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東方乖離譚 ─『The infinity Eden』─

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episode2:その異変は唐突に

 
前書き
ヒメノ「ひ、ひと思いに……妖怪で殺ってくれ……」

NO!NO!NO!NO!NO!

ヒメノ「か……神?」

NO!NO!NO!NO!NO!

ヒメノ「り、りょうほーですかぁぁぁぁ〜⁉︎」

YES!YES!YES!YES!YES!

ヒメノ「もしかして、異変ですかーーッ⁉︎」

異変「YES!YES!YES!"OH MY GOD" 」

オラオラオラオラおr((ry
 

 
「はッ──!はっ──!っ……はぁっ!」

 走る。走る走る走る。息切れすら無視して、構わず走り続ける。
 無人の森をただひたすらに駆け、迫り来る『死』に抗い続けた。
 不意に、背後が光る。
 閃光が走り、一筋の光線がヒメノへと迫った。

「──らぁっ!」

 咄嗟に、腰の退魔の剣を叩き付ける。
 博麗の巫女によって破魔の特性を付与されたその剣は、閃光を防ぎ切ったものの、たったの一撃で折れてしまう。
 現状、これより強い破魔の道具をヒメノは持ち合わせていない。

「ワーオ……」

 キュオンッ!

「わぶっ⁉︎」

 驚いている暇もない。再び飛来する弾幕を、直感だけで躱す。今ほどあの修行が有意義だったと感じた事があったろうか。
 これでもまだマシな方なのだ。本来なら無数の弾幕の雨が降り注ぎ、躱す暇もなく即死していたって何らおかしくない。否、そうでなければおかしいぐらいなのだ。

 それでも今こうして生き永らえているのは、ひとえに上空で出来る限り弾幕を弾いてくれている文のお陰であって──

 チュンッ!

「うばっ⁉︎」

 ──弾幕をレーザータイプ限定にしてくれている、幽香の手加減のお陰でもあるのだ。

 通常の弾なら、今ので顔が半分は消し飛んでいただろう。しかしレーザータイプならば射線が細く、僅かに掠る程度で済む。
 勿論私はルナシューターでもないので、グレイズうまうまとか言ってる化け物達みたいに嬉しくない。

 兎に角立ち上がる。足を動かし、一秒でも早く外に出る為に疾走する。時折降ってくるレーザーをギリギリで躱し、その着弾地点が深く抉れている様に冷や汗を掻きつつ、更に走る。

 よし、森が途切れている。曇っているだけにしては随分と外が暗いが、森から出ればこちらのものだ。森の中では草木を掻き分けて空に抜けるには時間が掛かり、幽香に追いつかれてしまう。文の風で森を抜けようとすれば、その隙に幽香は文を殺すだろう。
 が、森から出れば問題の草木は無い。文のスピードなら確実に逃げ切れる。

 あと五歩。四歩。三歩。二歩。一歩──

 ──出たっ!

「文──って、ふわっ⁉︎」

 叫んだ時には、既に体は宙を舞っていた。
 凄まじい速度で森が遠ざかり、幽香の影も米粒程に小さくなっていく。
 ──と、不意に頭上から声が聞こえた。それは当然、ヒメノを抱えて飛翔する文のモノだった。

「──ヒメノ」

「え?」

「アレは、何?」

 文の示す方角を視線で追う。っていうか暗すぎませんかい?今昼だよね?人里を出たのが正午過ぎだったから今はお天道様は真上にある筈なんだけど──

 視線を上げたヒメノが見たモノは、ヒメノにとっては久々に見る──しかし、幻想郷にとっては概念すら存在しなかったモノだった。
 即ち、漆黒に染まった太陽──日食である。

「あ、日食だ。最近見てないと思ったら、今日だったんだ」

「──にっしょく?アレは日食というの?」

「うん。見た事ない?」

「見た事ないわ。多分、あんな現象は幻想郷が作られて一度も起きてない」

 ……あっれれー?おっかしーぞー?ってか何気にあややの口調が素になってら。俺得。女だけど。
 確か、幻想郷が出来たのは数百年前だった筈だ。仮に幻想郷に日食が無かったとして、『この幻想郷』に於ける外の世界は現代だった筈。現代ならば当然日食も存在し、幻想郷が設立される以前もその現象は起こっている筈なのだ。加えて文はかなりの古参妖怪。幻想郷が設立される遥か前から生まれているし、日食は確実に知っている筈──

