インフィニット・ストラトス 自由の翼
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それぞれの聖戦……序章です。
○Noside
時を遡ることタッグロワイヤルの2日前。
春奈と簪は打鉄弐式の最終調整を終わらせていた。そして、2人はペアを組むことになっていたため、同調戦線のパターンを打ち合わせることになっていた。
「やっぱり、簪ちゃんが前に出る?」
「……そうしたいけど……それだと山嵐が冴えない……。」
「やっぱりそうなるよね~……スイッチパターンはどう?」
「前衛、後衛入れ替えの……ACP?」
「そう。私が前に出るときは簪ちゃんがフォローして、逆の場合は私があなたをフォローする……どうかな?」
「それでいい……これなら、負けない。」
春奈と簪の言うACPとはアサルト・コンバット・パターンの略でよくよく使われる言葉だ。
「じゃあ決まりだね。当日はミスのできない過酷な戦いになるかも……お互いに頑張ろうね、簪ちゃん。」
春奈が微笑みながらそう言うと無言で頷き返す簪。傍から見ていると姉妹にも見えなくもない和やかな空気がそこにあった。
「よし、じゃあ春奈さんが今日はご飯を作りますか!」
「……料理……できるの?」
「こう見えて家事マイスターだからね(千冬姉が家事ができないなんて聞いたら驚くだろうな~皆。)」
「それ、資格じゃない。」
「……細かいことは気にしない気にしない。」
そう言うと春奈は寮内の厨房を利用するために簪の部屋を出るのであった。
●
○side???
そこは暗い、暗い世界の奥。電脳世界の深淵に位置するニューロ達のラウンジ。そこには酒、煙草などの嗜好品やカウンターバーがある。
[む?戦争屋。今日は待機なのか?]
紫掛かった髪を持つ白い軍服を着た男性が赤毛の男に声をかけていた。
[ああ、この前の機体全損がキツかったようでよぉ……旦那は出撃かい?]
[ああ、興味がわいてね……君が見てきたISと言うものに。]
[モノ好きだな、お前さんはよぉ……探究心が勝るってか?]
赤毛の男は探究心に煽られて動く男……シロッコの考えを笑った。
[何とでも言えばいいさ戦争屋。私と君では決して相容れることはない。]
[はっ、前の世界でもそうだったじゃねぇか……シロッコさんよぉ?]
その返しにしかめっ面をするシロッコ。彼からすれば戦争至上主義のサーシェスとは馬が合わない。
粗暴で戦いを楽しみと捉えるサーシェス。自身の知らないものを探求するシロッコだ。無理もない。
[まぁせいぜい頑張んな。(好奇心猫を殺す……どのみち討ち死にだな。)]
[では、失礼する。]
シロッコが歩き去っていく後ろ姿を追うように数人のニューロ達がラウンジから出ていく。サーシェスはその面々を観察していた。
その中に見知った者がいたのでサーシェスは声をかけた
[ん?ヤザンじゃねぇか……お前もか?]
[ああ、今回はハンブラビでの出撃だ。ダンゲルとラムサスを連れて行く。]
ヤザンと呼ばれた鋭い目つきの男はサーシェスに物怖じもなく答えた。
[ハンブラビ3機編成……クモの巣だな?]
