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第五章

「そんな連中が平和勢力か、それでそんな連中を賛美してるこのアホ共がや」
「どんな大学に入っていても」
「頭ええとは思えんわ」
 そのニュースを見つつの言葉だ。
「東大行っててもこいつ等はアホじゃ」
「アホなんですね」
「ソ連はええ国やないし共産主義はええ考えやない」
「そして北朝鮮も」
「ええ国の筈があるかい、絶対にちゃうわ」
 工場長は忌々しげに言って茶を飲んだ、だが新聞や学者は言い続け小説家だのもそんなことを言っていた。
 ベトナム戦争に反対する声も大きく世相は混沌としていた、だが。
 次第にだ、一樹も思う様になっていた。
「上手い話には裏があるわ」
「詐欺師か」
「そやな、詐欺師やな」
 仕事の後に一杯やっている時にだ、仕事仲間の小名田雄輔に言った言葉だ。
「あんまりにもええ話ってな」
「絶対に裏があるな」
「詐欺師はそんなこと言うやろ」
「実際にな」
「それでほんまはや」
「とんでもない話やな」
「騙されたって思ったら終わりや」
 焼き鳥で焼酎を飲みながらの言葉だ、安い焼酎だが実に美味い。
「後の祭りや」
「それが世の中やな」
「そやから俺結婚したけどな」
「もう二年やな」
「相手はよお見たわ」
 女房になる女はというのだ。
「それで決めたんや」
「あの娘にか」
「自分の目でも見てな」
「結婚は一生のことやさかい迂闊に決めたらあかんさかいな」
「そうしたんや、そんでな」 
 焼酎を飲みつつだ、一樹は小名田にさらに言った。
「俺思うこともあるんや」
「その上手い話か」
「いや、北朝鮮って国あるやろ」
「ああ、あそこか」
「実際はおかしな国ちゃうかってな」
「何か最近ちらほらそんな話聞くな」
「聞くやろ、新聞とか学者さんが言ってるのとは逆の話」 
 自分の横でたれを付けた焼き鳥を葱ごと食べている小名田に言った。焼き鳥と焼酎はかなり美味いが話していることは美味くはなかった。
「何もない独裁国家ってな」
「地上の楽園どころかな」
「それほんまやと思うか?」
「そうかもな」
 やや首を傾げさせつつだ、小名田は答えた。
「確かに上手い話には裏があるわ」
「北朝鮮の話ってそのまんま上手い話やろ」
「そやな、うちの工場でも組合の奴が言うてるけれどな」
「田辺とか赤松とかな」
「あいつ等仕事もせんし何も出来んのにな」
 実に忌々しげにだ、小名田は彼等のことを話した。
「組合のことばかりやな」
「ほんなあいつ等仕事せんな」
「出来んしな」
「それで組合のことだけは熱心や」
「労働者がどうとか待遇がどうとか労働時間がどうとか」
「その前にまともに仕事せい」
「皆と同じ様にな」
 こう二人で忌々しげに話した。
「そうしてから言えばええのにな」
「何もせんと五月蝿いだけや」
「組合の奴はあんなのばっかりか」
「少なくともうちの工場ではそやな」
「工場長も嫌がってるけどな」
「バックにでかい組合いるから何も出来んわ」 
 その彼等にというのだ。 
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