 ああ、そうか。簡単な事だ。

「『私の居た世界』と『外の世界』は、別物なんだね」

「……貴女、ただ外の世界から来たって訳じゃ無いのね」

 どうやらその様だ。世界が違うなら起きる現象が違ってもおかしくは無い。原作にて明言されていないのだから、外の世界では太陽と月が重ならない可能性だってある。つまり『この時間軸』に於いて、日食とは本来起こりえない完全な異常なのだ。
『ソレ』が起こっている。つまりそれは、この世界に於ける『異変』に分類されるのだ。

 ──異変起きるの、早過ぎませんかーーッ⁉︎

 某ス○ンド使いの如く叫び、自らの不運に嘆く。
 いやまぁね⁉︎幻想入りではキャラクターが異変に巻き込まれるのは最早形式美だけれども、だけれども!!まだロクに能力も無い状態で異変勃発とかなんて無理ゲー⁉︎
 ってか半神人とはいえ能力があるかすら分からんのよ⁉︎そもそもそっち側に対する適正があるかすら分からんのよ⁉︎

 ま、待て、落ち着け。これは孔明の罠だ。エ○メロイ二世の罠だ。まだ慌てる様な時間じゃない。
 考えろ。自分に出来る事を考えろ。どうせなら楽しもうじゃないk──


 ドガァァァァァァァッン!!


 ──Why?

「爆発⁉︎」

「アレは……人里の方ですか?」

 ありゃ、口調戻っちった。ちょい残念──じゃ、無くてだな⁉︎

 爆発が起こったのは人里の方角。煙が上がっているのは──人里の横の大倉庫だろうか。
 ……つまり?

「人里襲撃されてんじゃないですかやだー!」

 なんでいきなり大規模な異変なのさーーっ!

「文!」

「分かってます!妖怪としても、アレは見過ごせません!」

 再び景色が揺らぎ、強烈な風が全身を打つ。流れる風景はどれも殺風景で、不気味さすら感じられる。一瞬だけ目に入った妖怪の集まりが、奇怪な声を上げてお互いを傷付け合っている。

「妖怪が、凶暴化してる──?」

「成る程。──なにやら気味の悪い魔力が漂っていると思ったら、その日食とやらは妖怪を凶暴化させるようですね。あまり強い妖怪には効果は無いようですが……いや、それなら何故幽香さんが……?いえ、それは後で考えましょう。恐らく、先程の仮定で問題無いと思います」

「それが目的……?何の為に……」

「今は兎に角、人里に群がってる妖怪達を撃退するのが先です!下手をすれば、人間の人口が大幅に減りかねない!」

 その言葉に応えようとした瞬間に、衝撃が全身を襲う。大地に跡を残して着地した文は、ヒメノを地面に下ろすとすぐさま飛び立った。そう認識した瞬間、既にその姿は影も形も無く消え去っている。

「ヒメノ!」

「慧音先生!その腕……!」

 自らの名を呼ぶ声に振り返ってみれば、そこに居たのはやはり慧音であった。──そして左腕からは、赤い血が滲んでいる。
 ぶらりと投げ出されたその腕は力なく揺れ、それは左腕が機能していない事を容易にヒメノに伝えた。

「私は問題ない。が、不味いな……あの奇妙な太陽が現れてから、妖怪達が凶暴化し始めた。今は退魔の道具で抑えているが、その内保たなくなる──!」

「他に怪我人は⁉︎」

「幸い、傷を負ったのは私だけだ。自警団の皆が妖怪を監視しているが、何時また突破しようとするか分からん」

「霊夢か魔理沙は⁉︎」

「先程、霊夢には使いを送った。魔理沙については向こうが気付かない限りは──いや、どうやら既に来ていたらしい」

 少しだけ浮かぶ安堵の顔が見つめる先には、宙を舞う人影が数多の流星を描いていた。
 箒に跨り、手先に浮かぶ魔法陣から星の魔法を放つその人影は、紛れも無く魔理沙の物だ。

 良かった。妖怪を相手取るのに慣れている彼女が居れば、妖怪が相当な軍勢でも大丈夫だろう。よっぽどの大妖怪でも居ない限りは心配ない。今の内に私がすべきなのは──

「兎に角、人を避難させましょう。先導します」

「すまない、頼んだ」

 流石に、力も持ってない半端な奴が助太刀に行ってもかえって足手纏いになるだけだ。退魔の札を幾らか受け取り、慧音から伝えられた住人達が集まる広場へと向かう。

 走りに走って人里の中央に存在するその広場へと近付いて行き、広場の光景が視界に入った所で、その中心で固まっている住人達を確認する。妖怪が来ている様子は無い、今の内に裏側から逃げるのが最善だ。

