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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第49話 砂漠緑化!? そして置いて行かれる私

 
前書き
原作キャラのオリ設定が若干入ります。
読まれる方は、その点をご理解お願いします。 

 
 こんにちは。ギルバートです。ガリアへの接触が失敗してしまいました。原因の一端は私にあるのですが、流石に「これは無い」と言いたいです。自分達の都合しか優先出来ないのは、貴族として失格としか言い様がありません。まあ、その所為でオルレアン公は酷い目に遭いますが自業自得です。

 今回の失敗を踏まえて、アルビオンへの接触は慎重に行く事にしました。今回のネフテスとの交渉も失敗は出来ません。ビターシャルがガリアに深入りするのを防がなければ、火石エクスプロージョンとヨルムンガンドが怖いからです。それよりも、今私が優先すべき事は……。

「ギルバート様!! 聞いているのですが!?」

 現在ドリュアス家本邸内が、非常に殺伐としております。今考えていた事も現実逃避だったりします。

 ……原因は。

「本邸内の廊下を歩きまわる水の精霊(分霊)を如何にかしてください。使用人達が怯えてしまって、仕事になりません」

 オーギュストが言っている事は正論なのですが、元々廊下に水路を造った理由は、精霊に隠し事をしないと言う意思表明だったはずです。本当に精霊が現れたからと言って、今更騒がないで……って、無理ですよね。あくまで建前だったのですから気持は良く分かります。

 ちなみに他の分霊達も本邸内で思い思いに過ごしています。

 火の精霊の分霊は、炭焼き小屋に居ついてしまいました。最初の内はポールさんに泣き付かれましたが、火の精霊が居ると炭の出来が良くなる事が発覚。そこから炭の奥深さや素晴らしさを話し合うようになり、なんと火の精霊とポールさんが意気投合してしまったのです。その光景を見て、ドン引きしてしまった私は悪くないと思います。……話のネタが尽き始めていたので、陶磁器の話をしたのも不味かったかな? まあ、あの様子なら奉納品に炭を入れれば、火の精霊のご機嫌を取れそうなので、それが収穫と言えば収穫です。

 土の精霊の分霊は、理知的で大人しくしていてくれました。後に陶磁器の話が出ると、火の精霊に連れられてそちらの方に合流した様です。騒ぎを起こさないでくれる事は、非常に嬉しです。

 風の精霊は今回も分霊を作らず、現地集合だと思っていました。しかし流石に1人……もとい1柱だけで行動するのが寂しかったのか、何時の間にか本邸に姿を現す様になったのです。ふと気付いたら居ると言った感じですが、目立たないので殆どの人が気付いていません。そのお陰で騒ぎにならないのは助かります。

 木の精霊の分霊は、本邸中庭の庭園に居座っています。恐れられているのは水の精霊と変わりませんが、こちらは動かないので“中庭に近づかなければ良い”と言う認識があり騒ぎにはなっていません。まあ、一部の人達は“庭園を愛でられない”と嘆いていましたが、少しの間くらい我慢してほしい物です。

 ……こうして思い返してみると、火の精霊の順能力が意外に高いです。火の精霊なのに。

「ギルバート様!! 聞いているのですか!?」

 また怒られてしまいました。

「そう言われても対策はありませんよ。モンモランシ伯と言う前例があるので、下手に諌める訳には行きませんし……」

 そう言うとオーギュストは、悔しそうに黙ってしまいました。

「とにかく早々に準備をして、ネフテスへ出発するしかありません。今はそれ以外に対策は無いのです」

 はい。話はこれで終了です。マギ商会に残りの物資を早く納入してもらう為に、尻を叩いておく位しか出来る事はありません。マリヴォンヌの方にも、新しいマジックアイテムの開発を秘密裏に依頼しました。依頼したのが新型のスキルニルなので、かなりの予算を要求されたのは仕方が無いでしょう。予算を何処から捻出した? とか聞かれそうですが、クルデンホルフから奪って来た資金の一部を使わせていただきました。

 はぁ……なんでこんな事になったのでしょうか? 鬱になりそうです。



 そして、それから2週間。ようやく……ようやく準備が終わり、出発の時が来ました。長かったです。何度「何で《錬金》で植物を作れないんだ」と叫んだか分かりません。

 とにかくこれで、もう白い目で見られる事はありません。帰りは2年後の予定なので、家族審問も回避出来たでしょう。それに白い目で見られると言えば、私を遥かに超える変人……いえ、変態が居るのです。

 はい。それは私に笑顔で手を振っているマリヴォンヌです。かなりの変わり者と聞いていましたが、ハッキリ言ってあれは変態です。

 どれくらい変態かと言うと、訓練が終わって汗をかいているアナスタシアやジョゼットを見て、鼻息を荒くしながら「オイシソウ」は無いでしょう。何時暴走するか分からなくて、一時期は戦々恐々としていました。一応本人が「イエス ロリータ の~ タッチ」とか「本人の同意が無ければしないわヨ~」とか、イマイチ不安が残る事を言っていました。

 そしてジャネットが「ギルバート様も守備範囲内だから、2人きりになる時は十分注意して」等と口にしたのです。それに対して「私に手を出そうとしたら、簀巻きにしてやります」と反論したら「それじゃご褒美になっちゃうわ」と言われた時は、本当に如何しようかと思いました。機会が有ったにもかかわらず、実際に誰かに手を出した事が無い事と、ジャネットがストッパー役をやってくれているので大丈夫だと思います。

 幸いマリヴォンヌは、不味い相手を見分ける目と“擬態レベルの猫をかぶれる才能”もあります。また、親しい相手に自身を偽るのを良しとしない性格らしく、ドリュアス家で彼女の性格はあっという間に認知されてしまいました。

 私は周囲の反発を予想していたのですが、何故か“今更変人が1人増えた位どうって事ないよ”と言う雰囲気が……。

 別の意味で不安になりましたが精霊を待たせている以上、今更行かないと言う選択肢はありえません。

 と言う訳で、さっさと出発する事にしました。風竜に化けてたティアに乗り込み、ネフテスへと出発します。風竜になってもらったのは、途中でガリア領を通らなければならない事が原因です。現状のガリアとの関係を考えれば、トラブルが起きた時にそれが致命傷になりかねないからです。そう言う所は、余計な時間をかけずに一気に駆け抜けるに限ります。

 見送りは家族や家臣達全員でしてくれていますが、皆の顔が何処か晴れやかなのが納得行きません。トラブルの種(分霊達)が居なくなるのが嬉しいのでしょうが、誰も私の心配をしていない様に見えるのは気のせいでしょうか?

