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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第107話 役者が出そろって行くようです

Side ネギ

「では皆さん、カミカゼ特攻すると言う事で良いでしょうか?」

「せ、せんせー!自暴自棄にならないでくださいー!」

「ハッハッハ、私は嫌いではないよ。一つ派手に行こうじゃないか、少年。」

「あなたは黙っていなさい松永。行くなら一人で行きなさい。」


話し合い始めて数時間―――よりもっと短く、先程から十分も経っていないのだけれど、結局

絶望的な答えしか出ず、いっそ特攻でもかけた方がいいんじゃないかと誰かが言い出して、

それが天啓に聞こえた僕はすぐさま準備しかけ、のどかさんに止められた。

お陰で冷静になったけれど・・・また絶望的な気分になって来た。


「しかし困ったな……。止まってたら魂ごと食われて新しい世界の住人に、進もうにも前には

虎と狼と獅子が待ち構えてやがる。」

「後ろに引こうにも………いや、引く場所なくない、この状況?」

「ゴールが唯一の退路だからな。色々おかしいわ。」


そう。一番の問題は最難関に強制的に挑まされる上、突破口が全く無いところだ。

案は出るのだけれど、彼我の戦力差を考えに入れると全てが無駄になる。それも埋める方法が

無いくらいの戦力差だから、完全に行き詰ってしまった。

と、徐にアルビレオさんとゼクトさんが立ち上がる。


「これ以上私達だけで話し合っても意味はありませんね。」

「あん?どうするってんだよアル、ゼクト?」

「無論、決まっておるじゃろう?これは魔法世界全体で当たるべき問題じゃ。」

「………オイ、今物凄く嫌な予感がしてるぞ。」


その最も尤で自然な案に、僕も嫌な予感で冷や汗が出て来る。


「ヘラス帝国、アリアドネー、メガロメセンブリア、そして……嘗てのオスティアの

最高戦力を頼ります。」

………
……


「やぁやぁやぁ皆さん、初めまして。MM元老院議員兼新オスティア提督を勤めている

クルト・ゲーデルと申します。ネギ君たちは昨日振りですね。」

「まさかこんな早く再開する事になるとは思いませんでしたよ。」

「出来れば二度と会いたくなかったけどな。」

「手厳しいですねぇ。そう思いませんか、皆さん?」


翌日の朝。最初に話を通されたクルト提督から会談の用意が出来たと連絡を受けて、二度と

行くまいと思った夜会場所――普段は大会議場のようだ――に集まった。

色々と気に食わないところはあるけれど、僅か数時間でヘラスの皇帝とアリアドネー、

この世界に来てから聞いた事のない謎の最高戦力とやらと会談の約束を取り付ける辺り

有能なんだろう。


「つか私らワラワラここにいて言い訳?場違い感ハンパないんだけど。」

「いいえ、寧ろあなた達が主役なのよ?理解してもらわないと。」

「そうだぜ嬢ちゃん達。なんせ奴等と直でやり合ってんだからな。」

「私がやりあったのはそこの総督さんだけですけどね。」

「おやおや耳が痛い……。誰かさんの真似をするのはやめないといけないですね。」


そこへ最早セットとなったセラス総長とリカード議員が合流。

主役と言いつつ夕映さん同伴でない事が気になったのでこっそり聞くと・・・。


「ごめんなさい、今ここに連れて来たら、賞金首を匿ったとかまた難癖付けられかねないから。」

「あ、そ、そうですよね。こっちこそごめんなさい。」


