FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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大魔闘演舞
『さぁ!!ついにクライマックスを迎えた大魔闘演舞!!これまでの成績を発表します!!』
チャパティがそう言うと闘技場の中央にある魔水晶ビジョンに下位ギルドから順位とギルドマーク、ポイントが映し出されていく。
『第6位は四つ首の仔犬!!15ポイント!!』
「ふん、まぁ見てなって」
上位にかなり差を開けられてしまっているため観客たちからはあまり期待されているような声援はもらえなかったが、ギルドのエースバッカスはそんなの気にした様子もなく気合いが入っているようである。
『第5位は青い天馬!!30ポイント!!』
天馬の名前が呼ばれたと同時に女性陣から黄色い声援が送られてくる。
「5位か、厳しいね」
「30ポイントかよ」
「大半1日目のポイントじゃないですか」
ヒビキ、レン、タクトの3人が自分たちの現在の立ち位置について険しい表情でそう言う。
「気合い入れ直さなきゃね」
「「「ああ」」」
「はい」
ジェニーの一言でトライメンズとタクトはもう一度気を引き締めようと気合いを入れる。
「なーに、ここからが本番。逆境こそが最大のチャンスの一夜で~す」
一夜は不敵な笑みを浮かべ、妙なイケメンポーズを決めながら、何か策略でもあるのだろうか、キラリと目を光らせる。
『第3位は2つのチームが並んでいます!!蛇姫の鱗と人魚の踵!!40ポイント!!』
「この祭りもいよいよ最終日か、どのギルドも気合いが入っておるのぉ」
ジュラは自分たちと同点3位になっている人魚の踵の方を振り向きながらそう言う。人魚の踵の魔導士たちも蛇姫の鱗の魔導士たちを見据えながら真剣な表情で闘技場に集合している。
「第2位は剣咬の虎!!44ポイント!!』
剣咬の虎の魔導士たちは自分たちのポイントが発表されたにも関わらず何も反応を見せない。そんな彼らの中でスティングは顔をうつ向かせ、何かをじっと考えているようだった。
『そして1位は・・・』
魔水晶ビジョンに赤い妖精のような形のギルドマークが映し出される。
『妖精の尻尾!!45ポイント!!』
6人がいつにも増して真剣な眼差しの妖精の尻尾。現在1位といえども一切の油断はなく、ルーシィを取り戻すために気合い満点である。
そしてその頃、ルーシィの救出に向かったウェンディたちは城に忍び込むための作戦へと行動を移していた。
「こっちは任せろ」
「ルーシィさんのこと、よろしく頼むよ」
誰に言うでもなく、エルザとシリルがそう言う。
『己が武を、魔を、そして仲間との絆を示せ!!』
グレイとジュビアが視線を合わせてうなずき、エルザとシリルも同じように視線を合わせ、ガジルとラクサスは静かに競技の発表を待つ。
『最終日、全員参加のサバイバルゲーム『大魔闘演舞』を開始します!!各チームはそれぞれの待機場所へと移動してください』
チャパティからの指示を受け、闘技場に集結していた魔導士たちは入場した入り口から出ていき、あらかじめ知らされておいた持ち場へと移動していった。
『さてこの最終戦、バトルフィールドとなるのはなんとクロッカスの街全域カボ』
『各ギルドのメンバーはすでに分散して待機しているんだね』
マトー君とヤジマがそう言うと魔水晶ビジョンに各ギルドのメンバーたちがいる場所ご映し出される。妖精の尻尾がいるのはライオンの像の前で何やら最後の打ち合わせをしているように見えた。
『街中を駆け巡り、敵ギルドのメンバーと出会ったら戦闘となります!!相手を気絶、もしくは戦闘不能にするとそのチームに直接1ポイントが加算されます』
『また、各ギルドに1人のリーダーと2人のサブリーダーを設定するんだよねぇ』
『他のギルドには誰がリーダーで誰がサブリーダーなのかわかりませんカボ』