 ……止めよう。悲しくなって来ます。それに例外も居るのです。名残惜しそうにしているポールさん……は置いておくとして、アナスタシアとジョゼットだけは心配そうに私の事を見ています。エルウィングも不安そうな顔をしていますね。うん。この3人にはお土産を買ってきてあげよう。クリフとドナは、悔しそうにしています。今回は護衛の必要性(エルフ相手では役に立たない上に、余計なトラブルを起こす可能性がある)を感じなかったので、残念ながらお留守番です。

 まあ、皆が心配していないのは、私の事(もしくは精霊達)を信頼しているからと思っておきましょう。そう思わないと悲しくなって来ますし。

「それでは行って来ます」

「うむ。気を付けて行くのだぞ」

 父上が代表して答えてくれましたが、まるで“近くにお使いに行かせる”様な気やすさです。私の年齢と護衛(クリフ+ドナ)が居ない事に加え、一見軽装に見える(荷物(分霊達やポプラの苗木等、本来なら竜籠一隻では足りない量)を魔法の道具袋に入れている)のでそう感じさせます。

 ティアが大きく羽ばたき空に浮かび上がると、地上の皆は(一部を除き)嬉しそうに両手を振っていました。

(帰ったら覚えてろよ)

 思わず心の中で、悪態を吐いてしまいました。



 国境沿いや砦・大都市等の要所を避けて、アーハンブラ城の城下町に着く事が出来ました。

 ここまでは運良く順調な道程でしたが、ここからが本番と言って良いでしょう。

「主。ここからは如何するのじゃ」

「今日はここで一泊して、ここから先は馬車での移動になります。風竜のままで行くと、エルフ達を余計に警戒させてしまいますから」

 ティアもそれを理解しているのか、直ぐに頷いてくれました。風の精霊に守護を頼み、ネフテスの首都アディールまで風竜で一気に行く方が時間を節約出来るのですが、それをするとエルフ側の警戒心を無駄に上げてしまう事になるからです。下手をすればそのまま戦闘になり、交渉どころではありません。

 理想を言わせてもらえば、早い段階でエルフ達の砂漠パトロール隊と接触し、彼等に首都アディールまで案内してもらう事です。

「……馬車か」

 ティアが嫌そうに呟きました。気持ちは良く分かります。しかしいざと言う時の為に、分霊達には道具袋の外に出て居てもらわねばなりません。無いとは思いますが、エルフからの不意打ちで命を落としては意味がありませんから。

「馬車はちゃんとした物を用意していますし、私が砂漠仕様に改造した物です。この前の様な事にはなりませんよ」

 一見行商人用の幌馬車ですが、職人にしっかり作ってもらっているので見た目に反してかなり良い物です。次に私が施した改造ですが、流石にサスペンションは無理でしたが、車輪の周りに樹液や膠で作ったゴムで覆い現代のタイヤに近い物を再現しました。これだけでもかなり違うはずです。また、避暑のために様々な工夫を無駄に施してあります。やはり《錬金》は便利ですね。馬やラクダの代わりに、マリヴォンヌ特製のガーゴイルも用意しています。生き物の世話は大変ですから。

「水や氷なら魔法で出せますし、快適とは言えないまでも辛い旅にはならないはずですよ」

 私はそう言いながら、魔法の道具袋に入っている塩や避暑グッズを頭の中で確認していました。

「吾がどのような姿で居れば良いのじゃ?」

「夜は猫の姿でお願いします。身を寄せていないと寒さにやられてしまうので、温かい方が良いですから。逆に昼は暑いので、近寄らないでくれると助かります」

「主のいけず。と言いたい所じゃが、そうなるじゃろうな」

 ティアはそう言うと溜息を吐きました。どうやら砂漠の厳しさは知っている様です。



 一夜明けて、いよいよエルフ領に侵入します。

 ある程度進んだ所で、魔法の道具袋から分霊達を取り出し馬車の荷台に移ってもらいました。これで万が一にも対応出来るでしょう。しかし荷台に移った分霊達は、黙りこみ何一つ反応を見せませんでした。

「如何かしたのですか?」

「予想より酷い……と、思ってな」

 代表で木の精霊の分霊が答えてくれました。それを聞いた私は、不思議に思い重ねて問いかけます。

「風の精霊なら現状を知っていたのではないのですか?」

 風の精霊が現状を知っていれば、それは他の精霊に伝わっているはずです。

「ただでさえ小さき風の精霊が集まっているのだ。そこに我等の様な意思ある者まで現れれば、バランスの崩壊を助長する事になる。小さき風の精霊は、本能的にこの地に惹かれるので出て来る者がいない。居たとしても小さき精霊では、得られる情報が少な過ぎるのだ」

 木の精霊が懇切丁寧に説明してくれます。私はその説明に「そうですか」としか答えられませんでした。



 それから3日ほどは、何事も無く馬車で過ごす事となりました。早々にエルフと接触したかった私は少しイライラしていましたが、それがあまりよろしく無かったのかもしれません。時は4日目の朝になり、そろそろ休む場所を……と考えていました。

 切っ掛けは、木の精霊(分霊)の呟きでした。

「来たな」

「如何し……ッ!?」

 そう言いかけた私の背筋に冷たい物が走り、反射的に杖を抜きルーンを唱えます。次の瞬間私達に放たれたのは矢の雨でした。対して私が発動した魔法はエア・シールド《風盾》です。

 矢は私達が乗る馬車から逸れ、砂地に次々と突き刺さりました。しかし突き刺さる矢の音に何故か、ドンッドンッドンッと爆発音を含んでいたのです。

「なっ!!」

「主!!」

 それを聞いた私は唖然としてしまいました。間違いなく矢に風の力が籠められ、威力の底上げが行われています。

 そう。私を確実に殺す為に……。

 もしエア・シールドを、“攻撃を逸らす”使い方ではなく“受け止める”方の使い方をしていたら、盾は一瞬で破壊され私は肉片へと変わっていたでしょう。

 しかし何時までも唖然としてはいられません。敵は砂丘の向こう側で、数は最低でも20人以上居ます。弓を使ったのは、軌道を曲げ死角(砂丘の向こう側)から不意を打つためと見て間違いないでしょう。如何考えても警告なしで、殺しに来ています。

 そして現在地は、間違いなくエルフの領域内に入っています。そんな場所に人間の盗賊が居るはずがありません。と言うか、今の攻撃は人間には不可能です。敵は間違いなく……。

「エルフか……やってくれる」

「無礼じゃな」

 私が吐き捨てるように言うと、ティアが同意する様に口を開きました。精霊達は何か思う所があったのか、沈黙を守っています。加勢する気も無さそうです。そうこうしている内に、第2射が飛んで来ました。

「ッ!? 不味い!!」

 私は先程と同様にエア・シールドを展開しますが、先程と決定的に違う所がありました。それは籠めた精神力の量です。先程より分厚く強力に展開されたエア・シールドは、次々に矢の軌道を歪めました。そして矢は先程より馬車に近い砂地に突き刺り、先程より大きな爆発音が……。

「くっ!!」

(ティア!! カウンターは使えないのですか!?)

