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ソードアート・オンライン -旋律の奏者-

作者:迷い猫
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アインクラッド編
74層攻略戦
  久方振りの共闘を 05

 さて、僕とアスナさんとの冷え込んだ関係はもはや言うまでもないだろう。
 昔はよく一緒に行動していたけど、最近ではボス攻略以外で顔を合わせる機会がめっきり少なくなったし、たとえ会ったとしても共闘したりはしてこなかった。 半年くらい前、一緒にフィールドに出たこともあったけど、あの時は戦闘らしい戦闘もなかったし、その後にあったラフコフ討伐戦でも僕は誰とも共闘せずに1人で暴れまわっただけなので、実を言うと今のアスナさんが一般モンスターと戦うところを僕は初めて見た。

 特筆すべきはその速さ。
 キリトをして視認困難とまで言わしめる細剣捌きは圧巻で、モンスターに回避の隙を与えない。 それでいて狙いは正確で、狙う箇所が少ないために細剣との相性が悪いはずの骸骨系モンスターへと正確に細剣を突き込む技量はとんでもない。 おまけに視野も広く、KoBの攻略責任者を任されるだけあって、パーティーメンバーに与える指示も的確だ。
 大技を好んで使うキリトと小技で相手の体勢を崩すアスナさんとの相性は、どうやら抜群にいいらしい。 今も現れた骸骨剣士を、2人の連携で苦もなくポリゴン片に変えた。

 そんな情景を視界の端に収めながら、僕もまた絶賛戦闘中だ。
 相手にしているのは、今アスナさんとキリトが倒した骸骨剣士。
 74層迷宮区に出るモンスターの中ではそこそこ強いモンスターだけど、それでもやっぱり僕が苦戦するには足りない。 いや、僕たちが、か……。

 「あっはぁ!」

 ゾンッ、と言う恐ろしい音を立ててアマリのディオ・モルティーギが迷宮区の床に振り下ろされる。 僕が長いリーチを活かして足止めしていた骸骨剣士の背後から、単発ソードスキルで不意打ちした。 フル強化したディオ・モルティーギの破壊力は元々の異常な火力を更に押し上げ、6割以上も残っていたHPを完全に喰らい尽くす。
 ポリゴンの粒子に変わる骸骨剣士を眺めながら、僕は今日何度目になるかも分からないため息を吐いた。

 僕たちは今、74層の迷宮区にいる。
 元々の予定通りだし、予定になかった軍とのニアミスもあったけど、今のところ大きな問題は起きていない。 ただ、問題がないことが既に異常なのだ。

 僕とアスナさんとの関係を考慮に入れれば一緒に迷宮区にいること自体、ちょっとした異常ではあるけど、そもそもの話しをすれば誘っておいて特に何もないって言うのはおかしい。 僕はてっきりアマリとの付き合いに真っ向から異を唱えるつもりかと思っていたのに、どうやらそれも違うらしい。
 迷宮区に入る直前でこのパーティーの役割分担を決める時に話して以来、今の今までアスナさんが僕に話しかけることはなく、キリトやアマリと穏やかに言葉を交わしているだけだ。 時折、キリトが僕を気遣わしげに見るけど、その視線にはどことなく面白がっている色が見えるので、尚更理解不能である。 ちなみにアマリは特に気にした風も見せずに僕ともアスナさんとも緩い会話を繰り広げている。 つまりは至っていつも通りだ。

 「と、ところで!」

 内心で首を傾げていると、今まで穏やかに話していたアスナさんが上擦った声を上げた。
 何事かと視線を向けると僕とバッチリ目が合う。 どうやら僕に話しかけたらしい。

 遂にきたか、と言うのが正直な感想だった。
 一緒のパーティーを組み、何かしらを伝えようとしていたアスナさんが、ようやく決心がついて僕と相対する。 ただ、僕よりも事情を知っているらしいアマリとキリトがニヤニヤしているのが気にならなくもない。

 「その……最近はどうなんですか?」
 「ん? どうって言われてもね。 約束は守ってるよ。 プレイヤーは殺してない」
 「そう言うことではなくて、調子はどうかと聞いているんです!」
 「調子? あー、うん、いいんじゃないかな。 えっと、そんなに不健康そうに見える?」

 SAOで体調不良なんてあまりないけど、それをアスナさんに心配されるほど僕の顔は酷いのかな? と、そこまで考えていたところで、キリトが噴き出すのが聞こえた。
 見るとそっぽを向いて肩をヒクヒクさせている。 どうやら大笑いしたいところを堪えているらしい。

 「アスナさんこそどうなの? なんだかキリトを家に連れ込んだって言う噂だけど?」
 「んなっ」「そっ、それは!」
 「ああ、本当だったんだ」

 慌てる2人を見てクスリ。
 確証がなかったので適当に鎌をかけただけだけど、どうやら実際にそうだったらしい。
 さすがは純粋でまっすぐなお姫様。 恋愛事でも純粋にまっすぐにキリトを誘惑しているようだ。

 「あ、あなたはどうしてそう……」

 苦々しい表情で言うアスナさんを見ながら僕は苦笑する。
 そう言えば、こんな穏やかなやりとりもずいぶん久し振りだ。 以前はこれが日常だったので、懐かしさが心地いい。
 最近アスナさんからは敵意の籠った視線を向けられてばっかりだったけど、どう言う心境の変化か、今日に限って言えばそれも一切見られない。

 相変わらず意味不明だけど、これ以上考えても答えは得られないだろう。 そう結論を出した僕はこの問題を放置することにして、それまで言わなかった忠告をキリトにする。 もちろん、アスナさんに聞こえないように小声でだ。

