SAO二次:コラボ―Non-standard arm's(規格外の武器達)―
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prologue:Unexpected weapon(予想外なる武器)―――episode3
「わーわー、緊急事態ですねー」
「ならもっと焦れ! ―――いや、お前が焦ったら余計混乱しそうだしそのままで!」
必死になって逃げるリュウとアマリ、そんな彼等の背後彼より迫るのは―――
“ガギャギャギャギャギャガギャギャギャァッ!!”
―――全長六メートルは超えるだろう、軋みを響かせる鉄の巨人。
地を踏みしめる重苦しい足音と、関節が擦れてなる独特の機械音が、逃げる彼等の……特にリュウの心を刺激する。
されど、此処で疑問。
何故この様な、命がけの鬼ごっこが開幕しているのか。
―――何とも嫌過ぎる命がけの追いかけっこ開始、その十分程前。
リュウとアマリは、トマホークよろしく追いかけてくる鉄の人ではなく、正真正銘の人間と対峙して刃を交えてはいたのだ。
刀使いのリュウは剣と銃を両手に携えた幹部と。
斧使いのアマリがチェインソーを使う幹部と。
それぞれ一対一で戦闘を行っていた。
幹部クラスだけあって、ほぼ一撃でも仕留められた構成員たちとは違い、一太刀では到底仕留めきれない。
アマリの持つ超重量武器でさえ、決定打を中々決められずにいる。
しかし……実力の違いはすぐに出た。
「首、貰うぜっ!」
「させん!」
リュウは叫び、振りかぶられた相手の剣と、己の刀での打ち合いを演じる。
「―――なんつって」
「は?」
―――と見せかけて、まず回避に連動して銃を切り捨て、強制的に使用不可にし切り返しから納刀する。
鞘銃による空撃発砲で一気に加速した突撃から、青色の稲妻を引く“力”によるブーストをも合わせた神速の居合切りで首を断つ。
「切り捨て御免…………っと」
態々鞘を縦に構え、格好付けて納める余裕まで見せつけた。
一方のアマリ。
「ほーら」
「ふんぐぅっ!」
正反対な掛け声とともに数撃勝ち合わせ、数合ぶつかり続け……タイミングを見計らい鍔迫り合い。
刀身からの爆破を行い、チェインソーを真っ二つにへし折る。
「あ……」
「―――あっはぁ!」
勢い殺さぬままに斧を滑らかに回転させると、重量級の鉄塊とは思えぬ速度を用い、頭からの一刀両断にて決めた。
出来上がる二つの青い破片溜まりが、やがて風に乗って消えていくまで、二人は暫し黙っていた。
「よっしゃ、これで終わったな」
「ですねー。ちょっと物足りないですけど」
そして呟く、勝利の言葉。
軽く息を吐いたリュウが、目を伏せたアマリがそう喜んだのも……束の間。
“ギギギ……”
「ん?」
「あれ?」
彼等の前方数メートルから、非常におかしな音が耳に届いた。
例えるのならば、古びた金属に同じく錆びだらけのドリルを合わせ、普通中々滑らかには動かないソレを、力尽くで思い切り擦り合わせているかのような……神経を逆なでする少々不快な音だ。
それが何なのか確認するべく二人は音のした方向へ体を動かす。
「「あ」」
よく確認するまでもなく、音源が何なのかを悟った。
その位置はリーダー格が演説を行って居た台のある場所。
其処自体には何もないが……その後ろに “ある物” があったのを、二人共ハッキリ覚えている。
リュウの顔に引き攣った半笑いが浮かび、アマリの笑顔も何処となく作り物めいた見掛けへ変わる。
……刹那――― “ギキュウーーン……!”、といった『オノマトペ』でも視界に現れそうな、サイバーチックなサウンドを鳴らし、パワードスーツをそのままロボット化したとも取れる、無骨なフォルムがヌッと顔をのぞかせた。
「「……」」
肩には細長い筒五本を鉄のベルトで固定した様なオブジェが、右手には菱餅を三分の一あたりで切断した形の鉄細工が、それぞれ装着されていた。
考えてみれば、リーダーは戦闘に参加せず、いずこかへ行方をくらませていたのである。
そして彼等の背後にあった、とある“物”を考えると……。
同じ考えに至ったのか、それとも思考が停止したか。
二人の間へ不意に、約数秒間のとても気不味い静寂が訪れる。
「……なあ、アマリ」
「何かあるです?」
目線だけは真正面で固定したリュウが、同じく顔を動かそうとしないアマリへ問いかける。
「俺、さっきよ……何だかな、物凄く不吉な予感を覚えたっつうか、予期したと言うか……」
「奇遇ですねー、私も同じ考えです。というか珍しく、氷を背中に突っ込まれてる気分なのです」
彼らだけがそう感じているのか、それとも実際のそうなのか、姿を現した鋼鉄の巨人はかなり緩慢な動作で立ち姿勢からしゃがみへと移行し、肩についた物々しい鉄筒の空洞をのぞかせてくる。
まるで奥の見えない暗闇は、パイプよろしく向こう側まで貫いた構造で無い事を、安易に二人へ教えてくれていた。
「多分だけどよ……この後起こる事って、間違ってもカスタードパイの連射じゃあないよな?」
リュウが、笑いも取れぬ冗談を呟く。
「はい。けど、アップルパイでもなさげですねー」
更に彼への可笑しな返事から、続けてアマリが長めに呟く。
“バララララララララララララララララララララッ!!”
