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悠久のインダス

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3部分:第三章


第三章

 しかしだ。何億と聞いてだ。彼も唖然となったのである。
「牛一匹にそこまでいるのかよ」
「はい、全ての牛にです」
「インドって凄いな」
 素直に出た賞賛の言葉だ。
「日本じゃお米に神様がいるけれどな」
「お米に何億もいるのですね」
「一粒一粒に何億も神様がいたら食えるかよ」
 流石にそれは否定した。
「どんだけ賑やかなんだよ」
「いえ、それだけ有り難いということで」
「そうなるのかよ」
「私はそう考えますが」
「悪いけれどそれは違うからな」
 それはないというのであった。
「ただな」
「はい。ただ?」
「それがインドなんだな」
 ここでもこのことをよく認識することになった。
「そうなんだな」
「はい、インドです」
「凄い国だな」
 また言う彼であった。
「いや、それはわかるよ」
「インドですから」
 それでだというのだ。
「そうなります」
「インドなんだな」
「はい、インドです」
「俺さ。今までさ」
 隼士は車窓からだ。その田と旗らく人達と牛を見ながら話した。田も何処か日本とは違う。微妙、いやそれ以上にだ。違っていた。
「色々な国を旅行してきたんだよ」
「インドは今までは」
「はじめてだよ」
「だから驚かれてるのですね」
「そうだよ。話には聞いていたさ」
 またこう言う彼であった。
「けれどそれでもな」
「驚かれますか」
「驚かない奴なんているのかよ」
「そこがわからないのです」
 ガイドはここでいぶしんで首を捻るのだった。
「私にとっては」
「ガイドさんにとっては」
「そうです。わからないのです」
 そうだとだ。隼士に話すのだった。
「インドに来て。誰もが驚かれるのです」
「インドが凄過ぎるんだろ」
「はい、皆さんそう仰います」
「っていうか自覚ないのかよ」
「自覚とは?」
「いや、もういいから」
 隼士も負けてしまった。車の中ではそれ以上は話さなかった。そのうえで車の向かう場所に向かっていた。そうして辿り着いた場所は。
 そこは寺院だった。石造りで屋根の先が三角になっている。その寺院だった。
 寺院の入り口には腕が十本ある女神の像がある。それは。
「何かおっかない顔をしているな」
「それもよく言われます」
 見れば目が吊り上がり舌が出されている。口には牙がありその手にはそれぞれ武器があり。他のものまであるのであった。それは。
「人間の首じゃねえかよ」
「神々と争った巨人の首です」
 ガイドはそれだというのである。
「それです」
「巨人か?」
「その手も髑髏もです」
 見れば女神のスカートは人間の手が連ねられている。ネックレスは髑髏が連ねられている。そうしてみると実に凄惨な姿である。
 
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