リーダーとサブリーダー2人についてはすでに各ギルドからの申請を受けており、運営側のみが知っている形となっている。ついでに言うと万が一口を滑らせてしまうということがないようにチャパティたち実況席の3人も誰がリーダーとサブリーダーなのか知らされていない。
『リーダーを倒すと5ポイント、サブリーダーを倒すと3ポイントが加算されます。これで最多ポイントの理論値は70!!どのギルドにも優勝の可能性はあります』
『チーム一丸となって動くか分散するのか』
『戦略が別れるところですねカボ』
一通りのルールや注意事項を聞き終えた妖精の尻尾たちはそれぞれの顔が見えるようにと円になり、最後のミーティングに入っていた。
「いいか。私たちは優勝するしかないんだ。ルーシィを取り戻すために」
「ナツさんたちが無事救出してくれれば」
「それに越したことはねぇが」
エルザの言葉にジュビアとガジルがそう言う。
「だとしても、優勝にはもう1つの目的もある」
「俺たちがいなかった7年間、苦い思いをしたギルド仲間のためにもな」
グレイとラクサスが優勝するもう1つの理由について話している。そんな中一言も話さずに、なぜかほっぺたを怒ったように膨らませている人物がいた。
「シリル、いつまでそうしているつもりだ」
「だって・・・」
頬を膨らませてたのは本日の出場者最年少、シリル・アデナウアー。彼はエルザに咎められても納得がいかないような表情でいる。
「俺がウェンディと一緒に救出組にいっても良かったのに!!ナツさんが絶対譲らないって!!」
実は昨日ルーシィの救出に行くものとしてシリルも立候補していたのだが、マカロフにシリルでは欠場していると大臣に不審に思われるが、ナツだと魔力欠乏症が治ってなかったのだと思わせることができるとして拒否されてしまったのである。
「お前、そんなにルーシィに思い入れでもあんのか?」
「いいえ?」
グレイの問いにキパッと答えるシリル。だったらなぜそんなに行きたがっていたのか意味がわからず、グレイたちは顔を見合わせる。
「ただ、ウェンディが行くから行きたかったんです。いや、違いますね・・・」
「?何が違うんですか?」
シリルが自分で言ったことを否定しているのでジュビアが突っ込んでみる。
「問題は・・・問題は・・・
ナツさんとウェンディが一緒に行くってことなんです!!」
「お・・・落ち着けシリル」
エルザの腕を両手でつかんでブンブンと振るシリル。エルザがそんな彼を落ち着かせようと深呼吸させる。
「もし・・・もし何かあってウェンディとナツさんが一緒になったら・・・」
『みんなとはぐれちまったな』
『そうですね・・・』
暗い牢屋のある通路で辺りを見回し、ルーシィたちの姿を探すナツとウェンディ。
すると誰もいないことでナツは何を思ったのか、ウェンディの手を掴む。
『ナツさん?』
『ウェンディ・・・俺もうダメだ!!』
そういってウェンディを抱き締めるナツ。突然のことにウェンディはあたふたしている。
『キャッ!!ナツさん!?私にはシリルか・・・』
『そんなの関係ねぇ!!好きだ!!ウェンディ!!』
さらに体を密着させるナツ。彼は動けなくなったウェンディにキスしようと顔を近づけた・・・
「なんてことになってたらどうしよう!?」
「水の魔導士ってみんなこんな想像力なのか?」
「うわっ!!一緒にされた!!」
「元はおめぇだけどな」
いつかのジュビアのような妄想劇場を繰り広げていたシリルの頭の中。グレイがそれを見てジュビアと似てるという感想を持ち、ジュビアは自覚がないようにそう言い、ガジルがそんなジュビアに突っ込んでいた。
いまだに頭の中で何かありもしないことを考えている様子のシリル。そんな彼の肩にジュビアがそっと手を乗せる。
「大丈夫ですよ、シリル君」
「?」
「海合宿の時に聞きましたけど、ルーシィとナツさんは互いの家に忍び込むくらい仲がいいので、ウェンディもグレイ様も大丈夫ですよ(黒笑)」
「おおっ!!」
明らかに黒い笑顔でシリルにそっと囁いたジュビア。それを聞いたシリルはいつもと同じ彼に戻っていた。