「きたあぁっ!?」
「うっひゃー」
―――暇もなく攻撃開始。
『御約束など知った事か』
そう言いたげなタイミングで、二人が言い切る前に乱射しだした。
……考えるまでもなく、肩の筒は『ガトリングガン』だったのだ。御馴染な音を上げ回転しながら、銃口を光らせ火を吹いているのだから、証拠などそれこそ探すまでもない。
「おととととっ!」
「わわわー……」
“コンクリート”という名の水面を“弾丸”という名の魚が跳ねまわり、当たりそうな弾丸を刀で弾き、斧で防いで命中を阻止しながら、何とか二人とも射線から離脱する。
次に彼等が行ったのは、狙いを定めさせない為に『弧』を描いて走る事。
直線的に走ったらどうなるかなど、説明するまでもないからだ。
リュウはそのスピードで撹乱し続け、アマリは己が出せる最大速度を無難に維持し、数撃ちゃ当たるで乱射されれば足元に潜り込んで躱し続ける。
「あぶっ……あぶねぇッ………!」
口調は狼狽し、動作のキレも落ちてはいる。
動きにも影響が出ているか、いきなり急カーブを描き、時に緩やかに曲がる合理的な行動の中へ、明らかにギャンブル要素の絡む回避方法まで行いながら、宙を乱れ飛ぶ弾丸を回避していた。
……が、眼光そのものは死んでは居ない。
時折視線をずらす事で、お互いに何かを狙っているのが窺える。
と―――
“ギ……キュウゥゥゥン……”
「「!」」
永遠に続くと思われた殺意の雨が、情けない音と共にほんの数瞬だけ、灰色の煙を上げて止まる。
「今だ!」
「はいー」
乱れ撃ちが停止するや否や、二人は元来た通路目掛けて猛ダッシュ。
細い道に逃げ込んだ二人を迷わず追ってくるパワードスーツ型ロボは、しかし体幅が広すぎつっかえ一歩も前へ出れなくなっている。
そんな見方ではコミカルな所作に一秒たりとも眼を向けず、道を記憶していたリュウを先頭にアマリが続き、テロリストの隠れ家を抜け出すべく逃げ続けた。
途中途中で行きにスルーした巡回兵と鉢合うものの、時に路傍の石の如く真っ向から無視を決め込み、時に障害物競争の要領なのか蹴って殴って飛び越えていく。
カーブを曲がり損ねれば、床に手を付き多少滑りながらも、壁面へ脚を付け思い切りけり出す。
果ては壁に態と脚からぶつかり、本来定めた進行方向へ跳躍……パルクールでもやってるのかとツッコミの入りそうなアクロバットまでこなす。
青き疾風の如く、重き暴風の如く―――――いっそやり過ぎなまでに、ドタバタ逃走すること約数分弱。
「どらぁぁーーーっ!」
「うっひゃぁーーーっ」
どんな出力でカタパルトを使ったのかと見紛うほど、迫力とスピードを持ってして二人は飛び出した。
その余りの速度に、勢いを止め切れずゴロゴロ転がる。
「……よし脱出!」
「うー……お陽様の光が眩しいですねー」
衣服に付いた砂埃を手で乱暴にはたき、実感を得る為にか、リュウは胸を張って宣言した。
アマリは相変わらずマイペースで、服を叩くこともせず、ペタンと座って目を潜めている。
そこから数秒間、二人の意識は背後に向かう。万が一を回避すべく、油断は禁物と今氏べる為の行動だ。
果たして…………背後から響いていた筈の、近未来無造形のロボットが立てるかすれた音は、もはや夢幻か全く聞こえなくなっていた。
一先ず脅威から逃げ延びたと、言ったところであろう。
ここからは焦らず、彼等の言っていた『クエスト』の詳細を探るなり、気を見るなりして行動に移すターンだ。
「ふぅ……取りあえずかなりの数コールが入ってるし、“セツナ”と連絡取ってみるか」
「セツナさんと? 通信機持ってるの、“ニヒト”さんじゃないです?」
「此処に入る前だったか。通信来た時の声がセツナだったんだ」
仲間も居るらしく、通信機から連絡が多数入っているのを見るに、別個所に存在する彼らの仲間二人も、同様にリュウ達との合流を望んでいるらしい。
