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赤い目

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6部分:第六章


第六章

「左様、主は土の属性を持つな」
「何故それを」
「人を喰らう魔物は往々にして死人かそれに類するものであることが多い」
「そうなんですか」
「吸血鬼を知っておるな」
「はい」
 高志は老人の言葉に頷いた。
「あれは人の血を吸うとされているが中には人を喰らうものもおるのじゃ」
「そうだったんですか」
 これは意外なことであった。
「映画のドラキュラとかとは全然違うぞ」
 老人はここで言った。
「あれはかなり格好よく書いておるからな。実際はもっと残忍で血生臭い連中なのじゃ」
「そうだったんですか」
 正直高志も吸血鬼といえばあのドラキュラをイメージしていた。だがそれは違うというのである。
「墓から甦った死人でな。凶暴で時には生きている者まで貪り喰らう」
「とんでもない奴ですね」
「中国の吸血鬼もそうなんじゃ。ほれ、キョンシーがおるな」
「はい」
 これも映画からであるが知っていた。飛び跳ねながら人に襲い掛かる凶暴な魔物である。生きた屍であるのはもう知っている
ことではあった。
「あれじゃ。あれが中国の吸血鬼なんじゃ」
「それは映画で見ましたけど」
「今目の前におるあれもな。同じ様なものじゃ」
「そうなんですか」
「うむ。元々は人間だったのじゃろう。じゃが何かしらの事情で甦り」
「魔界の住人になったんですね」
「おそらくな。そして人を喰らう魔物となった」
 老人は話を続けた。
「そうではないかな」
「フン」
 だが怪物は老人の言葉には答えようとはしなかった。
「だったらどうというんだ。どのみち貴様等は今ここでわしに喰われる」
「話のわからん奴じゃな。そんなことはないと言っておるのに」
「わからんのは貴様の方だ。こんなもので」
 そう言いながら札を剥がす。
「わしをどうにかできると思ったか」
「うむ、できるぞ」
 老人は臆することなくそう言葉を返した。
「麒麟を甘く見るでない」
「あの、易者さん」
「何じゃ」
 彼は高志にまた顔を向けた。
「どうして麒麟なんですか?」
「属性じゃ」
「属性」
「うむ。死人はな、地におったな」
「はい」
「世の理では死人は土に還る。それが常じゃ」
「それはそうですけど」
「じゃがこうした魔物はその理に逆らう魔物なのじゃ。だからこそ麒麟を出したのじゃ」
「麒麟って土の属性なんですか」
「五行思想ではそうされておる」
 老人は答えた。
「黄竜や蛇だったりもするがな。じゃが麒麟である場合もあるのじゃ」
「はあ」
「その麒麟の力じゃ。効かぬとは言わせぬぞ」
「まだそんなことを言うか」
 怪物はそれを聞いて激昂した。
「ふざけた奴だ。こうなれば」
「来い」
 老人は今度は挑発した。
「では教えてやるわい。麒麟の力をな」
「その前に貴様を喰ろうてやるわ」
 怪物はゆっくりと向かって来た。動き自体はそれ程速くはない。やはり死人であるせいだろうか。
 だがその足から瘴気があがっていた。白い気がシュウシュウと音を立てている。そこからこの怪物が只の怪物ではないことがわかった。
「心配することはないぞ」
 だが老人は高志にこう声をかけてきた。
「相当な力を持っておることはわかっておった」
「はあ」
「じゃから用意をしてきたのじゃ。案ずることはない」
「あのお札の他にも何かあるんですか?」
「うむ。心配するな」
 そう言いながらまた懐から何かを取り出してきた。
「これじゃ」
 それは一本の縄であった。
「縄」
「走縄といってな。山伏達が持っておるものじゃ」
 老人はこう説明をした。
「山伏が」
「わしは易の他にも修験道もやっておってな。その道具なんじゃ」
「さっきのお札もですね」
「うむ」
 彼は頷いた。
 
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