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息抜きも

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4部分:第四章


第四章

 それを全く気にしないで聞き流す登志夫を見てだ。周りは言うのだった。
「何ていうかなあ」
「あいつも凄いよな」
「ああ、全くだよ」
「どういう奴なんだよ」
 ある意味において感嘆していた。
「あの渡部の言葉を無視できるなんてな」
「軽くあしらってな」
「そうできるなんてな」
「完璧主義の対極にある奴だしな」
「だからできるのか?」
 こうも考えられるのだった。
「ああして聞き流すことが」
「かもな。まああいつの方がな」
「そうだよな。付き合いやすいよな」
「人間味あるしな」
「渡部さんはなあ」
 また直美の話になる。
「意地悪でもないし気配りもしてくれるけれどな」
「それも何か違うんだよな」
「ああ、やっぱり機械なんだよな」
 直美は性格は決して悪くはない。しかしそれもなのだった。
「だからなあ」
「一緒にいにくいし」
「どうしようもないよな」
「何か話もしにくいし」
「それどころかな」
 彼女の話といえばなのだ。それは。
「向こうから怒ってくるからな」
「もうガミガミとな」
「まさに生徒会長って感じで」
「困るんだよな」
 何処までも人間味がなく付き合いにくい相手と思われていた。そして実際にそうだから余計に悪かった。そうしてそのうえでなのだった。
 彼女自身も孤立、もっと言えば孤高であり続けていた。それについてどうも言わず何も思うところはなかった。しかし登志夫はなのだった。
 ある日彼女にだ。こう声をかけたのだ。
「あのね、今度ね」
「今度。何よ」
「御祭り行かない?」
 陽気な声でだ。こう提案してきたのだ。
「どう?今度の日曜日」
「御祭りって何の御祭り?」
「だから駅前の神社のさ」
 そこだというのだ。
「御祭りだけれど」
「ああ、あれね」
「そう、あれに行かない」
 登志夫だけ陽気な顔だ。直美はいつも通り如何にも厳しそうな顔だ。
「どうかな、それ」
「御祭りね」
 直美はだ。彼の話を一旦聞いた。そうしてこう言うのだった。
「わかったわ」
「いいんだ」
「まだ返事していないわよ」
 登志夫が勝手に了承したとしてだ。今の言葉にはすぐにクレームをつける。その速さも驚くべきものだった。やはり直美である。
「そうね。弟達を遊ばせるのにね」
「丁度いいわね」
「ええ。子供の教育には遊びも必要よ」
「だから渡部さんもね」
「私はいいわよ」
 自分はだというのである。
「そんな。遊びなんて」
「けれど御祭りには行くよね」
「子供が遊ぶ時は監督する人間が必要でしょ」
「監督なんだ」
「そうよ。保護者よ」
 まさに如何にもな言葉だった。
 
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