[ああ。初の実戦で使うのも気が引けるとラムサスがぼやいていたがな。]
それを聞いたサーシェスはなるほど、と頷いた。
[まぁ死なねぇ程度に頑張んな。]
[言われるまでもねぇよ。]と言い残してヤザンは去っていった。
戦いが好きという共通点を持つサーシェスとヤザンの2人。ただ、根本は違う。ヤザンは戦えるだけでいいのだ。
[さて、次の出撃の予定は……]
テーブルにグラスを残し立ち上がるサーシェス。そして、からんと音を立てて氷がグラスの中で踊るのはほぼ同時だった。
●
○sideRCI社
ひっきりなしに警報の鳴る管制室。ここはRCI社秘匿区域にある特別警戒の時に使われるオペレーションルームだ。
「RSの反応を確認!IS学園の襲撃を企てているようです!偵察機の映像―――来ます!」
オペレーターの声の後にモニターには映像が映し出される。
「この機体は?……Gシステム内のデータ照合します。」
それに対して待ったをかけるものがいた。
「使うまでもないよ。U.C.一年戦争後にジオン残党狩りとして結成されたティターンズのMSだね。機体はガルバディβ、マラサイ、ハイザックとギャプランでいいのかな?」
そう言いながら指令の席に座るのは腰までのある長い鮮やかな黄緑色の髪を結い上げている女性だった。
「さて、また襲撃にウチの技術を使ってくれたか。このツケはでかいぞ……ル・コボル」
オペレーターたちに聞こえないように言葉を紡ぐリボンズ。
「無人機50機が敷地内に侵入しました!」
「仕方ないね、ボクが出るよ。―――さて、久方ぶりに暴れようじゃないか……リボーンズガンダム。」
胸に下げた紅い角錐状のネックレストップに触れながら立ち上がるリボンズ。
身を翻しポニーテールを揺らしながら颯爽と司令室を後にする。
「(あくまでもボクの牽制……標的は天地と織斑姉弟、篠ノ之箒のISだろうね)」
そう推測しながらリボンズは侵入した無人機の迎撃に向かうのであった。
●
○Noside
試合当日の今日、予鈴が鳴りISスーツに着替えて待機していた春奈はまだ簪と合流していなかった。
「簪ちゃんどうしたんだろう……?なにあれ?」
何気なく東の上空を見た春奈の目に何かが見えていた。それは少しずつIS学園に近づいてきていた。
「……ど、ドゴス・ギアあぁぁぁ!?」
いきなり奇声を発する春奈。しかし、無理もない。
飛行艇が東より近づいてこれば当たり前だろう。二股に分かれた機首の奥にそびえる艦橋。そしてその大きさに驚いた。目測での全長は有に270mを超えているだろう。
「大変だよ……みんなに知らせなきゃ。」
春奈はまずは千冬に連絡を取る。そして、千冬はその場で待機という指示を春奈に出すと全生徒に避難勧告を出した。そんなやり取りをしている間にも飛行艇はこちらに近づいていた。
「IS学園を守るシールドを突破してきたらどうしよう……。よく見るとピンク色って派手ですね。」
余計なお世話だと飛行艇に言われた気がした春奈だった。
シールドが貼られているギリギリの地点でドゴス・ギアは停止して動かなくなった。
しばらくすると飛行艇からわらわらと何かが射出されていた。
春奈はISを準待機状態にしてハイパーセンサーを起動して視覚を強化し、それらを確認して―――固まった。
その目に飛び込んできたのはとんでもない数の無人機の反応だった。その数150以上。
「マラサイにハイザック……バーザム、ガルバディβ―――全部ドダイに乗ってる……」
飛行能力があることを確認した春奈は内心で舌打ちを一つ。
避難するべきかとも考えたが春奈は動くことにした。
「ほかの生徒に危害が及ぶ前に数を減らす……反省文何枚書かないといけないだろう。人生損ばかりじゃないとは思いたいけどね。」
そう言いながら春奈はフリーダムを展開して飛翔する。
「行くよ、フリーダム。」
マルチロックオンシステムを起動してフリーダムの全武装を展開する春奈。目標はドダイに乗る無人機多数だ。
「(相手が交戦距離に入る前に何機か叩き落とす!)」
春奈は狙いを定めトリガーを絞る。そして―――
「フル・バーストッ!!」
色とりどりの閃光とエネルギーの奔流は交戦できない無防備な無人機たちを無慈悲に襲う。
「9機撃墜か……まだまだ行くよ!」
