MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士
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033話
「ガーディアンARM ア・バオア・クー!!」
ウォーゲーム第7戦第2試合。初戦をアランが落としてしまったため今後の戦いの流れを左右する第2試合はアルヴィスが打って出た。対する相手はナイトクラスのコウガ、その巨体のパワーと類を見ないタフネス差でアルヴィスの攻撃を受けて尚攻撃をし続け一見優勢のように見えたが
「お前はもう終わりだ―――アランさんの先程の醜態をこれで全員の記憶から消してやる」
「えっそ、それってほぼ八つ当たりってなんじゃそりゃああ!!?」
コウガはその打たれ強さの腕力によってナイトクラスに上り詰めたらしく実際の魔力はシャトンよりも遥かに劣るとの事。切り札のガーディアンARM クンフーフロッグを出し更なる攻撃を仕掛けようとするがアルヴィスはカルデアより授かったARMを発動した。
黒い闇の中より舞い降りたそれは巨大な髑髏の頭部を持った昆虫のよう。髑髏の閉ざされた口が開かれたときそこから黒い霧が溢れ出して行きぎょろりと血走った禍々しい瞳が姿を覗かせた。凄まじい威圧感と恐怖を与えるその姿は正しく死神。
「大切な事なのでもう一度言ってやろう―――お前はもう終わりだ」
「ひっ!?」
鋭く殺気に満ちた瞳で睨まれた時コウガの心の中は一気に恐怖に食い込まれた。今まで会った目の前のこの美少年を潰しその表情を悲痛に歪ませてやると言う考えが一気に潰された。あるのは目の前に迫った死への恐怖のみだった。美少年の瞳に浮かんでいる感情は殺意、のみだった。しかもアランの失態を揉み消す為の。
「や、八つ当たりで殺されるのか俺えええええええ!!!!!???」
「その通りだ、さっさと逝け。バーストアップ・スマッシュ!!」
「なんとおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!???」
その言葉と同時にバリアのような物で包み込まれていたコウガとクンフーフロッグは凄まじい爆発の連鎖に飲み込まれていった。バリアによって隔絶された空間に爆風の逃げ場など無く連続でして起きる爆発は本来行われるバーストアップよりの何十倍の威力を発揮しバリアは耐え切れずに四散し更に巨大な大爆発を起こした。その後には何も残らず、アランの敗北と醜態と言う二言はそれを見ていた全員の脳裏から消え去っていた。
「しょ、勝者アルヴィス!!」
宣言を聞いてから戻ってきたアルヴィス。ドロシー曰くア・バオア・クーは高い攻撃力を持つ引き換えに相当な魔力を消費するらしいのだが
「勝って来たッ!」
全く平気そうな顔をしているアルヴィスを見て底なしの魔力ねと呆れるドロシーであった。これで一勝一敗となりチェスにも焦りが出始めた、続く相手は鼻が高く眼つきが鋭い人形であった。何故人形がチェスの駒、ましてやナイトクラスにいられるかと疑問に思うのと同時にドロシーが表情を変えた。
「次は私が出るよ」
「ムッ………解ったドロシー」
戦うと言ったドロシーの手を引き抱きしめるジーク。いきなりの行動に驚くギンタとバッボ、顔を真っ赤にするスノウに意図を察するアルヴィスと復活したアラン。
「冷静にな………君には俺がいる」
「うん……抱きしめてくれて有難う。これで万人力だよ」
ジークの抱擁であからさまに顔を煌びやかにしたドロシーはやる気満々と言わんばかりに巨大キノコへと飛び降りていった。
「このこの見せ付けてくれるぜジーク!」
「憎いのぉ第三家来!この色男め!!」
「色男ならナナシでは………?」
「否あれはナンパだろ」
「ジークさんとアルヴィスも大概色男だよ?」
「待て俺もか?」
「第3戦。メル ドロシー!チェスの駒 ピノキオン!試合開始!」
「久しぶり、ねぇディアナは元気かしら?」
「ううん病気なんだ。死にそうなんだ」
「ディアナはレスターヴァ城に居るんでしょ?」
「ううん居ないよ」
キノコの上に着地し人形へと問いを投げかけたドロシー、その問いに答えたピノキオン。ドロシーの問いに答えた時その鼻が少し伸びた。
「あっ見て鼻が伸びたよ!」
「嘘をつくと伸びるみたいだな」
「バッボみたいな長さになったぞ。バッボもそうやって伸ばしたのか?」
「ばっかもん!わしの鼻は紳士の証じゃ!!」
「ディアナも物好きねぇ、アンタ私に勝てるとでも?」
「絶対に勝てない……僕なんかがぁああア!!お姉さんにぃいいい―――勝てるよ。ウェポンARM ノコギリギリ!!」
発動したARMは複数本の鋸、一本二本と手にしてもまだ一本天から降って来る。持ちきれないと思ったとき右腕の後ろから新たに腕が一本生えてくる。ARMとしての効力ではなく人形自体に備え付けられた能力であると示唆するアラン。そしてかなりの速度でドロシーに接近し切りかかるが
