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戦国異伝

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第二百三十五話 動かぬ者達その三

「こちらもうんと奮発せねばな」
「ですな、これからの普請はですな」
「民に苦労をかける分こちらも奮発する」
「そうしたものですな」
「上様が為された様に」
「民を苦しめて何になる」
 羽柴も言うのだった。
「そこは気前よくじゃ」
「働いてもらった分の倍のものを用意する」
「それが我等の普請」
「これが天下の普請ですな」
「明の昔の国秦の始皇帝の様なことはならぬ」
 羽柴も始皇帝のことは聞いていて言うのだった。
「ああした民を無闇に苦しめる様な普請はな」
「それこそ国が滅びますな」
「銭も使いますし」
「決してあってはならぬ」
「そうした普請ですな」
「そうじゃ、わしは普請は好きじゃが」
 しかしというのだ。
「そうした普請はならぬ」
「民には奮発する」
「その普請の倍だけですな」
「では城の石垣の改築を進めましょう」
「これより」
 羽柴も実に落ち着いてた、信長と信忠がどうなったのか全く心配していなかった。そうしてそのうえでだった。
 彼は城の普請を行わせてだった、そして。
 他の織田家の家臣達も落ち着いていた、だが平手は。
 本能寺、二条城のことを聞いてだ、すぐに長谷川達に言った。
「わかった、ではじゃ」
「はい、小谷にですな」
「人をやれ。琵琶湖を使ってな」
「船はもう用意してあるので」
「すぐに猿夜叉様にお伝えするのじゃ」 
「わかりました、それでは」
 長谷川達もすぐに応えてだった、人を琵琶湖に用意してあった船を使ってすぐに小谷城にいる長政に伝えたのだった。
 織田家の動きは落ち着いていた、天下の他の者達と同じく。
 だが駿府で徳川家の留守を預かっている信康だけはだった。その報を聞いてすぐに顔を強張らせて周りの者達に問うた。
「上様、秋田介様は間違いなくじゃ」
「生きておられる」
「そう言われますな」
「そうじゃ、しかしじゃ」
 それでもというのだ。
「堺に向かっておられる父上じゃ」
「はい、殿はご無事でしょうか」
「十六神将の方が全ておられますが」
「そして半蔵殿もご一緒ですが」
「それでも」
「うむ、何もなくじゃ」
 それこそというのだ。
「駿府まで帰って来られるか」
「それがですな」
「不安ですな」
「うむ、三河まで入られればな」
 そうなればというのだ。
「安心出来るが」
「三河は我等の領地」
「だから三河まで入られれば」
「せめて尾張ですな」
「尾張まで入られれば」
「大丈夫じゃが」
 しかしというのだ、信康は惑いながら述べた。
「堺からご無事であればよいが」
「我等はです」
「お待ちするしかありませぬか」
「ではこのまま留守役を務め」
「そのうえで、ですな」
「不安であるが仕方ない」 
 信康はここは我慢を選んだ、もっと言えば選ぶしかなかった。
 それでだ、こう周りの者達に言った。 
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