MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士
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026話
メルヘヴンの命運をかけたウォーゲーム、それも遂に第6戦を迎えていた。以前の第2戦と同じ砂漠のフィールド、此処が今回の戦いの舞台となる。チェスの駒の先鋒は小太りな少女のようで、彼女はゆっくりと前へと歩み寄りARMを天へと投げた。
「な、なんだっ?」
数秒後、砂漠の大地に突き刺さったのは人間の顔のような装飾がされた巨大な剣。到底あの少女が振り回せるようなサイズではない、それだけの怪力を有しているという事なのだろうか。
「魔剣ダンタルシア、世界で一番美しいのは誰だと思う?」
『………貴方です、マスター』
「喋ったぞあれ?!」
言葉を放った事に驚くギンタ、どうやらあれはウェポンARMではなくガーディアンARMの一種であるようだ。剣の形をしたガーディアン、そう考えるのが自然という物だろう。
「じゃあ、あそこにいる不細工と私。どっちが可愛い…?」
「不細工……?誰が?」
不細工と口にする少女の指の先にいるのはスノウしかいない、スノウも一体誰に対して不細工といっているのか理解出来ていなかった。彼女自身自分の容姿はそれなりにいいと思っているし少なくとも不細工とは思っていないからだろう。実際に可憐な容姿だし。
『マスターに決まっています、あの女の子はブスです』
「っっ!!!!!私、一番に出るね!!文句ないね!!!」
「「あ、ありませ~ん!!」」
「目、据わってたなスノウ………」
「ああ………ああいうドロシー一度だけ見たことある……」
余りの覇気っというか怒気で周囲の男性陣を圧倒し一番を勝ち取ると笑ってはいるが激怒しているスノウ。一番それに震えていたのはジークであった、理由としては以前自分の鳩尾に肘を入れた時のドロシーと酷く似ているからである。思わず鳩尾を押さえるのであった。
「第6戦、メル スノウ!チェスの駒 ビショップ三人衆の一人、エモキス!始め!」
始まった第一試合、少々不気味なエモキスとの戦いが始まった。エモキスはララランと口遊みながら一輪の花のようなARMを展開する。ジャックと同じようなネイチャーARM使いなのかと警戒するスノウだがエモキスの口から出たのは予想外の物、自分の運命を占うという物だった。
「ブサイク」
「いたぁ~い!!!なにこれえ!!?」
エモキスが花びらを毟ると同時にスノウの髪の毛がかなりの痛みと共に数本抜けた。誰かに髪を引っ張られ同時に何本も抜かれているかのよう無い痛みが同時に何箇所にも現れる。女の命ともいえる髪を毟る攻撃、しかもかなり痛いのでいやらしすぎる。
「美人♪」
「いたたたたっ!!」
「ブサイク」
「いたたたたた!!!」
「………」
「如何したジーク」
「………髪、手入れ怠ったら将来的にあんな風にドンドン抜けていくのかなと思ってな」
「「………」」
「城に戻ったら、風呂、入れて貰おうか」
「だな」
如何でも良い所で自分の身体の事が気になるジークとアルヴィスであった。そしてエモキスが最後の花びらを抜いた瞬間、スノウの足元が急に光り始め炸裂した、舞い上がる土煙、スノウはどうなったのかと不安になる一同だが
「ゲホゲホっ!だ、大丈夫、怪我も無いから!」
「びっくり、私の花占いでボンでも死なない。意外とタフだしぃ~、ブスだけど」
「こ、こいつぅ~!幾ら温厚な私でも、怒るんだぞぉお!!!ネイチャーARM アイスドアース!!」
声を張り上げながら氷のARMを発動させ氷の塊を矢の如く連続発射する、かなり速いスピード且つかなり量の多い攻撃であるがエモキスはそれを軽々とその見た目からは考えられないような機敏な動きで踊るように回避していく。ややその姿は不気味な物だが。
「ダンタルシア」
先程からずっと展開しているARM ダンタルシア、手をかざすとそれは小さくなっていくエモキスな小さな身体でも持てるほどの大きさへと変化した。それでも十分すぎるほどの大剣だが先程までの巨人にしかもてないサイズよりはまだ持てるサイズだろう。その剣を持ち、凄まじい速度の突きを連続してスノウへと繰り出していくエモキス。
腐ってもナイトに最も近いと言われているビショップ三人衆の一人、太っているとはいえ彼女の運動能力はかなり高い部類に入るのだろう。名うての剣豪のような素早い攻撃にスノウは翻弄され回避に専念している、だが少しずつ追い詰められている。足場が悪い砂漠ということもあってか彼女は体制を崩した。
「これで終わりよっ!!!」
「ユキちゃん!」
その隙を待っていたと言わんばかりに剣を限界まで引き一気に突き出すエモキス、だがスノウもそのままやられない。瞬時に愛用しているガーディアンARM スノーマンを展開した。スノーマンはエモキスの頭上に出現しその巨体でエモキスを押し潰した。
「やったぁあの女潰れたぜ!!」
「やったのぅスノウちゃん!」
「いや」
「まだだな」