(駄目じゃ!! 先手を打たれた上に、相手の精霊魔法使い(エルフ)の数が多すぎる)

 思わずティアに泣き付いてしまいましたが、返答は私が望むものではありませんでした。相手が精霊魔法使い(エルフ)なら、この事態を想定しておくべきだったのでしょう。この隙に飛んで来た第3射を、更に消費精神力を増やす事で防ぎますが、その時点で残りの精神力が半分を切ってしまいました。

 ……このままでは次は耐えられても、その次は耐えられない。

 そう判断した私は、賭けに出る事にしました。

「バカの一つ覚えですか? 効果が無いのも分からないとは、程度が低い賊ですね」

 私が声高に叫ぶと同時に、4射目が飛んで来ました。

「しかしこんな所に賊が出るなんて、エルフの国も大した事ありませんね!!」

 それを何とか防ぐと5射目は来ず、その代わり砂丘の向こう側がにわかに騒がしくなります。僅かに聞こえる言葉を拾うと「蛮人が!!」とか「賊だと!! 愚弄しおって」等の言葉がありました。どうやら相当お怒りの様です。

 暫く待つと4人のエルフが、砂丘を超えてこちら側に来ました。その顔は怒りで醜く歪んでいます。

「エルフにも賊に身を落とす者がいるのですね」

 私が皮肉たっぷりに言うと、4人の手が剣にかかりました。そして口々に……

「蛮人ごときが無礼な!!」「我等“鉄血団結党”に向かって!!」

「賊は貴様の方だろう!!」「そうだ!!」

 と、こちらを非難して来ます。そしてその罵倒に乗る形で、隊長らしきエルフが口を開きました。

「蛮人!! 我等が荷台の荷物に気付かないと思ったか!!」

 一瞬何を言っているか分かりませんでしたが、直ぐに思い当たるモノに行きつきました。エルフなら精霊の力は感じ取れるはずです。そして荷台に5柱もの精霊(大精霊の分霊)達が居るとなれば、畏怖すら感じても不思議ではありません。それを精霊縁の強力なマジックアイテムと勘違いしたのでしょう。

 そして、そんなものを蛮人が持っているはずが無い=盗んだに違いない→ならば殺してしまえ。

 ……短絡的すぎます。エルフは理知的だと聞いていたのですが、その評価を見直す必要があるみたいですね。

 そんな事を考えながら、私は荷台から木の精霊が入った瓶を取り出し膝の上に置きました。

「なっ!! 蛮人ごときが精霊を捕えただと!!」

 瓶の中に入れられている以上、そう見えても仕方がありませんが、今の一言はよろしくありません。何となくですが木の精霊が不機嫌になったのが分かりました。精霊達は例外なくプライドが高いですから、エルフ達に侮られたと感じたのでしょう。まあ、このまま誤解させておいても良い事は無いので、木の精霊を取り出し瓶を荷台に戻すと、肩の上に木の精霊を乗せました。

「バカな!!」「如何言う事だ!!」「捕えられていたのではないのか?」

 はい。思惑どおりに混乱してくれました。私はそのまま御者席から降ります。

「私の名は、ギルバート・ド・ドリュアス。精霊と懇意にしているドリュアス家の者だ。この度は精霊達の依頼により、この地の狂った精霊のバランスを調整する為に“ドリュアス家の代表”としてこの地に訪れた」

 エルフ達は一様に“信じられない”と言う表情をしています。まあ、それも仕方が無いでしょう。その時首筋に、チクッと何かが刺さるような痛みが走りました。

「(重なりし者よ。ずいぶんと意地悪な事を考えているな。仕方ないから乗ってやろう)」

 ……やっぱり怒っていました。精霊達の純粋な怒りが伝わって来ます。と言うか、先程の不意打ちも含めて相当ご立腹の様ですね。

(ありがとうござます。それより先程は何で助けてくれなかったのですか?)

「(重なりし者の母親に頼まれたからだ。“絶対に無事に帰してくれ……ただしギリギリまで助けるな”とな)」

(母上ーーーー!!)

「(そう言うな。経験を積ませたいという親心だろう。それにその身を賭して我に直談判して来たのだ。多少歪んではいるが、良い母親ではないか)」

 そう言われたら反論出来ません。しかし精霊に“歪んでる”と言われる母上って……。姉上(コドモ)を無くした境遇と周りの環境から、子供を鍛える事が愛情だと思ってる節があります。加えてSっ気全開のあの性格では、とても否定出来ません。

 ……それよりも続きです。

「貴方達に問いたい。貴方達は賊か否か?」

 こう言われれば、あちらの答えは決まっています。

「答えは否だ。我々はネフテスに所属する砂漠警備隊の者だ」

「では、ネフテスの者が精霊に攻撃したと言う事だな? それはネフテス……ひいてはエルフ達は精霊と敵対すると言う事で間違いないな」

「!? そ それは!!」

 焦っていますね。当たり前です。更に追い詰めてやろうと思ったら、木の精霊が先に言葉を発しました。

「お前達エルフの意思は良く分かった。ならば我等も相応の対応をする」

 木の精霊が言い終えると同時に、何か力の様な物が周囲に広がります。

「な なにを……」

 思わずそう口にするエルフ達に、木の精霊が淡々と答えます。

「お前達“エルフの意思”を周囲の小さき精霊達に伝えただけだ」

 それが何を意味するか気付いたエルフ達が、顔を真っ青にしてしまったのも仕方が無いでしょう。私もまさかここまでするとは思いませんでした。現にエルフ達が「精霊が応えてくれない」とか「バカな……」とか喚いています。それよりも……

(“エルフの意思”って事は、精霊魔法が使えなくなったのは……)

「(この地に住まうエルフ全てだな)」

(……やっぱり。やり過ぎでは無いですか?)

