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鶴の舞う空へ 

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第1部 異世界へ
2.夢の少女
  鶴の舞う空へ

 
前書き
前回までは  不思議な夢を見た後、高校生の海斗はなぜか不思議な鏡へと吸い込まれていった...。

登場人物

梶原海斗・・・高校二年。剣道、フェンシングに長けているまっすぐした青年 

 
「おい。起きろ。」
「うん...ううんっ....。」
海斗がゆっくりと目を開けると、そこは見たことのない場所だった。

2.夢の少女
 「こ、ここは一体...?!」
体を座った状態に起こし、慌ててあたりを見回すと、下は土、壁も土、明かりはロウソク、さらには木製の格子がかかっている。さらに手は縄で縛られている。完全にさっきまでいた学校とは別世界にいた。海斗の顔は一気に青ざめていった。
「おい、聞いているのか?!」
気がつくと目の前に兵士が立っていた。さらに兵士の持つ剣の刃先は海斗の方を向いていた。海斗の記憶が正しければ、鎌倉時代の鎧にそっくりなものをまとっている。
「日本語...ってことはここ日本だよな...。でも...まさか...。」
「何を言っているんだ?お主一体どこから来た?何者だ!!」
「ここはどこですか?!い、今は何年ですか?!」
海斗がここが現代の日本でないことを察し、慌てて兵士に尋ねた。兵士は驚いたようなあきれたような顔をしてかえした。
「お主は何を言っているんだ。ここは豊洲国(とよすのくに)ではないか!お主は宮の前に倒れていたんだ。今は元閤(がんこう)12年だ。ところでお主はどこから来たんだ?何でそのような面妖な格好をしているんだ?!佐伯国(さえきのくに)の間者じゃなかろうな!!」
海斗は聞いたこともない国の名前と年号に慌て戸惑い、頭の中が混乱していくのを感じた。しかし、そんな様子をみた兵士はさらに海斗を怪しく思いにらみつけた。剣の鋭い刃先がぎらりと光り、海斗の思考をさらに混乱させた。学ランを着た少年、鎧をまとった兵士。奇妙な光景である。海斗から見れば、この情景、兵士の姿、真剣などが奇妙きわまりないのだが、完全に浮いているのはどう見ても海斗の方であった。それらをすべて考慮に入れた上で、海斗は混乱の中から一つの結論を出した。
「お、俺は...多分、異世界...別の世界の未来から来たんです!!」
「は....何を言って...。そんなわけがなかろう!やはりお主!佐伯国の間者だな!!」
今度は兵士が混乱した表情を見せ、ゆっくり剣を振りかぶった。
「待ってください!!俺は本当に間者ではないんです!!ま、待って待ってくれ!!!」
「黙れ!!」
「うわああああああ!!」
兵士はその剣を海斗めがけて降り下ろそうとした。海斗は死を覚悟した。その時だ。

「待て。剣を納めよ。」

格子の外に一人の少女と青年が来た。少女は、海斗より少し年下か同じ年ぐらいで、白地に花柄の描かれた振り袖のような(もっと身軽で動きやすそうな)服に袴、黒くて長い髪を一つに結んだ身なりのよさげな格好をしており、青年は、20代ぐらいで、よく時代劇で見かける武士が着る和服のようなものをまとっていた。二人の姿を見た兵士は、慌てて剣を鞘に収め、牢屋の扉を開け、跪いた。海斗は不思議そうな顔をし立ち上がった。
「威勢がいいな。」
少女はにわかに笑みを浮かべた。その時海斗ははっと気づいた。
「その声は....。」
「む?別の世から来たと騒ぎ立てるそなたが、なぜ私のことを知っておるのだ。」
「...俺は夢であなたに会いました。」
「夢で...?そなたは.....。そうか、なるほどな。」
「...?」
少女は中に納得したようににこりと笑った。海斗は何に納得したのかさっぱり分からなかった。
「私は豊洲国の姫、井上鶴千風紫(いのうえのつるちかぜむらさき)だ。鶴姫と呼ぶがよい。で、そなたはの名は?」
「梶原海斗です..けど...。」
「海斗か。そなたは剣をもったことはあるか?」
「はい、一応。」
「では海斗、私の、豊洲国の軍に参加しないか?」
「えっ...?!」
鶴姫はまっすぐな瞳で海斗を見つめた。海斗は驚きのあまり声がでなかった。
「鶴姫様なにを!」
「黙れ、風早。私は今この海斗と話をしておるのだ。」
鶴姫のまっすぐな視線をうけ、海斗はなにか懐かしいような、不思議な感覚を覚えた。また、今、現実とも思えないほどの信じられないことが起こっているというのに、海斗は少しずつ冷静になってゆく自分を感じた。そして、鶴姫との出会いが“決まっていたこと”、すなわち運命の導きで、自分がここにいるように思えてきたのだった。
「今は戦の最中だからな。どのみちそなたが自分の生まれた世に帰るためにも、国内をうろつきにくかったり、国外へ出られないのは困るであろう?これは私にとってもそなたにとっても悪い話ではなかろう?」
「.......分かりました。やります。」
「よし。」
そこへ一人の兵が入ってきた。
「鶴姫様、影光様が探しておられます。次の戦の件でご相談したいとのことです。」
「あい分かった。今戻る。風早海斗はそなたの隊へ入れてやれ。では後は頼んだぞ。」
「御意。」
そう告げると、鶴姫は兵とともに去っていった。牢にいた兵は海斗の手を縛っていた縄をほどいてくれた。風早と呼ばれる青年は優しく笑って言った。
「私は、五人将の長で中府風早太介(なかふのかざはやたすけ)と申します。風早と呼んでください。...海斗でしたっけ。おもしろい格好ですね。君の世界では皆そのような格好をしているのですか?」
「えっと、若い男子はこのような格好をしています、けど....俺の話を信じてくれるんですか?」
「そのような格好は見たことはありませんし、言葉も少々なまっているようですから。それに私の主君があなたを信じるというなら、私も信じますよ。」
海斗はその言葉を聞いて、鶴姫と呼ばれるあの少女のことがますます気になったのであった。

続く 
 

 
後書き
次回  海斗は風早の元でついに戦場へと赴くが...。海斗は運命の指し示すまま歩み出す 
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