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クルタ

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第四章

「安い服だけだぞ」
「そこ念を押すのね」
「お金が必要なんだ」
「お家の為に」
「借金したくないだろ」
「それはね」
 そう言われるとだ、タハミーネも頷く。
「絶対にお断りよ」
「本当に後が怖いだけだからな」
「そうよね、借金はね」
「首にくるからな」
 精神的にだ。
「そして最後はな」
「本当に首によね」
「縄がかかってな」
「無理に支払わさせらるかね」
「木のお世話になるんだ」
「この辺りは木少ないけれどね」
 中央アジアは平原地帯だ、それでだ。
「それでもね」
「あるにはあるからな」
 だからである。
「そうなるからな」
「そういうことね」
「余裕がある分だけだ」
「世の中世知辛いわね」
「甘い世の中なんてあるか」
 十代にしてだ、こう言うラスルだった。
「唐辛子より辛いんだよ」
「そういうものなのね」
「そうだ、わかったな」
「嫌になる位にね」
 こう返してだった、タハミーネはこの日は寝た。兄の隣で持って来た毛布にくるまって。勿論兄も同じ様にして寝た。
 そして朝だ、ラスルは妹に言った。
「帰る前にな」
「ええ、服買うわね」
「そうして来い、それでどんな服にするんだ」
「だから奇麗な服よ」
 タハミーネの返事は変わらない。
「ずっとそう言ってるじゃない」
「本当に具体的なものがないな」
「いいじゃない、とにかく市場に行って」
「これからだな」
「それでいいと思ってね」
 今度は自分から行ったタハミーネだった。
「安い服ならよ」
「よし、そこが一番大事だぞ」
「安いってことが」
「そうだ、一番大事だからな」
 何といってもというのだ。
「いいな」
「ええ、安くて奇麗な服ね」
「それが条件だ」
「じゃあ探すわね」
 こうしてだった、タハミーネは市場に出た。とはいっても二人がこれまでいた場所だ。そこにラスルも一緒に行った。
 そしてだ、その店の一つでだった。
 タハミーネは兄にだ、こう言った。
「これがいいかしら」
「ここで買うのか」
「ええ、何かね」
 その店の品を見ての言葉だった。
「ここのお店の服いいから」
「そういえば」
 ラスルもその店の品である服達を見て言った。
「ここのお店の服いいな」
「そうでしょ、クルタのお店ね」
「クルタか」
 この言葉をだ、二人で出してだった。
 ラスルはあらためてだ、妹に言った。
「そういえば御前最近クルタ買ってないな」
「ええ、何年もね」
「ずっとそうした色気のない服でな」
「だってお金ないじゃない」
 またこの話だった。 
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