女と友情
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5部分:第五章
第五章
「まだ」
「何でそう思うの?」
「私達授業終ってすぐよ」
由紀子に応えて言ってきた。
「すぐに今こうして向かってるじゃない」
「ええ」
「それで私達より早いなんて」
また言う幸枝であった。
「やっぱり。ないと思うわ」
「確かにね。言われてみれば」
考えてみればそうである。由紀子も彼女の言葉に納得した顔で頷いた。心なしか二人の歩美は普段よりもずっと速いものであった。
「そうよね。しかも幸枝」
「何?」
「あんた普段より歩くの速いわよ」
このことを実際に彼女に告げるのだった。
「やっぱり焦ってるの?」
「焦ってるっていうか」
由紀子のその問いに顔を曇らせてきた。
「ちょっと」
「ちょっと!?」
「ドキドキするっていうのかしら」
歩きながら首を捻っていた。
「何て言うのかしら、これって」
「不安なの?」
「ええ、不安よ」
由紀子の問いに対してもこくりと頷く。
「これからどうなるかって。凄く」
「どうなるかねえ」
「一応はね」
歩きながら顔を俯けさせる。
「返事は。その」
「決めたの?」
「何て言うのかしら」
どうにも曖昧な受け答えである。
「それはその。つまり」
「何かよくわからないけれど?」
「その時になってわかるわ」
こう言う幸枝だった。
「その時にね」
「そうなの」
「ただ」
だがここでまた言うのだった。
「言えるかしら」
「屋上で自分から?」
「ええ。本当に私が」
「安心しなさい」
しかしここで由紀子は微笑んで幸枝に言ってきた。
「それはね。安心していいわ」
「いいの?」
「大丈夫」
右手を拳にして自分の胸をどん、と叩いた。
「何があっても大丈夫よ。一人じゃないじゃない」
「一人じゃない」
「一人だと不安でしょ。けれど」
「けれど?」
「二人だとどうかしら」
小柄な幸枝を見下ろす形で横目で見てきての言葉だった。
「二人だと。心細い?」
「二人だと」
「そうよ。そこはどうなの?」
また尋ねる由紀子だった。
「そこのところは。どうかしら」
「それはやっぱり」
由紀子の今の問いに時間を少し置いてから答えてきた。その間にも歩くのは止めない。それどころかその速さはさらに増してきていた。
「嬉しいわ」
「そうでしょ」
「ええ」
また由紀子の言葉に頷いた。
「やっぱりね。二人だと」
「そうでしょ。何でもなのよ」
「何でも?」
「一人だと心細くて辛いことでも」
幸枝に対して話しはじめる。
「二人だとそうじゃなくなるものなのよ」
「それは何となく」
「わかるでしょ」
「何となくじゃないわね」
自分の頭の中で考えてから由紀子に答えた。
「はっきり。わかるわ」
「じゃあ私がいてもいいわよね」
「御願い」
自分自身からも頼むのだった。
「川崎君に対して。はっきり言うから」
「言えないその時はね」
「その時は?」
「私が何とかしてあげるからね」
「由紀子が」
「そうよ。だからね」
にこりと笑ってまた言ってきた。
「安心して告白しなさい。いいわね」
「わかったわ」
幸枝も由紀子のその言葉を聞いてこくりと頷くのだった。
「それじゃあ。本当に」
「とにかくね。向こうの気持ちはわかってるわよん」
「ええ」
それはもう言うまでもないことだった。幸枝はおろか由紀子にもはっきりとわかっていたし川崎の方もそれを隠せる程器用ではなかったからだ。
「それはね」
「じゃあ後は一つよ」
「一つなの」
「そう、あんたの気持ちを伝えるだけよ」
またこのことが言われた。
「それだけよ。わかったわね」
「ええ。それじゃあ」
「いざ戦場へ」
あえて戦場と言ってみせた。
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