MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士
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027話
「………」
空に浮かぶ太陽が映し出すは戦いの奏でる音色、太陽が伝えるは呪いに塗れながらも前へと進み続ける健気な青年の戦い。それを見ながら暖かな光を受けながら紅茶を飲む三つの影とティーポットを持った男が一人。
「ハメルン、強い奴。俺あいつ嫌い」
「ダークネス使いのハメルン、俺たちは奴と折り合いが付かなかったからな」
「う~んあのカッコいいお兄さん大丈夫でしょうか?」
「大丈夫であろう、某に勝った男だ」
それぞれが太陽のような輝きを放つ空のモニターを見ながら感想を述べる、二人はチェスの駒のビショップに対するそれぞれの思いを。一人はビショップと戦いを繰り広げている青年の事を心配し最後の一人は心配などせず勝利すると確信していた。
「随分と買っているな。贔屓目でか?」
「違う、某は事実を言ったまでだ。奴は既にナイトクラス級の力を持っている」
「流石は一度はナイトの手で死に掛けた事だけはあるな、なあ―――Mrフック」
「ええいそれをいうな、それはお主らとて同じであろう」
テラスで茶を飲みながら天を仰ぎ見るは嘗てチェスの駒に身を置き、残虐に身を染めた者達。コレッキオ、アヴルートゥ、アクア、Mrフック。ウォーゲーム中にて敗北あるいや引き分けまで行ったもののナイトであるラプンツェルが気に入らないというだけで制裁され残虐を受けた者達。
チェスとしての地位を追われチェスで居られなくなった彼らだが竜殺しの騎士に救われた彼らは、彼の好意によって生かされている。ARMは全て没収され監視付きという条件ではあるが城の一室に居る事を許された彼らはテラスで紅茶を飲みながら過ごしている。
「でもMrフック。予想以上に執事、板に付いてる」
「だな。目を覚ました時にお前が執事服を着てた時はビビッたが中々似合ってるな」
「フックさんも中々イケてます♪」
「うむそうか?主が某に賜ってくれたのだが、中々着心地が良いぞこれは」
その中の一人Mrフックは4人の中でも一番に目覚め自分を救った騎士の従者となる事を決め今は3人の世話係兼執事的な事をして過ごしている。
『13トーテムポール!!』
「あっ決まりました!フックさんの言うとおりでしたね!」
天高くに打ち上げられたハメルン、その身体は地面に落ちハメルンの意識は消えていった。そしてポズンのジャッジが下されアルヴィスの勝利が決まった。ナイトに近い実力を持ったビショップへの勝利はフックを除いた全員にこう思わせた。
―――ああ、そりゃフックが負ける訳だわっと。
「やったなアルヴィス!」
「うむ、褒めて遣わすぞ!」
「流石やなアルちゃん、今夜は自分が美味しい料理でも作ってやるさかいな」
「本当に凄かったよアルヴィス!」
「ああありがとう、さて次は向こうは一体誰が来るか……?」
アルヴィスは勝利に対する賞賛の声を受けながら次に出てくる敵を警戒していた。既にビショップ最強の三人衆のうちの二人は倒され残っているのは全員ナイト。これから本当の戦いになる、だが既に戦う相手は決まっているような物だ。骸骨仮面のアッシュはギンタを指名し、今は居ないが最後に出てくる男はナナシと戦いたがっている。そうなると残ったキャンディスという女は自動的にジークと戦う事になる。
「チェスの駒 キャンディス!!」
ポズンがコールした人物は眼帯を付けたナイトの女"キャンディス"、となるとこちらメルが出るべきメンバーはジークとなる。
「メル ジーク!!」
向き直る騎士と騎士。騎士の名を持つ二人は向き直り戦いを始めようとしていた。
「行くぞっ、竜穿!!」
先手必勝と言うよりも早く抜刀し攻めたジーク、抜刀しながら魔力を込めた斬撃がキャンディすへと向かっていく。砂漠の大地を切り裂きながら進む魔力の塊を13星座の無いとは巨大な石作りの斧で斬撃を力技で掻き消した。
「ボールダーアックス。あんたを倒せばファントムは喜んでくれるはず、死んで貰うわよ」
「やれるものならな」
同時に駆け出す騎士は剣と斧を交えた、その際の衝撃は凄まじくぶつかり合う度に強い衝撃波が控えているメルやチェスの駒のメンバーを襲っていた。豪剣の剣士と豪腕の斧士、その激しさは周囲の地形が容易く変化しているのが説明していた。
「砕け、抉れ……グラム・フリード!!」
「はぁあああああ!!」
魔力を収束させたバルムンクの一閃、切られた事にさえ気づけない程に素早い太刀筋を一瞬で見極めてた上で受け止めたキャンディス。石の斧に深い傷を残す事は出来ているがそれだけだ。
「中々、だな」
