「サインなんて書いたことが無いので、単純に名前を書くことになりますけど・・・」
ルシル君がそう言うと「それで十分だから!」娘さんがグッと親指を立てた。とゆうわけで、まずはベンチに座っての4人揃って写真撮影。撮った後はサインなんやけど、娘さんがバッグの中から取り出したんは1冊のファイル。
「街中でいつ有名人に会っても良いように、サインを貰いたい人たちの写真や雑誌の切り抜きをファイリングしているんだけどね」
「教会騎士団の写真や切り抜きもあるんですね~」
ルシル君の言うように騎士カリムや槍のパラディン・パーシヴァルさん、剣のパラディン・プラダマンテさんなどなどと言った教会騎士団の有名人さんらの物もあった。そんで「この切り抜きにサインをしてほしいかな」って、娘さんがファイルから2枚の切り抜きを取り出した。
「わたしと・・・」
「俺の切り抜き写真・・・」
それは以前、広報課の取材ん時に撮ってもらった個人写真のもので、局員の制服と防護服の2パターンある。わたしとルシル君は差し出された2パターンの写真に名前を書く。カッコつけて芸能人さんみたくシャレた文字で書こう思たけど、そこまで器用やないし却下。普通に漢字で、八神はやて、って書いた。
(ルシル君はどんなふうに・・・って、おお! カッコええな!)
外国人の書く1つ1つの文字を一筆書きしたかのような、ザ・外国人、って感じのカッコいいフォントで名前を書いてた。さすがやなぁ。とまぁ、そんなこんなでお2人と笑顔で、手を振り合ってお別れした。
「わたしら・・・ホンマに有名人なんやね~」
「ああ、まさかサインを頼まれるとは思わなかったな。サインなんて考えもしなかったから普通に名前を書いただけだ」
「わたしもや~」
2人で苦笑して、「行こうか」ベンチから立ち上がったルシル君が差し出してくれた右手を「うんっ!」取って、わたしも立ち上がる。次のアトラクションもジェットコースター・・・にしよう思うたんやけど、「とりあえず何か腹に入れよう」ルシル君がぐぅ~ってお腹を鳴らしたから・・・
「あはは♪ もうええ時間やし、どこか店に入ろか」
パンフの地図を見て、園内に点在するお食事処の店名を確認、そんで紹介欄を読む。いろいろな主旨のお店があってどれに行こうか迷うけど、手軽に食べられて、すぐにアトラクションへ向かいやすいサンドイッチ専門店に行くことに決めた。そうと決まればすぐに走ってお店に向かう。
「いらっしゃいませ~!」
メニューには何十種類ものサンドイッチ・・・だけやなくてハンバーガーやホットドッグのような物も網羅されてた。ルシル君は「まぁ、パンに具材を挟めばソレはサンドイッチだしな~」そう言うて笑った。それからルシル君とメニューを決め合って、「お願いしま~す!」早速注文。それから少し待つと・・・
「お待たせしました~! ご注文のチップ・バティ、フランセジーニャ、パニーニ、クロックムッシュになります!」
フライドポテトをパンで挟んだチップ・バティ。カリカリなトーストにハムやトロトロに溶けたチーズを挟んだクロックムッシュ。トマトやレタスや薄切りにしたローストビーフ、それにモッツァレラチーズなどを挟んだパニーニ。ハムやソーセージを挟んだ食パンの上に蕩けたチーズと半熟目玉焼きを乗せて、トマトベースのソースがかけられたフランセジーニャの4品、あとわたしのカフェオレ、ルシル君のミルクティーがテーブルに並べられた。
「「いただきます!」」
4品をルシル君と分け合って食べる。どれも美味しくて、ボリュームもあるから結構お腹に溜まる。さて。ここでわたしは「ルシル君、あ~ん」って、ナイフとフォークを使って切り分けたクロックムッシュをフォークに刺した状態でルシル君に差し出した。あーんアプローチは重要やからな~。
「ありがとう。あーん」
ルシル君がわたしのフォークに刺したクロックムッシュをパクッと食べてくれた。すると「じゃあ俺からも。あーん」切り分けたフランセジーニャを差し出してくれたから、「あ~ん♪」パクッと頂いた。それからルシル君と食べさせ合いしながら昼食を終えた。