交戦距離に入った無人機たちは春奈に向けてビームライフルやヘビィマシンガンで弾幕を張りながら接近してくる。
春奈はそれをVLを起動、機動力を底上げして回避行動とバレルロールを駆使してくぐり抜けていく。
右手から左手に持ち替えたルプスで春奈がドダイを狙い打ち落とすと無人機は海に落ちていく。
「次ィ!(戦艦を狙えば……勝てる!)」
もしも人が乗っていれば自分は人殺しになる。そう考えた春奈は戦艦の機動力を奪うことにしたのだ。
ビームサーベルを構えて接近してくる無人機を蹴飛ばし撃ち抜く。さらにドラグーンを駆使して無人機を次々と屠っていく。
そして、一定の距離を取り、彼女は付かず離れずの距離を保つ。じわじわと戦艦に近づきながら。
「ハァァァ!」
鬼神の如き動きで無人機うを蹂躙していく春奈。
しかし、春奈がドゴス・ギアに当てられたのは偶然ではなかった。囮だということに彼女が気が付くのは数分後の事だった。
●
○side簪(第三者視点)
春奈と合流するために警報の鳴るIS学園敷地内を走っていた簪の前に立ちはだかるように何かが現れていた。直感で危機を悟った簪はISを準待機状態にしてそれらから距離をとる。
「……なんなの……この機体は?」
死を恐れずに向かってくる機械の傀儡。それらには生体反応がなく人が乗っていない無人機だと明確に告げていた。
一つ目の青い機体に武者兜のような頭部を持つ赤い機体……その数は20。そして明らかに違う機体が1機いた。
[こんな少女が戦場に立つなんて……時代は変わるのね。]
「だれ……?」
その機体は大きなものだった。鋭く尖った機体デザインは緑系の色で塗装されており、背中には大型ミサイル8本を装備した背部バインダーに右腕には2連ビームガン。左腕には武装コンテナ兼シールドを装備している。
[私はレコア・ロンド―――ほかに語るべきことはないわね。あなたの名前は?]
「……更識簪です。」
簪に名を名乗った無人機の性別は女性のようだった。
「(無人機……いや、遠隔操作?それにしては自然すぎる動き……)」
簪は考え込むという愚を捨てて無人機に向き合った。ISは展開済みである。
[ル・コボル様の作る世界に共感したシロッコのために……あなたには悪いけれど死んでもらうわ。]
「……!(私じゃ勝てないッ!?……逃げるしかない。)」
簪は逃げることを優先にして飛んだ。そして、山嵐の最終安全装置を解除して無人機の群れにマーカーを付ける。
「フルバースト……ッ!」
ドドドドドドド……ッ!
轟音と共に撃ち出される48発のマイクロミサイル。次弾は瞬時に装填されていた。
閃光と爆音が咲き乱れ、黒煙白煙が巻き起こる。
視界を塞いでその場を離脱する打算を持っていた簪だったが、次の瞬間にはその考えが浅はかだったと思い知らされた。
[無駄よ……私から逃れることはできない。]
「―――ッ!?」
爆煙を切り裂き現れたレコアに驚き一瞬だけ身が竦んだ簪は間一髪でビーム刃を出力させた夢現で振り下ろされるビームサーベルを弾いた。
「……(逃げ切れないなら……お腹を括るしかない……。)」
考えを切り替えた簪は対峙するレコアと下に見える小破の被害で生き残った無人機の11機を見据えた。
「……やってやりますとも……。」
●
○side一夏
緊急事態の警報が鳴り出して避難を開始した俺たちの前に無人機が現れた。その数は50近く。文字通り包囲されていた……四面楚歌ってやつだな。
この前の黒い奴はいないが……いや、こいつらバージョン上がってるのか?
緑色のやつ若干姿変わってるし、赤いやつとかもいるし……種類増えてるよなこれ?
「一夏、これは何だ……?」
「俺に聞くなよ……。理由まではわからんが俺たちを狙ってるんじゃないか、こいつらは?」
これは面倒だな……でも、俺のすることは決まってる。
「箒、戦えるか?」
「それを誰に聞いているのかわかっているのか、一夏?」
……そうだった。箒はこう言うやつだったな。
「わりぃ。ま、背中は頼むぞ。」
「フッ……任せろ!」
俺と箒は瞬時にISアーマーと武装を展開して襲いかかってくる無人機を切り伏せた。
「「さぁ、次はどいつだっ!!」」
箒の初陣がこれだとは思いもしなかったが……行けるところまで行ってやろうじゃねぇか!
