戦国異伝
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第二百三十三話 本能寺の変その十
「それでじゃが」
「はい、後詰ですな」
「その者ですな」
「誰がすべきか」
二人に問うたのはこのことについてだった。
「それが問題じゃが」
「それならです」
すぐにだ、慶次が笑って信忠に申し出た。
「それがししかおりませぬな」
「御主か」
「退く時の殿程血がたぎるものはありませぬ」
「傾奇者としてか」
「これ以上はないまでに傾ける時ではありませぬか」
「だからか」
「是非共です」
それこそ、というのだ。
「それがしにお命じ下さい」
「いやいや、それはならん」
慶次に対してだ、可児が言って来た。
「後詰はわしじゃ」
「御主だというのか」
「そうじゃ、後詰程よいものはない」
彼もこう言うのだ。
「この槍の見せどころじゃ」
「その腕のか」
「だからじゃ、敵を好きなだけ倒してやるわ」
それでというのだ。
「残るのはわしじゃ」
「ならん、それはわしじゃ」
慶次は可児に正面から言った。
「わしの傾くところは他にあるか」
「幾らでもあるであろう」
「いやいや、こうした時こそな」
「わしの笹を咥えさせる首が幾らでもあるのだぞ」
「待て」
戦をしつつも言い合う二人にだ、信忠が言った。
「それならばじゃ」
「それならばですか」
「お屋形様に思うところがありますか」
「後詰は御主達二人に命じる」
二人共にというのだ。
「一人だけでなくな」
「二人にですか」
「どちらにも」
「だからじゃ」
それでというのだ。
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