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戦国異伝

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第二百三十五話 動かぬ者達その二

 信玄もだ、話を聞いて周りの者達に言った。
「普段通りにせよ」
「政をですな」
「それを」
「上様はご無事じゃ」
 このことを確信しての言葉だ。
「ここで何か妙な動きをするのがかえってよくない」
「上様はご無事ですか」
「そうなのですか」
「お館様もじゃ」
 信忠もというのだ。
「あの方もな」
「そうですか、では」
「これまで通りですな」
「政をしていればよいですな」
「動じることなく」
「そうじゃ、政をするのじゃ」
 よく、というのだ。
「暫くしたら上様が安土に戻られたと報が入るわ、お館様もですな」
「わかりました」
 家臣達も頷く、こうした流れは武田だけでなくだ。
 上杉や北条、毛利や伊達、島津でも同じだった。無論長宗我部もだ。
 謙信も話を聞いてだ、信玄と同じことを言った。
「わかりました、では次の政のことをお話下さい」
「あの、上様のことは」
「宜しいのですか」
「上様がお亡くなりになる筈がありません」
 彼もこう言うのだった。
「ですから動じることはありません」
「左様ですか」
「ではこのままですか」
「次の報をですか」
「待つのですか」
「そうです、上様もお館様も生きておられます」
 やはりこう言うのだった。
「すぐにその報が来ます」
「そうですか、では」
「次のお話を」
 謙信自ら言った。
「お願いします」
「畏まりました、では」
「新田開発のことですな」
「その時にかかる銭についてです」
「これよりお話します」
 家臣達も応えてだった、彼等も謙信に応えてだった。誰もがそのまま政の話をした。上杉の領内におけるそれの。
 どの家も落ち着いていたがそれは織田家の家臣だった者達もだ、彼等もまた同じであってだった。
 落ち着いて領内の政を見ていた、羽柴も姫路においてその見事な白鷺の如き城を眺めつつだった。周りに言っていた。
「改築をしようか」
「はい、どうも石垣が緩んでいますので」
「既に上様にお許しを得ていますし」
「それで、ですな」
「城の普請にあたりますな」
「それにかかろうぞ」
 至って普通の声での言葉だった。
「これよりな」
「わかりました」
「銭もありますし」
「それならですな」
「民から人夫を雇い」
「普請にかかりましょう」
「さて、人夫となる民達にはな」
 羽柴はその猿面をにこにことさせて話した。
「奮発せねばな」
「年貢は免除し」
「そして飯は白い飯ですな」
「おかずもよいものを出し」
「たらふく食わせてですな」
「そうじゃ、働いてもらうからにはな」
 それならばというのだ。 
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