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第六章

「困った奴等や」
「その連中が言うてるしな」
「やっぱり胡散臭いな」
「北朝鮮の話な」
 こうした話もした、酒を飲みながら。
 一樹はどうしても北朝鮮はおかしいとしか思えなかった、それは彼に子供が出来て父親になってもだった。
 余計に深まってだ、それでだった。
 テレビを観てだ、子供達が一緒に観ている場で女房の多江、結婚した時は痩せていたが今はすっかり太っている彼に言った。
「北朝鮮のことやってるな」
「ニュースでな」
「何か色々あるみたいやな」
「この国も」
「着てる服の生地悪いな」
 一樹はテレビに出ている北朝鮮の人達のその服を観て気付いた。
「それで言うてることもな」
「首領様がどうとかばっかりで」
「おかしな宗教みたいや」
「そやな、言われてみれば」
「前から思ってたけれどな」
「この国おかしいっていうねんな」
「ああ、普通の国ちゃうやろ」
 とても、というのだ。
「やっぱりな」
「新聞が言うのとか」
「ちゃうな、それにや」
「それにって?」
「あそこに帰った人よおさんおるやろ」
 北朝鮮にというのだ、他ならぬ。
「けれど日本に里帰りとかした人おるか?」
「そういえばおらへんみたいやな」
「一人もおらんやろ。何でや」
「ええ国やったら行き来しても問題ないわな」
 多江も首を傾げさせて言った。
「そういえば」
「そうやろ、まああそこと日本国交ないけどな」
「それでも行ったらな」
「帰れるのが普通やろ」
「そうしたこともないし」
「やっぱり北朝鮮おかしいわ」
「実際はどんな国やろな」
 多江は首を傾げさせて言った。
「ほんまに」
「聞いたことあるか?その北朝鮮の工作員が新潟とか鳥取で人攫ってるらしいわ」
「人を?」
「そんな噂あるんや」
「それ嘘やろ」
 幾ら何でもという顔になってだ、多江は一樹に返した。
「それは」
「いや、それがな」
「嘘やないんか」
「噂やけどな」
「そうした話があるんかいな」
「そやねん」
「幾ら何でもそれは」
 多江は流石にそれはという顔のまま否定した。
「ないやろ」
「わしもそう思いたいけどな」
「ほんまの話なん?」
「かも知れんわ」
「人攫うってまともな人のすることやないで」
 このことは多江も言う、そうした行いはというのだ。
「犯罪者のすることや」
「そうしたことをやっとるかもな」
「北朝鮮は」
「そうかも知れんわ、少なくともな」
 一樹は多江に難しい顔のまま言った。
「この国新聞や学者、政治家連中の言うような国やないで」
「おかしな国かいな」
「そうや」
 このことをだ、一樹は次第に確信していた。そして。
 ラングーンのアウン=サン廟やアジア大会、ソウルオリンピックへのテロとだ。その世襲制の共産主義体制とその拉致の疑惑を報道で知ってだ、彼は断言した。 
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