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東方幻潜場

作者:月の部屋
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6.『鏡』

 
前書き
 お兄ちゃん。
 お兄ちゃん。
 聞こえる?
 ……わけ、ないか。
 そうだよね。
 できないこと、だもんね。

 寂しいよ。

 そうだ。
 数か月前に、会った時のこと。
 私ね……決めたことがあるの。
 お兄ちゃんの傷を見て、ね。



 色とりどりのわりと広い部屋。ふわふわのベッドの傍には、いくつものぬいぐるみがある。それはまさに女の子の部屋そのものである。しかし、雰囲気は異なる。明るい色に囲まれているはずなのに、暗く感じるのだ。
 とてとて歩いてマグカップを二つ運んできた少女、絵文(えふみ)はうさぎの描かれたマグカップを東に渡した。
「お兄ちゃん、ミルク温めたよ」
「お、ありがと」
 向かい合って、同時に口をつけ、同時に離す。息はぴったりだった。絵文は東の額を見て、目を丸くした。
「お兄ちゃん……その額の傷、どうしたの?」
「ん、ああ、これ?……作戦の途中で、ちょっとやられてね」
 軽く笑ってみせたが、その傷は痛々しかった。
「ぅぅ……」
「あぁ、泣くな泣くな。これぐらい大したことないよ」
 深紅の瞳が潤み、幻想的な世界が映される。
 しっかりと、鏡のように。
「お兄ちゃん、無理、しないで、ね」
「あぁ……」
 二人はお互いを確かめ合うかのようにしっかりと抱き合った。
「(私……今は軟禁されて動けないけれど、いつか必ずここを出て、お兄ちゃんを守って見せるからね)」
 そんなことを思っていることを東が見抜いていたかどうかは知る由もない。


 

 
 紅魔館に来て、早数週間が経った。
「……あの」
 門番、紅美鈴は眠っていた。
 立ちながら。
 ナイフがいくつも刺さっており、最初は東をいろんな意味で驚かせていたが、もう慣れたのか人参のようにナイフを引っこ抜いてため息をつく。
「えぇと……プラズマ魔法はこうやって」
「あぶぶぶぶぶぶぶぶ」
 軽く手を振ると、美鈴はマッサージチェアに座って体をほぐしている中年のような声を出した。
 東は魔導書を読んでいるうちに、自然と魔法を身に着けていた。ただし実戦に使うには少し無理があるものばかりだが。
 ビリビリ振動しながら、美鈴は目を開いた。
「あら……東くんじゃないですか。おはようございます」
「おはようじゃないよ……もう3時だよ」
「グッドアフターヌーンですね」
「なんで英語なの」
「你好」
「中国語っ!?」
 你好は朝昼晩いつでもつかえる挨拶らしい。どうでもいいが。
「それで、どうしたのですか?」
「どうしたもこうしたもないよ。咲夜さんが、館の中を手伝えって言ってたから」
「了解でーす」
「……」
 美鈴なら手伝いながら寝そうだったので、少し恐ろしく感じた。
 余談だが、その後美鈴は寝ながら館の拭き掃除をしたそうな。人間じゃないな。はい正解。



 数週間が経ったことで、情報もかなり集まってきた。
 紅魔館にいるだけで、新聞屋の天狗という絶好の情報屋がやってくるのだ。子供の好奇心を装っていくつも質問をしたため、幸いにも館から出ずに情報を入手することに成功した。
 ただ、天狗の新聞の内容はかなりお粗末で、ガセネタばかりらしいのであまり参考にはしていない。
 最愛の妹、絵文と再会する日がもうそこまで来ているのだと、東は確信していた。

 いつも通り、情報を送信してレミリアの寝室に向かおうとした時のことである。
「はぁい」
「ぴゃああ!?」
 扉に謎の女が生えていたのだ。
「うんうん、新鮮な反応ね。久々に気分が良いわ」
 東は尻もちをついて、腰を抜かしたのか動けなくなっていた。
 一方、謎の女は不敵な笑みをして……。
 “境界”を呼び出した。

 うーっと目を吊り上げてレミリアがズカズカ東の扉を無造作に開いた。
「こらぁ!夜更かしなんてしないで、さっさと私のところ、に……。……?」
 東はそこにはいなかった。
 暖炉の中や机の下などを見ても、だれもいない。
「トイレかしら……。……!」
 吸血鬼の鋭い第六感が、全てを理解した。
「この妖気の跡……あのスキマ妖怪か!」
 一瞬頭に血が上ったが、すぐに落ち着かせる。
 そして、レミリアは本来の目的を思い出した。
「……。元々、あの子は外来人だ。私はあの子の正体を暴いてどうするか決めようと……そうだ、あの子の正体が結局なんなのかわかっていない。あいつは何かを知っているのかしら」
 鮮血のような紅い瞳は暖炉の火で覆われ、静かな水が流れ出していた。



 
 
 

 
後書き
妹の絵文メインにしようと思ったのですが、天から「まだ早いわ」と一喝されたので、本格的に登場するのはもう少し先になります。
絵文などのイラストも近いうちに出しますっ!
 
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