神の贖罪
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9部分:第九章
第九章
「随分と苦労されているようですな」
「我等のことを承知だと」
「如何にも」
微笑んで答えてみせてきた。
「その活躍はもう聞いております」
「ではここに来た理由も承知なのか」
「勿論。私が持っている子犬ですね」
「はい」
やはり微笑んで三人に答える。
「その通りです。それではですね」
「それでは?」
「ここは交換といきませんか」
「交換!?」
「そうです。まずは葡萄酒です」
王が最初に言ったのはこれだった。
「幾ら飲んでも尽きることのない葡萄酒。そして」
「そして?」
「山のような豚の肉の馳走と黄金の果実。これだけです」
「ふむ。そういうことか」
ブリアンは王の話をここまで聞いてまずは頷いた。
「それならな」
「ありますな」
「無論」
不敵に笑って頷くブリアンだった。そして他の二人も。
「すぐに。これで宜しいですな」
「ええ、是非共」
王はそれを是非共とまで申し出た。
「御願いします」
「我等にとっては容易いこと。しかしそれでいいとは」
「いえ、それがいいのです」
しかし王はブリアンの怪訝な顔にこう返すのだった。
「それが」
「またどうしてですか」
「病気にならないのですよ」
王が言うのはこのことだった。
「豚や林檎を食べれば。それは素晴らしいことではありませんか」
「ふむ、そうだな」
これは持っている人間にはわからないことだった。実は彼も今の今まで王に言われるまでこのことを忘れてしまっていたのである。
「確かにな。その通りだ」
「では。宜しいですね」
「わかった」
あらためて王の言葉に頷くブリアンだった。
「それでは。すぐに行おう」
「御願いします」
こうして三人はすぐにイローダにおいて大規模な宴を催した。それで彼等を満足させた三人は約束通り仔犬を手に入れた。彼等は次の国に向かいつつ船の上で話をしていた。
「これでまた一つ手に入ったが」
「学ぶところがあったな」
「うむ」
ブリアンは二人の弟の言葉に頷く三人で立ち大海原の遥か彼方を見ている。その先に三人が次に目指す国がある。このことははっきりとわかっていた。
「そうだな。病から解放される。このことか」
「それだけではないぞ、兄者」
「というと?」
ブリアンはヨッハルの言葉に顔を向けた。
「まだ何かあるのか」
「ある。好きな時に好きなだけ食べられる」
「それか」
「これもまた大きなことではないか」
「言われてみればそうか」
弟の言葉を聞いてこのことにも気付くブリアンだった。
「我等はいつもダーザの世話になっているからな」
「そうだ」
ダーザは彼等の中でも重要な神だ。丸々と太った老人で尽きることなく粥が出る釜を持っている。三人もこの釜の世話になり続けているのだ。だから食べ物に困ることはなかったのだ。
「それに気付かなかったか」
「イローダの者達も好きな時に好きなだけ食べているだけではなかった」
ヨッハルヴァもこのことを言う。
「そういえば」
「それに気付いたのも大きなことか」
「病気だけではなかったな」
「確かにな」
「さて、次はだ」
このことを認識したところで遥か彼方に大地が見えてきた。
「着いたぞ。行くぞ」
「うむ、次は」
「槍だったな」
彼等が次に目指すペルシアの国が見えた。この国はこれまでにない大国だ。その大国を支配するのはペルシア王だった。王は厳しい顔で三人の申し出を受けていた。
「あの槍を渡せというのか」
「そうだ」
三人はこれまで通り王の間に案内されていた。王の間はこれまでの王の間よりも遥かに広くそれに豪奢な装飾で飾られていた。まさにそれは大国ペルシアの王のものであった。
そのとりわけ豪奢な部屋においてペルシア王と話をしている。王は相変わらず厳しい顔をして三人の話を聞いていた。ブリアンはその顔から今回の話は困難かと予想していた。
「兄者、今回はどうも」
「雲行きが怪しくないか」
「そうかもな」
王の前で小声で話をするの三人だった。二人の弟達も彼と同じことを感じていたのだ。
「これはな。どうも」
「まずいな、このままだと」
「どうしたものか」
「やってもいい」
しかし王はここでこう言ってきた。
「別にな。それはな」
「いいと申されるか」
「予とて王」
やはりこれまでの王よりも威厳に満ちた声であった。
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