思い返せば安易だった自分の質問に赤面しつつ、ヘラスさんに謝罪して下がる。

あと残ったのはヘラス帝国の代表と、旧オスティアの実力者なんだけど・・・。


「なんじゃなんじゃ、思ったより人数が多いではないか。アルビレオとゼクトの呼びかけ

じゃったから来たのに、子供の寄り合いに呼ばれたのかの?」

「じ、自分だって子供みたいな見た目のくせに……。」

「聞こえておるぞ、カグラザカとやら。そのような口を聞くのは妾の前だけにせよ。」

「な、なんですt「―――騒がしい。」っ!?」


噂をすれば影とテオドラさんが登場し、皇女と言う事を考慮しない明日菜さんが

混ぜっ返そうとするけれど、その後ろから低い声が響く。

同時に大人組みが礼を取るので、僕達も慌てて礼をすると、金属質の足音が入口付近で止まる。


「礼など良い。我々は今対等な、この世界の脅威に立ち向かう同士だ。」

「ハ、ありがとうございますヘラス陛下。」

「へいっ………!?」


クルト提督が呼んだ名前に思わず、撃たれたように顔を上げてしまう。

ヘラス帝国皇帝。年齢的には初老なんだろうけど、竜人種特有の遅い成長の為に40代程の

外見に、苛烈さを感じさせる鋭い瞳。頭から生えるのは今まで見た中で最も大きく立派な角。

浅黒い肌を真紅の鎧で包み純白のマントを靡かせ、腰には幅の広い豪奢な鞘に収められた剣を

下げている。本当に話し合いに来たのかと思われる格好だけれど、一国を預かる主としては

当然の準備なんだろう。寧ろスーツ姿の人達が無用心なのか・・・?


「……して、これで全員なのだろうか?」

「いいやヘラス公。俺達で最後だ。」

「えっ!?」


入口に向いていた視線が全て用意されていた円卓の上座・・・一番奥に向く。

今まで誰も座っておらず、皆の視線が唯一の入口に集中しているのに、誰にも気づかれず、

それも派手な見た目の三人が悠然と座っていた。


「お初にお目にかかる、魔法世界救世軍の諸君。第一代"大魔導士ジオン"が直系にして

第九十九代"大魔導士ジオン"だ。一応は数人だけ現存する古龍人種の一人だ。」

「こ……!?ほ、本当に存在しておったのか……。」


初めに自己紹介したのは、真ん中に座る赤褐色の肌を持つ筋骨隆々の男性。放っているオーラは

どことなくラカンさんに似ているけれど、内包する魔力の底が見えない。そしてまたしても初めて

聞く古龍人種なる亜人種。ヘラス陛下が驚いていると言う事は、恐らく伝説級に近い人種なんだろう。


「はいはーい、第三十代"大魔導士ジルダリア"でーす。ふるーい悪魔のハーフよ。よろしく。」


鍔の広い帽子を被った分かり易い魔法使いの格好をした、ゆらゆらと動く黒紫髪の少女。

鎧の類を付けている様子が無く、装備はローブと変な形のモノクルと言う軽装。普通の悪魔の

ハーフと違いが分からないけれど、龍宮さんよりは信長や松永に近い気配を感じる。


「え、えっと、同じく第三十代"大魔導士エーリアス"です。一応初代の直系で、水の精霊と人の

ハーフですけど、古龍人と悪魔の血も入ってます。」

「あぁ、そこは俺達も一緒だな。ただそれぞれの先祖の血が濃く出ているってだけで。」


最後にオドオド自己紹介したのは水色のウェーブした髪の少女。初めてみる精霊のハーフだけれど

人間と特に変わる所は無い。でも常に水の流れる音が幽かに聞こえて来るから、何か特殊能力が

あるんだろう。溢れ出る魔力もどこか流麗だ。

そしてこの三人が旧オスティアの最大戦力、世界最強の魔法使いである"大魔導士"・・・!