 と、不意に一人の男が安心した様にヒメノに声を掛けた。よく見知った顔──というか、ヒメノが何時も世話になっている団子屋の店主だったのだ。

「ひ、ヒメノちゃんじゃねぇか!無事だったのか!人里の外に行ったって聞いたから、てっきり俺ぁ……」

「おじちゃん!怪我してない⁉︎奥さんは⁉︎」

「女房はあの奥で座ってる……今回のが相当堪えたらしくてな……」

 見れば人混みの中に肩を抱えて震える人影が見える。彼女は妖怪を相当恐れていたようで、軽いパニックに陥っているのだろう。兎も角、無事で良かったと心から思う。

「今、人間の味方の魔法使いが妖怪の進行を食い止めてます。今の内に、皆を避難させましょう」

「あ、ああ。分かった。オイ!逃げるぞテメェら!立て!俺が先導する!」

 人々に向けて店主が怒鳴ると、それに触発されて人々がぼつりぽつりと立ち上がる。未だ恐怖に震えて蹲る者も居れば、彼らに手を差し伸べて立ち上がらせる者もいる。中には、店主に駆け寄って彼を補助する者も居た。

 ──よし、コレなら行ける!


 ズッガァァァアァァァン!


 そんな期待も虚しく、古い建物を突き破って、獣型の妖怪が広場に躍り出て来た。

 ──フラグでしたねわかりたくありません

「よ、妖怪⁉︎」

「なんで此処に!?食い止めてるんじゃ無かったのか⁉︎」

「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ──やっぱそうなるよね!

「店主さん!私が少しでも時間を稼ぎます!皆を逃して下さい!」

「ヒメノちゃん⁉︎何言ってんだ!無茶なんてもんじゃ無いぞ!」

「退魔の道具は多めに貰ってます!早く!」

 店主を促し、腰に携えておいた退魔の短剣と札を取り出す。今まさに人々へ迫ろうとする妖怪の前に躍り出て、妖怪を隔離する簡易結界を張る札を、妖怪の足元の大地に叩きつけた。
 現れた光の壁は妖怪に対して垂直に広がり、その突進を妨げる。

「ガァッ!?」

 妖怪は弾かれるように後退し、憎らしそうに此方を睨む。今にも飛び掛らんとしそうな眼で、強烈な殺気を放ってくる。
 結界が幾らでも続くのなら此処で自分も逃げる所なのだが、生憎と結界の持続性は乏しい。自分が離れては、すぐに追い付かれてしまうのだ。結界が切れる寸前で、再び同種の結界を張ろうと──

「っ!」

 半ば直感に任せて、幽香に打ち砕かれ、ほぼ刀身の無くなった破魔の剣を引き抜く。
 同時に剣を持つ手に重い衝撃が加わり、耐え切れる筈もなく吹き飛ばされた。
 戦い慣れもしていない私が受け身など取れる筈もなく、無防備に地面に転がり込む。

「何……で……!」

「ルグァァアッ!!」

 その爪は、結界を貫通していた。
 ただの妖怪では傷一つ付けられない結界が、そのただの妖怪に破られた。
 妖怪が元々強力な妖怪であった……という事は無いだろう。一応藍との訓練で妖怪の強弱くらいの区別は付くようになっているが、この妖怪は明らかに1面中ボスにも劣る程度の強さしかない。しかし現実に結界は破られている。

 明らかに普通では無い。ならば異変の影響か。この異変は妖怪を凶暴化させる上に、凶暴化させた妖怪の力を強めるらしい。
 ヤバくない?ひょっとしたらこの異変、歴代でもかなり危険度高い異変じゃね?──と、まあ考える事で紛らわしていたが、流石にそろそろ限界らしく……

「痛ぁっ⁉︎何これ痛いマジ痛い⁉︎」

 普通に涙目になりながら殴り飛ばされた腹を抑える。今迄に感じたことの無いレベルの痛みを感じ、地面で悶える。ゴロゴロと左右を転がる事で往復し、痛みを紛らわせようとする。
 そうこうしている内に妖怪はさらなる追撃を加えようと──

「アカンッ⁉︎」

 する前に何とか転がり、爪を躱す。いかんいかん、咄嗟に関西弁が出ちまったよ。
 爪は深々と地面に突き刺さり、その切れ味を見せ付けてくる。うっわぁ……あんなの当たったらグッチャグチャになるわ恐ろしい……

 軽く青ざめつつも撃退用の札を取り出し、妖怪のさらなる動きに備える。幸い妖怪の動きは鈍い。よく観察していれば躱すことは容易いだろう。
 爪を引き抜いた妖怪は、正気を失った顔から涎を垂らしながら再びヒメノへと迫り──

 天空から飛来した、無数の輝く札に叩きのめされた。

「……アンタ、何してんの」

「あー、これはー……なんというか……ごめんなさい」

 空から聞こえる怒気混じりの声に軽く萎縮しつつ、その声の主に謝罪する。
 妖怪を昏倒させ、地面に突き刺さっている札に書かれているのは『博麗』の二文字。

 ──キタ!キタ!公式チートさんキタ!これで勝つる!

