逆襲のアムロ
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19話 それぞれの休暇
* フォン・ブラウン市 ショッピングモール内 3.15
アルビオン隊はフォン・ブラウンに到着すると、シナプスは次の指令が出るまで休暇と訓練を課すことにした。
まずは1週間の休暇を与え、後に5日間の訓練・演習、後に2日休暇。また演習、休暇の様にスケジュールを組んでいた。
フォン・ブラウン市内には数多くのショッピングモールがある。中央省庁に近いブロックが一番栄えており、そこにもショッピングモールが立ち並んでいた。
土日になれば、各ブロックに住むひとや他のコロニーからの買い物客などごった返す人気スポットだった。
そのモールの中に、コウ、キースとモンシアがニナ、モーラ、シモンの荷物持ちとして随行していた。
彼らの腕には既に抱えきれない程の紙袋の束ができていて、それでも買い物を続ける女性陣にキースが音を上げていた。
「も~、その辺にしませんか~」
その声を聞いたモーラがキースに容赦なく言い放った。
「まだ、半分もこなしちゃいないよ。男なら根性をみせな!」
モーラはニナとシモンにこのクロスはどうかと談議していた。
その光景にコウはため息をついた。
「はあ~、全く女性はどうしてこんなに使わないかもしれないのに無駄に買うことができるのだろうか・・・」
その隣で、モンシアが得意げに言った。
「ウラキ君。君は女性というものを知らない」
「はあ・・・」
「女性が好きなもの!それは靴!バッグ!その女性がときめくモノ!それがこのバーゲンだー!」
モンシアは持っている荷物を放さず、両手を広げて叫んでいた。
「この付き合いが後々に響いてくるのだよ。君には悪いが、ニナさんは頂く」
そう言ったモンシアはキリっとした顔をして、コウとキースにアピールをした。
コウもキースも半笑いしていた。
その話を聞いていたのか、ニナよりモンシアにお声が掛かった。
「モンシアさ~ん。こっちに来て~」
「あいよ~、ただいま!」
モンシアはニナの下へ馳せ参じていった。横目でコウとキースにウィンクをして。
モンシアがニナの下へ行くと、ニナは満面の笑みでモンシアに話した。
「モンシアさん。貴方が来てくれてホント感謝してるわ」
「ええ!ニナさんたちのためなら、このモンシア!男冥利に尽きます!」
すると、モンシアの手に更にバーゲン品が追加されていった。
「えっ・・・うおっ・・・ノ~!」
モンシアの額に血管が浮き出て、両腕がプルプルと悲鳴を上げていた。
そして、シモンがとどめの一撃を食らわせた。
「中尉♪これもよろしくね!」
シモンの箱をモンシアの持つ荷物の天辺に乗せた瞬間、モンシアはその場で崩れ落ち、荷物の山に沈んでいった。
* フォン・ブラウン市 アナハイム工場 同日 昼過ぎ
アムロは改修中のアレックスを目の前に腕を組んで立っていた。そこにテムがコーヒーを持って近づいてきて、アムロに差し出した。
「ああ、有難う」
「会うのはしばらくぶりだな。どうだ地球は?」
アムロは貰ったコーヒーを一口付けた。
「・・・っつ、熱・・・いや、酷いもんだ。味方同士で殺し合っている。親父が思い描いていた終戦図とは掛け離れている。地球圏内だけなら連邦の勢力下なんだけどな・・・」
それを聞いたテムは目を落とし、悲しんでいた。
「そうか・・・V作戦から始まり、軍部の増長を招いたみたいだな。浅はかだと思われても仕方がない」
「いや、アレが正常の流れだよ親父」
アムロがテムの責任ではないと反論したことにテムが質問した。
「どういうことだアムロ?」
「過去・・・歴史においても、産業の革新にはいろんな副産物がつきものだよ。この戦争もある技術革新期なのさ。人は豊かになれば、その欲深さは底を見せない。例え、親父がやるやらないにしても、いずれ顔を出したことなのさ」
アムロはテムにそう言うと、テムは少し笑った。
「そうだな。オレ一人が自体を招いたと驕りがあったのかな・・・」
「ああ、驕りだよ。人一人の影響力など、圧倒的なカリスマがない限りは塵に等しい」
「言ってくれるじゃないかアムロ。確かに私は一技術士官にしか過ぎない。元々はあの指令も連邦本部の注文だった」
「だからさ。連邦が今、そう動きを見せていることはごく自然の流れなのさ。それに付き合わせられる市民達はたまったもんじゃないがな」
アムロはひとつ話に区切りを付けて、アレックスの改修についてテムに聞いた。
「そう言えば、渡したサイコフレームとその草案はどう?」