「シリルもジュビアも結構黒いな」
「恋愛ごとになると女はみんなこうなんのか?」
ガジルとラクサスがシリルたちを見てそう言う。さらっとラクサスがシリルを女扱いしていたがシリルはジュビアとの話に夢中で全く気づいていない。
「もう落ち着いたか?」
「はい!!もう大丈夫です!!」
エルザにいつも通り元気に答えるシリル。彼が元に戻るのを待っていたかのように、ドムス・フラウから七色の光が空に昇っていく。
『栄光ある魔の頂きは誰の手に!?大魔闘演舞、開始です!!』
パァンッ
空に打ち上げられていた光が競技の開始を告げるべく爆発する。
「行くぞ!!」
「「「「「オオッ!!」」」」」
エルザの掛け声に5人が答え気合いを入れる。それぞれの想いを胸に、各ギルドの選ばれし魔導士たち計36人が動き出す。
『いやぁ、いよいよ始まりましたね、最終戦』
『うむ』
ネクタイを整えながらチャパティが言い、ヤジマが|魔水晶ビジョンを見ながらうなずく。
『やはり分散ス、各個撃破の作戦を取るチームが多いね』
『みんな頑張るカボ!!』
ドムス・フラウの闘技場の上部に設定されている魔水晶ビジョンに現在映し出されているのは剣咬の虎の魔導士たち。
『1人1人か高い戦闘力を持つ剣咬の虎はやはり分散しています』
他にも四つ首の仔犬の6人や各ギルドの有力選手たちが単独での行動をしている。
単独で行動すると他のギルドのメンバーにより多く出会える確率が上がる。しかし、万一相手が複数や自分よりも格上だとやられてしまうリスクも高いため、強さに自信のある魔導士たちが取る作戦と考えていいだろう。
次に映し出されたのは蛇姫の鱗のトビーとユウカ、青い天馬のトライメンズたち。
『他にも二人一組で行動するものや三人一組もあります』
次から次へとビジョンに映る選手たち。その映像はクロッカスに散らばっている選手たちも見えるのだが、ルーファスが一瞬だけ映ったある映像に驚いている。
「ん?どうしたルーファス」
「動いてない」
「あ?」
屋根の上を飛びながら移動していたオルガはルーファスが何を言っているのかわからない。そしてついに映し出された妖精の尻尾の映像を見てその意味を理解する。
『 ああ!!こ・・・これは!?』
実況のチャパティも観客たちも妖精の尻尾の行動にざわつき始める。彼らがしている行動が、あまりにも不可解だったからだ。
『ど・・・どうしたのでしょうか!?妖精の尻尾、全員目を閉じたまま動いてないぞ!?』
真ん中にいるエルザを始め、その両サイドにいるグレイとシリル、そしてラクサスやジュビア、すぐにでも飛び出していきそうなガジルでさえも静かに目を閉じ、一列になってその場に立っている。
「何やっとんじゃ!?あいつら!!」
「ど・・・どういうこと?」
「知らないわよ。獲物は早いもん勝ちだよ!!早くやっちまいなって!!」
応援席にいるマカロフたちもこの行動に動揺を隠しきれない。しかし、そんな中裸足の少女だけ冷静に彼らの姿を見つめていた。
『えー・・・妖精の尻尾の奇妙な行動は気になりますが』
立ったまま動かない妖精の尻尾から画面が切り替わり、1つの通路で敵と目があった魔導士たちがいた。
「「あ・・・」」
『すでに敵と接触しているものもいるぞ!!』
魔水晶ビジョンに映った最初の戦闘者たちは2人。1人は四つ首の仔犬のノバーリ、その相手は蛇姫の鱗の魔導士レオン。
「やべっ、いきなり遭遇しちゃったよ」
眠たげな目を擦りながらノバーリを見据えるレオン。対するノバーリは一瞬驚いたが、相手がレオンとわかりニヤリと笑う。
「なんだ、こいつならなんとかいけそうだぜ!!」
ノバーリはそう言うと左足を1歩後方に引き、レオンへと駆け出す。
「ワイルドォ!!」
「アイスメイク・・・・・」
レオンが両手を合わせ造形の体勢に入る。しかし、レオンの速度ではタイミングがかなり微妙。果たしてどちらの攻撃が先に入るか。
「天神の・・・」
「「!?」」
2人の勝負と思われた矢先、突然ノバーリの上に小さな1つの影が現れる。