「ったく……人が気持ち良く過ごしてたってのに。妖怪共は空気読めないわね……ちっとはあの竜宮の使いを見習えっての。……魔ぁ理ぃ沙ぁぁ!」

 大地に降り立った霊夢──博麗霊夢は、懐からさらなる札を取り出すと、人里の外に居るであろう魔法使いの少女の名を叫んだ。数秒経つと、人里の妖怪の集まっていた人里入り口辺りの方角から小さく聞き覚えのある声が返ってくる。

「おっそいぞ霊夢ぅ!いつまで私にやらせる気だぁっ!」

「うっさい!こっちは癒しのひと時邪魔されてんのよ!結界を敷くから、人里付近から一匹残らず妖怪を叩き出しなさい!」

「無茶言うな!私は一人しか居ないぜ⁉︎」

「殲滅はアンタの得意分野でしょうが!それともアンタが人里全域を覆う結界でも張る⁉︎」

「それこそ無茶だっての!分かったよ、やってやる!」

 声と同時に、魔理沙がいるであろう方角から一筋の光が立ち上る。アレは……恐らくは、魔力を纏って加速した魔理沙だろう。

「魔砲……ッ!」

 魔力の渦が現れ、魔理沙の手の中に……正確には、その中に収まる『ミニ八卦炉』へと集まっていく。
 集まった魔力は炉の中で循環し、天を覆う瘴気が妖怪達に対してその規模を知らせる。
 山を消し飛ばすその破壊の嵐は、遂に大地へと放たれた。


「ファイナル──!スパァァァァァァァァァァァァァァクッ!」


 ──巨大な光の柱が、景色の一端を埋め尽くした。

 柱は更に右へと薙ぎ払われ、今まさに人里に侵入しようとしていた妖怪達を焼き尽くす。
 何とか躱した妖怪達も、柱に伴って高速で降り注ぐ星々の雨に撃ち抜かれた。

 暴力的な迄のその力は、しかし同時に美しかった。

「霊夢っ!」

「分かってるわよ!『封魔「退魔妖幻大結界」』ッ!」

 ヒメノにとっては聞き覚えの無い名前だったが、どうやら原作では登場しないスペルというだけであったらしい。
 突如、人里を囲うように出現した光の輪がその光を上へ上へと伸ばしていく。弧を描くように人里中心上空へと集まったその光は、結合すると共にその全貌を明らかにした。

 半球ドーム状の結界。大妖怪すらも侵入が困難なその結界は、今や人里全土を覆い隠していた。

「……流石に、コレの維持は疲れるわ」

「流石の結界だな。コレ、地中にも通してんだろ?」

 不意に聞こえたその声に空を仰ぎ見ると、そこには箒に跨った魔理沙が浮遊していた。

 ……白か。いやなんでもない

「地中に潜る妖怪なんてゴマンと居るしね。それより魔理沙、今回ばっかりは私も出れないから、さっさと元凶見つけて叩きのめしなさい」

「了解だ。任せろ」

 軽々とした動作で箒から飛び上がった魔理沙は、そのまま足で箒に着地すると、何時の間にやら箒に着けていた八卦炉から蒼い火を吹き出した。「ブレイジングスター」……とは行かないだろうが、恐らくはその移動特化版だろう。

「……何突っ立ってんのよ。さっさと行きなさい」

「アッハイ」

 反射的に答え、非常に不機嫌そうな霊夢から逃げるように人々の後を追う。確か人里には妖怪が襲撃してきた時用のシェルターのような場所があった筈だ。恐らくはそこに逃げたのだろう。

 ……ってか、今更だけど幻想郷含むこの世界には本来、日食の概念は存在しないんだよね?アレ?元凶何で日食知ってんの……?

 ……。

『この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね!』

 ですよねっ!



 
 

 
後書き
next→episode3:掛かったな⑨がッ!
※チルノはまだ出ません 
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