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一発ネタ
テイルズオブ転生者
前書き
TOFのラスボスに転生した凡人の話。
○月×日
テイルズオブファンタジア(TOP)というゲームをご存じだろうか?
由緒あるテイルズシリーズの初代であり、傑作である。まさに、原点にして頂点!
その中でも一番大好きなキャラクターは――ラスボスであるダオスだ。
というわけで、俺の名はダオス。
デリス・カーラーン最大の王国エリュシオンの王子だ。
俺には誰にもいってない秘密がある。
それは――。俺が転生者だということだ。
人に言えないのは結構ストレスがたまる。だから、今日から秘密の日記を書くことしにた。
転生した理由は、神が俺を間違えて殺したかららしい。
当然、怒るところだが、俺はむしろ歓喜した。
何の変哲もない平凡な人生を送ってきた俺にとって、転生して俺TUEEできるのは魅力的だったのだ。
転生特典について聞かれたので、ダオスの力が欲しいと頼んだ。
そして、今に至る。
たしかにダオスの力を手に入れたが、ダオスそのものになるとは思わなかったぜ。
イケメン王子で魔力も力も圧倒的、結果オーライだな。
●月▽日
デリス・カーラーンには暗雲が立ち込めている。
理由は、魔科学文明によるマナの枯渇だ。
マナが枯渇すれば、デリス・カーラーンの生物は全て死に絶えることになる。
各国は必死で解決策を探しているが、どれもうまくいっていない。
誰もが焦っていた――。俺を除いて。
俺の出番キター!!
原作のようにファンタジア世界に飛んで、ぱぱーっと世界樹から「大いなる実り」を貰えばいい。
これで、俺はデリス・カーラーンの英雄となり、ハーレム王として酒池肉林の日々を過ごすのだ。俺マジ天才!
●月◆日
俺の前で、父ちゃん、母ちゃん、兄弟たち、フィアンセ、そして多くの臣民が涙を流しながら見送りにきている。
俺が出した、異星からマナを持ってくる案は、万策尽きていたデリスカーラーンの人間にとって、最後の希望となった。
けれども、誰が行くのかでもめた。異星「アセリア」に送る人数は人間一人が限界だったからだ。
やっと見えた最後の希望だが、成功率は限りなく低いと言わざるを得ない。
そ・こ・で! 俺が行くと宣言したのだ。
そして、原作知識を持つ俺は知っている。命を削らなくては,アセリアに人を送ることはできないというこを。
覚悟を決めた表情で、俺を送ると言い放ったフィアンセはまじでかわいい。
こんなこともあろうかと! と、生まれてからずっと研究していたエコロジーな転移術を提供。
俺のもつ膨大な魔力なら、一人も犠牲を出さずにアセリアに行くことができるのだ。
この秘策を授けたときの、みんなの顔ったらなかったね。ぽかーん、としてやんの。
そうしたらさ。俺の偉業を称える声であふれかえった。フィアンセの百面相が見れて俺は満足だ。
だって――。だって、正史では、俺を送るために犠牲になったんだからね。
むろん、即位したばかりの王(ちょっと前に即位した)が直に行くなど、大反対にあったが、粘り強い俺の説得によって、沈静化した。
俺なら原作を知っているし、少しでも悲しい未来を救いたいんだ。
表向きは、俺が、デリス・カーラーンで力と魔力で最も優れているからとしたが。
見送りに来た人々に決意を込めた表情を浮かべながら、内心でほくそ笑む。
これから、俺の英雄伝が始まるのだ! いざ、ファンタジアの世界アセリアへ!
×月※日
やってきまして別の星。
ただ、この星の魔力は急速に減衰している。
理由は、人間たちの新たな技術「魔科学」だ。
マナを大量に消費する技術は、人間たちの生活に革命をもたらしたが、マナはどんどんと減って行った。
世界樹ユグドラシルが生み出すマナの量と消費量が釣り合っていないのだ。
前世の環境破壊と一緒だな。人間はどこにいっても変わらない。
このまま放っておけば、デリス・カーラーンに十分な「大いなる実り」を持ち帰ることができない。
だから、魔科学のメッカであるミッドガルズに魔科学の使用をやめるように言えばいいのだ。簡単だぜ。
×月◆日
くそっ、くそっ!
ミッドガルズの人間どもめ! 俺の忠告を無視しやがった。
「マナの産出量に見合った消費量に抑えましょう」という俺の常識的な意見が受け入れられなかったのだ。
待て待て、焦るのはまだ早い。魔科学によるマナの減少で一番困るのは、ミッドガルズなのだ。
きっと、俺の意見を受け入れてくれるだろう。
?月&日
この星に来てから5年がたつ。
あの手この手でミッドガルズの魔科学の使用をやめるように働きかけているが、全くうまくいっていない。
ま、なんとかなるさ。
なにせ俺はチート転生者ダオス! この程度の障害へじゃないぜ。
¥月*日
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
どうすればいい!
あれから10年もっ経ったのに何もうまくいっていない。
いや、それどころか、魔科学がさらに発達し、事態は深刻化している。
魔科学の危険性をきちんとしたデータを使って説明し、俺の身体を実験体として提供するまでした。
そこまでしたのに、ミッドガルズの人間どもは、まったく変わらなかった。
いや、俺のデータを使って、ますます魔科学は発展しようとしている。そこに、環境保護の文字はない。
俺は勘違いしていたんだ。
ダオスとして生まれ、王子として敬われ、俺はすごい存在になったんだ――。そう俺は思ってたんだ。チート転生者だから何をやってもうまくいくって。
このままではデリス・カーラーンのみんなが死滅してしまう……。
どうすればいい、どうすればいいんだよぉ。
俺は、ゲームでかっこよかったダオスじゃない。
ダオスに転生しただけの平凡な高校生だったんだ。
俺、バカだから何すればいいのかわからないよ。
(以下、涙で濡れて読めない)
@月&日
ひらめいた!