テムはすごく渋い顔をした。
「アレか・・・バイオセンサーを凌ぐ、感応素材ねえ~。テストをしてみないとわからんな。実際の数値を見てみたい。どの信号がどのように刺激されるかを・・・」
「そうだな。色々試してみて欲しい。未知の部分が山ほどある技術だ」
そう未知だった。あのアクシズの時のここまで精神を戻された、その原因の一つではとアムロは推測していた。
「(他に物理的な説明が付かない。オレとシャアの感応波でのこの状況など。人の想いだけで成せる業ではない)」
テムはアムロにアレックスの改修について補足していた。
「ああ、それとなアムロ。ムーバブルフレームも技術的にひと段落が着いた。アレックスの骨組みをキチンと整備しなおそうと思う」
アムロはそれでは既に新型を作るという話だと思い、テムに質問した。
「おもいっきりが過ぎないか?いくらアナハイムの研究開発用の経費とは言え・・・」
アムロの話にテムが手を挙げ、遮った。
「いや、いいんだ。この話は色々複雑でね。この連邦の状態を危惧した議員からの要請でも有って、アナハイムはそれを飲んだんだ」
「へえ~。そいつは渡りに舟だな」
「ああ、確かジョン・バウアーという政治家だ」
アムロはその人を知っていた。かつてロンド・ベルを再編に導いた実力者だった。歴史はまた自分に戦えと言うのかとアムロは感じていた。
テムはアムロに先のアレックス改修の話の続きをした。
「さて、話は戻して。アレックスの骨組みを替える。しかし、設計は継承するよ。各センサー系統も新型技術を入れていくつもりだ。そこでだ。この開発についての主任技師を紹介したい」
「ほう。親父じゃないのか?」
そうアムロが言うと、テムは首を振った。
「私はもはやロートルだよ。技術と人材の革新は早く、そして新鮮なうちにということだな」
しばらく経つとアムロの下へ1人の若手がやって来た。
「アムロ。こちらが若いがこの改修の責任者のオクトバー・サランだ」
オクトバーはテムに紹介されるとアムロに手を差し出した。
「オクトバーです。連邦の英雄に会えて光栄です。地球でのご活躍は宇宙にも届いています」
アムロはその手をしっかりと握った。
「ああ、宜しくお願いする」
アムロは心の中で役者が揃いつつあると感じていた。
* フォン・ブラウン近隣 月面上 アナハイム試験場 3.19
コウは宇宙換装されたGP01フルバーニアンのテストをしていた。
傍で宇宙服を身に纏ったニナが様々な試験を指示していた。
「コウ。そこで急速上昇」
「了解!」
この時期になると、コウとニナは互いに名前で呼び合うようになっていた。
堅苦しいことを抜きにして、試験機を仕上げていこうというニナからの勧めで互いの協力関係の円滑化を図った。
「ニナ!スラスターゲージがもうじきレッドに到達する。オーバーヒートするぞ」
「わかったわ。一旦レベルをゼロにして、慣性での飛行を・・・」
「よし!」
ニナの隣にモーラが座ってガンダムを見ていた。モーラが感心していた。
「へえ~。彼の生真面目さはいいねえ~。ガンダムを自在に操り始めてきたんじゃないの?」
ニナは鼻を高くして、モーラに言った。
「そりゃそうでしょ。指導がいいからね!」
そのニナの自慢にモーラはからかった。
「指導ねえ~。あのコンビネーションはこの指導だけなのかな~」
そのモーラの発言にニナが真っ赤になって怒った。
「っ!それどういう意味よ!」
ニナの怒りにモーラは両手を軽く上げあしらった。
「はいはい。まあ、色々あるさ~。なあキース」
モーラがそう呼びかけると後ろよりキースがモーラの下へ寄ってきた。
「呼んだかいモーラ」
その関係は友達の上をいくような親しみだった。そのことにニナは唖然とした。
「貴方たち・・・いつの間に・・・」
その反応に2人とも笑った。
「まあ、色々あるのさ」
「そう、ニナさんもこういうご時世なんだから、色々考えてみたらいいんじゃない」
ニナは深くため息を付き、再びコウへ指示を出した。
その30分後、3機のジム・カスタムがやって来た。
目的はガンダムとの模擬戦であった。
ルール説明はニナが行った。
「いい!各機ペイント弾を持ったね。3発受けたら終了だから」
コウは目の前のジム・カスタムらに緊張した。
乗っているパイロットがアムロ、バニング、アレンであったからだ。
バニングは模擬戦とは言え、アムロと戦えることに高揚していた。
「レイ大尉と戦えるとは思いもよりませんでした」
そうバニングが言うと、アムロは謙虚に話した。
「お手柔らかに、バニング大尉」