またも空中に現れた《謎ホログラフ》に記されたマップより、仲間の大まかな位置確認も出来る様で、後はそれを頼りに指定した地点まで向かえば良い。
何とか命がけの鬼ごっこを回避した二人は、セツナとニヒトの元へと足早に向かうべく立ち上がった。
[“ゴバアアァァァッ!!”]
「「……!?」」
―――と、ドッキリの仕掛け人登場よろしくピッタリなタイミングで、ど派手な音を立て背後から瓦礫がすっ飛んできた。
同時に聞こえるは、“キュルルルルルリイイィィィィィ……!” とした歯医者で使う治療具の、幼子の何割かは確実に泣きだすだろう、トラウマを呼び起こす甲高いサウンド。
「……なんだろうな、この音」
「治療帰りの歯医者さんでも居るですかー?」
「ハハハ、壁をぶっ壊してか! 何ともワイルドな医者じゃねぇか!」
ナイスジョーク! そう言いだけなリュウは、陽気な御調子者よろしく声を上げて笑う。
……が、表情は引き攣り冷汗はダラダラ。如何見ても真の意味で笑ってはいない。
アマリは流石の余裕で、キョトンとしながら微笑を見せている。
……されど、冷汗は止まっていない。
何時の間にやら其処だけブリキ細工にでも変ったか、油を注し忘れた機械も驚くぎこちなさでゆ~~~っくりと―――
[“バラララララララララララララララァッ!!”]
「ハイ確定! だろうな! 歯医者な訳ねえよな!!」
「あはー、弾丸いっぱい雨霰ー」
―――振り向いた瞬間、ガトリングガンの乱射祭りが開催された。
当然だろう……もしかせずとも背後に居たのは、ラ○ボー顔まけな“歯医者”ではなく、あの“パワードスーツモドキ”であったのだから。
右手に有ったのは、光体で刃を形造る二枚刃なドリルの様で、それを用い壁をぶっ壊してまで追跡してきたらしい。
同胞の仇、或いは計画を壊された恨み……どちらにせよ、何という執念か。
オマケとばかりにガトリングガンの砲塔の中央から、レーザーらしきものまで射出している。
命中率は半々であり、光そのものではなくて光を放つ物質なのかスピードもソコソコで、別段躱せ無い代物ではない様子。
だがそれが何か幸事を齎す訳でもなく、ただでさえ厄介な銃撃がより煩わしさを増しただけである。
反撃しようにも、砲が二つある所為で接近がままならない。
「ちっ……退くぞ!」
「戦えないなんてつまらないですけど……」
「お前はレンコン状態が御望みなのかよ!?」
「それは嫌なので逃げるですー」
とうとう堪らなくなってリュウとアマリは背を向け逃げ出した。
そうなれば当然ロボットも追ってくる訳で、歩幅の違いから観る間に距離を詰められる。
「上だ! 屋根つたっていくぞ!」
「了解なのです、リュウ殿」
再び銃撃が背中を襲う前に―――アマリは放置されたオンボロ車を踏み台にして、リュウは外壁を連続の三角飛びにて駆けあがり、一番背の低い建物の屋根へと二人は飛び乗った。
其処から始まるは、忍者もかくやのフリーランニング。
近ければ直接屋根から跳び、遠ければ態と落ちて壁をけっ跳ばし、次々屋根から屋根へ着地を繰り返していく。
リュウの狙いは当たりで、建物を壊して進むには時間も掛るし隙をつくり、徒歩……否、徒走ならでは小回りを活かした最短距離での逃亡で、上手く距離を縮めさせない。
……それでも上手く行き続けるなど虫の良い話は無かった。
「あ、建物無くなったです」
「くそっ……ならコッチだ!」
建造物の数や配置を考えながら走らねばいけず、敢えてロボへ近付かなければいけなかったり、地面へ一旦降りなければならい状況も多々あり、執念深く追跡する巨人に何度も追い付かれ掛けた。
更に悪い事は続くもので、遠くから車独特の排気やタイヤの鳴らす音が聞こえ始めたのだ。
このままではあと数分としない内に、身動きの取り難い車道へ出てしまう。
『リュウさん、アマリさん、聞こえてますか? そちらで何が有ったのか、なるべく細かに説明して貰えると―――』
[“ズグアァァァッ! ガシュウゥゥゥン!”]