「へぇ受け止めるんだ」
「ジーくんに比べたらアンタなんかゴミみたいな速度よ」
修練の門でジークと共に修練を積んだ彼女にとってピノキオン程度の速度など止まっている物を見るのと大差など無かった。そして彼女が修練の門で集中的に積んだ修練それは
「そぉれええ!!」
「うあああああ!!?」
近接戦闘術。魔女である彼女がそれを学ぶのは些か可笑しいのかもしれない、が彼女はそれをジークに強く願った。このウォーゲームはその名に在るとおり戦争なのだ、魔女と言えば接近を許す事は十分にありえる。そして戦争には戦術はつき物であるとドロシーは思っていた。対魔女の為に近接戦闘を仕掛けてくる敵は居るだろう。これまでは良かったもののナイトクラスには居る可能性が高い。故に彼女はジークに願ったのだ。
「風の神の鉄槌!!」
「うわああああおおう!?」
箒に風の爆弾を纏わせそれを一気に振り下ろす。その一撃を回避する事が出来たピノキオンだがその一撃が巨大キノコの戦場に巨大な亀裂の与えたことに強い戦慄を覚えた。
「す、すっげぇ………」
「魔女が近接戦に強いとか悪夢でしかねぇじゃねぇか………」
「むぅ………如何攻略したらいいものか………」
ギンタはドロシーの一撃の威力に驚き、アランは魔女の唯一の泣き所でもある近接戦に弱いと言う弱点が無くなった事に呆れ、アルヴィスはどうやったら今の彼女を攻略出来るだろうか思考を巡らせていた。
「俺が仕込んだ近接戦闘術だ、今のドロシーは以前の数倍強いぞ」
「えっジークさんが?」
「ああ。頼まれてな、教え甲斐があった」
微笑みながら今の彼女のステータスを回覧してみると初めて会った時によりも格段に強くなっているのが解った。以前のステータスは
【ステータス】 筋力E- 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運C
だったが今は
【ステータス】 筋力D 耐久D 敏捷C+ 魔力A++ 幸運C
という事になっている。彼女が魔女である事からサーヴァントとなった時はキャスターだろうがキャスターとしては破格のステータスだろう。
ジークがドロシーに教えたのはただの近接戦闘術ではなく彼女の持つ力全てを活用する事が出来る戦闘術。ゼピュロス・ブルームという風を自在に操る事が出来る極上の得物を最大限に活用する、それがジークの教えた事だった。
魔力で風を束ね箒に纏わせながら筋力強化し相手に攻撃する。これで彼女に近接での隙は無くなったといえる。
「このままじゃやばい、負けちゃう……!そしたらディアナ様に捨てられる……人間に、して貰えない!!ガーディアンARM ファスティトカロン!!」
焦ったピノキオンが召喚したのは額に大きな傷を持った見つめの巨大鯨、大きな口を開けてドロシーへと飛び掛るが
「私を襲っていいのはジーくんだけって決まってるのよ!!風の神の斬撃!!」
風を箒に纏わせながら筋力を大幅に強化、そして本来ドロシーの細腕では有り得ない強力で巻き起こしたかまいたちを鯨へと飛ばす。風の斬撃が深々と鯨の体へと刻まれていき他量の魔力を噴出し悶え苦しんでいく。
「そ、そんなぁ!?」
「ガーディアンARM トト!!」
瞬時にARMを発動しガーディアンを呼び出す。空間が裂けそこから薄い藍色をした大型の狼のようなガーディアンが出現する。
『御呼びでご主人?』
「あの鯨を食い散らかしな」
『お安い御用で!!』
一度巨大な咆哮を一つ上げたガーディアンARM レインドックは一気に走り出し深く刻まれた傷に苦しむ鯨へと迫りその巨大な口で喰らいついた。叫びを上げる鯨だがその巨体は食い破られていき一瞬で体上げられてしまった。そしてトトは背中に鯨の内部にいたと思われる人間を背中に乗せてドロシーの元へと戻ってきた。
「お疲れトト、んでそいつは?」
『なんか中に居たので。鯨だけ食えって言われたので一応食いませんでした』
「ポコと言います。あの鯨に食べられてました」
「あっそうなの?まあいいわ、トト私を打ち上げな!」
『ハイ!』
トトの頭の上へと乗ったドロシーは一気に上空へと打ち上げられピノキオンの頭上を取った。
「これでお終いよ。風の神の!!」
取り箒へ魔力を一点へと集める、そしてそれを一気に開放し爆発的な勢いで鯨へと突撃する。一転に集められた風を開放したことで得られた推進力で一瞬でピノキオンへと迫り嘘吐き人形を唐竹割りに引き裂いた。
「竜騎士!」
「ギ………ガ……」
「悪いわねディアナ。また壊しちゃった」
後書き
バーストアップ・スマッシュ
ア・バオア・クーの本来の攻撃法は術者がバーストアップと唱えると睨まれバリアに隔離された物を爆発させる物だが、続けてスマッシュと唱えると更に連鎖的な爆発を起こし更なる威力を発揮する攻撃へと転じる。
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