息抜きも
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
9部分:第九章
第九章
「わかったわね」
「うん、それじゃあね」
登志夫は直美の言うまま心持ち右に的を撃ってみた。するとだった。
当たった。見事にだ。
「よし、ゲットだね」
「あれ何なの?」
「何って。ベルトじゃない」
見ればだ。特撮のヒーローが変身する時に使うベルトだ。それであった。登志夫はずっとそれを狙って射的を続けていたのである。
「それだけれど?」
「おもちゃを狙ってたの」
「コレクションしてるんだ」
にこやかに笑ってだ。直美に話した。
「あのシリーズのベルトね。集めてるんだ」
「子供みたいね」
直美は彼のその話を聞いてすぐにこう述べた。
「それって」
「いやいや、これがね」
「違うっていうの?」
「ロマンなんだよ」
そのにこやかな顔での言葉であった。
「これはロマンなんだよ」
「ロマンって?おもちゃを集めることが?」
「コレクションだよ。それを揃えることってね」
「それがロマンなの」
「男のロマンだよ」
まさにそれだというのである。
「それなんだけれどね」
「全然わからないわよ」
直美は眉を顰めさせてすぐに反論した。
「何でそんなのがロマンなのよ」
「あれっ、そういうのわからないかな」
「わからないわよ。何よロマンって」
「コレクションを揃えることがだよ」
「無駄じゃないの?」
「一見無駄に見えても」
違うと。そう主張するのだった。
「そうじゃないんだよ」
「無駄よ」
直美はその言葉をすぐに否定した。
「そんなことしてもよ」
「楽しいよ」
「楽しいって?」
「そうだよ。楽しいよ」
登志夫はまた直美に話した。
「そうして揃えていくのもね」
「所詮遊びじゃない」
これが直美の考えだった。コレクションを揃えることを遊びと言ってだ。それで卑下していた。そのことを実際に言葉に出していた。
「そうじゃない、結局は」
「そうだよ。遊びだよ」
「遊びの何がいいのよ」
眉を顰めさせての言葉だった。
「何がいいのよ」
「何がって」
「そうよ。まずは勉強」
彼女らしい言葉だった。
「それにきちんとした生活を送る」
「規律正しくね」
「そうしないと駄目よ。しっかりしないと」
「いやいや、そこにね」
「そこに?」
「遊びを入れるんだよ。あえて」
登志夫はだ。柔らかい感じで話していく。その硬い直美にだ。
「それがいいんじゃない」
「あんたは遊びだけでしょ」
「そうかもね」
笑ってだ。彼もそれは否定しなかった。
「ひょっとしたらね」
「ひょっとしたらじゃなくて全部そうでしょ」
「だって。いつもきっちりしていてもね」
「していても?」
「息が詰まるじゃない」
こうだ。直美の怒っているような顔を見て話した。
ページ上へ戻る