●
○side天地
クソッ……この数は冗談だよな……
「冗談だと言ってくれ……」
「いきなり何さ天地ッ!?」
「おっと……冗談だ。それより、シャル―――この状況はどうする?」
俺は周りを見渡しながら状況を判断する。
状況は最悪と言っていいだろう。どこから湧いたのか60機程の無人機に包囲されている。
ドダイに乗っているザクみたいなやつと武者っぽいのはマラサイだっけか?
……まぁ叩き潰せばいいだけかもしれないが
「……なに、僕の顔になにかついてる?」
シャルの顔をガン見してる場合じゃないか……俺は真剣な顔で彼女を見る。
「シャル。ちゃんと付いてこいよっ!」
「は、はいっ!?いつまでも一緒にいます!」
……なにか間違えて捉えられたかもしれんが―――今は流そう。
「俺は奴らの近接武装を装備したやつを叩く。シャルは遠距離型を叩きながら俺の援護を頼む。」
「うん。わかった、任せて!」
よし、今の俺にはあいつがあるっ!
「来い!Oライザーッ!」
[リョウカイ、リョウカイッ!]
その声と共に無人機に向けて何処からかミサイルが飛来して爆発。閃光と爆音で無人機を吹き飛ばす。
「周りの無人機を10機撃破したあとドッキングだ!」
[リョウカイ、リョウカイ!]
そう言い残して空を駆けていく[山]型の飛行機。
「あの声はどこから発されてるの?」
「あそこのオレンジ色のガラス、中にハロって人工頭脳が入ってるんだ。―――ってこんなこと話してる場合じゃねぇッ!」
「……そうだったね!」
さて、さっさと片付けるか!―――なーんてな。
●
○sideラウラ
私は近くにいた凰とオルコットと合流したあと避難所に生徒を誘導していた。
ここのシェルターは強固だということは前もって聞いていたし前にも謎のテロがこの学園で起きたと聞いていた。
「諸君、焦ることはない!ここまでくれば安全だ!走るな、押し合うことは許さんぞ!」
私は穏やかに、時に怒号を飛ばして生徒たちを誘導する。……羊飼いにでも転職したほうがマシかもしれんな……この状況は。
そんなことをぼんやりと考えていると……私たちの前に[何か]が現れた。
「何だあれは……?」
「ゲ……無人機じゃん!?」
「こんな時に……無粋でしてよ?」
凰は明らかに嫌そうでオルコットは何やら憤慨すると言う反応している……いや、まて―――無人機だと?
「無人機だと……あれが?」
「ええ。そうですわ……ボーデヴィッヒさんは引き続き生徒達の誘導をお願いします。」
「そっちは任せるわ!あいつらはあたしとセシリアで迎撃するから。」
「ええい、戦闘は控えろ―――とは言えんか……。」
ISを準待機状態にしている2人を見て私もそれに習う。
「おい、オルコットに凰、ボーデヴィッヒ―――何をする気だッ!?」
教官はそう言いながら私たちを止めようとこちらに来る―――だがッ!
「処分は必ず受けます、今は……自分たちに出来ることをさせてください!」
「……ボーデヴィッヒッ!?」
「行くぞ!」
「もちろんよ!」
「続きますわ!」
立ち尽くす教官はに内心で謝りながら私はISを展開して飛翔した……申し訳ありません、教官ッ!
●
○side千冬
「クククッ……不謹慎かなこれは……」
私の教え子だったボーデヴィッヒのここ最近の変わり様には多少驚いてはいたが……あいつが私に逆らうとはな……人は変わっていくものか。
あそこまで力に固執していたあいつが……他者を寄せ付けぬことからドイツの冷水とあだ名を付けられていたあいつが他者と共に戦うなど考えられないと思っていたが……
「あいつらめ……この騒動が収まったら覚悟しておけよ……」
春奈も言いつけを守らずに単独で戦闘を開始したようだしな。
とにかく、生徒を避難させて教員隊で制圧に向かうか。
……諸君、死ぬなよ。
●続く
後書き
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