「いやっふーぅ」
「うおおおぉぉああぁぁぁ!?」
コンクリートをばら撒いて妨害してくると同時に、通信機から女性の声が聞こえる。
しかし、リュウもアマリもそれに答えていられる余裕などなく、只管に逃げ続ける。
[“ギュオオオオオォォン!!”]
操縦者が段々と操作感覚に慣れてきたのか、遂にはレーザーガンまで放ってくる。
「あっはぁ! これすごいです、すごすぎるですよー」
「言ってる場合かよ!? もっと速くだアマリィ!!」
『な、何かあったんですか?』
運良く建物の配置が変わり、ロボットから幾分か遠ざかる事が出来た状況を利用して、漸く向こうから送られる通信に音量を落とさずリュウが返した。
「ロボット! クソデカいロボット! 背後から来ているんだ、どこぞのストーカみたく!」
[“ギイイィィィン!!”]
届かないからとヤケクソなのか、狙わず放たれたレーザーが運よく……いや《悪く》顔の傍と頭の上を通り過ぎていく。
「あっはぁ……はい、楽しそうですけど流石にピンチなのですー」
「お前はせめて狂っててくれ! コッチの調子が変になる!!」
戦闘狂染みた空気を醸し出すアマリでさえ、今のは背筋が泡だったのか洒落をも漏らさない。
笑いも何もなく、二人で必死こいて逃げているだけだ。
尤も彼等の危機感お構いなしに、通信機からは女性の声が送られてくる。
『それで、御二人は今何処に居るんですか―――』
何の偶然か、そこで屋根が無くなった。
[“ガッション! ガッション! ガッション!”]
「あっはぁ! ピンチー」
「おぉ助けええぇぇぇ!?」
武勇を振っていた彼等に最早、後ろへ意識を向ける暇などありはしない。
残された手段は一つ……脱兎の如くでもまだ足りないスピードで、手指を揃えて足を振り、一秒でも早く一㎝でも遠くと走るだけだ。
他の事も考えず、逃走するだけだ。
『…………居た』
『―――たなぁ―――……』
その所為か……通信機からの最後の言葉に、リュウもアマリも耳を傾けられなかった。
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時にカラフルに、時に地味に、さまざまな鉄の箱が瞬く間に通り過ぎる―――とある一本の高速道路。
幾本もの柱で繋いだ三十m弱程上の空中に存在し、両端には光源体でつくられた背の低い、如何にも“未来”なガードレールがコレでもかと並んでいる。
その景色を目に映した端から後ろへかっ飛ばす速度で、幾何学的な溝の掘られた通常車や、幾人も乗っているであろうバスに仕事用の大型車まで、一台のバイクが黒き弾丸と化して次々追い越していく。
其処に乗っているのは……セツナ、そしてニヒトだ。
「うぺっ……!」
中途半端な長さの所為か、風でセツナのマフラーが浮き上がり、ニヒトの顔に時折叩きつけられている。
大変ウザったそうに顔を顰めるニヒトでは有るが、つい先ほどタバコで彼女へ同じようなシチュエーションを齎した事に鑑みると、因果応報だと強ち言えなくもない。
「確認できましたか!? ニヒトさん!」
「いや、まだッスね! ……うぷっ……方向自体はあってる筈なんスけど!」
二人は先の戦闘での落ち着きぶりに似合わぬ、荒げられた大声で言葉を交わしている。
一際の減速を考えず突っ走る所為で、空気抵抗により生まれる持続的な突風が、二人の耳にしつこく張り付いている為だ。
激しく棚引くマフラー、短かろうとも暴れ回る髪……さながら、嵐の中を進んでいるかの如くである。
「【スキル】では既に確認出来ています! 光点の位置も予想個所から、移動しながらですがズレてはいません!」
「で、しょうねぇ! コッチも確認出来てるし! ……うぺっ……」
視界の右端に用意された半透明のホログラフマップには、二つ重なった雪達磨にも見える緑色の光点が二つと、同じく二つの緑色の円形がある程度の距離を保って、 四つとは違う“赤い”大きなボールから逃げている。
重なっているのはバイクに乗ったセツナ達、逃げているのは通信を受けたリュウ達、そして最後の赤い点こそリュウとアマリが逃走せざるを得なくなった対象―――所謂『クソデカいロボット』なのだろう。
セツナが表示して居るマップ上にて見る限りでは、彼らとの距離は徐々にだが縮まっている。
しかし離れているとは言っても、とうに肉眼で視認できる間合いまで入っても居る。
(……何故見えないのでしょうか……?)
