竜のもうひとつの瞳
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第二十六話
城のど真ん中に出ることになってしまった私達は、すぐに見つかって一斉に城内を警備する足軽さん達に取り囲まれてしまった。
普通の人ならゲームオーバーってところだろうけど、私達は普通の人じゃないんだな、これが。
というわけで、変態に迫られ続けた挙句とんでもないプレイを要求された私のこのストレスを盛大に発散すべく……
「小十郎」
「はい、姉上」
小十郎が帯電しているのを見て、私は目の前にいる半分を重力で押し潰した。小十郎は残りの半分を雷で吹き飛ばしている。
刀を足軽さんから奪い取って駆け出したわけだけど、とりあえず馬がいるだろうってことで厩を探す事にする。
それにはまず外に出なけりゃならないわけだけども、勝手の分からない人のお家を手際よく走り回れるはずがない。
だもんだから先程から取り囲まれてはぶっ潰して、の繰り返しだった。
つか、いくら引き止めるためだとはいえさぁ……湧いて出て来すぎだっての。
一体何処にそんだけの兵を隠し持ってたんだ、ってくらいにぞろぞろぞろぞろ出てきて嫌になるわ。
ようやく厩を見つけた頃には兵数は半分までに減っており、どうせなら全部潰して逃げるか?
なんて魔が差したけれども、変態不在の今だからこそ逃げられるわけだしそこはぐっと堪えておく。
小十郎は色目を使ってきた連中を全部倒したいって顔してたけど、今は逃げることが優先だからと有無を言わさず黙らせておいた。
厩に駆け込んだのだけど馬は一頭しかなくて、仕方が無く仲良く二人で馬に乗って逃げる事にする。
射掛けられたら大変だと私が前に乗せられたわけだけども、仮にも主の側室を射掛けたりするかなぁ……?
「お待ち下され!! 二人の姫君!!」
「俺を姫とか呼ぶんじゃねぇ!!」
反射的に叫ぶ小十郎は怒鳴っているというよりも、悲鳴に近いような気がした。
どう見たって小十郎は姫って柄じゃない。どっちかと言うと、お姫様を守る騎士ってところじゃないかしら。
って、まんまか。今だって主を守る従者やってるわけだし、主が男か女かの違いしかないわ。
馬に飛び乗って屋敷を出たのは良いけれど、あの変態に仕置きされるのが怖いのか、
兵達も必死で私達を連れ戻そうと躍起になっている。
こちらも必死で馬を走らせるものの、置いてあったのは駄馬だったのか二人では流石に重いのか、
段々とスピードが落ちていくから困っている。
このままじゃ追いつかれるのは時間の問題、となれば。
私が飛び降りようとするよりも早く、小十郎が馬から飛び降りた。
突然手綱をしっかりと握らされて驚きはしたけれど、考えることは同じだったってわけか。
っていうか、あの子一人で大丈夫なわけ? いくら雑魚ばかりとはいえ、多勢に無勢でしょうに。
「小十郎!」
「御心配召されるな! この程度の数、敵ではございませぬ!!」
いや、そりゃ分かってるけども……心配なんだよ、お姉ちゃんは。
大事な弟一人置いて逃げられるわけがないでしょう?
「姉上、竜の右目が信じられませぬか?」
にやりと笑った小十郎はこればかりは譲れないと悪い顔をしている。
追っ手を次々と雷で絡め取って倒していく姿はなかなかカッコイイ。
「早く、お逃げ下され!!」
「……ごめん! 小十郎、任せた!!」
私が二の足を踏んでいれば小十郎の邪魔になる。今はそれよりも逃げ延びて、応援を頼む方が先だ。
向かうは奥州、政宗様の下。
と、そこまで考えてふと思考が止まった。
……明智光秀がいるってことは、ここってどう考えても関東でもないよね。西の方だよねぇ……?
ってことは、ここから奥州まで戻って援軍呼びに行って小十郎助け出すまでの間にどれだけ時間が掛かる?
仮に全部捌ききったとしても、これだけの被害を出してるんだからあの変態も血眼になって探すだろうし……
流石に一対多数は相手が小十郎とはいえ婆娑羅の力と体術だけじゃ分が悪すぎる。
多勢に無勢って、さっき考えてたくらいだしね。
じゃあ仮に掴まったとして、今までは私の結界でどうにか凌いできたけれども、私がいなくなったらあの子どうするつもりなの?
あの変態、痛めつけられるのも好きだけど拷問にかけるのも好きだって言ってたじゃない。
小十郎を拷問にかけたがってた節があるから、もし掴まってあの変態に手渡されたとしたら……。
いかん、悠長に逃げてる場合じゃない。てか、逃がすんなら小十郎を逃がすべきだった。
馬を止めて急いで来た道を引き返す。
地理的なことを全然考えてなかった自分のアホさに腹が立ったけど怒ってる場合じゃない。どうにかして助けなきゃ。
必死になって馬を走らせて小十郎を助けに向かっていたその時、
突然目も開けていられないほどの突風が吹き、目の前ででかい黒い影が通り過ぎていくのが微かに見えた。
私は抵抗することも出来ないまま、そのまま馬ごと吹き飛ばされてしまう。
で、こういう場合お約束的に吹っ飛ばされた先に崖があるもんだけど、
やっぱりお約束はお約束で崖があってそのまま真っ逆さまに落下していった。
あーもう! 小十郎を助けに行かなきゃならないってのに、一体誰よ!!
重力の力を発生させて、落下速度を緩めようとしたんだけれども上手く力が発動しない。
何度か頑張ってみるけれど、やはり重力を上手く操れない。
こんな状況に覚えがある分嫌な予感を本当に抑えきれない。
しまった、連日力を使いすぎてオーバーヒートしたんだ……!
婆娑羅の力を使い過ぎるとしばらくの間力が使えなくなったり、具合が悪くなったりすることがある。
これをオーバーヒートって私は言ってるんだけど、今まさにその状況なのだ。
何もこんな時にオーバーヒートしなくても、そう思ったけれども仕方が無い。
私は何とか空中で体勢を立て直して崖下の樹海のような森に足から落ちていった。
小十郎、助けに行くまで無事でいてよ……お願いだから、早まった真似だけはしないで~!
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