「北風!!」
「フォー!!」
両手に纏った黒い風を操りノバーリを吹き飛ばすシェリア。レオンに完全に注意を向けてしまっていたノバーリは反応することなどできず、地面に白目を向いて倒される。
『シェリアたんだぁ!!四つ首の仔犬ノバーリ選手戦闘不能!!サブリーダーを倒したため、蛇姫の鱗に3ポイントが加算され、単独3位に!!』
同率で並んでいた人魚の踵より頭1つ飛び抜けた形になり、剣咬の虎に1ポイント差で一気に迫る。
「なんだ。どこにいたんだよシェリア」
「偶然レオンたち見つけて、手助けしようかなぁって」
「そう、ありがと」
真顔のレオンと正反対になんだか頬を赤らめているシェリア。レオンにお礼を言われたことがよほど嬉しかったのかもしれない。
「えへへ/////ねぇ、レオン」
「何?・・・ん?」
シェリアの方を見ていたレオン。しかしその後ろの通路を走り抜けていくイェーガーを見つけたレオンはシェリアの話を聞く前にチェックに入ろうと走り出す。だがシェリアはモジモジとしているため、レオンがいなくなったことに気づかない。
「もしよかったら・・・今から一緒に・・・っていないし!!」
シェリアはずっと目の前に入っていると思っていたレオンがおらず、思わず叫ぶ。
「もう!!レオンのバカ!!知らない!!」
シェリアはプンプンしながらその場から離れていく。そんなことなど全くもって知らないレオンは先ほど見つけたイェーガーを追跡しようとしていたのだが・・・
「あれ?どこいった?」
見失っていた。たぶん彼はシェリアのファンを敵に回したに違いないが、そんなことなど彼は知るよしもなかった。
「こんにちは、ベスさん、アラーニャさん」
「げっ!?」
「あ・・・あんたは・・・」
後ろから現れたタクトは律儀にも敵である人魚の踵のベスとアラーニャに挨拶する。
「2対1ではありますが、ここは勝たせてもらいますよ」
「臨むところ!!」
タクトは右手に剣を換装すると、軽々と振り回した後に、目の前にいる2人の女性を襲う。
「ばらの騎士!!」
「「きゃあああああ!!」」
一瞬のうちにやられてしまい、地面に倒れるベスと壁に打ち付けられるアラーニャ。
『ああっと!!人魚の踵のアラーニャ選手とベス選手戦闘不能!!青い天馬に2ポイント加算!!トータル32ポイントに!!』
順位にこそ変動はないものの、上位との差をわずかながらに詰めた天馬。2人を倒したタクトは自慢の長身を生かした広い視野で次なるターゲットを探すべき歩き出す。
『点数が動く動く!!しかし、妖精の尻尾はまだ動きません!!』
「おいエルザ!!」
「早く敵倒しに行けよ!!」
「じれったいね!!もう」
応援席でいまだ動かずのエルザたちを見ているマカオたちはさすがに焦りが出てきてそう叫ぶ。その間にも試合はますますヒートアップしていく。
「凍り付け!!」
「ワイルドォ!!」
リオンが遭遇したセムスを一瞬で氷漬けにし、戦闘不能へと追い込む。
『蛇姫の鱗リオン!!四つ首の仔犬セムスを倒し1ポイント加算!!2位の剣咬の虎に並んだぁ!!』
「どうした?ここまでか?」
「ワイルドォ・・・」
一方こちらでは、ジュラが先ほどレオンが見失ったイェーガーを瞬殺しており、またしても蛇姫の鱗にポイントが加算される。
『続いてジュラがイェーガーを倒し1ポイント加算。トータル45ポイントだね』
『これで蛇姫の鱗が剣咬の虎を抜いて同率1位になったカボ!!』
シェリア、リオン、ジュラの怒濤のポイントラッシュにより3位でのスタートだった蛇姫の鱗が1位の妖精の尻尾に並ぶ。まさかの展開に会場は大盛り上がりである。
「聖十のジュラがいる限り、ラミアの負けは想像できねぇ!!」
「誰があいつを倒せんだよ!!」
マカオとワカバの言う通り、絶対的な魔導士であるジュラを擁する蛇姫がかなり優位に立っているように思える。
「そういうこと。ジュラとリオンがいるから俺たちは無敵だな」
「オオーン?シェリアもレオンも強いよ!!」
「キレんなよ」
