ポケットモンスター 急がば回れ
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24 グリーン対ブルー 2
グリーン(相手は悪タイプに化けたゲンガー、エスパー技は通用しねえ。
カウンターはもう使ったから読まれちまう。
おまけに自己再生を物真似されちまった。
正直、打つ手がねーぜ)
ブルー「そっちが来ないならこっちからいくわよ!」
グリーン「シャドーボールが来るぞ!
フーディン、リフレクター張りながら避けろ!」
ブルー「ゲンガー、指を振るのよ!」
ゲンガーは指を振りながら、身体の中から何かが出てくるのを堪えるような様子を見せる。
グリーン「何だ?」
次の瞬間、ゲンガーは破壊光線を繰り出す。
予想が外れて戸惑うフーディンのリフレクターをかすめる。
破壊光線は一直線に飛んでいき、お月見山に直撃して爆発する。
グリーン「あんなのくらったらひとたまりもねーぜ!」
ゲンガーは反動で動けない。
ブルー「どうしたの? 攻撃するなら今がチャンスよ!
それともビビって動けないの?」
グリーン「うるせー!
なんでシャドーボールじゃねえんだよ!」
ブルー「さっきのカウンターが奥の手だったんでしょ?
今のゲンガーにはエスパー技は効かないし、ちょっと遊んであげてるのよ」
グリーンはため息をつく。
グリーン「なあ、もう終わりにしねえか?」
ブルー「は?」
グリーン「今のお前はいつものお前じゃねえ。
正直、見てられねーよ」
ブルー「それはつまり降参ってことかしら?」
グリーン「ああ、俺の負けでいい」
フーディンはリフレクターを解く。
エリカ「勝負がつきましたわ」
ナツメ「そのようね」
サカキが屋上に上がってくる。
サカキ「終わったようだな。
見事だったぞブルー君」
ブルー「……ないで」
ブルーの言葉は風に掻き消される。
グリーン「それに今はこんなことしてる場合じゃねーだろ。
イエローが心配でここに来たんじゃねえのか?
それに、まだミュウツーがここにいるかもしれねえんだぞ」
そう言って、はっとする。
グリーン「フーディン、テレポートの準備をしておけ……」
サカキ「心配しなくても手は出させない。
ロケット団を解散させて例のポケモンも退治したと、たった今カントー中に伝えたばかりだ。
言ったそばからこのビルが崩れるようなことがあっては私の沽券に関わる」
グリーン「聞いただろブルー! やっぱりここにはミュウツーが……」
ブルー「ふざけないで!
シオンタウンでイエローを見捨てたのはあんたでしょ!」
グリーン「あの時はお前を助けるので精一杯だったんだよ!」
ブルー「そんな言い訳関係ない……降参なんて許さないから」
冷たい目でグリーンを睨みつける。
ゲンガーが特大のシャドーボールを構える。
グリーン「よく聞け!
俺たちがこうしてる間にもイエローが危ない目にあってるかもしれねえんだぞ!
お前はサカキに利用されてるだけだ!」
ブルー「そんなの関係ないって言ってるでしょ!
やりなさい、ゲンガー!」
巨大なシャドーボールが放たれる。
近づいてくるにつれ、のみ込まれそうなほどの威圧感をみせる。
グリーン「このままじゃ俺までくらっちまうぜ。
フーディン、テレポートだ!」
グリーンはフーディンの肩に手を置くと、一瞬でふっと消える。
シャドーボールは何も無い場所を過ぎる。
攻撃がかわされたとわかると、ゲンガーは黒い球を小さくして自分の手元に戻す。
サカキ「逃げられはしたが見事な戦いだったぞ、ブルー」
ブルーは苦しそうに息を切らしている。
サカキ「悪タイプは初めてか。
使いこなすには喰うか喰われるか、いずれにせよ使い手は悪に染まる。
今はゆっくり休むといい。
ゲンガーも回復させてやろう」
エリカはブルーを仮眠室へ連れていく。
ナツメ「……本当にこれでよかったのですか?」
サカキ「オーキドの孫とて所詮は子供。逃がしたところで何ができる」
ナツメ「それもありますが、ミュウツーにも逃げられたはずでは?