 しかし私の問いに、答えは帰って来ませんでした。ひょっとして自覚はあったのでしょうか? ……それは置いておいて、一部のエルフ達が言い争いを始めてしまった様です。目の前に出て来た4人は顔を青くして立ち尽くしているだけでしたが、砂丘の向こう側に残ったエルフ達は罵り合いにまで発展しています。

 その罵り合いには、数々の問題発言が含まれていました。中でも酷いのが「精霊が我等を裏切ったのか?」と言う言葉です。普段から精霊の力を貸してもらっている立場の上に、攻撃をしておいてこの発言はありません。他にも「精霊は大いなる意志に反するのか?」とか「精霊を縛るとはどんな魔道具だ」とか、こいつ等には“自分達が道理に反した事をした”と言う意識は無いのでしょうか? そしてそれが、精霊達を怒らせていると何故分からないのでしょう。

 それに気になるのが、エルフ達から時々漏れる“鉄血団結党”と言う言葉です。エルフ達の言葉をつなぎ合わせ推測するに、エスマーイルとか言うバカが首領を務める対人間外交の強硬派……と言うか過激派で、その考えは“悪魔(虚無)その眷属(人間)や裏切り者には死を”と言う物騒な考えを持つ者達の集まりの様です。ネフテスの中でどれ程の規模を持つか知りませんが、エルフとの融和路線を目指す私にとって敵としか言いようがありません。

 そして今回の不意打ちの最大の原因は、隊長がこの“鉄血団結党”の上位メンバーだった事に加え、砂漠警備隊(このチーム)の過半数が“鉄血団結党員”だった事です。その他の良識あるエルフ達が「先ずは警告を……」と言う意見を押しのけ、不意打ちで私を仕留める事になってしまいました。

 まあ、その結果がごらんの有様です。……現状は理解出来ましたが、これでは総領との交渉までたどり着けません。一瞬強行突破と言う手も浮びましたが、それでは今後の関係に悪影響が出てしまうでしょう。如何にかあちらから「首都まで来てください」と言わせるしかありません。まあ、ここまで有利な状況ならそれも簡単ですが。

「……私達は帰った方が良さそうですね」

「ッ!! ま 待ってくれ!!」

 はい。喰いついて来ました。まあ、当然ですね。このまま私達を帰せば、自分達が2度と精霊魔法を使えなくなるかもしれないのですから焦りもするでしょう。しかし首都に帰ったら、更に驚愕するはめになるんですよね。行き成り精霊魔法が使えなくなって被害も出ているでしょうし、その責任が誰にあるかと言うと……もう“御愁傷様です”としか言えません。

「待つ理由は無いと思いますが?」

「ま 待ってくれ。……頼む」

 ここでようやくエルフの隊長が頭を下げました。頭を下げたと言っても、会釈の半分程度の角度しか下げて居ません。それでは頭を下げた内に入らない様な気もしますし、何よりその顔は不満と屈辱にまみれています。……全然頭を下げられた気がしないのは私だけでしょうか? それ以前にこいつ等は、未だ名乗ってすらいません。

 まあ、ここでそんな事を気にしていては話が進みません。流すしかありませんね。

「それは使者である私に、ネフテスから正式に謝罪してもらえると言う事でしょうか?」

 いきなり襲われた以上、私としては当然の要求なのですが、この質問に隊長の顔が引きつりました。まるで“蛮人が図に乗って!!”と、極太マジックで顔に書いてあるみたいです。ここまで分かりやすいと、ある意味感心してしまいます。

「……わ 分かった」

 そう不愉快そうに言い放つと、隊長は黙りこんでしまいました。本当に礼儀がなっていません。



 ……あれから2日経過して、ようやく首都アディールに到着しました。その工程は、馬車で1日半に船で(精霊の協力込みで)半日です。

 その間ずっとエルフ達の陰口(風メイジなので内容を聞きとれる)に晒されていました。その所為で私もずっとイライラしっぱなし……と言う訳でもありません。ティアや精霊達がピリピリしていて、それをなだめるのに必死だったからです。おかげ様で私のストレスは凄い事になっていますよ。

(……この恨み、晴らさでおくべきか)

 そう思っていたのも首都に着くまででした。首都アディールは、大混乱中だったのです。エルフ達は私の想像より、精霊への依存度が高かったのが原因でした。

 首都アディールは海に浮かぶ町と言うだけあって、その食料の大半は魚介類に頼っています。そして漁に出るとしたら、水や風の精霊に頼み船を目的地に運んでもらいます。それが出来なくなれば、まともに操船出来る人材が居なかったのです。素潜り漁をするにも、精霊魔法の《水中呼吸》に頼っていました。更に作業中は、精霊達が危険な水生生物(魔獣含む)から守ってくれたので、漁に集中する事が出来たのです。

 それら精霊の保護が無くなると、安全な食糧獲得方だった漁が死と隣り合わせの危険な作業へと化けました。行方不明者や死者が複数出ると、評議会は国の蓄えを放出し、精霊達の怒りを収めるまで漁に出ない様に命令します。

 しかし食料よりも、もっと深刻な問題がありました。

 ……それは水です。エルフ達は精霊に頼み、海水を飲用に耐える水にしてもらっていました。そう飲み水でさえ、精霊に依存していたのです。そんな状況では、まともに生活出来るはずもなく、首都アディールを捨てる事さえ検討されていたのです。

 想像を遥かに超える大被害……(多少ケガ人が出る程度かな?)等と考えていた私は甘かったです。砂漠警備隊の隊長も、被害を目の当たりにし顔面蒼白になっていました。

 良心が痛みますが自業自得ですし、ここで遠慮していてはまともに交渉等出来ません。私(+ティア)と精霊達は通された議場で、エルフの代表である議員達と対峙しました。ちなみに木の精霊は私の肩に乗り、有線テレパスが繋がった状態を維持しています。ちなみにティアと他の精霊達は、我関せずです。

「私の名前は、ギルバート・ド・ドリュアスと言います。トリステイン王国の末席に名を列ねる貴族であり、精霊と懇意にしているドリュアス家の者です。この度は精霊達の依頼により、この地の狂った精霊のバランスを調整する為に“ドリュアス家の代表”としてこの地に訪れました」