現在の時速を保ちながらも、転びそうで転ばない器用な運転で右に左に車を避ける傍ら、セツナは目を細めて考えた。
リュウ達がちょっと遠くを通り抜けて行った事から、逃げた場所が高速道路だと二人共理解出来ている。
だからこそ、セツナはニヒトのバイクで脇道から合流し、追いかけた方が良いと判断したのだ。
なのに二人の影も形も見えないのは、可笑しいとしか言いようがない。
二人が自動車から自動車へ跳び移っているとしても、光点自体に其処まで目立った動きが無いのは不自然だ。
ならば何故黙視できないのか……。
―――そこで “ある事” に気がついた。
(……! まって、この高速道路は……!)
セツナはバックミラーから車の配置を確認し、ニヒトの確認も取らず一気に道路の左端から右端まで詰め寄る。
「うぐおおっ……!?」
何の前準備も出来ていなかったからか、急に襲いかかる別方向の慣性に逆らえず、ニヒトの体勢がごく普通に崩れた。
彼の腕が離れてマト○ックスよろしく仰け反るが、如何にか脚力でバイクにしがみ付き落下だけは阻止する。
片手だけはバイクに添えて……抗議するべくか、ニヒトが少し背筋を伸ばして息を吸った。
「居た! 居ました! 下の列車上、そこに陣取っているようです!!」
「んぐっ!? ……あ、そう……」
哀れ……文句が出る前に、重要な件で叩き落とされてしまった。
どうにも釈然としない表情でニヒトもセツナの視線を追ってみれば―――
「――――!!」
「――――!」
[“ギィ――――ィィン!!”]
恐らく鞘に仕込んだ【風撃銃】で応戦して居るだろうリュウと、場所を変えつつ斧が変形した【グレネードランチャー】を打ち込むアマリが、下を走る列車の屋根上に居る。
見え辛いことこの上ないが確かに存在していた。
高速道路が空中に有ると言う事は、即ち地面に作る事が出来ない理由があるから。
それが、あの線路なのだろう。
セツナが思い当たったのは“これ”だったのだ。
更に列車の上に乗っていたのならば、激しく動き回らなくとも移動と迎撃が同時に行使出来る。
緑ボールの動きと距離の矛盾もこれで解決した。
「ニヒトさん!」
「あいよ、わーってるって!」
言いながら二丁拳銃をホルダーより外すニヒト。
が……幾ら標的が大きく、加えて上から下に撃つとはいえ、それでも眼下《数十メートル先》にある的を拳銃でどうやって撃つ心算なのだろうか?
傍から見ていれば当然に抱く、ニヒトへの疑問へ答えるかのように、彼は二丁の大型ピストルを前後に並べる―――――瞬間、前方に置かれた銃の『グリップ部分との境目』と、後方に置かれた銃の『銃身の尖端』が音を立てて何と “くっついた”。
更に、接合してからも細く長く変形し……数秒と経たず変形は終了。
一丁の『狙撃銃』に近い得物がニヒトの手に握られていた。
「フゥー……ッ」
右に飛び出ていたシリンダーは、一体何処を如何叩けばそうなるのか『スコープ』に変化しており、補助の役割を支障なくはたしている。
集中する気配を感じたセツナが一段スピードを上げて列車より前にバイクを進め、ニヒトは十字に描かれたソレから目を離さずにゆっくりと標準を合わせ……
「喰らっとけや」
拍子の抜けた単語と共に、トリガーを引く。
風切音やバイクの排気にも負けぬ独特の破裂音を響かせ、弾丸は『ロボット』目掛けて一直線。
中空を掛ける銃弾は果たして…………見事、パワードスーツモドキなロボットの、顔部分へ派手に命中した。
[“―――――ィィィッ!!”]