「さて、メンバーが全員揃った所で会議を始めましょうか。」

「よかろう、進行は任せる。」


クルト提督の号令を合図にそれぞれ椅子に座り(僕達は殆ど立ってだけれど)、会議が始まる。


「この場に居る皆さん…いえ、魔法世界の全員が見たでしょうが、嘗てこの世界を終わらせるべく

動いた『完全なる世界』が復活。しかもその仲間に『白帝』……この場合英雄として扱うべきでは

ありませんね、『皆殺しアーカード』愁磨・P・S・織原が加わりました。

そして宣言通りであれば、明日の正午より敵の侵攻が開始されます。それまでに我々は軍を編成

しなければなりません。最低ラインとしては大戦時の最終戦以上ですかね。」

「「「ぶっ!?」」」


まずは事実確認から始まった会議だったけれど、次の瞬間に僕・千雨さん・朝倉さんが吹き出した。

いや、皆分かってはいた。でもこうもあっけらかんと言われると吹き出さずにはいられない。

軍の編成、それも多国籍軍を一日で集めて、翌日には戦いを始めようなんて頭がおかしい・・・と

各国のトップを盗み見ると不思議と落ち着いている。


「我らヘラス帝国全軍、準備は出来ておる。本国に待機させている本隊は今から動かせば、明日の

明朝には到着出来るだろう。」

「アリアドネー戦乙女騎士団も準備出来ているわ。戦力的には大した事無いけれどね。」

「ウチの軍も準備出来てるぜ!元老院排除してくれたから終わったっつートコあっから複雑な

気分なんだけどな。」


・・・落ち着いている筈だ。とっくに話しを受けて動いていたんだから。

そうか、その為にアルビレオさん達が奔走していてくれたのか。逆に言えばこうなる事が分かって

いたって事になるんだけど・・・いや、心強い限りだ。残りはある意味最大の問題・・・。


「あとは俺ら"紅き翼"に……いや、愁磨やナギに匹敵する戦力か。そこの"大魔導士"さん達は

ぶっちゃけどの程度出来るんだ?見た感じナギくらいは出来んだろ?」

「フン!結局どれ程出来たとて愁磨達に匹敵しなければ意味無いじゃろうが。」

「……そこは俺らに秘策アリって感じで任せて欲しい。」

「嘗ての御三方でもあるまいし……まぁいい。ネギ・スプリングフィールド君だったかな。」

「は、はい!?」


話しを聞いているだけで済むんじゃないかと思っていた所でヘラス陛下に急に名前を呼ばれ、

上ずった返事をしてしまう。


「君の……いや、君達の噂は聞いている。しかし我は自分の目で見たものしか信じぬ。」

「は、はぁ……?」


要領を得ない物言いに僕も皆も首を傾げる。それを見た陛下は顎に手をやり思案し、テオドラさんは

ニヤニヤ笑ってこっちを見ている。まさか――と最悪の予想をしたと同時、ヘラス陛下は椅子の

背に凭れ掛かり、テオドラさんより悪い顔で嗤い、僕の予想の上を行った。


「丁度良い。君達と"大魔導士"で戦い、我々にそれぞれの力を示してくれ。」

………
……


場所は移り、オスティア大闘技場。つい先日の決勝戦同様拡張された場内の観客席には数人が

いるだけだけど、ステージには"大魔導士"3人と僕達の中から戦闘要員、より正確に言えば戦術

要員として選ばれた、辞退した千雨さんと会議時からいない夕映さんを除いた11人が対峙していた。

そして、観客席に座るヘラス皇帝が立ち上がる。


「ではルールを伝える。勝敗は拳闘大会同様、どちらかが敗北を認めるか、メンバー全員が

戦闘不能になった場合のみ決するものとする。」

「なっ……攻撃は一切制限無しと言う事ですか!?」

「当然であろう。しかし今は力を見定める為の勝負。故に直接攻撃をしない、後方支援に徹すると

定めた者に関しては、ステージ内に設けた障壁にて安全を保障するものとする。なおこのメンバーは

