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東方幻潜場

作者:月の部屋
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5.『歯車』

 
前書き
 ……?
 何かが私に告げている。
 嫌な予感がする、と。
 月の使者でも来るのだろうか。私にここまで警戒させる者は、月の民ぐらいしかいない。それ以外に考えられない。スキマ妖怪と博麗の巫女を除けば、だが。しかしあの二人が今更私に敵対するとは考えにくい。
 そういえば昨日、スキマ妖怪がここに来た。いつもはほとんど、何かをむさぼりに来るだけなのだが、あの日は何やら真剣だった。近いうちに何かが起こるとだけ言い残して去っていったのだ。
 正直、あの妖怪が何を考えているのか私でさえわからない時がある。さすがは妖怪の賢者とでも言うべきか。
 ……あの子を通して、無数にいる部下たちに情報収集をしてもらいましょうか。


 

 
「……」
「ふにゃ~……」
 東はナイフ地獄を見て、あまりに予想外の事態に混乱して失神していた。
 しかしメイドは攻撃は続けた。ナイフの形状をしてはいるが、弾幕の一つにすぎないため当たったところで死にはしない。
「(さすがに、やりすぎかしら、まだ幼い子供相手に……。しかし、お嬢様に何かあってはいけない。これで一応、この子が安全であることはわかる。あぁ、嫌われたかしらね。……。……!?)」
 攻撃が終わって、あることに気付いた。
 降り注いだはずのナイフが、すべて東を避けていたのだ。
 しかしメイドは特に気にすることなく、むしろ感心していた。
「……。……なるほど、身を守るためのなにかしらの能力は持ってる、ということね。それぐらいなきゃ、ここで生きていくのは無理ですものね。一応、合格ということにしておきましょうか」
 メイドは、まったく気付いていなかった。
 東の能力は、二つある。
 一つは、あらゆるものを見抜く程度の能力。
 もう一つは、あらゆるものに見抜かれない程度の能力。
 どれも発動していなかったのだ。
 あるいは、どれかの能力が応用されていたのかもしれないが。
 どのみちその二つの能力には、とてつもなく大きな根があることを東も知らない。
 
 歯車は既に動き始めていた……。



「ほら、起きなさい。こんなところで寝てたら風邪ひくわよ」
 東が気を失ってから最初に聞こえた声。
 それは、レミリアのようなカリスマある声ではなく、フランのような無邪気な声でもなく、もっと落ち着いた、いわば知識人のような声だった。
 目を開くと、寝巻きのような恰好をした少女がいた。片手には分厚い本を持ち、羽の生えた赤毛長髪の少女を連れている。
「んぅ……」
「さっきレミィが言ってた子かしら。……あら、手が冷たいわね。紅茶でも飲む?」
 廊下は風通しがよく、冷えていた。たしかに寒かったので、言葉に甘えてこくりと頷いた。
「(この人は……いや、まだ判断材料が足りない。レミリアの友人だということはもう口ぶりからわかるが、それ以外はもう少し様子を見よう)」
 少女、パチュリー・ノーレッジは「案内してあげる」と言って歩き始めた。
 何百歩と歩いたところでようやくたどり着いた。
「けほっ……。……ここよ、どうぞ」
「失礼しまぁす……」
 大きな扉を開けると、本棚がずらりと並んでおり、まさに書物の宝庫と言えた。
「(こんな大きな図書館があったとは……!しかしこれは、知識を取り込んで色々と活かせるチャンスかもしれない!)」
「すごぉい!本がこんなにっ!」
「あら、読書好きなの?」
「うんっ!」
「いい趣味持っているわね。何見てもいいけど、汚したり破いたりしちゃだめよ?」
「はぁい!」
 パチュリーは、おそらく本を“読むこと”が好きなのだと思っていた。文字を見て、絵を探して楽しむというのが、子供の“読書”なのだと推測したからである。
 しかしそれは大外れであった。
 東は本を読むだけの知識があり、さらに能力『あらゆるものを見抜く程度の能力』を応用することによって、どんな言語であろうと、文字自体は読めなくても内容を理解できるのである。
「(ここにあるのは、おそらく全部洋書だな。バレないように暗号が散りばめられているようだけど、僕には通じない。……これは、水と火の魔法を組み合わせた実験記録か)」
 東は、魔法を使おうとは思っていなかったが、いざ戦闘になった時に役に立つ可能性があったのでひたすら読み続けた。
 東は自覚していないが、彼の学習能力と暗記力は優れていた。
「へぇ……洋書がそんなに面白いのかしら」

 もう、かれこれ三時間が経とうとしていた。
 その時。
「東ぁ~っ!」
「ふぇ!?」
 どこからか、フランが東に抱き着いてきた。
 一見なんてことない微笑ましい光景。
 しかしパチュリーの目は、違和感を見逃さなかった。
「(その気がないとはいえ、なぜあの子のホールドをあんなまともに喰らって何のダメージを受けない?そこそこ頑丈な妖精メイドでさえあれを喰らったら弾け飛ぶのに)」
 紅魔館の頭脳とも言われるパチュリーの思考は、そこで止まった。
 諦めたのではない。
 東のことを調べようとした途端、考えていたことがすべて消え去ってしまったのだ。
「あの子……一体、何者なの?」
 東は、黙々と本を読み続けた。
 真っ白な紙に塗りつぶされたアルファベットを見つめてはすぐにめくり、めくり、また一冊読み終えた。
 そしてまた、違う書物を取り出し、読む。
 パチュリーは今までに感じたことのない奇妙さと恐怖を覚えていた。
 
 

 
後書き
次回、東の妹が主に出てきます。たぶん。
妹ほしいなぁ(小声) 
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