俺はダオスじゃないけれど、ダオスになり切ることはできるんじゃないか?
史実のダオスは、いろいろと失敗したけれど、最後は大いなる実をデリス・カーラーンに持って帰れたじゃないか。
俺頭良くないからよくわかんないけれど、史実のダオスに沿って動けば、何とかなるかもしれない。
もし、俺が首尾よく世界を征服できたら、それでよし。
世界の支配者として、エコロジーな社会を作ればよいのだ。
仮に、正史通りクレスたちに倒されても、それはそれでよしとしよう――死ぬのは怖いけどな。
けれど、俺の帰りを待っている皆を救えればそれでいい。
よーし、さっそく魔族を招集して魔王軍つくるぞー。
L月?日
とうとうこの日が来た。
宿敵クレス・アルベインたちが、俺の最後の城にやってきたのだ。
色々とあくどいこともやったが、そのたび母なる故郷に残した大切な人たちのことを思い出しながら、歯を食いしばって生きてきた。
世界を支配し、エコロジーな社会を作ろうとする俺の野望は、ことごとく打ち破られてきた。
いろいろな出会いと別れがあった。モリスンしかり、クレスしかり。
中には、魔科学の危険性を知り、俺に協力しようとしてくれた人間もいた。
魔王軍? まあ、あいつらの目的は天界への進攻だからな。ギブ・アンド・テイクってやつだ。
俺に心酔して、仕えてくれた奴もいるけれどな。
俺は死ぬだろう。死力を尽くしてクレスたちに立ち向かおうとしたが、ことごとく粉砕された。
いっそ清々しいほどに、彼らは強かった。仲間とともに冒険を続ける彼らをみて、少しだけうらやましく思う。
結局、俺は一人だった。ウィノナは……彼女のことはあまり思い出したくない。
最期の戦いだ。手を抜く気はない。手加減できる相手ではないし、全力で戦わなければ、彼らに失礼だ。
俺が勝てば、世界を征服して大いなる実りを待ってから、持ち帰ればいい。
俺が負ければ、世界樹の精霊マーテルが、俺の遺体とともに、デリス・カーラーンに大いなる実を届けてくれる。
正直、勝てる気はしないけれどな。チート転生者も主人公には敵わなかったか。
父ちゃん、母ちゃん、かわいい兄弟たち……俺なんかに希望を託してくれたデリス・カーラーンの皆。
そして、かわいい俺のフィアンセ。
俺がんばったよ。いっぱいいっぱい頑張ったよ。
あと少し、あと少しの辛抱だからね。
俺はそっちに行けないけれど、皆の幸せを願ってる。
俺の願い…みんなの祈り…俺はまだ戦える!
◆
それは神々の戦いだった。極大魔法が飛び交い、光の矢が降り注ぎ、精霊が力を振るい、そして――時空を切り裂く剣技が舞う。
彼らのパーティーに相対するのは、たった一人。世界を滅亡させんとする魔王だった。
彼も負けていない。レーザーを放つと、時を止める。それでも敗れた。
「気を付けて、ダオスはまだ死んでいない!」
「神よ! 母なる星デリス・カーラーンの神よ! 我に力を! 我に力を!」
人の姿で敗れると、巨大なモンスターの姿になってまで抗戦した。そして、最後は、白い羽を生やし、天使のように天空を舞った。
なんという魔力だ、とハーフエルフの少女アーチェ・クラインは思う。
同じ魔法を使う身として、あれだけの魔力を制御するなど、人間業とは思えなかった。
そして、この魔力、星の魔力。果てしてよこしまな人間に、星の神が加護を与えるのだろうか?
何が彼をこうまで駆り立てているのだろう。
「私の願い…民の祈り…私はまだ戦える!」
リーダーの剣士クレス・アルベインは、戸惑っていた。
時空を切り裂くほどの超一流の剣士として成長した彼が、戦いの中躊躇することはない。
しかし、内心違和感を感じていた。こうして切り結んでいても、邪悪な気配を感じないのだ。剣を交えれば、相手の感情がわかる。彼はその境地に達していた。
目の前のダオスからは、世界を滅ぼすどころか、世界を救いたいという切実な願いを感じ取ったのだ。
国を滅ぼされた。故郷を焼かれた。ダオスは悪事を働いている。多くの悲劇を生んだ。
けれども、無関係な人間を巻き込まないようにしていることにも気づいていた。
「わ、私は死ぬのか」
心優しき治癒師ミント・アドネードは、尋ねた。
彼の本当の目的は何なのかを。異なる星デリス・カーラーン。滅び。魔科学の危険性。大いなる実り。
それに激高するチェスター・バークライトの反応も当然だ。ダオスがこのアセリアで多くの人間を犠牲にしたのは事実なのだから。
目の前で両親を操られ殺された藤林すずのような人間だっている。
パーティーの最年長であるクラース・F・レスターは、瞑目していた。
彼とて、ダオスのちぐはぐさには気づいていた。お互い譲れないものがある。
どちらが正義で、どちらが悪なのかは、相対的なものなのだろう。
デリス・カーラーン人にとって、自分たちこそ、救世主を邪魔する悪党なのかもしれない。
ミントは祈った。いや、その場の全員が祈った。
たとえダオスが悪であろうとも、彼が救おうとした人々がいたのだ。
世界をアセリアを救おうとした彼らにとって、滅びを迎えようとしているデリス・カーラーンも等しく救いの対象だったのだ。
そして――
――奇跡は起きた。
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