 私がそう言うと、議員達も信じられないと言う顔をしました。

「この地の狂った精霊のバランスを調整する為には、エルフの協力が必要不可欠であると考えました。よって余計な警戒をさせずに貴方達と接触する為に、馬車にて首都アディールを目指していたのです。……しかし精霊を伴う私を、砂漠警備隊の者が不意打ちにより精霊ごと抹殺しようとしたのです」

 議員達の顔が引きつりました。悲鳴の様な物まで混じっています。

「も もしかして、精霊達が我々に協力してくれなくなったのは……」

「お察しの通りかと思います」

 議員の1人が呟くと、私はそれを肯定して頷きました。

「精霊への不意打ちに加え、私と一緒に居た事を理由に裏切り者扱いです。“裏切り者には死を”と言うのが、エルフの考えらしいですが……一体どちらが“大いなる意志に反する裏切り者”なのでしょうね」

 思いっきり笑顔で言ってあげました。議員達は全員顔を真っ青にしています。それはそうでしょう。ネフテスはロバ・アル・カリイエと、頻繁に小競り合いを起こしていると聞きます。もしロバ・アル・カリイエやロマリアがエルフの精霊魔法消失を知れば、喜々として大攻勢を仕掛けて来るのは火を見るより明らかです。

「精霊達と私の要求を言わせてもらいます」

 そう言いながら私は、左手を前に出し人差し指を立てました。

「一つ目は、そう言った傲慢な態度を改める事です。精霊達は善意で貴方達に力を貸しています。それを忘れた者達に力を貸す事はありません。……また、エルフは人間を相当憎んでいる様ですが、虐殺に手を貸す事は絶対にあり得ません」

 次に左手の中指を立てます。

「二つ目は、この地の狂った精霊のバランス調整を協力する事です。ここに居るのは大精霊達の力ある分霊です。この分霊達を、バランスを調整するのに最適な場所に案内して下さい」

 更に左手薬指を立てます。

「三つ目は、砂漠緑化に協力する事です。これは私が精霊達から依頼された事ですが、その手伝いをする人員を出してもらいたいのです。……ちなみに砂漠緑化とは、砂漠に木や草を植え草原や森に生まれ変わらせる事を言います」

 私はそこまで言うと、左手を下げ「以上です」と続けました。そして相手が反応を見せる前に、右手を上げ続けます。

「そして次に、私たちドリュアス家からの依頼です。それは6000年前に、始祖ブリミルとエルフ達の間に何があったか調査を行って欲しいのです」

 私がそう口にすると、途端に場の空気が険悪な物に変わりました。

「現状私達の国では、利権に溺れた腐った神官達が数々の事件を起こしています。その影響で宗教国家であるロマリアの権威は失墜し、その権威を回復させる為だけに“聖戦”の名目でネフテスへ侵攻する心算です。しかしロマリア以外の4国は、無駄な犠牲が出るだけのネフテス侵攻などしたくは無いのです」

 先程より多少マシになりましたが、まだ睨まれてますね。エルフ達にとって、この話は余程のタブーなのでしょう。

「狂信者(正確には宗教を利用する政敵)は何処にでもいます。“聖戦”を発動されると、下手に協力を拒否すれば内戦になりかねないのです。しかし私達は独自の調査から、幾つかの情報を取得する事が出来ました。そして“過去に始祖ブリミルとエルフ達の間に何があったのか”を調べる事で、ロマリアの大義名分を崩せる可能性を見たのです」

 エルフ達の表情は変わらずか……。

「私達の調査で分かったのは、初代ガンダールヴがサーシャと言う名前の女性で種族がエルフである事……」

 そこまで言うと、護衛らしき若いエルフが私に襲いかかろうとしましたが、精霊達がプレッシャーをかけ動きを止めてくれました。

「そして始祖ブリミルは、彼女に殺されました。つまり、初代ガンダールヴ=聖者アヌビスと言う事です。証拠とは言えませんが、ガンダールヴと聖者アヌビスは共に“光る左手を持っていた”と言われています。そして事が起こる前は、始祖ブリミルを含むメイジの始祖であるマギ族とエルフ達は、協力してヴァリヤーグと言う侵略者と戦っていました。……ちなみにこの調査結果は、精霊達も信憑性が高いと認めています」

 まだこちらを睨んでいる者もいますが、何人か困った様に目を泳がせています。

「何も聖地の場所を教えろと言っている訳ではありません。私達が知りたいのは、あくまで過去に何があったかです。調査結果も“聖戦”を助長させる様な物なら、私達へ報告はしなくてもかまいません。だから依頼内容が“調査依頼”ではなく“調査を行って欲しい”なのです。当然これはあくまで依頼なので、断ってくれてもかまいません」

 私が言い終えても、議員達は小声で何かを話すばかりで返事はありませんでした。

「戯言ばかり言う蛮人の依頼等、聞く必要は無い!!」

 先程私に襲いかかろうとしていた若いエルフが、声高に宣言しました。こう言った馬鹿には、退場してもらうに限ります。

(と言う訳で、木の精霊(センセイ)お願いします)

「(誰が先生だ。……我は必殺を冠する仕事人の方が好きだ)」

 まあ、この台詞は悪者が用心棒を呼ぶ時の常套句ですから。と言うか、有線テレパスの(つる)三味線(それ)が影響したのでしょうか? ……聞かなかった事にしておいた方が良いかもしれません。でも、ティアには注意しておきましょう。猫verの時に三味線の材料にでもされたら、目も当てられません。

「エルフは傲慢な態度を改める心算は無い……か」

 木の精霊がそう呟くと、慌てたのは周りに居る議員達です。

「その馬鹿をつまみ出せ!!」

「な 何をする!!」

 バカは速攻で議場からつまみ出されました。流石にこれ以上精霊を怒らせたくないのか、エルフ達の対応が素晴らしく早いです。

「エルフと言う種族が、過去の悲劇から何も学ばない者ではない事を願っています」

 私が止めにそう言うと、議員達は黙ってしまいました。



 議場から出た後、私達は客室に通されて一晩過ごしました。護衛と言う名の監視が付いていて、外に出してもらえません。エルフ達の様子から、精霊魔法が使えない時間は少しでも短くしておきたいはずです。拘束時間はそう長くならないと分かっていても、閉じ込められると時間が長く感じます。