ユウカとトビーがいつものように漫才をしながら敵を探すためにクロッカスの街を走り抜けている。するとその2人の前に1人の男がヨロヨロと現れる。
「そいつはどうかな?」
『ああっと!!ラミアのトビーとユウカの前に現れたのはなんと!!』
「バッカス!!」
「無敵だよ!!」
現段階ですでに3人のメンバーを失っている四つ首の仔犬のエース、バッカス。彼は例によって酒にかなり酔った状態で彼らの前に姿を見せた。
「ヒック。2対1ね、分は悪ぃが、魂が震えてくらぁ!!」
バッカスは2対1の数的不利など一切気にすることなく、トビーとユウカを見据える。
「やるしかねぇか」
「オオーン!!」
ユウカとトビーも強敵相手に怯むことなく戦闘体勢に入る。
「ここで静かに寝てろや・・・」
ピカーン
「あ?」
自身の後方から何かを感じたバッカス。彼が振り返るとそこには拳を構えたブロンドの青年が迫ってきていた。
ドゴォ
あまりにも突然の攻撃だったため、反応することなどできるはずもなく、地面に顔を埋もれさせられるバッカス。
『スティングだぁ!!突如現れたセイバーのスティングが四つ首の仔犬のリーダーバッカスを撃破!!』
リーダーを倒したことにより、最終日のルールに基づき剣咬の虎に5ポイントが加算される。
『トータル49ポイント。逆転だぁ!!最強ギルド剣咬の虎が一気に1位に躍り出たぁ!!』
「ああああああああ!!」
一時的に3位に後退したものの、すぐさま逆転してみせたセイバー。マカロフはそれに顎が外れるのではないかというほど口を大きく開け、ショックを受けている様子だった。
「やられた!!ちくしょお!!」
「こうなったら2人がかりでこいつやっつけんぞ!!」
スティングを仕留めてなんとか流れを引き戻そうとしたユウカとトビー。だが2人の後ろから突然紫の煙が流れてくる。
「な・・・なんだこりゃ!?ぐおっ!!」
「前が見えねぇ!!おわぁっ!!」
突如響き渡る2人の悲鳴。煙が晴れると、そこにいたのは気絶しているユウカとトビー。そして煙が人型の体に変わっていき、紫色の髪の男が出来上がる。
『グラシアンが来たぁ!!ユウカ選手とトビー選手を破り、2ポイント獲得!!剣咬の虎がジリジリと引き離しにかかっているぞぉ!!』
煙の正体は三大竜の1人、グラシアンだった。グラシアンとスティングは軽く視線を合わせると、一切の言葉を交わすことなく次なるターゲットを見つけるためにその場を後にする。
スパァン
「ぶはぁっ!!」
スティングとグラシアンが連続ポイントを奪取していた頃、別の場所ではカグラがウォークライを一瞬で落とし、1ポイントを獲得していた。
「ドリルンロックフォーユー!!」
腰に剣を持っているカグラに対し、仲間をやられた仇と言わんばかりにロッカーが腕を回転させて飛び込んでくる。
しかしカグラはそれに瞬時に気づき、ロッカーに対して鞘に納めた剣を―――
「何カグラさんに近づこうとしてんのよぉ!!」
「おぶしっ!!」
「・・・」
抜くことなく、どこからともなく現れたソフィアが上段蹴りでロッカーを粉砕する。
『ソフィアだぁ!!四つ首の仔犬のサブリーダーロッカーを倒し3ポイント追加!!トータル44ポイント!!』
2位の妖精の尻尾と蛇姫の鱗に1ポイント差で迫る人魚の踵。その中心人物であるカグラは目の前にいるソフィアを見つめる。
「なぜここにいる、ソフィア」
「カグラさんが大好きだからぁ!!」
ソフィアはそう言うとカグラの胸に飛び込む。だがすぐにカグラに引き剥がされ、手をバタバタとさせていた。
「お前と私は別行動だ。朝そう伝えたはずだが?」
「1人は淋しいんだもん!!」
ソフィアは人肌が恋しいため、1人でいることは極力避けたいのである。だが今は大事な試合の真っ最中、こんなところで実力のあるギルドの中心人物2人が一緒に行動していては、大量得点が望めなくなってしまう。
カグラはそれを重々理解しているため、ソフィアを説得しようと目線の高さを合わせる。
「ソフィア、今は大魔闘演舞の最中だ。ワガママ言うな」
