あの太陽のように
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13話 太陽side
キィーバタンっ
「…ん…?」
ドアの音で目が覚めた。
辺りは暗い。真っ暗だ。
「え、ちょ、やばい」
まさか消灯時間過ぎてる!?
うわー、冬花さんに怒られ…
かさっ
立ち上がろうとした俺の手のひらに、何か紙のようなものがあたった。
とてつもなく嫌な予感がするけど、恐る恐る紙を開く。
『太陽くんへ。気持ちよさそうに寝てたから起こさなかったけど、次からは気をつけようね?』
訳→次はないと思え。
あ、俺死んだ。
お父さんお母さん先立つ不幸をお許しください。
なんて、ふざけてる場合じゃないな、早く病室に戻らないと。
手すりに手をかけたところで、俺はさっき俺が起きたきっかけを思い出した。
ドアの閉まる音。
つまり、誰かが入っていった?
こんな時間に、一体誰だろう。
消灯時間過ぎてること、言ったほうがいいかな?
…俺も破ってるのに人のこと言えないけど、言わないよりは、ましだよね。
俺は屋上のドアを開けた。
開けた先にいたのは、手すりに寄りかかって、空を見上げる風間さんの姿。
風間さんの髪が月の光に輝いて、いつにもまして綺麗に見えた。
俺は風間さんに近づく。
気配に気付いたのか、風間さんがこちらを見た。
そして一言。
「…あぁ、お前、壁に寄りかかって寝てた奴か」
「は、はい。冬花さんから逃げてたらいつの間にか寝ちゃって………ん…?」
今、風間さん、スゴイ他人行儀じゃなかった?
…気のせい、だよね。
「風間さんは、何してるんですか?」
「…は?…………お前になにか関係あんのか?」
「え、あ、いや…。いつもはこの時間寝てるのに、めずらしいなーって」
そう言うと、風間さんはものすごく怪訝そうな顔をした。
「……何でお前、そんなこと知ってんの?」
「風間さんが自分で言ってたじゃないですか」
「……はぁ?意味わかんねー。…っつーかなれなれしく話しかけてんじゃねぇよ気持ちわりぃ」
「え、風間さん?」
何だろう。
なんか、様子が変だ。
「…どうかしたんですか?」
「どうかしてんのはお前だろ。…何なんだよ急に。お前一体誰………………え………?」
風間さんが呆然とした表情で俺を見る。
「……あ、れ……?え、待って、何で、俺……」
「風間さん?」
「…太陽、だよな…?」
どうしてそんなことを聞くんだろう?
状況がうまく把握できないけど、俺は頷いた。
「そ、だよ、な……。太陽に決まってんじゃん、何してんだ…っ、俺、太陽のこと、忘れて…」
「…え…?」
今、何て言ったんだ?
…俺のことを、忘れた…?
「風間さんそれどういう…」
「……まだ世界でも解明されてない病気。《急性脳死記憶障害》…それが俺の病気だ。…突発的に、記憶がなくなるんだよ…っ」
「…!!そ、んなの、って…」
記憶がなくなる病気なんて、そんなの、あるわけないじゃないですか。
…何言ってるんですか、風間さん。
冗談も大概にしてくださいよ。
「風間、さん…。その、今までも、あったんですか?」
「分からない。俺も、今日初めて知ったんだ。…もしかしたら、俺の知らないうちに、何かを忘れているかもしれない」
「…………」
「…っ、にしても、あれだな…記憶が、なくなるって…」
「…か、ざまさ」
「結構、怖いんだな……」
風間さんの体は小刻みに震えていた。
記憶がなくなる。それに気づく。
いくら風間さんでも、そんな恐怖、耐えられるはずがない。
俺は思わず、風間さんを抱きしめていた。
「…太陽?」
「…落ち着くまで、ここにいます。…だから、我慢しないでください」
「………っ…バカ太陽」
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