「「ごちそうさまでした~!」」
お店を後にして、今度はどのアトラクションに行こうかってルシル君と話し合う。結論で言えば、食べたばかりでジェットコースターなどの絶叫マシンは自殺行為(絶対にいろいろとリバースしそう)やってことで却下。
「少し早いけど観覧車なんてどうだ?」
「え、観覧車・・・」
観覧車は最後の最後に取って置こうって思うてたんやけどな。夜景を眺めながら、みたいな。そう思うてるとルシル君が「昼間と夜とじゃ見える景色も違うし、2パターン楽しめるとでも思えば良いじゃないか」そう言うた。
「なるほど。それもそうやね。ん。観覧車にしよか♪」
そうゆうわけで、食後の休憩として観覧車で時間を潰すことになった。乗り場までゆったり歩いて、「足元にお気を付けてください」係員さんの案内でゴンドラに乗り込んだ。1周20分の大観覧車や。それだけ休めばまた絶叫マシンにも乗れるやろ。徐々に高度を上げてくゴンドラから望める景色に「おお・・・!」ルシル君と一緒に感嘆の声を上げた。
「なんでかな~。観覧車から見る景色って、特別綺麗に見えると思うわ~」
「あ、それは俺も思うぞ。なんでだろうな~」
2人して笑い合いながらゴンドラから見える景色を指差して喋る。シグナム達と一緒に暮らすようになってからはホンマに2人きりになれる長い時間なんて無かったから、こうゆう時間は久しぶりでやっぱ嬉しい。
「やっぱ地上本部は高いなぁ~。薄らとやけど見える」
「あんな超高層建造物、日本どころか地球には無いからな」
頂上をちょう過ぎたところで地上本部のセントラルタワーが見えた。座ってるルシル君の隣に座ろうと席を立って指差し合ってると、ガタン、ってゴンドラが揺れたから「ひゃっ?」バランスを崩してルシル君の方へ倒れ込んでしもうた。
「「っ!?」」
心臓が止まるかと思うた。すぐ目の前にはルシル君の見開かれた綺麗な紅と蒼の瞳がある。鼻先が完全に触れてる。唇は・・・ギリギリ触れてない。そやけど数cm近付けるだけで完全に触れられる。ごくっと唾を呑む。
――はやてもルシルに愛の証しちゃいなyo♪――
以前、アイリに言われた言葉が脳内に流れた。あと、天使なわたしと悪魔なわたしが現れて・・・
――ここは事故を装ってチューしちゃいましょう! さぁ、勢いに任せて熱いベーゼを!――
天使がそう言うて・・・
――いや、ダメよ。もっとムードのある中で、そう、夜景が一番! 夜になるまで待ちなさい!――
悪魔がそう返した。普通逆やない? 唆すのが悪魔で、諌めるのが天使のはずやのに、役割が逆になってしもうてる。
――ちょっと悪魔! これは最大のチャンスよ! それを邪魔するなんて、それでも悪魔なの!?――
――そっくりそのまま返すわ、このイロモノ天使!――
――なによ!――
――なにさ!――
アカン。脳内でハルマゲドンが勃発してもうた。あ゛あ゛あ゛~って頭を抱えそうになると、「ほら、座らないと危ないぞ」ルシル君がわたしの両頬に手を添えて、わたしの顔を離した。あぅ、残念や。でもまぁ、告白もまだなんやし、キスはまたお預けってことにしておこか。
「ありがとうございました。お降りの際には足元にお気を付け下さい」
それからほとんど会話も無く景色を眺めて、観覧車を降りた。気不味くなるかなって思うたけど「じゃあ、次はどこへ行こうか?」ルシル君はわたしの手を握って、笑顔でそう訊いてくれた。わたしはマップを確認して「ゴーカートとか行ってみぃひん?」って、訊いてみた。
「ゴーカートか。ああ、それで良いよ。じゃあ・・・・ん?」
ルシル君の笑顔が急に翳って、足を止めて辺りをキョロキョロ見回し始めた。そやから「どないしたん?」わたしも辺りを見回してみながら訊いてみた。
「・・・感じる。さっきまで無かった・・・神秘が・・・!」
「っ! ひょっとして神器か!?」
