女と友情
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4部分:第四章
第四章
「そんなことは」
「だったら読むしかないわよ」
また幸枝に言ってきた。
「絶対にね」
「そうなの。絶対に」
「読まないでそのままって手段もあるけれど」
「けれどそれは」
「そうよ。何の解決にもならないわ」
このことも釘を刺してきた。
「全然ね。ならないわよ」
「そうなの。それも」
「だから読むのよ。いいわね」
由紀子の声に強制が入って来た。
「何があってもね」
「うん。それじゃあ」
また由紀子の言葉に頷く。しかし今度の頷きは先程とは違うものだった。
「読むわ」
「読むといいわ。それじゃあね」
「ええ」
また由紀子の言葉に頷いた。
「わかったわ」
「いいわ。それじゃあね」
こうして幸枝はラブレターを読むことになった。そうして次の日。まずは昼だった。由紀子は幸枝に対して尋ねたのであった。
「昨日のことだけれどね」
「ええ」
二人は学校の屋上にいた。そこでお昼御飯を食べながらベンチに並んで座りそこで話をしていた。その膝の上にパンや牛乳を置いている。
「読んだわよね」
「ええ、読んだわ」
由紀子の言葉にこくりと頷いてきた。
「全部ね」
「それで返事はどうなの?」
「まだ」
「そう。決めていないの」
「気持ちはわかったわ」
迷ってはいるが伝わってはいるのだった。
「川崎君の気持ちは」
「そう。伝わったの」
「好きなのね」
前を見たまま言った。
「私のことが。やっぱり」
「それはわかったのね」
「それはね」
また由紀子の言葉に頷いた。
「わかったわ。けれど」
「それでも迷っているの」
「どうしたらいいかわからないのよ」
前を見たままだった。由紀子はカツサンドを口に近寄せているが幸枝はパンさえ手に持ってはいない。そのまま前を見ているだけだった。
「私。どうすれば」
「わからないの」
「どうしようかしら」
また呟いた。
「本当に。どうすれば」
「考えても仕方ないと思うわよ」
「仕方ないって?」
「今自分がどうしたいかよ」
また幸枝に言った。由紀子は今度は牛乳をすすった。ストローを口に含みそうしてそこkら白い牛乳を飲んでいく。だが幸枝は前を見たままだ。
「あんたがね」
「私がなの」
「そう。いいわね」
また言う。
「どうしたいのかね。どうしたいの?」
「私は」
「それだけよ。いいわね」
「それだけなの」
「そう。だから」
ここで食べ終わった由紀子だった。
「私が言うのはそれだけよ」
「ちょっと由紀子」
立ち上がった彼女に対して幸枝は慌てた感じで声をかけてきた。
「それだけって。私は何も」
「何も?」
「何もわからないのだけれど」
「わからない時はどうするの?」
由紀子は幸枝に背を向けていた。しかし声は彼女に向けていた。
「ソフトボールじゃ。どうするの?」
「動くのよね」
幸枝にもそれはわかった。
「こうした場合。考えるより」
「そうよ。迷うより動け」
幸枝にまた告げる。
「考えるよりね。だからよ」
「動くの」
「わかったら行くのよ」
また言う由紀子だった。
「迷わないでね。いいわね」
「動くの」
「試合は放課後」
わかりやすいようにという言葉だった。同じソフトボール部として。
「いいわね。動くのよ」
「え、ええ」
「わかったら今はね」
ここで幸枝の方を振り向いてきた。その顔が微笑んでいる。
「食べるのよ」
「食べるって!?」
このことすらも忘れてしまっていた幸枝だった。自分の膝の上に置いてあるそのパンや牛乳も。完全に忘れてしまっていた。
「何を?」
「膝の上見なさい」
「私の?」
「他に誰がいるのよ」
今度の言葉には苦笑いが入っていた。
「いないでしょ?幸枝以外。私は立っているんだし」
「あっ、そういえば」
「わかったら食べるのよ」
由紀子の言葉は続く。
「いいわね」
「わかったわ。それじゃあ」
「ええ。腹が減っては戦ができぬ」
この言葉も述べた。
「我が女子ソフトボール部の鉄の掟だったじゃない」
「ええ」
これは幸枝もよく知っていることだった。
「それはね。わかってるわ」
「だったら食べなさいよ」
また言う由紀子だった。
「早いうちわね」
「わかったわ。じゃあ」
「さもないと放課後どころじゃないわよ」
「放課後どころじゃないの」
「当たり前でしょ。お昼食べなくてどうするのよ」
由紀子の言葉が咎める色を帯びた。
「まず食べないと。そうでしょ」
「そうね。とにかく食べないとね」
「何にもできないからね。じゃあ食べて」
「わかったわ。じゃあ早速」
「食べないと何もはじまらない」
由紀子は顔を正面に戻して呟いた。
「何もね。全てはそれからよ」
「そうだったわね」
幸枝もそのことを思い出してパンと牛乳を食べていく。そして放課後。二人はその告白の場所に向かっていた。奇しくも昼にお昼を食べたその場所である。
部活の前に行くのだった。とりあえず授業が終るとすぐに屋上に向かう。幸枝は当然として由紀子もまた一緒だが幸枝はそのことに何も言わなかった。
「さて、と」
その由紀子が廊下を進みながら横にいる幸枝に声をかけてきた。
「もういるかしらね」
「川崎君が?」
「そう、あのいかついナイト様よ」
わざと茶化しての言葉だった。
「彼がね。いるかしら」
「まだじゃないかしら」
だが幸枝は首を傾げさせてこう言ってきた。
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