「エルフ達の結論は何時出るのでしょうね」

 私が思わずそう呟くと、それに応える様に木の精霊が口を開きました。

「このままでは時間がかかるな。風の精霊に聞いたが、議場に動きは全くない様だぞ」

「ある程度は仕方が無いじゃろう。今までの常識が否定されて、直ぐに受け入れられる者は多くはない。それはエルフも例外ではなかろう」

 そう言いながらティアが、言外で“焦らずどっしり構えておけ”と言っています。言いたい事は分かりますが、暇なのですから話くらい良いでしょう。

「他に動きは無いのですか?」

 時間つぶしの為の質問でしたが、以外にも良い内容の返答が返って来ました。

「エルフ達の間で対人間外交の強硬派が増えて来ていたのだが、エスマーイル以外の評議会(カウンシル)メンバーが穏健派なので、強行手段に出れない状態だった。当然強硬派にとって穏健派は邪魔だったが、穏健派も強硬派を良くは思っていなかった。穏健派に言わせれば、強硬派は“理知的なエルフ”を“低能で野蛮なエルフ”に貶めようとしている。と、言う訳だ」

 私が頷くと、木の精霊は続けました。

「そこに来て今回の“鉄血団結党”が起こした不祥事だ。話の流れはエスマーイルの更迭が決定的となっているが、奴が悪あがきをして会議を長引かせている。外でも鉄血団結党員が、エスマーイルを処分する事を不服として抗議の声を上げているが、今回の実情を知った一般人も集まって来ていて外は一触即発の状態だ」

 うわっ。おっかない状況になっていますね。大丈夫なのでしょうか?

「このままでは暴動になって死人が出るな」

「それはダメです!! 如何にか出来ませんか!? ……そうだ!! 風の精霊に頼めば!!」

 私が反射的にそう言うと、精霊達は渋りました。結局私が「今回は少しやりすぎです。その位のフォローはしてあげましょう」と説得すると、なんとか対応してくれました。しかし、寝覚めが悪いと言う事で気軽に取ったこの行動が、膠着した現状を大きく動かす事になったのです。それを思い知ったのは、次の日1人のエルフが私の部屋を訪ねて来た時でした。

 その時私は外に出れないので、膝の上にティア(ぬこver)を乗せて撫でていました。

 ……コンコン。ノックの音に気付き、手でティアに“喋るな”と指示します。

「どうぞ」

 入室を許可すると、エルフの男が1人部屋に入って来ました。

「失礼します」

 入って来た男の視線は、精霊達に注がれています。今の状況を考えれば、精霊の方に意識が行くのは仕方が無いですね。そんな私の視線に気付いたのでしょう。エルフは私の方に向き直り、軽く頭を下げました。

「失礼。私は評議会から使者殿の世話役を仰せつかったビターシャルと言う」

 ここで原作キャラの登場です。

「聞いているとは思うが、私の名はギルバート・ド・ドリュアスだ。よろしく頼む」

「こちらこそよろしく頼む。それと我々エルフは、基本的に人間に対して酷い偏見を持っている。私も例外ではないが、他と比べ冷静な目を持っている心算だ。それと人間の事は学んだ心算だが、まだまだ勉強不足と言わざるを得ない。失礼な態度を知らずにとってしまうかもしれないが、その辺は大目に見てもらえるとありがたい」

 一応こちらを敬う気持ちはある様です。それに勉強不足と言ったと言う事は、人間の事を学び始めて日が経ってないのでしょう。時期的に考えると、ガリアと接触する為に学び始めたばかりか……。

「気にしないでください。そう言ってもらえるだけで、他のエルフ達とは違うと分かりますから……」

「まあ、私はエルフの中では変わり者と言う事だ」

 そう言うと、ビターシャルは自嘲気味な笑みを浮かべました。何かあったのでしょうか?

「それよりも我々の要求に対して、ネフテスはどの様な対応と取る事になったのですか?」

「正直に言えばまだ審議が終わっていない。が、精霊との連名で出された三つの条件は、飲む方向でまとまりつつある。一部の者達が精霊は偽物で、我々が精霊魔法を使えなくなったのは、蛮人による妨害工作が原因だと主張する者もいたが、昨日の騒ぎでそれもいなくなったからな」

「昨日の騒ぎ?」

 思わず聞き返してしまいました。騒ぎと言えば、風の精霊に仲裁を頼んだ時の事でしょうか?

「風の精霊が止めに入ったから、もう知っているのではないか? 外で鉄血団結党と一般人が衝突した件だ」

 私が「騒ぎが起こったのは知っていますが、顛末までは……」と答えると、ビターシャルは騒ぎの結果起こった事を説明し始めました。

「鉄血団結党員は、その殆どが軍部所属で武装をしていた。一方で一般人は数こそ多いが丸腰だ。そのまま衝突をしていたら、一般人に多数の死者が出ていただろう。それを止めたのは風の精霊だった。元々の衝突の原因が“精霊魔法が使えなくなったのは鉄血団結党員が精霊を怒らせたから”と広まった所為だったのたが、鉄血団結党は頑として認めなかった。しかし、本物の精霊を目の当たりにし“精霊が事実を話した”事により、鉄血団結党は結束力を失い瓦解したのだ」

 後の流れは簡単です。擁護してくれる者を失ったエスマーイルは、責任を追及され更迭が決定します。保身から場を乱す者がいなくなり、会議は一気にまとまる方向に進んだ……と言う訳ですね。

「……鉄血団結党の事だが」

「? 何だ?」

「あまり恨まないでやってほしい」

「何故……と聞いても」

 この時私の顔には、明らかな嫌悪感が浮かんでいました。後々考えると、恥ずかしい限りです。

「鉄血団結党員の半数以上が、この地に侵略に来た人間の所為で家族や恋人・友人を無くしているからだ」

 今までエルフ相手に、人間が勝った事は無いと言って良いでしょう。例外も大局に影響しない局地戦で、片手で余る程度の数しかありません。しかし、勝利を重ねるエルフ達も被害ゼロとは行かなかった……と言う訳ですね。しかも、人間側から一方的に攻められるだけ。

 彼等は彼等なりの言い分がある。……か。そんな当たり前の事が、頭から抜け落ちていました。しかし、一部の人間……ましてロマリアやロバ・アル・カリイエがやった事で、私が責任を取る理由はありません。エルフ達は直ぐには納得してくれないでしょうが、神官(ゲス)共と同類扱いされない様に努力するしかありませんね。