「うぅ・・・」
納得していない様子のソフィア。カグラはそれを見てある決心をする。
「ソフィアはカグラさんと一緒が―――」
そこまで言うとソフィアの言葉がカグラによって遮られる。
彼女の目の前にあるのは瞳を閉じた大好きな女性の顔。先ほどよりもなお近くなったその顔は、妙に色っぽく、美しかった。
しばらくすると彼女の顔が離れていく。それと同時に唇に感じていた柔らかな感触がなくなっていく。
「私の言うことが聞けるな?」
ソフィアは呆然としたままうなずく。カグラはそれを見て笑みを浮かべ、彼女に背を向けて離れていく。、
「え?今のって・・・え?」
ソフィアの頭は混乱状態にある。さっきカグラの顔が近づいたと同時に唇が自由を奪われ、言葉を発っせなくなった。それがキスだということを理解するまで彼女はリップクリームを薄く塗った唇を触りながら、ただただ立ち尽くしていた
「今のって・・・キス?」
ソフィアの顔が次第に赤くなっていく。嬉しさと気恥ずかしさの両方で。
「ソフィア、あんた何して・・・どうしたんだい?」
仲間のリズリーが動きを見せないソフィアに声をかける。ソフィアは彼女をチラッと見ると、ニコッと微笑んでその場から駆け足で離れていった。
「何これ、役得ってやつなのかな?」
「全く・・・ソフィアは相変わらず自由気ままだな」
左腰に刀を携え、歩を進めるカグラ。冷静に見える彼女と実はさっきのキスが気になっており、盛んに唇をいじっている。
「これはノーカンだ!!気にすることなどない!!」
カグラは余計な考えを振り払うように大声でそう言うと、少し早歩きでクロッカスの街を動く敵ギルドのメンバーを捜索し始めた。
『いやぁ!!ラミアもマーメイドもすごい追い上げですね!!』
『てか、パピーはもう全滅?』
『ワイルドカボ!!』
開始早々全メンバーが倒されてしまった四つ首の仔犬。そのマスターゴールドマインはショックのあまりその場に倒れ込んでいた。
ちなみに、カグラとソフィアのキスシーンは放送されていなかったらしく、カグラは1人胸を撫で下ろしていた。
『目まぐるしく動くポイント!!がしかし、妖精の尻尾はまだ動かない!!一体どうしたというのでしょうか!?』
1つのギルドが全滅したにも関わらずいまだ動きを見せないシリルたち。これにはマカロフもさすがに怒り狂う。
「何のマネじゃ。ルーシィを助けるために勝たなきゃならんのだぞ」
「だからこそ・・・だからこそ冷静にならねばなりません」
マカロフとは正反対に、隣にいるメイビスは冷静にそういい放つ。その顔はどこか笑っているようにも見える。
「私は今までの競技で敵の戦闘力、魔法、心理、行動パターン、すべてを頭に入れました。それを計算し、何億通りものパターンをシュミレーションしました」
「ええっと・・・」
「初代?何を?」
メイビスが何を言っているのかわからず、ポカーンとしている妖精の尻尾の魔導士たち。メイビスはそんなことなど気にすることなく話を続ける。
「敵の動き、予測と結果、位置情報、ここまですべて、私の計算通りです」
「!?」
「作戦はすでに伝えてあります」
静かに閉じられていた目をゆっくりと開くシリルたち。
「仲間を必ず勝利へと導く、それが私の戦です」
「戦・・・ですか?」
メイビスは立ち上がると、人差し指を立てた右手を前方へと掲げる。
「妖精の星作戦、発動!!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
『ついに!!ついに妖精の尻尾が動き出したぁ!!』
メイビスの指示を受け四方へと散っていく妖精たち。逆転を許してしまった彼らの反撃が今始まる。
後書き
いかがだったでしょうか。
ちょっとポイントの関係上原作と違うところもありますが、そこは気にしないで下さい。
次からメイビスの見せ場です。
次回もよろしくお願いします。
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