「貴方もね、どうやら斧は相性悪いようね。じゃあ、ボールダークロウ!!」
「っ!竜穿撃!!」
斧のARMから一気に別のARM 石の爪を展開し素早い攻撃を発揮するがそれを相殺するようにジークがV字にバルムンクを斬り付ける。一撃を重視していた斧とは違い連携と鋭さを重視している攻撃にジークも腕に更に力を込め剣を振るう。
「強さ的には、あのドリル婆よりも上か!」
「ラプンツェルなんかと、一緒にしないでくれるかしら!!」
「それはすまない、スクリューサーベル!!」
「っ!!」
咄嗟に後ろにステップを踏むキャンディスへと襲い掛かる刃、僅かにキャンディスの肌を削り取り血を滴らせる。ジークの左腕を見ると茨のように絡みついているレイピアがある、それはMrフックが使用していたウェポンARM スクリューサーベルであった。
「随分、低級なウェポンARMを使うのね。その剣一本で戦う物とばかりと思ってたわ」
「今まではな、だがこの剣しか使うと言う道理は無い。怒りの碇!!」
スクリューサーベルを戻しながら新たにARMを展開する、それはフックの切り札のARMである怒りの碇。それを片手で担ぎ上げ振り回す。
「剣を落とされれば予備の武器を抜く、いざとなったら落ちている石を使う。別に妙な話でもあるまい!!!」
「くっ!!」
巨大すぎる碇を振り下ろすジークに石の爪を消し再び斧を展開するキャンディス、三度ぶつかり合う巨大な力は先程とは全く違う結末を齎した。先程まで互角に近い打ち合いを演じていた両者だが今回はジークが石の斧を圧倒していた。
「流石のパワーでもこれは無理があったかっ!でぃあああああ!!!」
「ああ、この衝撃で巻き起こる腕の痺れと痛み………凄い感じる!」
「………色んな意味で凄いなこいつ」
一撃二撃、交わす度にキャンディスに確実にダメージは入っている。だがその度に顔を綻ばせ恍惚に満ちた笑みを浮かべている、不気味な事この上ない。そんな中彼女はは一つのARMを展開した。それは時計のようなARM、何か特殊能力があると考えたがジークはそのまま攻撃を続行した。
「はぁあああアンカーブーメラン!!!」
大地を抉るようなアンダースローで投げられた碇はキャンディスの斧を完全に砕きながら身体へと炸裂した。
「漸く、一撃が入ったか」
「ウ、ウフフフフフ………良い痛みだったわぁ……さあ私の身体にもっと刻み込んで頂戴!その痛みを、その力を!!」
「被虐快楽者かこいつ……少し引くか、遠慮なくやらせて貰うぞ!!」
戻ってきた碇をアクセサリーにしつつバルムンクで斬りかかるジーク、石の爪を展開し防御するキャンディスだが先程よりも防御が甘く何度も身体が剣によって傷つけられている。その度に快楽に歪んだ表情を見せるがその笑みはジークには何か狙いがあるような気がしてならなかった。そして一度攻撃をやめ距離を取る。
「ハァハァ………い、良い苦痛だったわぁ……気持ちよかったぁ……♪でも、もう少し足りない……」
「気味が悪いので、距離を取らせてもらう」
「そう……ならボールダークラッシュ」
新たに発動したARM、それは巨大な岩を持ち上げていく。重量という鎖など知らぬように浮いていく大岩、そしてそれをジークへ投げつけるのではなく自らを傷つける為にぶつけた。
「なにっ?」
「ああ、ああああ!!」
次々と自らの傷つけていくキャンディスの奇行に思わず動きを止めるジーク、何故そのような事をするのか理解が追いつかない。幾ら痛みが快楽になるといってもチェスの駒、ましてや13星座の内の一人がそのような事をするだろうか。全く理解出来ない、がアルヴィスは何かに気づいた。
「奴の自虐攻撃を止めさせるんだジーク!!」
「えっ?」
何故と問いただそうとしたその時、キャンディスの時計がけたたましい音を鳴らし始めた。一体何のサインだろうか、その音を確認するとキャンディスは大岩をそこらに捨て快楽に染まりきり統帥した表情で空を見た。
「この身体に刻み込まれた数多の痛みは悦び。相手にとって地獄の苦しみの糧となる!」
同時にキャンディスの身体から溢れ出す魔力が先程とは比較にならないほど尋常ではない大きさに膨れ上がっていく。数倍に魔力が上がっていく、溜め込んでいた痛みを自分の力を変えているとでも言いたげな力の変化にジークも驚く。
「出でよ、ゴーゴン!」
その名を呼ぶ、同時に大地が恐怖するように鳴動していく。キャンディスの後方の大地が裂けそこから巨大且つ無数の蛇が姿を現す。そしてその下に隠されていた本体、女の表情をした化け物が完全に出現した。その瞳が開かれた瞬間ジークは強い呪縛を感じた後ろに飛ぼうとしたが足が重く動かなくなっていた。
「な、何っ!?」
「ジ、ジークの足が!!」
「せ、石化してる!?」
「あのガーディアンの力か!?」
