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鶴の舞う空へ 

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第1部 異世界へ
4.戦場へ
  鶴の舞う空へ

 
前書き
鶴姫と国の話を聞き、戦への参加を決めた異世界の少年海斗。
とうとう彼は剣を手にした。

梶原海斗・・・高校二年。剣道、フェンシングに長けているまっすぐした青年。ある日異世界へと飛ばされたことを機会に鶴姫の元で戦う。自分がこの世界にきたことは運命だとおもっている。両親が幼い頃死んだせいか、元の世界に帰りたいという意志は薄い。

鶴姫・・・豊洲国の姫。六年前、祖国が佐伯国に攻め落とされた際に立ち上がった。優しくまっすぐな女性。本名は井上鶴千風紫(いのうえのつるちかぜむらさき)

風早・・・五人将の長。鶴姫の幼い頃から彼女に使えている。頭がよく、剣の腕もなかなからしい。 

 

ー初めて戦場に出たあの日、俺は運命が少しずつ動き始めたのを感じたんだ...。ー
4.戦場へ
武器庫を出ると、風早は思い出したように言った。
「海斗は私の隊に入ってもらうのですが、ほかの兵たちになんと言いましょうか...。五人将と鶴姫様はまだしも、ほかの兵に君の素性を明かしたところで信じはしないでしょうし...。」
「確かに....。...ところで、五人将ってさっきから言っていましたけど、それってなんですか?」
「ああ、君にはきちんと説明しねくてはなりませんでしたね。五人将というのは、それぞれ隊を率いて戦う戦奉行を我々の国では五人将と言うんです。まあ、先の戦で一人討ち死にしてしまい、四人しか今はいないのですがね...。」
「そうなんですか。」
「ええ。鶴姫様は身分や家で人を計るのは嫌うので、実力のみでつくられているんですよ。」
「へえ、近代的ですね...。」
「そうですね。そのような考えを持つ方は今までにいなかったでしょう。そんなこともあってでしょうか、鶴姫様の元へ多くの兵が集まったのは。」
風早はそう言うと、少し下を向いて微笑んだ。それから、ふと思いついた顔で海斗のほうを向いた。
「こうしましょう。あなたは武家の出です。しかし、頭を打って自分の名前以外は覚えていません。いいですね?」
「なるほど、わかりました。」
「では、こちらです。この屋敷や屋敷の周りのでは御家人も多く住んでいます。鶴姫は国中から人を集めていますからね。」
再び長い廊下を東の方へ歩く。風早の話だと、西側は五人将と呼ばれる人々や鶴姫の住居、座敷となっており、東側は鶴姫によって集められた兵たちの居住区となっているらしい(もちろん大部屋)。ちなみに、屋敷の外には城や城下町を追われた兵たちや、遠方から集まった兵が住んでいるそうだ。東側の一室の引き戸を風早が開けると、中には4人の男がいた。
「これはこれは風早様。」
「やあ、邪魔して悪いね。今日からこの部屋に入る梶原海斗だ。」
「よろしくお願いします。」
「では海斗。私はこれで。戦が近いので剣の手入れをしっかりとしておくように。」
風早はそう言い残すと、去っていた。部屋の男たちは気のいい連中だった。
「おめえ、どっから来たんだ?」
「実はここへ来る途中に夜盗に襲われて頭を打ってしまい、自分の名前しか覚えてないんです。」
「はー...そうだったのか。世の中には不思議なことがあるんだな。にしても、おめえさんも大変だったんだなあ。」
ここにいる連中は皆鶴姫に連れてこられたらしい。低い身分のものから、腕の立つ農民まで様々な人間がいた。海斗は男たちと話しながら、部屋の中を見回した。部屋や先ほど見た建物の外観からして、ここは平安時代の様にも見えたが、言葉遣い、思想は平安時代よりよっぽど近代的だし、第一、戦をしているのは源氏でも平家でもない。やはりここは異世界なのだと海斗は改めて感じた。海斗は異世界の人間であることを悟られないように、適当に相づちや返事を返しながらこの世界の情報を収集した。風早の話、ほかの五人将の話。頭が非常によく、軍師であり衛兵(薬師)である影光という青年、敵兵から鬼神と恐れられる勝左衛門(しょうざえもん)という少年、口数は少ないが腕は国一と言われる黒右衛門(くろえもん)という青年、そしてすべてを人並み以上にこなす長、風早。また先の戦で五人将が一人討ち死してしまい、次の戦で武功を上げた者が次の五人将になれるという話すらあるらしい。
 話を聞き終えた海斗は、ほかの男たちが剣を研ぐのを見よう見まねでまねをし、戦の準備に取りかかった。外はもう暗く、火が焚かれ始めていた。馬や荷物が多く集められている。明日の昼過ぎには出発し、明日の晩には目的地に陣を張り終え、明け方には出陣をするらしい。海斗はいままで味わったことのない、不思議な緊張感を肌で感じていた。
 次の日の昼、予定通り行軍は開始された。初めて鎧をまとった海斗は、剣道の防具と違う重みを感じながら歩いた。重い荷物は馬に乗せられ、荒れた道を歩き続けると、日は徐々に傾き始め、月が顔を出し始める頃行軍は終わった。兵たちが力を合わせ、陣を張り終えた頃、馬に乗った姫君と従者が到着した。
 屋敷にいたときより遙かに緊張感が漂っている。海斗も緊張を隠せない様子で、陣の外の木下で立ち尽くしていた。海斗は腰に下げた剣を見ながら、風早の言葉を一つ一つ思い出してかみしめていた。その一方で、命のやりとりをすることはわかっていたはずなのに、恐怖は感じていなかった。海斗は剣と月を見ながら、異世界に来てからの急な出来事を振り返り、それに順応しようとする冷静な自分を不思議に、また他人事のように考えていた。 
 月と別れを告げる頃、陣の前に兵が整列し始めた。海斗のいる風早の隊は前から二番目で、鶴姫は一つ後ろ、真ん中の影光と呼ばれる五人将の隊に加わっているようだった。そして、月と朝日が入れ替わる頃。
「よし、出陣だ!皆の者、すすめ!!」
と、前の方から男性の声がすると、ピーッと高い笛の音があたりに鳴り響いた。すると、おお!!っと鬨の(ときのこえ)を一斉に上げ走り出した。海斗も前の兵を追いかけるように走り出した。
 とうとう戦の火種が切られらのだ
 
 

 
後書き
次回 戦場へと出た海斗はそこで鶴姫と遭遇し...

来週更新予定です。 
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