「―――!?」
「――――」
「……うっし、も一発やってやるっス……」
耳障りな鉄と鉄の掠れる音に紛れ、微かに二人からの驚きの声も上がる。
されどそれで満足することなく、ニヒトは再びスコープを覗いた。
場所は変わり、列車の屋根上。
「今のは……上からか!」
突然の援護射撃に驚いた青コートの少年・リュウは、振り降ろされた機械の腕の射程から逃れながらも、一度目の攻撃を妨害した銃撃の主が居るであろう、上の高速道路を見あげる。
ガードレールの隅から除いているのは、シャープな装いの黒いバイク。
離れた位置に居る少女・アマリも気が着いたか、風の中でも届くよう声を張り上げた。
「多分、ニヒト兄やんです!」
「…………だな!」
『もうこの際突っ込まねえからな』
―――そう言いたげな表情で、リュウは言葉を呑み込んだ。
[“ギギギギギギギギギギギギ”!!!]
「まだ追って来やがるか!」
「あっはぁ! やってやるですー」
リュウは頭を振りながら抜き身の刀を肩に担ぐと、人間顔負けの走行で詰め寄るロボットへ鞘の先端を向ける。
アマリもまた、大砲へと変形させた斧の砲口を突き付ける。
そして二人は……否、“三人”は同時に発砲。
三つの弾丸がロボットを執拗に狙い撃ち、どんどん後ろへと押し下げていく。
「このっ! くたばれぇっ!」
「ほらもう一回! もう一回! もう一回ですよー!」
風圧の弾丸が、大柄な榴弾が、渦を巻く狙撃が、ロボットにコレでもかと殺到する。
宛らそれは、遠距離でも届く拳での滅多打ち。
思うようにガトリングガンから放てないのか、敵ロボットはされるがままに撃たれ続けた。
……が。
「HPが全然減ってねぇっ……! 撃ってるのがコルク弾だとでも言いたいのかっての!」
「止められませんですね、段々こっちに向かって来てもいるです!」
内部に誰が乗って誰が操縦していようが、ロボット本体は元々機械の塊。故に痛覚など当然存在せず、蚊ほども痛痒差を現さしてはくれない。
進行を阻害されているだけだと言わんばかりに、強引な走りで列車と並走しながら、リュウ達まで齧り付いてくるだけだ。
最初こそ有効打と成り得たかに見えた狙撃も、ただ鬱陶しいと身体を揺らす反応に留まってしまっている。
このままではジリビンだ。
「アマリ! “力”を溜めといてくれ、俺が引き付ける! 後セツナへ通信を頼む!」
「了解したですー」
何か策があるのか、其処でリュウが敢えて接近し始める。
言われた通り砲口を水平に構えたまま、アマリは通信機を取りだした。
「あークソッ……どんだけ硬いんスかあいつ!」
高速道路上で苛立ちの声を上げながら、それでも諦める事無くニヒトは弾丸を撃ち込んでいる。
まだ線路沿いに道路は続くようだが、放っておくとどうなるか等言わずもがな。
早めに決着を着けねばならないと、焦りから自然とハンドルを握る手に力が籠る。
と―――不意にセツナの耳へと、甲高いサウンドが断続的に聞こえてきた。
「はい、セツナです!」
『セツナ様、何だかリュウ殿が作戦があるようなので……聞いてもらえるですかー?』
「………作戦、それはどう言ったものでしょうか!?」
『それはですね――――』
アマリの口から伝えられた作戦に…………セツナは思わず後ろのニヒトを見てしまう。
視線を向けられたとも知らず、未だに彼はスコープを覗きこんでいる。
そして、多少眉をひそめながらも―――
「わかりました、“それ”で行きましょう」
セツナはOKを返した。
後書き
あ、あれ……?
おかしいな、此処でプロローグは終わるはずだったのに……。
じ、次回で本当にプロローグは最後です!
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