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海の底から

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1部分:第一章


第一章

                        海の底から
 船は大海の真ん中にいた。
 かなり大きな船だ。太平洋を行き来できるだけのだ。その船の中においてである。若い船員が年配の船員に対して不意に尋ねてきた。
「あの」
「何だ?どうした?」 
 年配の船員の顔は髭だらけである。顔の下半分に見事な黒い髭がある。それを見ると何か海賊の様である。その顔の彼が若いまだニキビのある船員に言葉を返した。
「何か見つかったか?」
「いえ、ふと思ったんですけれどね」
 若い船員はそのニキビの顔で言うのである。
「この海の底にはですね」
「海の底には?」
「何がいるんでしょうね」
 こう言うのである。
「一体何が」
「ああ、それな」
「それは?」
「結構色々なのがいるぞ」
 こう若い船員に話す。
「色々なのがな」
「いますか」
「いるから。ただ」
「ただ?」
「物凄いのがいるからな」
 年配の船員の顔は真面目なものになっていた。二人は今甲板にいる。休憩の時間で甲板に出て海を見てだ。そのうえで話をしているのだ。
「凄いのが」
「そんなに凄いんですか」
「深海魚だっているしな」
 まずはこれを話に出す。
「それは知ってるよな」
「気持ち悪い魚ばかりいますよね」
「まずはそんな連中がいるんだ」
 こう年配の船員は話す。
「しかしな」
「しかし?」
「それだけじゃないからな」
 年配の船員は笑顔になっていた。
「例えばだ」
「まだいるんですか」
「ああ、今丁度な」
 年配の船員が話す。それが何かというとだ。
「海を見ろよ」
「海ですか」
「ああ、海だ」
 右手に広がるだ。その海を見ての言葉だった。
「海を見ろ。何か見えないか?」
「何がですか?」
「ほら、出て来たぞ」
 こうしてだった。海からだ。何と巨大な烏賊に噛み付いている獰猛そうな鯨が出て来たのだ。その大きな頭が実によく目立つ。
「あれだよ」
「マッコウクジラですか?それであの烏賊は」
「ダイオウイカだ」
 それだというのであった。
「鯨と烏賊の戦いだよ」
「何か凄いんですが」
 見ればだ。海面に出てからも激しい格闘を行っている。鯨は烏賊を食い千切らんとしており烏賊はその鯨に絡み付く。そうして激しい攻防を繰り広げていた。
「あれって」
「はじめて見たか」
「噂には聞いてました」
 こう答えはした。
「ですがそれでも」
「凄いだろ」
「あれも海の底から出て来たものですか」
「そうだ」
 年配の船員は笑みを浮かべて言い切ってみせた。
「ああいうのもいるんだ」
「何か怪獣映画ですね」
「そうだ、海の底は凄いんだ」
 鯨と烏賊はまだ格闘を続けている。若い船員はそれをまだ驚いている目で見ていた。年配の船員はその彼に話すのだった。
 
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