ポケットモンスター 急がば回れ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
29 グリーン対カツラ 3
それはまるで炎を纏ったかのような羽根を持つポケモンだった。
サカキ「ついに姿を現したか、ファイヤーめ」
マグマは大きな波を立てて釜から溢れようとする。
オーキド「グリーン!」
オーキドとピジョットが技マシンを持って戻ってくる。
峰に降り立つとグリーンとゲンガーを素早く拾って一目散に舞う。
そしてマグマは峰を乗り越えて山の斜面に溢れ出る。
グリーン「ふー、間一髪だぜ」
さっきまでグリーンのいた場所には、鈍くたぎる紅いマグマが荒れ狂っている。
その上空にはヘリコプターと、炎の羽根を輝かせる鳥ポケモンがいる。
オーキド「いかん! サカキはファイヤーを狙っておるのじゃ!」
グリーン「どういうことだよ!」
オーキド「メタモンに吸収させる気じゃ!
もしそうなったら、あのミュウツーを超える恐ろしいポケモンになるかもしれん!」
グリーン「そうか……
じーさん、技マシンは?」
オーキド「持ってきたが、お前まだやる気か?」
グリーン「当たり前だ!」
オーキド「しかし何じゃその技は」
ヘリコプターからサカキが顔を出す。
他にはナツメ、エリカ、ブルー、そしてカツラが乗り込んでいる。
ファイヤーが飛んでいく先を追う。
サカキ「やるのだ、ブルー!」
ブルー「はい、サカキ様」
モンスターボールを取り出す。
ブルー「いきなさい……」
ヘリコプターからモンスターボールを放る。
ゲンガーの姿をしたメタモンが現れ、空中に浮遊する。
ブルー「……冷凍ビーム」
メタモンは浮遊というより飛行と言ったほうが適当な速さでファイヤーの背後につける。
冷凍ビームはファイヤーの尾を捉えるがすぐに溶けて蒸発する。
ファイヤーは旋回して炎を吐いて応戦する。
グリーン「ゲンガーが2体いる! ドッペルゲンガーか?」
オーキド「あれはメタモンじゃ!」
グリーン「なんかややこしいな。
それに俺、ゲンガー苦手なんだよ。特にあの顔」
オーキド「文句を言っとる場合か!」
グリーン「よし! ゲンガー、指を振れ!」
ゲンガーは青白い光線のような攻撃を繰り出す。
その光線はメタモンに向かって一直線に発射される。
しかしそこにブーバーの火炎放射が割り込んでくる。
ゲンガーの放った光線は火炎放射に触れると白い煙になって消える。
カツラ「お前の相手はこのわしだ!」
ブーバーはマグマに浸かっている。
暑がる様子もなく平然としている。
グリーン「今はそれどころじゃねえっつーのに……
ゲンガー、指を振る!」
ゲンガーは口から炎を吐き出す。
それをブーバーはシャワーを浴びるかのように気持ちよさそうに受ける。
グリーン「マグマの風呂に入ってるくらいだからな。炎技は効かねえか」
カツラ「ブーバー、大文字!」
グリーン「ゲンガー、指を振る!」
2つの大文字がぶつかり合って爆発する。
グリーン「おかしい……なんで同じ技を出すんだ?」
オーキド「指を振る攻撃はあらゆる技からランダムで繰り出す技じゃ。
冷凍ビーム、火炎放射、大文字と連続で相手と同じ技なのは偶然にしては出来すぎじゃのう。
まるで真似しておるようじゃ」
グリーン「まさかあの技マシン、物真似じゃねえのか?」
オーキドは使い古した技マシンを確かめる。
ディスクのケースに技マシン31と書かれている。
オーキド「やっぱり物真似じゃ!」
グリーン「イミテの奴、研究所で貰ったやつじゃねえのを寄越したのか!」
ブーバーはマグマから供給されるエネルギーで大文字を連発する。
それをゲンガーは覚束ない浮遊でかわしたり物真似の大文字で撃ち落としたりしている。
ブーバーの大文字のほうが威力が高く、じりじりとゲンガーを追い詰めていく。
カツラ「逃げてばかりでは勝てんぞ!」
グリーンは考える。
グリーン「そうか、物真似なら……」
ゲンガーに戻ってくるよう指示する。
大文字を掻い潜って離脱する。
その場から飛んで移動できないブーバーは、相手が射程距離から外れたのを確かめて攻撃を止める。
オーキド「何をする気じゃ、グリーン!」
グリーン「ゲンガー、今まで俺たちについて来たならフーディンのバトルも見てただろ?」
オーキド「そうか、過去に見てきた技を物真似するのじゃな!