足が少しずつ石化するだけではなく身体を拘束するような重圧感、このまま放置すれば自分の身体は本当に使い物にならなくなると実感があった。
「くっ!高ランクの魔眼か……!!」
「ガーディアンARM ゴーゴン。その瞳を見たものはその身体を石とされる、そしてそれを私は嬲る……ぁぁ、良いわぁ……」
「ジークゥ!!ギブアップしろォ!!石になっちまうなんてゆるさねぇぞ!!」
必死に声を上げてジークにギブアップするように叫ぶギンタ、此処まで共に戦ってきた戦友を失う事など絶対に許せない。だがジークは声を上げようともしなかった。
「ジークさんはやくぅ!大丈夫だよこっちが勝ち越してるんだから!!」
「そうやで早くギブアップせい!!」
「急ぐんだジーク!!」
皆が叫びギブアップするように進める中ジークの身体は更に石化が進んでいく、既に下半身は完全に石化し動かせなくなっている。それに加え意識も薄れ始めており声も出せなくなりつつなっている。
「(悪竜の血鎧でもこんナに……石化、スるトは……メデューサ以上の魔眼か……あれを、使うしか、無い!!)」
必死に歯を食いしばりながら右腕を掲げ残った魔力を全て集中させ、ARMを発動した。魔法の国"カルデア"。その大爺がお墨付きをつけた竜の装飾がされたARM、どれだけの力を発揮するのか全く予想が付かないが使うしかない。
「来い………ARMに眠りし力よ!!」
瞬間、世界が震えた。地面が鳴動、否世界そのものが震えている。
「な、何だこの揺れ!?」
「じ、地震か!?」
「い、いやこれはちゃうで!」
「世界が、世界がおびえている!」
刹那、ジークの背後の空間が罅割れていく。罅から赤黒い光が漏れ出しそれは憎悪、殺意、怒り。様々な負の感情を凝縮した物のような邪悪さ。
「―――そうか、そういう事だったのか。皮肉な事だな、倒した者が倒されたものに従わされるというのは、なぁファヴニール!!」
割れる、空間が。閉ざされていた世界と世界を隔てていた空間が遂に割れた。一体何が出現するのか確信したジークは高らかにその名を呼んだ、そして名を呼ばれた者は一際大きな咆哮を上げ世界へとその呪われた姿を現した。
その身はこれまで食らってきた命達の鮮血で染められ赤黒く発しているオーラと相まって更に邪悪さを引き立てていた。悪魔の王の如きその翼は禍々しく一部が朽ちている。全身に張り巡らされている鎖がその動きを抑制しているようにもワザと纏っているようにも見える。そして一番目を引くにはその実を貫いている巨大なバルムンクのような剣であった。
『……漸くか、この時を待ったぞ……』
「久しいな、ファヴニール。随分なざまだな」
『今の貴様だけには言われたくは無いな………しかし、何というざまだ』
召喚されたガーディアンARM 悪竜はその手を振り上げジークへとたたきつけた。すると一瞬にして身体を蝕んでいた石化が一瞬で解除され身体からボロボロと石が落ちていく。
『まあ良い、貴様は俺が現界する魔力を供給すれば良い。この世界に留まる為には貴様の魔力が必要だからな』
「ああ解った、好きに暴れろ」
『………せめて向かってくる相手に呼び出せ、これでは暴れる気にもなれん』
既にキャンディスはファヴニールの邪悪すぎるオーラに当てられているのか酷く怯えていた。そんな彼女に興醒めしたのかファヴニールはもう一度巨大な腕を振り上げキャンディス付近の地面へと振り下ろした。腕が炸裂した地面は大きく弾け巨大なクレーターを作りながらキャンディスを大きく吹き飛ばした。
「あ……ぁぁぁぁ………」
『もう終わりか、つまらん玩具だ。おい、今度はもっとマシな時に呼べ。今度つまらん時に呼んだら、貴様を殺す』
「やれる物ならやってみろ、もう一度殺すまでだ」
『フン、口の減らん奴だ』
そういうとファヴニールは再び空間を破り元居た隔たれた世界へと戻っていく、空間が修復されると同時にポズンが声を震わせながらジャッジを行いジークの勝利となるが
「がぁっ!!?」
「ジ、ジーク!?」
突如として膝を付くジーク、その表情は苦しみに染まっている。
「如何したんだ!?」
「あ、あの野郎……とん、でもない……大喰らいだ………」
そのまま倒れこんだジーク、命に別状は無いと思われるがギンタはあの竜をもう使わせたくないと強く思うのであった。
後書き
ガーディアンARM ファヴニール。
強大な力を発揮するがその分莫大な魔力を消費する。
本物のファヴニールよりも力は劣るがそれでもガーディアンARMでもトップの力と魔力の消費量を持つ。
普段は世界と隔てられた空間に隔離されており、ARMを使用することで一時的に呼び出すことが出来る。。
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