「分かりました。それと、ドリュアス家からの依頼は、受けてもらえそうなのですか?」

 口調が戻ってしまいました。まあ、今更なので気にしても仕方がありません。地が出てしまうのは、私も使者として半人前である証拠ですね。

「正直言って、そちらの方はまだ分からない。本来なら問答無用で断るのだが、お前が『エルフと言う種族が、過去の悲劇から何も学ばない者ではない事を願っています』と言ったのが効いた様だ。テュリューク様を含む一部の議員達が、肯定的な意見を言う様になった。しかし、反対意見も未だ根強く残っていて意見の統一は出来ていない」

 なるほど。問答無用で断られると思っていました。そこからカードを少しずつ切るつもりでしたが、これなら一気に行った方が良いかもしれません。と、その前に。

「ビターシャルの意見は如何なのですか?」

 私がそう言うと、ビターシャルは少しの間沈黙しました。

「……私は調査すべきだと考えている。しかし反対意見を述べている者達も、調べて見ると理由なく反対している訳ではないのだ」

 私は無言で先を促しました。

「先ず第一に、20年位前からシャイターンの門が、過去に例が無い程に活性化している事が挙げられる。そして問題なのが、その活性化が最近になって止まった事だ。我々はそれを何かの前触れと捉え、以前以上に警戒をしている。それに加えて、6000年前の資料を収めてある禁書庫が、一部の者達に呪われていると言われている事が挙げられる」

「呪われている?」

 私が思わず聞き返すと、ビターシャルは大きく頷きました。

「禁書庫を管理する者が、シャイターンを支持する発言をするようになるのだ。そう言った例は、過去にも数件あったらしい。最近では12~13年前に、1人の女性司書がネフテスより追放処分になっている。罪状は禁書の無断観覧と悪魔崇拝と言う事なっていたな」

 その女性って、もしかして……。そんな私の思考を余所に、ビターシャルの話は続きます。

「呪い等バカバカしいが、我々エルフは子供の頃から人間を蛮人と見下し、始祖ブリミルは我々を滅ぼす悪魔(シャイターン)として教育を受けている。それがひっくり返る様な事が、禁書には書いてあるのだろう。そう言った意味では、呪いと言うのもうなずけるな」

 なんとなく言いたい事が分かりました。現状のエルフの認識なら、悪魔は恐るべき力を秘めた悪と認識されています。もし禁書に悪魔の脅威が書かれているだけなら、見ても価値観がひっくり返ることなく、その認識がより強固な物となるでしょう。なら、悪魔が絶対的悪でない……ひいてはロマリアの聖戦を正当化する様な物が書かれてたら……。

「それはつまり調査をしても、私への報告が無い可能性が高いと言う事ですか?」

 ビターシャルは頷きました。しかしそれで引き下がる訳には行きません。

「それでも調査はしてほしいです。私が望む調査結果が出る可能性は、まだゼロではありませんから。それに依頼と言っておいて、まだ報酬の話をしていませんでしたね」

 そう言うとビターシャルは意外そうな顔をしました。

「報酬は三つありますが、その全てが情報です。一つ、ロマリアの虚無の担い手の情報。二つ、ガリアの虚無の担い手の情報。三つ。シャイターンの門が活性化した理由と活動休止の真相。……で如何ですか?」

 私がそこまで言うと、ビターシャルの顔色が変わりました。

「その話は本当か?」

「こんな事で嘘を吐いても、仕方が無いと思いますが? それに私の話が本当だと精霊達も保証してくれますよ」

 ビターシャルは一度精霊の方へ視線を向けると、大きく頷きました。

「分かった。この事を評議会に報告したいのだが……」

 私は手を振りながら「行ってらっしゃい」と言ってあげました。



 あの後評議会(カウンシル)から、精霊と連名の三つの条件は呑むと連絡がありました。

 これによりエルフ達は精霊魔法を取り戻し、ネフテスは以前の平穏を取り戻したのです。しかし完全に元に戻った訳ではありません。エルフ達の間で精霊魔法の得意不得意が、ハッキリと分かれる様になったのです。後にビターシャルが「精霊に意思がある事を再認識したのが原因」と、眉間に皺をよせながら言っていました。私には良く分かりませんでしたが、エルフにも色々あるのでしょう。

 私が出した依頼の方も、条件付きで受け入れられました。

 その条件とは、評議会が調査結果を検証して報告するかどうか決めると言う物です。その報を受けて私は、“大隆起とその解決法”……そして“シャイターンの門(聖地)が国の危機に反応し担い手が現れる事”と“ヴィットーリオとジョゼフの情報”を、順序だててエルフ達に教えました。その所為で議場がまた荒れたのですが、それは私の知った事ではありません。

 12年前に追放になった女性は、シャジャルである事が確認されました。もしエルフ達からの返答が無くとも、シャジャルから真相を聞きだす事が出来るかもしれません。これは朗報と言えるでしょう。

 そして“砂漠緑化”の方ですが、基本的にエルフ中心で作業してもらう事にしました。私は横から口出しするだけです。途中で私が居なくなっても大丈夫な状況を作らなければ、とても家に帰れません。2年……最低でも2年半で戻らないと、原作の過去イベントに置いて行かれてしまいます。それだけは避けねばなりません。

 と言う訳で、有志エルフを募り“砂漠緑化”に必要な人員を集める様にお願いしたのです。……ですが

「集合場所に2人しか居ない様に見えるのは、私の目がおかしいのでしょうか?」

「現実逃避をするな。事実ここに居るのは私と姪のルクシャナだけだ」

 遠い目をした私に、ビターシャルから突っ込みが入ります。それと折角の原作キャラの登場ですが、今の私はそれ所ではありません。集まったのがビターシャルとルクシャナだけって……。

「人手が……」

 私は思わず頭を抱えてしまいました。

「それより早く“砂漠緑化”について教えてちょうだい」

 そんな私を無視して、好奇心いっぱいのルクシャナが話しかけて来ます。そして私が答える前に、次々と質問を浴びせられました。原作同様に、自分の好奇心を優先する性格の様です。話にならないので、ビターシャルも溜息を吐いていないでこの暴走娘(ルクシャナ)を止めてください。

 さて、仕切り直しです。ルクシャナがぶう垂れていますが、ここは無視します。

「砂漠緑化とは一大事業です。成功させるには、多くの人手と時間を必要とします。それは事前に説明しましたよね」

「すまない。多くのエルフが未だ君の事を認めていないのだ。逆恨みをする者も多くいる。そう言った者達は、また精霊の怒りを買うのもかまわず君に危害を加えかねないのだ。襲撃も予想されるから、一般人の参加も見合わせた。立候補自体は多かったのだが、条件に合わぬ者を取り除いたら私しか残らなかったのだ。ちなみにルクシャナは、色々と伝手を使い強引にねじ込んだ」

