髑髏の微笑み
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2部分:第二章
第二章
「その名前と顔は覚えてくれ」
「わかったよ。それでリーさん」
ディックはそれに応えたうえでリーと話をはじめた。
「俺の顔がどうしたんだい?」
「あんたの顔に不吉なものがある」
「不吉なもの!?」
「ああ、近いうちにえらい目に遭う。だが心配することはないな」
「!?」
ディックはリーの言葉に首を傾げさせる。どういうことなのか話が掴めないのだ。
「それからは逃げられるな。だが用心しておけよ」
「何かよくわからねえがわかったよ」
ディックはそれに対してやや矛盾するような返事を返した。
「やばいことが起こるから気をつけろってことか」
「そう考えてもいい。わかったな」
「ああ、わかったぜ」
そして頷く。
「じゃあそうさせてもらうぜ」
「安心していいがな。じゃあ飲むか」
「ああ」
そのままリーはディックとジョニーの中に入って飲みだした。仕事の後のほんの一時の休息の時間であった。それから数日後リーの話を忘れようとしていた頃にディックは思いも寄らぬことに出会った。
鉱山の飯場に使われている宿屋に若い女がやって来たのだ。赤毛で波がかった髪に琥珀の目を持つ奇麗な女であった。
その眼が特に印象的だった。輝きが強く、何処までも見透かす様な瞳であった。その瞳が妖しい光を放ち周りの者を見るのである。それが男達の心に残った。
「いい女が来たよな」
「そうだよな、あの黒い目がな」
男達は早速その目に捉われていた。
「何かあの目に見られると」
「全部見透かされているような気持ちになる。不思議って言えば不思議だな」
「そうだな」
そうした話をしていた。その中にはディックもいた。とりわけ彼の変わり様は大きかった。
「あの女の名前何て言うんだ?」
仕事の合間の休憩で鉱山の入り口で休んでいた時に同僚のソノーラにこう尋ねる。彼等は今ブリキのカップで安物のコーヒーを飲んでいた。
「あの女のか?」
「ああ、聞いてみたくなってな」
「おいおい、まさかよ」
ソノーラはディックのその言葉を聞いて悪戯っぽく笑う。
「御前まさか」
「そうだって言ったらどうなんだよ」
ディックは悪びれずにこう返してきた。
「どうするんだ?」
「何だ、本気なのか」
「本気も本気さ」
ディックはまた言った。
「だからこうやって聞いてるんだよ」
「そうか、本気なのか」
ソノーラにはこれが少し意外であった。
「御前がねえ」
「それで名前知ってるか?」
ディックはまたあの女の名前を尋ねてきた。
「知ってたら教えてくれよ」
「エミーっていうらしいぜ」
「エミーか」
「ああ、名前を覚えてそれからは・・・・・・だな」
「競争相手がどれだけ多くてもな」
ディックは決心した。その目に強い光が宿る。
「彼女は俺のものだ、俺のものにする」
コーヒーカップを片手に宣言する。
「絶対にな」
「まあ頑張りな」
ソノーラはそんな彼に声をかけた。
「応援はするからよ」
「頼むぜ。それで見ていなよ」
また笑ってこう言う。
「俺が彼女をモノにするのをな」
「ああ、楽しみにしているぜ」
それからディックはことあるごとにエミーに声をかけるようになった。最初は嫌がっているようだったエミーもディックの押しに遂に負けてプロポーズを承諾することになった。プロポーズを受け入れさせたその日彼はあのバーで御機嫌だった。
「どうだい、俺はやったぜ」
隣に座わるジョニーやソノーラに対して自慢していた。
「彼女は俺のものさ。だから今日は祝いだ」
「飲むっていうのか」
「そうさ」
ソノーラに応える。
「とことんまで飲むぜ、いいな」
「ああ、好きにしな」
「今日は付き合ってやるか」
ジョニーも悪い顔をしてはいなかった。友人を素直に祝う気持ちがそこにはあった。
そこにはリーもいた。ディックは彼に気付いて声をかける。
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