ルシル君の口から出たキーワードにわたしもお仕事モードに入る。神器。神様とか悪魔とかが作ったってゆう、超古代の武器や道具のことや。去年はリンドヴルムのおかげで多くの犠牲者と損害をクラナガンは被った。機動一課がレンアオムで回収できたんは全てやない。あと6つ、神器が未回収や。その内の1つが・・・
「この遊園地にあるって言うんか・・・!?」
「おそらく、としか言えないけどな。悪い、はやて。少し調査をし――」
「謝らんでええよルシル君。デートもわたしにっては大事やけど、神器回収もわたしらの大事なお勤めやしな♪」
それに、サクッと片付けてデートを再開すればええだけやし。そうゆうわけで、この遊園地のどこかにあるらしい神器の探索に入ることになった。ルシル君の神秘探知能力を当てにして歩き始めてすぐ・・・
「あ、このファンタジアパークのマスコットキャラの・・・」
デフォルメされた不思議な動物たち(なんか干支の動物みたいやな)が列を組んでスタッフオンリーって記された、地図には載ってへんお城のような建物から出て来たのが見えた。昼間のパレードかなんかやろうかって思うた時、そのマスコット達が一斉にわたしらの方を見た。
「え・・・!?」「な・・・!?」
その様子にちょうビクッとした。そんで、どうゆう原理か知らんけど宙に浮くデフォルメ・ドラゴンが大口を開けてルシル君に向かって来ると、デフォルメ・猪、牛、虎などもルシル君にだけに向かって来た。
「ルシル君!」
「はやては離れているんだ!」
一瞬の発光の後、ルシル君は私服から防護服に変身して「コイツら、魔力で出来ている!」一足飛びで後退して、マスコット達の攻撃を躱したすと、今度は蛇や犬や猫や羊も遅れて突進攻撃を仕掛けて来た。
「(リインが居らんけど、ある程度はフォロー出来るはずや!)セットアップ!」
わたしも変身を終えて「封縛!」アインス譲りのバインド魔法で、軽やかに躱すルシル君に追撃を続けるマスコット達を捕らえようとしたんやけど「掻き消された!?」わたしの魔力がパンッと音を立てて弾け飛んだ。
「馬鹿な! コイツらみんな神秘の魔力で出来ているの――ちょっ、邪魔・・・!」
「ルシル君!」
ルシル君の両脚に絡みついてるデフォルメ・蛇、それに猿やネズミやニワトリがルシル君の顔を襲撃。完全に視界を覆ってる。そんなルシル君に対して他のマスコット達が容赦なく追撃。黙って見てるわけにもいかへんから「ブラッディダガー!」高速射撃を放つけど「アカン!」やっぱり着弾する直前に弾け飛ぶ。
「しょうがない・・・!」
――我を運べ、汝の蒼翼――
ルシル君の背中から蒼く輝く剣状の翼が12枚と展開されて、ルシル君は空に向かって急上昇。そんな時、「お客様!? これは一体どういう・・・!?」数人の係員さん達がわたしらの元へとやって来た。その直後、地面に蛇と猿とネズミとニワトリがものすごい勢いで墜落した。
「時空管理局本局・特別技能捜査課の八神はやてといいます。あのマスコットキャラについて詳しくお話を聴かせて頂きたいんですが」
局員IDを提示すると、「本局の・・・!」とか「ヤガミって聞いたことがある・・・!」とか「ほら、チーム・ウミナリじゃないか?」とか、係員さん達がそわそわしだした。そこにルシル君が急速着地して、その衝撃でマスコット達が宙に浮いた。
「エヴェストルム・アルタ、カートリッジロード。イドフォルム」
ルシル君は起動した剣槍“エヴェストルム・アルタ”を振り回して、マスコット達をバラバラに斬り刻んだ。霧散してくマスコット達を見送った後、「同じく特捜課の捜査官、そして査察官として、支配人に会わせて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」ルシル君も係員さん達に局員IDを見せた。
「査察官・・・!」
「あ、はい。こちらです!」
係員さんにお城の中に案内されて辿り着いたんは支配人室。そんで室内に通されると、気弱そうな、でも神経質そうな、30代後半ほどの男性が執務デスクに着いてた。
「なんだね、君たちは?」