それにもし襲ってきたら……?」
サカキ「ミュウツーの遺伝子が手に入った時点で奴は用済みだ。破壊することしか能のない失敗作など必要ない。
それに、二度と人間の前に姿は現さんだろう。そういう奴だ」
ナツメ「そうですか……」
ミュウツーの性格までは、ナツメには理解し難い。
サカキ「仮に再びやって来たところで、こちらにはブルーがいる。
たったいま我々の手に落ちた、唯一メタモンの免疫を持つ人間がな」
ナツメ「あのイミテという少女から採取したメタモンの遺伝子を使えば……」
サカキ「というか、イミテがメタモンそのものなのだよ。
ブルーの祖父がオーキドやフジと共にミュウの変身能力を基に作り出したポケモンだ」
ナツメ「もしかして被験体の夫婦というのは……」
サカキ「ブルーの祖父は自らの息子夫婦にメタモンを寄生させた。
やがてメタモンは夫婦そっくりの姿で出てきた。
体格や骨格、歩き方や仕草、指紋や声紋までもが全く同じと言っていいほどだった。
唯一異なっていたものといえば……」
ナツメ「……記憶」
サカキ「そう、メタモンは主から記憶を抜き取る。
夫婦は記憶を失って人格が変わっていった。
自分に変身したメタモンを見るたび発狂を繰り返すため隔離されることになった。
そしてメタモンは夫婦自身になった。これはおそらく、他の生物になりすまして順応していくメタモンという生物の処世術であり本能なのだろう。
まあ、元は大昔から環境に適応していくためのミュウの変身能力なのだが。これはまた別の話だ」
ナツメ「そんなポケモンがいたなんて……」
サカキ「やがて研究所では、本物とコピーのどちらかを消すという話が上がった。もちろん当人たちには内緒でな。
夫婦は記憶を失い隔離されている。メタモンは夫婦に代わって研究所で働いている……」
ナツメ「どちらを選んだのですか?」
サカキ「はっきり言って、本物を消したほうが都合がいい。
それまで通り研究所では働いて、家庭では夫婦の生活をしていれば、外では誰にも気づかれない。
それに本物は記憶を失っているが、当然それ以降の記憶は刻まれる。万一脱走でもして研究を世間にバラしでもしたら一大事だ。
お偉方はこぞって本物を消そうとした。
だが、最後は人道的見地からメタモンのほうが選ばれた。
そしてこの実験はあまりに危険とわかり、メタモンは全て殺処分して中止することに決まった。
記憶を引き継いだ、本物よりも本物らしいコピーの夫婦を殺したのだ」
ナツメ「本物の夫婦はどうなったのですか?」
サカキ「隔離が続くにつれ精神的に不安定になり自殺した。
晩年は実験の前とは似ても似つかぬ人格だったそうだ」
ナツメ「それがブルーの両親というわけですか」
サカキ「そうだ」
ナツメ「それでは彼女も両親と同じく精神に異常をきたすのでは?」
サカキ「ブルーの場合はまだ若く、人格形成前だったのだろう。
しかしこれも定めか、メタモンの生き残りが娘に変身するとはな。
まあ我々にとっては、メタモンが生き残っていて幸運というわけだが」
サカキはにやりと笑う。
サカキ「メタモンを改良してあらゆるポケモンの能力をコピーしていけば、あのミュウツーさえ凌ぐ力を持つポケモンが誕生するかもしれん。
そのためにはメタモンを支配するだけの力を持つトレーナーが必要だ。
そう、ブルーこそが相応しい。我がロケット団が必要とする人材なのだ」
ナツメ「そこまでトレーナーにこだわることでしょうか?」
サカキ「だからミュウツーは手に負えなかったのだよ」
エリカが屋上に戻ってくる。
エリカ「ブルーさんの手持ちポケモン、ゲンガーにメタモンの投与が完了致しました」
サカキ「それでいい。
手始めに本人の慣れ親しんだポケモンから変身させていく。
しかしあのゲンガー、なかなか面白い技を使う。
我がロケット団で開発したポリゴンの技テクスチャーを使って、カントーでは希少な悪タイプになるとは……」
エリカ「変身が完了したら、オリジナルはいかが致しますか?」
サカキ「殺してしまえ。
といってもゲンガーは既に死んでいるか。
記憶も故郷も失った哀れなポケモンか……そこら辺に捨ててしまえ」
エリカ「かしこまりました」
サカキはポケットからミュウツーの遺伝子の入ったカプセルを取り出す。
サカキ「こいつはいずれ喰わせてやる。ミュウをマスターボールで捕獲した後でな」
ナツメ(ブルーの祖父って一体……)
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