しかしそんなことができるかのう」
ゲンガーは明後日の方向を見ながら頭を、というより身体を傾げる。
オーキド「できないみたいじゃな」
グリーン「しょうがねえ。こうなったら……」
カツラ「どうした、降参でもするか?」
グリーン「おいじじい、もうこの勝負にルールなんか関係ねえよな」
カツラ「今に決まったことではないがな」
グリーン「そうか……よし逃げるぜ!」
ゲンガーをピジョットに乗せると、グリーンは舵を取って山を下りる。
カツラ「尻尾を巻いて逃げたか……」
サカキ「奴らに復讐なら後でじっくりやればよいではありませんか。
今はファイヤーの能力を手に入れ、究極のメタモンでより恐ろしい悪夢を見せてやりましょう」
カツラ「……それで、ファイヤーはどうなるんだ」
マグマが中腹まで到達している。
麓の安全な場所を見つけてグリーンはピジョットを止める。
オーキド「指を振る技マシンを取りにいく気か?」
グリーン「いいや、違う」
グリーンは瀕死のフーディンをモンスターボールから出す。
ウインディの最後の大文字をくらって自己再生をする気力もないほど弱っている。
グリーン「フーディン、ゲンガーに地球投げを教えてやってくれ!
ちょっと見せてやるだけでいいんだ、頼む!」
しかしフーディンは嫌がっている。
かつてのバトルで手も足も出せずに負けたのを意識しているのだろうか。
グリーン「なあフーディン頼むよ。今は味方なんだぜー!」
オーキド「ライバルにとっておきの技は教えられんというわけか」
フーディンは頑なに拒んでいる。
オーキド「そういうことなら、わしのピジョットに教えてくれんかの?」
フーディンの目つきが変わる。
グリーン「そのピジョット、物真似できるのかよ?
それにこれは俺のバトルだぜ」
オーキド「余計なゴタゴタに巻き込んだのはわしじゃ。
まあこいつもなかなか頭のいい奴でな、できんこともない。
フーディンよ、頼めるかな?」
フーディンとピジョットは向かい合う。
テレパシーでウインディに地球投げを繰り出したときの光景を見せる。
フーディンが目を閉じてテレパシーが途切れると、ピジョットは足をもつれさせて倒れ、即座に羽根をばたつかせてバランスを取る。
まるで本当に攻撃を受けた時のような挙動だ。
グリーン「ありがとな、フーディン」
瀕死にも関わらず無理をしたフーディンを労いながらモンスターボールに戻す。
オーキド「いくぞグリーン! しっかり掴まっておれ!
ピジョット、オウム返しじゃ!」
ピジョットはフーディンがやったように反重力を作り出す。
その領域に入ったものは全て空に吹っ飛ばされ、まるで山の斜面を抉るようにピジョットは駆け上がっていく。
ピジョットに向かって飛んでくる葉や小石は飛行が巻き起こす衝撃波に弾かれる。
オーキド「マグマも飛んでくるから気をつけるんじゃぞ!」
山頂に到達すると、ブーバーが大文字で迎える。
しかし大文字の軌道は反重力で上にずれて空の彼方に消えていく。
オーキド「ブーバーは任せたぞい!」
グリーン「よし! ゲンガー、地球投げを物真似だ!」
ゲンガーはピジョットから飛び降りて、ブーバーをマグマから掬うように反重力に乗せる。
ピジョットはそのままメタモンに接近してそれに乗せる。
各々は標高約700メートルの更に上空まで上昇し、元に戻った重力に任せて海に向かって相手を投げ飛ばす。
グリーン「いい眺めだなー!」
雲ひとつない日本晴れの空からグレン島はもちろんカントーが一望できる。
ピジョットに乗ったグリーンとオーキド、そしてゲンガーはしばらく景色を楽しむ。
オーキド「呑気なことを言っとる場合ではないぞ。
グレン島はかんかん照りで噴火、それ以外は大雨のせいで洪水。
カントーは異常気象に見舞われておる。
これも伝説の鳥ポケモンであるフリーザーとサンダーの能力が奪われたせいじゃよ」
2つの水柱が上がる。
1つは波紋を立ててすぐに静かになる。
もう1つは海を沸騰させて激しく水蒸気を昇らせながらいくつもの波紋を立てていたが、やがて静かになった。
オーキド「無事でなによりじゃ、ファイヤーよ」
ファイヤーはグリーンたちを味方と認めたのか、睨みつけることもなく敵意を表さない。
ファイヤーはカルデラの中心に降り、マグマを引かせていく。
そして釜は空っぽになる。
日本晴れは次第に日差しを弱め、ファイヤーの戦いが終わったことを告げようとする。
そしてファイヤーはグリーンたちを一瞥すると、釜の底の穴に降りていく。
ブルー「……シャドーボール」
突然、日差しが何かに遮られて辺りは薄暗くなる。
冷たい風が山肌を駆け抜け、マグマを火山岩に変えていく。
グリーン「何だ!?」
グリーンとオーキドは上を見る。
すると、まるで太陽がシャドーボールに呑み込まれたような光景がそこにある。
オーキド「メタモンじゃ!」
グリーン「いま倒したはずじゃねーのかよ!」
サカキ「よく見てみるんだな」
そう言ってサカキは海の一点を指差す。
目を凝らしてみると海面にメタモンの分身がぷかぷか浮いている。
オーキド「身代わりじゃ!