アレンも2人の偉大なパイロットを目にして、気合いが入っていた。
「よし!自分の実力が図れる良い機会だ」
アレンはそう自分に言い聞かせていた。
コウはマニュアルを読み漁っていた。緊張を解す為だった。
それに気が付いていたニナはモニター通信でコウに語り掛けた。
「コウ。マニュアルを外しなさい」
コウはその問いかけにビクっとした。
「なんだ、ニナか。集中しているんだ」
ニナは再びため息を付いて、コウを窘めた。
「いい?コウ。実戦にはマニュアルはないの。テストに教科書は持ち込めないでしょ!勉強の成果を目の前だけ見て、集中するの。わかった?」
コウはニナの言うことがごもっともと思い、すぐさまマニュアルをしまい、すーっと精神を落ち着かせていた。それを見たニナは笑みを浮かべ、心の中で「それでよろしい」と思った。
「では、模擬戦を始めます」
ニナが各機にそう伝えると、各機それぞれ動き始めた。
* オーガスタ研究所 3.25 14:00
シャアは再びアメリカへ戻っていた。ハヤトたちはオーストラリアに居たままだった。部隊もそちらに置いてきていた。不測の事態の為にということだった。
シャアはアメリカに戻ってきた時は必ずオーガスタ研究所に寄るようにしていた。
その随員として、カイとセイラが便乗していた。
施設はサナトリウムの様で自然に溢れた屋内であった。
その屋内を見たカイとセイラは感嘆していた。
「すごいな。こんな大きな箱ものに自然を取り入れるなど、よくわからんが、すごい・・・」
「ええ、兄さんはここへは何度も来ているのですか?」
セイラがシャアに尋ねると肯定した。
「ああ、ララァが研究しているからな」
カイはその研究者について質問した。
「ララァさんとは?」
シャアはさてどう話していいものか分からなかったが、一応説明を試みた。
「カイさん・・・ララァは私をジオンや復讐という呪縛から解き放ってくれたひとだ。その存在は私の勘でも、超越者と言っていい程、浮世離れしている。そのララァがある技術の完成を目指している」
セイラはシャアの話でララァという存在が兄を救ったひとだと認識し、一目会いたいと思った。
「兄さん。ぜひララァさんにお礼が言いたいわ」
セイラがシャアにそう言うと、シャアは少し笑い了承した。
「ああ、私も会わせたいと思っていたからな」
そして3人は奥の方へ進むとある部屋に辿り着いた。
シャアはそのドアを開けて入ると、そこはドーム型の明るい自然が溢れた空間で、動物たちがある1人の女性の周りを囲んでいた。シャアはララァに呼びかけた。
「ララァ。またお邪魔するよ」
ララァはシャアの声を聞くと、静かに立ち、シャアに向けて笑みを浮かべた。
「まあ、大佐。またいらしてくれたのですね」
ララァはシャアの傍へ歩み寄ってきた。
カイとセイラはその立ち振る舞いに息を飲んだ。
「神々しいと言うべきなのか・・・」
「そうね・・・何か人とは違う気が・・・」
カイもセイラも神など信じてはいなかったが、居たとすれば、このような独特の雰囲気なのかもしれないと思った。カイはララァに近寄り手を差し伸べた。
「カイ・シデンと言います。ジャーナリストをしております。ララァさんにお会い出来て嬉しいです」
ララァは笑みを浮かべて、カイの手を握った。
「こちらこそ。こんな私なんかに会いたいなんて稀有ですわ」
セイラもカイに倣って、手を出した。
「兄がお世話になっております。セイラ・マスと申します。兄の呪縛を解いてくださってありがとうございます」
ララァはセイラを見て、同じく笑みを浮かべてセイラの手を取った。
「宜しくお願いしますセイラさん。大佐は良い妹さんをお持ちで」
「大佐?」
「フフフ・・・あまり気にしないでください。私が好きで呼んでいるだけです」
ララァは優雅に微笑んだ。シャアはため息を付いた。
「ララァ。あまり妹をからかわないで欲しい」
「あら?お気に召しませんでしたか大佐」
「ふう・・・ララァは全く・・・」
ララァはクスクスと笑い、カイは唐突ながらも知りたい本題に入った。
「シャアさん。早速ですが、ララァさんの研究を見学したいのですが・・・」
カイがそう言うと、シャアはララァへ了解を求めた。
「ララァ。私もここに寄る意味としても、1つ実験の進捗を知りたいのだが、一緒に付き合わせても構わないか?」
ララァは快く受け入れた。
「ええ。元々、平和利用のための技術ですから。どうぞ」
そう言って、ララァは実験室へ足を運び、その後ろに3人が付いて行った。
ララァはいつもの実験室でいつものブースに収まると、その中で念じ始めた。
