宴のゲスト
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1部分:第一章
第一章
宴のゲスト
まず断っておくがこの話は本当にあったことである。このことを言っておきたい。嘘であるというのならそう思った方が精神衛生的に非常にいいことも言っておく。
何故ここまで言うかというと他でもない、この話が非常に異常であり顔を背けたくなるまでにおぞましい話だからである。このことも前置きしておく。
前置きはこの程度にして本題に入る。これは一九八二年のロンドンであったことだ。
この男の名前は本名はわかっている。ただしあえて偽名にさせてもらう。ジャン=ジャック=リパーとしておこう。かの有名な切り裂きジャックの仇名だがこれを使わせてもらう。
ジャックは異常な男であった。この時二十六歳であったがもうアルコール中毒であり趣味は弱者をいたぶることであった。ホームレスや酔っ払いを拾っては彼等を時間をかけていたぶることを至上の喜びとしていた。
こうした人間は世の中にいる。残念なことだがこれも人間である。その極めて醜悪な意味において人間である彼にも仲間がいた。類は友を呼ぶというが彼等にしろそうであった。
彼の仲間は三人いた。ジャックを入れて四人だ。まずは墓堀人夫のエドガーにその愛人のエリス、そして街のゴロツキというかたむろしているチャーリーという若い男だ。誰もが弱者をいたぶることを至上の喜びとする者達であり酒によっては身の毛もよだつゲームを行っていた。それは人がいない場合は動物になる場合もあった。『やり過ぎ』になろうともそれでも彼等にとってはどうでもいいことであった。
その彼等はこの日パブにいた。イギリスという国は階級が厳然と残っておりその階級によって飲む場所も違う。
彼等のような者達はダウンタウンのバーで飲んでいる。場所はウエストエンドである。やはりあの切り裂きジャックがかつて『活躍』したその場所である。
そこで安いが効き目のあるラム酒を四人で飲んでいた。木造の古ぼけた店の中は褐色でモルトと煙草の臭いに満ちている。その安煙草の臭いの中で彼等はあれこれと話をしていた。
「今日はどうするんだい?」
「どうするって?」
「だからパーティーだよ」
チャーリーがこうジャックに尋ねてきた。
「パーティーな。誰か手頃なのはいないのかい?」
「いないな」
ジャックはその問いに詰まらなさそうに答えるのだった。
「今のところな」
「じゃあ犬か猫でも捕まえるの?」
エリスは面白くなさそうにこう言った。
「それじゃあ」
言いながら煙草をすぱすぱとやる。だがそれは煙草ではなかった。見ればそれはマリファナであった。それを吸ってハイテンションになっているのだ。
「そうするの?」
「何かな。それもな」
エドガーはそれを聞いてつまらなさそうに述べた。
「面白くねえな。っていうかな」
「っていうか?」
「最近犬とか猫ばっかりだろ?」
エドガーはラム酒を乱暴にあおりながら言うのだった。
「飽きたぜ。もうな」
「そうだな」
ジャックもそれに同意して頷くのだった。
「今日はやっぱりあれだよ」
「人間ってわけだよね」
「それも派手にやりたいな」
何でもないといった口調だった。
「派手にな。もうぶっ壊す位にな」
「ああ、それいいな」
エリスのマリファナを拝借してそれを吸いながら応えるチャーリーだった。
「最近ストレスも溜まってるしな」
「だからさ。どうだ?」
ジャックはあらためて仲間達に提案した。
「今日は人間でな」
「人間でかよ」
「俺もそれがいいって感じなんだよ」
あくまでその場での感じというもので語るのだった。彼もまたマリファナを吸いその気分を向上させていた。そうしてそのうえで言うのだった。
「今日はな」
「じゃあそうするか?」
「そうね」
エドガーとエリスはそれで納得した。
「それであんたはどうするの?」
「俺か?」
「そうよ。どうするの?」
エリスが最後の一人であるチャーリーに尋ねた。彼もラム酒とマリファナでもう正気を失っていた。最初から正気があったかどうかは疑問だが。
「あんたはさ」
「俺か。まあそれでいいな」
「いいんだな」
「ああ、楽しくやろうぜ」
こうジャックにも答えるのだった。
「楽しくな」
「よし、これで決まりな」
「ええ」
エドガーとエリスがここで頷き合う。
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