分身を攻撃させて本体はわしらの遥か上空に避難しておったのじゃ!」
グリーン「くそっ! 俺のフーディンの技を物真似してたのか!」
オーキド「あのメタモンはゲンガーの記憶を引き継いでおる。
バトルした相手の作戦を利用するくらい造作ないじゃろう」
特大のシャドーボールが頭上から降ってくる。
グリーン「ゲンガー、物真似だ!」
ゲンガーもシャドーボールを繰り出す。
しかし威力は大きさによって明確に差が出ている。
小さなシャドーボールもろともゲンガーは飲み込まれる。
巨大な黒い塊はそのまま釜の底のファイヤーを襲う。
サカキ「さあメタモンよ、ファイヤーを喰らうのだ!」
カツラ「ブルー、止めさせるんだ!」
サカキ「カツラ博士、奴らに復讐したくはないのですか?」
カツラ「それとこれとは別だ!
ファイヤーは昔、わしを助けてくれた!
わしが山で遭難したとき、ファイヤーのおかげで山を下りられた!
そのときの恩がある!」
サカキは深いため息をつく。
サカキ「カツラ博士、あなただけは我々の素晴らしい計画を理解してくださると思っていたのですがね……」
サカキはカツラをヘリコプターから突き飛ばす。
釜へ真っ逆さまに落ちていく。
マグマは引いたとはいえ、その高さから落下すれば命の保証はない。
そこにピジョットが急降下してくる。
オーキドが手を伸ばし、釜と衝突する間一髪でカツラの手を掴む。
カツラ「離せオーキド! 貴様に助けられる筋合いは無い!」
ピジョットはマグマの冷えた峰に止まる。
カツラ「なぜわしを助けた! そんな暇があるならファイヤーを……」
一同はファイヤーに注目しようとするが、そこに姿はない。
ファイヤーはメタモンに喰われている。
身体よりも大きく口を開いて鋭い牙で咀嚼する。
ときおりファイヤーの頭や足の形がメタモンの身体から出っ張るのが見える。
咀嚼が一通り終わると、メタモンは飛び上がって釜の底の穴めがけてファイヤーをチューインガムのように吐き捨てる。
ファイヤーは力尽きたのか、そのまま穴に落ちていく。
口の異物が無くなったメタモンは元のゲンガーの姿に戻る。
サカキ「これで伝説の鳥ポケモン3体の能力は頂いた!
あとはミュウを捕獲するのみ!
……だが、その前に」
サカキはブルーに命令する。
するとメタモンがグリーンたちの前に現れ、カツラをさらう。
メタモンははしゃいでヘリコプターのブルーの許へ戻る。
サカキ「ミュウを捕獲するためのマスターボールを餞別として頂きたいのですが」
メタモンは捕らえたカツラに、鋭利なナイフに変えた手を突きつけたり、空中で掴んでいる手を離そうとしたりする。
そしてゲンガーの顔でにやにやと薄笑いを浮かべる。
グリーン「おい、ブルー!
そいつはお前のじーさんだろ!
血も涙も無い人間になっちまったのかよ?
いい加減目を覚ませ!」
ブルーは眉をぴくりともしない。
カツラ「孫娘に殺されるなら本望だ。
せめてもの贖罪をさせておくれ」
オーキド「……グリーン、マスターボールは持っておるな?」
グリーン「ああ、これだぜ」
バッグからマスターボールを取り出す。
オーキド「渡すんじゃ」
グリーン「そう言うと思ったぜ」
グリーンはピジョットに乗ってヘリコプターに近づく。
カツラ「やめろ! なぜ助ける!」
グリーン「あんたからまだバッジ貰ってねーんだよ」
カツラ「そんなもの勝手に持っていけ!」
グリーンはサカキにマスターボールを手渡す。
グリーン「早くそのじじいを返せ!」
サカキ「返してやるとも」
メタモンはカツラをその場で離し、空中に放り出す。
落下するカツラを即座にピジョットで追いかける。
嘴で捕まえようとするピジョットは、もう少しというところで釜の底に阻まれる。
カツラはファイヤーと同じ穴に落ち、ピジョットとグリーンもカルデラに激突して、岩盤を破壊して空洞に落ちてしまう。
サカキ「確かに餞別を頂きましたよ、オーキド博士。
それでは先を急ぎますので、失礼」
ヘリコプターはヤマブキシティの方角へ飛んでいく。
カントー全域に吹き荒れる雨や風はそのヘリコプターだけは避けている。
おそらく伝説の鳥ポケモンの能力がそうさせているのだろう、とオーキドは思う。
穴に落ちたグリーン、カツラ、ピジョット、そしてファイヤーを救助するのは自分1人では無理とオーキドは悟り、シャドーボールを受けて吹っ飛んだゲンガーを捜しながら山を下りることにした。
ページ上へ戻る