 「それよりキリト。 あんまり浮気してると後が怖いよ?」
 「べ、別にそう言うわけじゃ……」
 「ま、キリトがアスナさんに乗り換えるって言うなら止めないし、そもそも僕が何か言う権利もないけどさ。 でも、中途半端って言うのは良くないと思うよ。 向こうは今日のこと知ってるの?」
 「ああ、昨日の内に話した」
 「で、なんて?」
 「無茶はしないでねって、それだけだったな」
 「ふうん……」

 まあ、あの人の性格を考慮に入れれば納得できる話しだ。
 キリトに対してあの人は、どう取り繕っても引け目を感じている。 だからもし、キリトがアスナさんとそう言う関係になるのなら、きっと文句を言うでもなく身を引くだろう。

 一緒に戦えない。

 それは剣の世界であるここ(SAO)ではかなりのウエイトを占める引け目であり負い目だ。 そう言う人間関係の機微に疎いキリトは、あの人が苦しんでいることを知らない。

 アスナさんの恋を応援しているのは本音だ。 色々と辛い思いや苦しい思いをアスナさんがしてきているのは僕も知っている。 そして、今もそれらが続いていることも、やっぱり僕は知っている。
 そうでなくてもアスナさんはアマリのお姉さんで、いずれ僕の姉になる人だ。 できれば失恋して欲しくはない。

 けど、それと同様に、あの人の恋が終わってしまうことを嫌だと思っているのも本音なのだ。
 キリトとあの人との関係が終わってしまえば、言葉でどう言おうと悲しむことは目に見えている。 悲しみながら、それでもキリトから身を引くだろう未来まで、容易に想像できてしまう。

 ダブルスタンダードとは少し違うけど、矛盾した思いを抱いているのは確かだ。

 「やれやれ、恋って難しいね」
 「あはー、それはフォラスくんが難しく考えるからですよー」
 「あはは、全く以ってその通りだよ」

 はあ、と吐いたため息にキリトが気まずげに目を逸らし、アスナさんが首を傾げるのだった。









 「ん、なんか重くなってきたね」
 「そうですね。 ボス部屋が近いのでしょうか?」
 「だろうな。 マップの空白部分も少ないし、多分もうすぐ……」
 「あ、見えてきたですよー」

 あれから数回の戦闘を消化した僕たちは、アマリが指差す方向を見て緊張の度合いを更に高めた。
 長い長い通路の先。 そこに見えるのは、重厚で禍々しい巨大な扉。
 もう何度も見てきたボス部屋へと続く扉が、そこにはあった。

 多分意識してのことではないだろうけど、アマリが僕の手を、アスナさんがキリトのコートの袖を、それぞれギュッと掴む。
 最強格に数えられる剣士の1人であるアスナさんでもさすがに怖いらしい。 ちなみにアマリの場合はその逆で、今にもあの扉の奥に駆け込みたいと言う衝動(あるいは狂気)を自制するための行動だ。

 「どうする……? 覗くだけ覗いてみる?」
 「あっはぁ、賛成ですよー」
 「そうだな。 ボスの姿くらいは見とかないと対策の立てようもないし……」
 「だね。 まあでも大丈夫だよ。 ボスが部屋から出たりはしないし、最悪、僕たちならよっぽどじゃない限り逃げられるよ」
 「あなたたちは本当に緊張感がないですね」
 「緊張と萎縮は別物だよ。 それとも何もしないで帰る?」
 「……いえ、開けてみましょう」

 僕の挑発が効いたのか、あるいは攻略責任者としてのプライドか、アスナさんは迷いを払うように首を振ると、転移結晶を取り出した。 それに倣ってキリトも転移結晶を片手に持ち、握り込んだ拳を扉に当てる。
 ボス部屋の扉を開ける動作に筋力値の高低は関係ないけど、いつもの癖で僕ではなくアマリが扉を押す係だ。
 キリトとアマリ。
 このパーティーに於ける筋力値自慢の2人が扉を押すと、扉は滑らかな動作で開き始める。 ある程度まで開けば後は自動で開くのでそれに任せ、キリトとアスナさんは緊張の面持ちで、僕とアマリは逸る気持ちを抑えながら開放を待った。

 部屋に入ると、回廊の光すらも侵食しかねないほどの暗闇の中、ボッと二つの青白い炎が上がる。 それに連続していくつもの炎が灯り、次いで一際大きな火柱が上がると部屋全体が薄青い光に照らされて完全に視認できるようになる。

 「ふふ」「あはー」

 同時に笑った僕とアマリに呼応したのか、遂に74層のボスがその姿を現わす。

 『The Gleameyes』 意味は多分、『輝く目』。
 その名に負けない青く輝く瞳を見て、狂人2人の口角が持ち上がったのは言うまでもないだろう。 
 

 
後書き
ようやくグリームアイズさん登場です。
どうも、迷い猫です。

さあ、実は色々と匂わせまくっているのがこの章、74層攻略戦です。 章を丸ごと使って伏線張りまくりですが、全てを回収し切れるかは不明だったりします←おい
それでも確実に回収する伏線は、フォラスくんの過去(主人公なので当然です)、キリトさんの恋愛事情(私の趣味なので当然です)、それからフォラスくんのユニークスキル、でしょうか。
ちなみに、次の話しでキリトさんのアレが登場します。 同時にフォラスくんのソレもお披露目します。 もちろんアマリちゃんのアレも全開仕様となるでしょう。 さあ、果たして私は表現し切れるのか?

まあ、そんな不安は置いといて、次の更新も楽しみにして頂ければ幸いです。 ええ、本当に。
ではでは、迷い猫でしたー 
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