前衛の全滅と同時に敗退するものと見なす。質問は?なければ後衛の選出をしたまえ。」


質疑応答を投げつつも有無を言わせない、と捲し立てられ、僕達は慌てて作戦会議を始める。

対し"大魔導士"の三人は落ち着いた――エーリアスさんはオドオドしているが――様子で

ジルダリアさんを後衛、エーリアスさんを中衛、ジオンさんを前衛とする縦一列の陣形を取る。

それを見た僕達の最終的な陣形は、接近戦を得意とする僕・小太郎君がジオンさんと相対する前衛、

一歩下がった遊撃として明日菜さん・古菲さん・アーニャの爆裂特攻組と楓さん・まき絵さん・

ハルナさんの攻防特速兼ね備えたバランス組、そして読心・捕縛魔法担当ののどかさんと伝達要員の

朝倉さんが後衛に下がる。


「うーっし、そっちも準備出来たみたいだし……行く「ぅうううおらぁああああああああああ!!」
ズドォオン!!
「"ラス・テル・マ・スキル・マギステル!『二重詠唱(ディアブル・アザルエント)』!契約に従い我に従え高

殿の王!」


ジオンさんが戦闘開始を告げようとしたと同時に、ノーモーションで行える強化を施した小太郎君が

突撃し、その間に僕は完全雷化の為の詠唱をする。慌てたエーリアスさんと楽しげなジルダリアさんは

一呼吸遅れて水の竜巻と闇の雲を放つけれど、既にジオンさんの後方まで走っていた明日菜さんと

アーニャが魔法無効化の斬撃と爆炎でそれぞれを消し飛ばし、エーリアスさんに挟撃をかけに迫る。


「お、良い連携だ。だがその要のお前も流石だな、碌な強化もしねぇでここまで持つとは。」

「お褒め頂きどーも!その碌な強化すらやってへんモン相手にギリギリっつーのが癪やけどな!」
ドドドドドドドドドド!
「費やした月日が違う。俺らだけの力じゃねぇんだから、な!」
ゴッ!
「がぁ…っ!?」


押し切られると焦った小太郎くんが狗神を侍らせ攻撃を仕掛けるけれど、振り下ろす拳の一撃で、

重力魔法を受けたように狗神ごと叩き潰される。


「来たれ巨神を滅ぼす燃ゆる立つ雷霆!百重千重と重なりて 走れよ稲妻!『千の雷・|固定《スタグネット

》』!

双腕掌握(ドゥプレクス・コンプレクシオー)・雷天双壮』!!」
ガキュンッ!
「それが例の完全雷化とやらか、ほんじゃいっちょぉ!」
ガガンッ!
「っ……!?」


完全雷化したと同時に突撃し、ラカンさんの時と同じく速度で圧倒しようとするけれど、

ジオンさんはそれを迎撃して見せる。ラカンさんさえ反応し切れなかった攻撃を相殺され、相手の

力量を測りかねて距離を開け構える。


「(雷速の正拳を受けた・・・!?偶然か?違う、出を見てから反応出来る距離じゃない。

故意的な放電で、先行放電での予測も出来ない。なら仕掛けがある筈・・・!)小太郎君!」

「っしゃ!爆ぜぇ!!」
ドパァンッ!

何らかの仕掛け、或は仕込みを疑い、足元で態と倒れていた小太郎に全方位攻撃を撃たせて、

ジオンさんの周囲の地面を破壊する。そして自身は死角から襲い掛かる徹底した攻撃は――

パシガンッ!
「うごっ!?」


――普通に後頭部にヒットした。正面の小太郎くんの攻撃も受け止められてはいるが、好機と見た

僕達はそのまま全力のラッシュに入る。


「「うぉおおおおおおおおおおっ!!」」
パパパパパパパパパパパパパパパパパパンッ!
「あぶねぇあぶねぇ、油断した。」

「っ、また!?」

「どないなっとんねん!?」


しかし次の瞬間には完璧に防御されて、困惑しながらも攻撃を続行する。

超反応か何らかの術式かを見定める為の攻撃だったけれど、恐らくは後者。足元に術式を作って

攻撃を読んでいるか、あるいは後衛のジルダリアさんの魔法で――!?


「やっと気づいたか。」

「みなさ「ハイそこぉ!!」」
ドンッ!