 そう言う事ですか。事なかれ主義の評議会が考えそうな事です。ですが、決して的外れではないのが痛いですね。嘘を見抜く精霊魔法も使ったでしょうし。……しかし逆を言えば、人間(わたし)さえ関わらなければ、それなりの人員を用意出来ると言う事でもあります。ここは知識を2人に教え込んで、私が関わらない方が良いかもしれません。……そうすれば早く帰れるし。

 そこまで思考が至ると、私の中で何かのスイッチが入りました。何故か笑みが漏れてしまいます。

「分かりました。予定を変更して、2人には私の知識を取得してもらいます」

 ? 何故でしょう? ビターシャルとルクシャナの顔が引きつりました。まあ、そんな事は如何でも良いとして……。魔法の道具袋から黒板とチョークを取り出すと、“ギルとティアと精霊の一夜漬け勉強会”と書きました。その下に“ジェットストリームアタック方式”と見えない位に小さく付け加えます。後にルクシャナが“あのタイトルには、恐怖と言う言葉が抜けてた”と語っていましたが、私には関係ありません。

「さあ、授業を始めよう。まだまだ時間はある!!」



 一夜明けて、ビターシャルとルクシャナの口から何か出てはいけない物がはみ出しています。相当辛かったのでしょう。

「流石にやり過ぎでしょうか?」

 常に精霊達からのプレッシャーにさらされながら、集中力が切れたと同時にティアの龍の咆哮(もうティアの正体がばれても気にしない)で5分間の睡眠(きぜつ)時間を取る態勢でした。恐怖を伴う事は嫌でも覚えますから。ちなみに近所迷惑になるので、サイレントと風の精霊の二重結界により音を遮断しました。気配りは大切ですよ。

「そうじゃ。主。流石にあれは、やり過ぎなのじゃ」

「重なりし者よ。少しは加減と言う物を学ぶが良い」

 ティアと土の精霊に言われたくありません。全員そろってノリノリだったくせに……。エルフ達の態度を、よほど腹に据えかねていたのでしょう。と言うか、私も人の事は言えませんね。

「さて、一夜漬け勉強会もこれにて終了です」

 2人は私の言葉で、地獄から解放される喜びで満たされました。しかし世の中そんな甘くありません。

「これからテストを行い合格すれば解散です」

「……て すと」

 ルクシャナの呟きに、私は笑顔で頷きます。

「合格すれば休んで良いですよ。ただし不合格だった場合は、……2日目突入です」

 そう言ってから「一夜漬け成らぬ二夜漬けですね」と付け加えると、ビターシャルとルクシャナは声にならない悲鳴を上げました。

「問題は100問。全問正解で合格です」

 ……テスト結果は、ビターシャルが合格でルクシャナは2問ほど間違えてしまいました。ルクシャナは延長決定です。途中でアリィーとか言う男がルクシャナを助ける為に乱入して来ましたが、精霊に鎮圧してもらい一緒に勉強会に参加してもらいました。勉強会の邪魔をされイラッとした私は「連帯責任として2人同時に合格するまで続ける」と言うと、ルクシャナが虚ろな瞳で「婚約解消してやる」と繰り返し呟いていたのが怖かったです。何故かアリィーと言う男は泣いていました。

 ちなみにルクシャナとアリィーが解放されたのは、それから3日後の事でした♪






 ネフテスに来てから2年と少し経ちました。

 あれから私と精霊達で立てた計画を、ビターシャル、ルクシャナ、アリィーの3人に実働部隊を構成してもらい、作業に当たってもらいました。私の主な役目は、3人の相談役とドリュアス領とネフテスを往復し、砂漠緑化に必要な物資を仕入る事です。

 もう気分は行商人です。お小遣い稼ぎの為に、エルフに人気の高いフルーツ類(リンゴやブドウ・梨・桃に加え、温室で育てたバナナ・マンゴー・パイナップル・ライチ等)を扱っています。私は一体何をしているのでしょうか?

 しかし砂漠緑化の効果が目に見えて出て来ると、一部のエルフ達の対応が変わって来ました。一時期は蛮人の上に変人の烙印を押されていましたが、これでようやく人心地が付く事が出来ました。まあ、浜に打ち上げられたクラゲの死体を細かくし《錬金》で塩抜きして砂漠に撒いたり埋めたりしているのは、何も知らない人から見れば変人にしか見えませんが。

 こうなると、砂漠緑化を真剣に学びたいと言い出すエルフが出て来ます。……フルーツ類を見せびらかしながら、エルフ達に「砂漠緑化が上手く行けば、ネフテスでこれらのフルーツが大量に生産できるのに……」と言ったのが、原因で無いと思いたいです。

 そこ!! 食い物で釣ったとか言うな!! 正論で必死に呼びかけて来た以前の私がバカみたいだから。

 とりあえず現状では、砂漠緑化に関わる人員も増えました。この調子なら私がいなくても大丈夫でしょう。

 そんな考えを持つようになった頃、ドリュアス領に帰ると何故かとっても良い笑顔をしたディーネが待ち構えていました。ディーネの隣では、学園を卒業したカトレアが引きつった笑いを浮かべています。と言うか、ディーネのテンションが変です。

「「ギル。お帰りなさい」」

「ただ今戻りました」

 何事ですか!? 地味に怖いのですが……。

「お父様やお母様に剣で勝てるようになりました。そして……固有武器を持つ事を許可していただきました!!」

「えっ!? ちょっ ま」

「さぁ、早く作ってください!!」

 私に声をかけようとするカトレアを無視して、ディーネは私を引きずって鍛冶場に連行するのでした。後でカトレアが怖い……と思ったら、苦笑いしながら手を振っていました。ひょっとして、カトレアに見捨てられたのでしょうか?

 後に話を聞くと、アナスタシアはトライアングルメイジに昇格し、ディーネに至っては15歳にしてスクウェアメイジになっていました。しかも接近戦では、相変わらずディーネに勝てませんし、アナスタシアにもポンポン投げらる様になってしまったのです。魔法の模擬戦でも、2人に全敗を喫してしまいました。何時の間にか、兄としての……男としての尊厳を失ってしまいました。ジョゼットが必死に慰めてくれましたが、微妙に追い打ちになるだけなので止めてください。

 ……如何してこうなった。 
 

 
後書き
何かどんどん書けなくなって行きます。
これから如何なるのでしょうか?

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