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廃水

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4部分:第四章


第四章

「姿が消えるのは」
「あっ、そうです」
「それでです」
 ここでその木村と一緒にいた工員達が工場長に話してきた。強張って怯えたような顔になっている。その顔で話すのであった。
「酸っぱい臭いですけれど」
「それですよね」
「それがしたのか?」
「はい、そうです」
「その通りです」
 彼等はこう工場長に述べた。
「その臭いがしました」
「木村が消えた用足しの部屋に」
「そうか」
 工場長はその話を聞いて目を顰めさせた。そうしてそのうえで工員達に言うのだった。
「とりあえずそのトイレに行こう」
「トイレにですか」
「そうだ、何か手懸かりがあるかも知れない」
 こう言うのである。
「だからだ。それを見つける為にな」
「わかりました。それじゃあ」
「すぐに」
 こうして工場長と工員達は木村が消えたその用足しの部屋に向かった。そこにはやはり誰もいない。和式の便器とトイレットペーパー、それに水槽があるだけだ。そうした何処の便所にあるそうしたものがあるだけである。やはり何の変哲もない便所であった。
「おかしなところはないですね」
「もう臭いもしないですし」
「水槽の中も」
 工員達はその便所の水槽の中も調べていた。そうして他の場所もだ。
 それでもやはり何もなかった。何一つとして見つからなかった。皆それを調べ終わって首を傾げずにはいられない。だがここでふとあるものが見つかった。
「工場長、これは」
「何だ?」
「ほら、これです」
 一人が木村が消えたその用足しの部屋の片隅を指差した。そこにあるのは赤い何かの水のようなものだった。それがあるのだった。
「何ですかね、これ」
「うんこじゃ何かじゃないのか?」
「それにしちゃおかしくないですか?」
 工員はこう彼に首を傾げながら言った。
「こんな色のうんこなんて。病気ですかね」
「それにこんなところにですか?便器じゃなく」
「ちょっとないですよね」
「そうだな」
 言われてみればそうだった。工場長も工員達の言葉に頷く。
「じゃあ一体」
「わかりません。けれど何か」
「やけに粘り気がありますよ」
 今度はこう言うのだった。その水のようなものを見ながら。
「ゼラチンのゼリーみたいですけれど」
「何なんですかね、これって」
「さてな。とりあえず拭き取っておくか」
 あまり大したものには思えずとりあえず拭き取ろうとした。だがただ拭き取るだけではない。
「あとはこれを調べるか」
「これをですか」
「ああ、ひょっとすると手懸かりかも知れない」
 こう工員達に言うのだった。その水のようなものを見ながら。
「だからな。拭き取ってだ」
「わかりました。それじゃあ」
「そうして」
 こうしてその水を拭き取ることにした。しかしであった。
「えっ!?」
「何っ!?」
 皆それを見て目を丸くさせた。何と拭き取ろうとしたトイレットペーパーが見る見るうちに消えていったのだ。白い煙をしゅうしゅうと出しながら。
「な、何だこれは!?」
「硫酸か何かか!?」
「硫酸!?」
 ここで工場長の頭の中で結びついたものがあった。
「まさか」
「まさか!?」
「何かあります!?この水に」
「まさかと思うが」
 工場長もまだ確かなものは持てなかった。
 
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