僕の背後になっていた後衛の様子を盗み見ると、皆がいつの間にか闇の霧の中で倒れ、水の箱に

閉じ込められ助けを求めているのが見え、その一瞬の動揺の隙に、ジオンさんの拳が僕の鳩尾に

めり込んだ。声も上げられず倒れる瞬間、同じく小太郎君も倒れるのが見え、驚愕する暇も無く

地面に倒れる。


「―――そこまで。勝者、大魔導士組。」

「えぇええーー!うっそぉ!?私まだ十発しか魔法使ってないんだけどぉ!?」

「わ、私は、十二発……。」

「アホ、お前らにそんだけ撃たせりゃ十分だ。おら、何時まで転がってんだ。」

「は、はい……。」


促され、色々な事が訳が分からないまま立ち上がり、整列した大魔導士の三人を眺めるしかない。

・・・負けた、のは理解してる。けれど、疑問が頭の中を回りすぎて訳が分からない。


「よし!お前ら合格!!」

『『『『えぇっ!?』』』』

「い、今ので合格なの!?そんな要素ミジンコ一匹分も無かったと思うんだけど!?」

「そ、そうですよ!自分で言うのもアレですけれど、手も足も出なかったですよ!?」


晴れやかな顔で"合格"と言われ、流石に納得できない僕達は三人に詰め寄るけれど、当の三人は

それが分からないと首を傾げる。


「あ?何言ってんだお前ら。一発で帝国の守護獣を動けなくするジルの失神魔法とエイルの

捕縛魔法を十発以上凌いだんだぞ。A級どころかS級とだって正面切って戦れるぞ。」

「うぅぅむ、イマイチ納得いかんでござるなぁ。確かにお二方とも……?」

「んで小太郎。お前も俺のあの一撃喰らってすぐ動けるとか有り得ねぇわ。ジオンの家系が

代々積み重ねて強化して来た重力魔法と強化魔法の合わせ技だぞ?正直化けモンだわ。」

「お、おお?そら良かったわ。」

「そんでネギだが………ふっ。」

「鼻で嗤われた!?」


褒め千切られた皆に対し、僕は何故か鼻で笑われた。うぅ・・・確かに僕の攻撃は一発しか

当たって無い上に、全然効いてなかったけれど・・・。


「あぁ、違う違う。凄すぎて笑いが出ちまったんだ。」

「……ま、そこだけは認めたげるわ。アレ使われてまともに戦える魔法使いが居るとはね。」

「は、はい、驚きです……。」

「え、え?あの、一体……?」

「一体全体も、これだよ、コレ。」


コレ、と何かをつまんでいるかの様に差し出された指の先を、目を凝らしてよく見る。

すると細い・・・物凄く細く短い針のような物が見えた。長さは5ミリもなく、髪の毛よりも

細い為、あると分かって注意して見ないと分からない程だ。これが、凄い理由?