「支配人。管理局・本局のヤガミ捜査官とセインテスト査察官だそうです」
わたしらを案内してくれた係員さんがそう言うと、目に見えて肩を震わせてデスクの上に置いてあった1冊の本を引っ手繰って大事そうに抱えた。それを見たルシル君が『間違いない。神器だ』思念通話を送ってくれた。とりあえず自己紹介と、ここへ来た理由を支配人さんに伝えると・・・
「コレは私の物だ! 何の権利があって!」
「支配人。ソレは盗品であり、古代遺失物ロストロギアに該当する物です。この意味、お解り頂けるかと思うのですが」
「そ、それは・・・! だがしかし! コレは我がファンタジアパークの目玉となる、大切な物なのだ! お願いだ! このままお引き取り願いたい! どうか! このファンタジアパークと従業員たち、そのご家族のためにも、この本を譲ってくれ!」
何度もデスクにおでこを打ち付けて涙ながらに懇願する支配人さん。見てるこっちが悪者みたいな感覚に陥りそうになる。わたしは居た堪れんくなって、ルシル君に頼ろうと横を見てみると、ルシル君のあまりの無表情さにわたしはちょう怖くなった。
「支配人。管理局法を守ってください。自分は査察官であり、さらには監査官や監察官としての研修も受けています。残念ですが情に訴えても無意味です」
「~~~~~っ!」
「ルシル・・・くん・・・」
キッパリと支配人さんの懇願を切り捨てたルシル君は、涙に濡れて憎しみに染まった支配人さんの視線をしっかりと受け止めた。わたしと違くてルシル君は局員然として仕事をこなしてる。そう言えば、ルシル君が査察官として仕事してる姿を見るんは初めてや。情に流されず、たとえ憎まれても全うするその姿に、怖いって気持ちとすごいって気持ちが半々で生まれた。
「支配人。他に目玉を考えてはいかがでしょうか。違法な手段で客を呼んでも、いつか必ず破綻します。このまま続けては、あなたが大切にしているこのパークと関係者諸氏に迷惑が掛かるでしょうし」
「すでに一般開園まで1週間というこの時期にそんな簡単に目玉が出来るわけないだろう! 大人の苦しみを知らない子供が!!」
「支配人!?」
「ルシル君!?」
バンッとデスクを両手で叩いた支配人さんが椅子から立ち上がって、ソファにに座るルシル君の側に駆け寄って来た。そんで胸倉を掴もうとしたんやけど、「さらに公務執行妨害罪まで犯す気ですか?」ルシル君が慌てることなくそう言うと、「では・・・どうすれば良いと言うのだ・・・」支配人さんはその場に跪いた。
「はやて。あと、係員さん。少し席を外してもらっていいでしょうか。ここからは査察官として、ファンタジアパーク支配人と話がしたいので。『すまないな、はやて。後は任せてほしい』」
『・・・うん。判った。お任せするな』
「・・・君。席を外してくれたまえ」
「あ、はい・・・」
ルシル君や支配人さんの指示で、わたしと係員さんは退室する。そんで部屋の外で待つこと数分。ガチャっと部屋のドアが開いて、「お待たせ、はやて」ルシル君が神器やってゆう1冊の本を手に部屋から出てきた。
「ルシル君! その本、無事に回収できたんやね!」
「ああ、もちろんだとも。神器も回収したし、デートを再開しようか」
そう言うたルシル君は、係員さんにお辞儀を1回して出口へ向かい出したから、わたしもお辞儀をしてからルシル君の後を追った。
「なあ、ルシル君。あの後、どんなこと話したん? それに、その神器も・・・」
「ああ、実は・・・」
ルシル君が話してくれたあの後の出来事は、ルシル君にしか出来ひん解決案の提示やった。簡単に説明すると、まず支配人さんが手に入れてた神器の名称は“マーラー・キント”ゆうらしくて、その本の白紙ページに描いたイラストをそのまま戦闘用の使い魔として具現化できる能力を持ってるとのこと。
「具現化された使い魔は、自動的に神秘を有する魔術師を迎撃するよう初めから設定されているんだ」
「あー、だからわたしには向かって来おへんかったんやね・・・」
