赤い目
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3部分:第三章
第三章
「そのラーメン屋ができてからなのじゃろう?目の赤い者が出て来たのは」
「はい」
「おそらく間違いない。おそらくそこの店主は人ではない」
老人の声までが険しいものとなってきた。
「異形の者じゃ。この街を乗っ取りに来たのじゃろう」
「この街をですか」
「目が赤くなるのは何故じゃと思う?」
老人はまた問うてきた。
「わかりません」
そんなことまで一介の中学生がわかる筈もなかった。今聞いている話だけでとても信じられないというのに。
「赤い目はな、魔物の目なのじゃ」
老人はこう説明した。
「つまり人を食らうということはそれだけで魔道に堕ちているということになるのじゃ」
「そうだったんですか」
「人ではなく魔物になっていく」
老人は言葉を続けた。
「その結果どうなるか。わかるであろう」
「はい」
頷くしかなかった。あの目を見ていれば頷くしかなかった。
「それを防ぐ方法は一つしかない。元を断つ」
老人は言い切った。
「その為にあんたにも何かとやってもらいたい。よいかの」
「僕がですか」
「そうじゃ。あんたはまだあのラーメンを食ってはおらぬな」
「はい、まあ」
何時か食べようと思っていたなどとは言えなかった。ただ頷くだけであった。
「では決まりじゃ。協力を頼むぞ」
「はい」
話しているうちにこの老人はやはり只の易者ではないと確信するの至った。漫画や映画で見る陰陽師か何かではないだろうかと思うようになっていた。
「さて、まずは偵察じゃ」
老人はそう言うと立ち上がった。老人とは思えない動きであった。
「お若いの、案内して下され」
「わかりました。それじゃ」
高志はそれに従った。こうして二人はその渦中のラーメン屋へと向かうのであった。
そこは一見何の変哲もない只のラーメン屋であった。ありきたり過ぎて高志としてはかえって拍子抜けした程であった。
「あそこですよ」
「ふむ」
二人は向かいにある店の物陰から覗き込んでいた。行列ができている以外は確かにこれといっておかしなところのない店であった。
「ううむ」
「何かあるのですか」
高志は呻きはじめた老人を見上げて問うた。
「これはまずい」
「何かあるのですか?」
「感じぬか、あの妖気を」
老人は高志に問うてきた。
「妖気」
「そうじゃ。これ程まで強烈な妖気は感じたことはそうそうない」
彼はそこまで言った。
「あの店にいる者。どうやら只の魔物ではないようじゃな」
「というとどんな魔物なんでしょうか」
「それはまだわからん」
老人はこれに対しては素っ気無く返した。
「わからないって」
「だが一つ言えるのはわし等も相当な覚悟をせねばならんということじゃ。これはわかるな」
「はあ」
何時の間にか完全に話に巻き込まれていた。迷惑と言えば迷惑だがこうなってしまったからには仕方のないことだとも思った。
「一旦戻るぞ」
老人は踵を返してこう言った。
「戻るんですか」
「そうじゃ。三日後にまたわしの家に来るがいい」
「はあ」
「その間に身を清め用意をしておく。全てはそれからじゃ」
「わかりました。それじゃあ三日後。学校から帰ったらすぐ来ますね」
「いや、そんなに早くなくともよい」
「いいんですか」
「うむ。あの店が閉まってからでよい。わかったな」
「はい。それじゃあその時に来ます」
「頼むぞ」
こうして高志と老人はとりあえず別れた。その間に高志は新聞等で奇妙なことに目がいくようになっていた。やはりそうしたことを聞いては当然のことであった。
「関係があるのかな、やっぱり」
新聞の社会欄を見てこう呟いた。見れば高志の住んでいる辺りでホームレスや不良の失踪が相次いでいるのである。
それも急にだ。それまでそこにいた者が忽然と姿を消すのである。何処に行ったのか誰も知らないしわからない。だが今の高志にはその消えたホームレスや不良達の行方が何処にあるのかわかる気になっていた。
「あの店なんだろうな、やっぱり」
そう考えるのが当たり前の様に思えてきたのだ。老人に会ってからそうであった。それを考えるとやはりあのラーメンはとても食べる気にはなれなかった。
「どうしたの、新聞なんか読んで」
そんな彼に母親が声をかけてきた。
「それも社会欄なんか。いつもはスポーツかテレビ欄しか見ないのに」
「あ、勉強にいいかなって思ってね」
高志はこう言ってその場を取り繕った、見れば母の目はさらに赤みを増してきていた。
「勉強に」
「うん、先生に言われたんだ。新聞を読むのも勉強にいいって。それで読んでるんだよ」
「よく言われることよね」
母はそれを聞いてこう言って頷いた。
「私もあんたの歳にはよく言われたわ」
「やっぱり」
「どちらにしろ新聞を読むのはいいことよ。巨人が負けてたら特にね」
「巨人が」
母は野球が好きなのである。だが巨人は大嫌いであった。高志もそうであるし父もそうであった。一家全員がアンチ巨人なのであった。
「読むのが楽しいし。やっぱり巨人は負けないと駄目なのよ」
「そうだね」
これは全くもって同意であった。高志も両親の影響か巨人は大嫌いであった。特にあの会長だか何だかが出るとすぐにテレビのチャンネルを変える程である。見たくもない顔であった。
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