その記録、観測をナナイがモニターで見ていた。
「・・・毎回試験することに数値が上がっていきます。周りのサイコフレームの共振が上限まで行ってしまって、技術部がサイコフレームの改良に四苦八苦しています」
ナナイがシャアへ愚痴をこぼしていた。シャアはその共振について詳しく聞いた。
「ナナイ。その共振はどういうものだ」
「ええ、サイコフレームがララァの脳波を受け取り、チップ自体が微動しています。そのチップ周囲の空間がその微動に反応して、動きを止めています」
カイはその説明に質問した。
「私は学者じゃないからわからんが、動きが止まると何か意味があるのかな?」
ナナイはコクリと頷いた。
「ジオンのフラナガン機関は既にサイコミュの実戦投入をしていると聞きます。サイ・コミュニケーターが砲撃の遠隔操作を可能にしていると聞きます。サイコフレームもそのコミュニケーターの一種ですが、あらゆる側面からしてもララァの装置の精度は群を抜いていると考えます」
カイは黙って、ナナイの説明を聞いていた。
「彼らの兵器利用はその兵器のみと限定されていますが、ララァの技術開発はいわば周囲、フィールドと考えて良いでしょう」
「サイコ・フィールドか・・・万有力学を無視しての作用・・・」
カイがそう呟くとナナイは頷いた。
「そうです。ララァの技術は武器を持たずして、防衛可能とする技術を生み出そうとしていると仮定しています」
「なるほどね・・・」
カイはそう言うと、ブースに入ったララァを見ていた。
その3人の後ろよりある人物が入室してきた。
「ほう。ここがそうか」
3人ともその声を聞いて振り返った。
シャアは誰だか分からなかったが、カイとセイラは驚愕した。
「!・・・何故・・・お前がここに・・・」
カイはその訪問者に身構えていた。連邦の軍章を付けた白い軍服に身を纏ったシロッコだった。
シロッコはカイの質問に嘲笑うように返答した。
「何故かって、ここは連邦の勢力圏だ。私が居ても特別問題なかろう」
カイとセイラはシロッコのふてぶてしさに苦虫をつぶしたような表情を見せた。その反応にシャアは招かざる客だと判断した。
「お初にお目にかかる。私はシャア・アズナブルという。貴官は?」
シャアが自己紹介すると、シロッコも丁寧に自己紹介をした。
「これは、且つてのジオンのエースにお目にかかれるとは光栄です。パプテマス・シロッコと申します」
シロッコはシャアに手を差し伸べた。シャアも礼儀として握手を交わした。その瞬間、シャアはシロッコにおぞましいものを感じた。
「(なんだ・・・この悪寒は・・・)」
シロッコはガラス越しにララァを見ていた。そしてシャアに質問をした。
「話に聞いている。実に有意義な研究をしていると・・・」
シロッコの発言を警戒しながら、シャアは返答した。
「ええ、ララァの技術はこの施設の中と同じく穏やかな技術です。兵器利用とは程遠いものですが・・・」
「しかし、感応波が周囲へ働き掛けることができると聞く。集約すれば、それはサイ・コミュニケーターにも活かせるのでは?」
「その研究は軍にお任せしますよ。我々は一民間機関です」
シロッコはシャアの答えに同意した。
「そうだな。日本のムラサメ研究所が割と先端行く開発を行っているらしいからな」
そう言って、シロッコは部屋の出口に向かった。
「カイくんにセイラくん。久々に会えて懐かしかったよ」
その言葉にカイは毒ついた。
「ほう。味方殺しのお前が懐かしむ相手か?」
シロッコは高らかに笑った。
「ハハハ・・・まあ昔のことだ。別に何とも思わんさ」
そう言ってシロッコは出ていった。シャアはシロッコについて、カイに質問した。
「あのシロッコとは何者だ?」
カイは一息ついて、シロッコについて説明を始めた。
「シロッコは、元ホワイトベースクルーであり、レビル将軍の暗殺の張本人さ」
「なんだと!」
セイラがカイの代わりに説明を続けた。
「ええ、シロッコはカイの恋人のミハルさんを使い、自らの出世のために味方をも利用する卑劣漢よ」
シャアは2人の憤りを見て、決して交わることのない人物だと認識した。
シロッコはオーガスタ研究所の外で外観を見ていた。
そして含み笑いを始めた。
「(やっとだ。アムロから感じ取っていた勘がどうやらここに来て実を結んだらしい。あれが私の求めていたものだ)」
シロッコは目的の代物を3年という月日の下ようやく探し出せたことに満足感を得ていた。
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