「で、支配人にはコレと同じ機能を持った本を渡してきた。純粋にイラストを具現して半自律的に動かせるだけの玩具だが、こんな兵器よりは扱いやすいだろう。そして、はやてと係員に席を外してもらったのは、局員としてあるまじき行い・・・取引をしたことを見られたくなかったからなんだが・・・、こうして話していれば意味のない行為だったな」
そう言うて苦笑するルシル君。そやけどそのおかげでファンタジアパークの目玉ってゆうのが無くならずに済んだわけやし。そやから「わたしはな~んも知らへんよ♪」嘘の報告をすることになるけど、それでもこの遊園地には頑張ってほしいからルシル君の計画に賛同する。
「コレを回収した経緯についてはフリーマーケットで偶然見つけたということにしておこうって思う」
「ん。それでいこか」
そんなこんなで未回収神器6つの内の1つを回収できた。なら後は最後までルシル君とデートをするだけや。
「行こ、ルシル君!」
「ゴーカートだったな。ああ、行こう、はやて!」
ルシル君と手を繋いで、わたしらはゴーカート乗り場へ向かった。その後はメリーゴーランドや残りのジェットコースター、コーヒーカップ、バイキング、それにゲームコーナーとかでも遊んで、夕ご飯もレストランで済まして、最後にもう1回観覧車に乗ることにした。
「ルシル君。今日はホンマにおおきにな。わたし、すごい楽しかった。一生忘れられへん誕生日プレゼントや」
ルシル君と同じ側の座席に座って、今日一日のことを感謝した。
「俺も楽しかったから、こちらこそありがとうだ」
2人で肩を寄せ合って夜景を眺めてると、ドォン!って、夜空に大きな花火が咲いた。しかも1発だけやなくて次々と花火が打ち上がって来ては夜空をカラフルに染め上げてく。予告なしのサプライズ花火大会や。良いタイミングで観覧車に乗っててラッキーやな。
「今度は家族みんなで来てみたいな」
「うん。そんでチーム海鳴でも来たいな~」
「だな」
花火の明かりに照らされる中、わたしはチラッとルシル君の横顔を見た。そんで「チュッ❤」頬にキスしてみた。ボッと全身が熱くなる。ヴィータやリイン、シグナムにシャマル、それにアインスには何度かキスしたことあるけど、やっぱり好きな男のやと全然違う。なんか頭の中がぐるぐるして、ちょう涙が出てきた。
「はやて・・・!?」
「きょ、今日のお礼! こんなんでゴメンなさいやけど!」
ルシル君の顔をまともに見れへん。でも後悔はしてへんと思う。これで少しはシャルちゃんに追いつけたやろか。両手で顔を覆ってると、「無茶しすぎ」苦笑しながらルシル君はわたしの頭を撫でてくれた。
「ほら、地上に着くまでもう少しだ。それまで花火を見ておかないと勿体ないぞ」
「・・・うん」
両手を離して、俯いてた顔を上げる。ゴンドラに差し込んでくる花火の明かりの中で、わたしは心の中でこの時間に感謝した。
後書き
グッド・モーニング、グッド・アフタヌーン、グッド・イーブニング。
前話に続いてルシルとはやてのデート回+神器回収をお送りしました。あっさりし過ぎていますね~。予定ではもうちょい派手なバトルをやろうかと思ったんですが、やめておきました。
さて。ここでかなり重大なお知らせを発表します。
執筆活動についてですが、とある家庭事情でリアルにタイムリミットが下されてしまったので出来るだけ早く完結しなければならない状態になってしまいました。期日にまで完結できなければ、強制完結になりそうです。そうなった場合はルシルのモノローグ的な物を使って、一気に最終話まで持っていく予定です。
ですので、事件編を第一にして、日常編は今後のエピソードに必要なもの以外は削っていきます。そして約束の日までに何とかなった場合は、書きたかった日常編をあとあと追加して行く予定です。
歳を取っていくといろいろと背負わなきゃいけなくなるんですね~。学生時代に戻りたいorz
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