「これは"魔落とし"っつぅ、初代大魔導士の時代からの研究の結晶だ。」

「土魔法で長い年月をかけて作り上げた金属を私の炎で焼いて、エイルの水で締め、ジオンの重力で

圧縮して、それを何十回もかけて出来るのがコレ。金属を作る段階でありとあらゆる術法を片っ端

から詰め込んで……要は、これ一つで魔法の誘導・反転・吸収が出来るって事。

ま、一回しか使えないけどね。」

「おいバカそれ一番企業秘密だろうが。」


最後の掻い摘んだ説明とさっきの状況・・・つまり、ジオンさんが足元に設置していた"魔落とし"と

言うアーティファクト?に、僕の身体が誘導されていたから、ジオンさんはそこだけを防御すれば

良かった・・・って話しなんだろうけれど、それもやっぱり、反応出来る速度と技術が無いと無理な

事だ。と、好奇心でその針を受け取ってみ――

ズンッ!
「うわっ!?」

「ハッハッハ、重いだろ?なんせ500kg近くあるからな。」

「ごひゃ……!?」


受け取った瞬間、重さに耐えられず、指を離してしまう。500kgもの金属をあれだけの大きさに

圧縮してしまうのも凄いけれど、それを思考も雷速化した僕に気付かれず、設置しながら僕ら二人を

軽々と相手してみせたこの人・・・やっぱり、底が見えない。


「よーし!それじゃ明日の開戦に向けて一杯やるか!!」

「お、いいねぇラカン。あんた話分かるじゃねぇの。」

「ふむ、昼から飲む酒なぞ味わった事が無かったな。どれ、付き合おう。」

「陛下まで!?」


関心したと思ったら底の見えない二人が参戦し、是非も無しに飲み会をする為に闘技場を後に

してしまった。上を見ると客席にいた人達も居なくなっており、僕達だけが取り残された状態。


「えーと、僕達はどうs「オメーラも来るんだよ!」うわぁぁーーー!?」

「男たる者、何時如何なる時も酒を飲めんといかん。」

「っちょぉ!?離せオッサ「我に手を出せばどうなるか分かっておろうな?」汚ねぇえええ!!」

「あ、ね、ネギせんせー!まってくださいー。」


どうしようかと迷っていたら、戻って来たラカンさんとまさかのヘラス陛下に拉致され、他の皆も

なし崩し的に連れていかれ、何故か準備されていたパーティ会場で懇親会の様な物に巻き込まれた。

こういうのも激励会とか言うんだろうか・・・と会場を見渡して、一人いない事に気付く。


「……テオドラさん、どこ行ったんだろう?」


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subSide―――

「と言う感じじゃった!」

「あらそう、まさかって感じねぇ。ごくろうさま。」

「うへへー。」


"墓守人の宮殿"の最上部。歴史書にはゲートポートの分割された起動術式があると記されていた

場所にあるのは、数本の円が重なり、巨大な鳥かごの様になった球体と祭壇。

そこに、先程まで闘技場で起こっていた出来事を嬉しそうに報告するテオドラと、それを聞き、

良く出来た妹の頭を撫でる様にするノワールがいた。


「じゃが、何故愁磨に報告してはならんのだ?旧友の子が居るとなれば喜ぶじゃろうに。」

「だめよ。今は忘れてる体にしているけれど、まだ心の奥にしーっかり刺さってるんだからぁ。

テオだって、流石に号泣されるのは困るでしょう?」

「うぬぬぬ……確かに泣かれるのは困るのう。」


以前であれば自分の中のイメージとあまりにそぐわない、ノワールの言う愁磨像に唸っている所

だったが、最近共に過ごすようになって、実は涙脆い上に心根の弱い人物だと理解したテオドラは

渋々引き下がり、頬を膨らませる。普段自分をレディとして扱う様にと騒いでいる本人に子供っぽい

仕草をされ、ノワールは頬を綻ばせ――球体に映像が映った瞬間、引き締める。


「テオ、残っている中から戦闘型SS級と捜索系S級を三人連れて転移。保護対象は二人。」

「ラジャー!なのじゃ!」


指示されるやいなや、獣人もかくやと言う速さでテオドラは最上階を後にする。

計画が最終段階を迎え、魔力を温存しなければならないツェラメルと愁磨以外がしているのは、

各地で起きる、個人間規模の物から領地規模に至る、争いや暴動の鎮圧、及び被害者の救助。

ノワールが此処にいるのは、大きな暴動が起きた時の対処要員であり、各所で問題が起きた時の

オブザーバー的な役割の為である。


「皮肉なものよねぇ……争いを無くす為に、新しい争いが起こるなんて…あぁもう。」


誰に言う訳でも無い独り言を述べると、また鳥籠が光り、次の瞬間にはノワールの姿は

忽然と消え、辺りには静寂だけが流れる。ネギ達の想像もつかぬ範囲で、確実に新派を増やす

『完全なる世界』。

―――全てが始まるまで、あと、20時間。

Side out
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