アルヴィスとジークはエモキスはやられていないと断言する、その直後スノーマンから不吉な音が響く。直後スノーマンは真っ二つに両断され、その割れ目からエモキスが不敵な笑みを浮かべながら姿を見せた。アクセサリーに戻ったスノーマンを見ながら、自分の切り札が通じない事にショックを受けるスノウ。
「アンタなんてーこんなもんだしぃ、私だって凄い所見せるしー。出てこーい!!」
腰につけているARMに触れるエモキス、警戒するスノウだがその直後に驚愕に表情を染めた。発動されたARMが地面へと落下するがそれは甘い匂いが漂うメルヘンチックなお菓子で出来た家が出現した。
「お菓子の家!!」
「あ!?」
「い!?」
「う!?」
「えええええ!?」
出現したARMはなんとお菓子で出来た家、それに驚きを隠せないメルの一同。そんなメルを放って置いてエモキスは除にお菓子に家に手を掛けなんと食べ始めた。次々と手を伸ばして自ら発動したARMを食していくエモキス、属性を判別する事が出来ない謎のARM。一体どのような力を隠しているのか。
「もうっ!馬鹿にされてるみたいで頭来た!行くよォ!!」
エモキスの行為の一つ一つが自分を挑発しているかのように感じられたスノウ、彼女へと攻撃を開始しようとするが同時にエモキスも食事を中断しスノウへと向き直る。
「食べたら……その分!強くなるしぃ!ふふふ、ふふふ!!」
息を吸う、それは人間として当たり前の行為。だが今のエモキスのその行為は以上であった、吸い込まれていく空気の量が明らかに異常なものになっている。そしてそれは一気に吐き出されると暴風に匹敵するほどの爆風を巻き起こしスノウを吹き飛ばした。その後に更にお菓子の家を貪り食うエモキス。だがその身体は食えば食うほどに大きくなっている。
「…アルヴィス、幻覚か?」
「いや違う。あのエモキスという女間違いなく身体が膨らみ巨大化している」
「ほんまによう解らんARMやで」
巨大化していくエモキス、大きくなると同時に力も大きく増しているのか自分の何倍もある大きさの岩を軽々と持ち上げ頭の上へと掲げた。それを持ったゆっくりとスノウへと迫っていく。
「魔法の国"カルデア"で頂いた新しいARM、使う時が来たみたいだね。行くよっ!」
「うる、さいしぃいいい!!!」
魔力を一気に練り上げていきARMへと充填していく、かなり強力なARMの為か直ぐには発動できないがそれ以上に凄まじい力を発揮する。迫り来る岩など気にもならなかった、意識をただARMに集中させ続けていた。岩の空気を切る音が直ぐそこに迫った瞬間魔力の重点が完了する。
「ウンディーネ!!」
輝くARM、そこから高圧に圧縮された水が噴出しスノウに迫ってきた岩を粉々に粉砕する。水はスノウの周囲で踊るように揺れ動き一つの形となって姿を見せた。可憐で美しい水の妖精、それが正に相応しいと言えるほどに美しい水のガーディアンが姿を現した。
『初めましてスノウ、私がウンディーネです』
「はっ初めまして!!」
澄み切った優しさが伝わってくるような優雅な声、思わず頬を赤らめてしまうほど暖かな声にスノウは声が裏返ってしまう。そんな主の姿に少し笑いながらエモキスへと視線を移した。
『今回私が倒すべきはあちらの方のようですね』
「うんそうだよ」
『そう……うふふふっ美しくない方ね♪』
歯に衣を着せぬ正直な言葉がエモキスの心を抉り怒りを誘った、酷く憤慨しながらもダンタルシアにどうかと尋ねるが……
『美しい………美しいですあの方々!!正に女神!妖精!!そのコンビですよマスターあr』
遂に嘘を言うことなく本音を爆発させたダンタルシア。そしてエモキスの一撃で粉々に砕け散る魔剣、そんな剣事など捨て置き更にお菓子の家を貪り始めるエモキス。
『それでは、私は命ぜられた事を全うする事にしましょう。スノウご命令をお願いします』
「うん!あいつを倒すよ!!!」
『承知っアクアニードルス!!』
水気が全く無い砂漠の大地。そんな大地の上に立つメルヘンなお菓子の家、その地面から間欠泉のような勢いで噴出す水の槍。家を砕きながら屋根を貫通し水が家全体に浸透していき、遂にバラバラに崩壊した。
「わ、私の………お菓子……の、家が………許せ、ないしぃいいいいいい!!!」
激昂しウンディーネへと疾走していくエモキス、そんな彼女に対するウンディーネ。手のひらに小さな水玉を作りそのまま顔全体を包み込んだ。如何に小さくともそれで人間の呼吸を止めるには容易い、そして水である為に外そうと足掻いても無駄。
『あんな人でも人は人、命の選択はさせて上げては如何ですか?』
「ウンディーネ………うん!ギプアップするなら手を叩きなさいエモキス!!」
このまま息を止められていては確実に死ぬ、ならば死ぬ前にギブアップすればいいと条件を提示するスノウ。だがエモキスはそれを聞いて逆にプライドを刺激された。自分はナイトに最も近いビショップ三人衆の一人、そんな自分があんな奴に慈悲をかけられている。なんと情けなく腹正しいことだろうか。
「エモキス!!」
「絶対、に、嫌だ……しぃ………!!」
水は徐々に大きくなっていき身体を全て飲み込むほどにまで肥大化した。それでも彼女は手を叩かずスノウへと向かって歩き始めた。最強のビショップの一人としてのプライドが彼女を駆り立てている、このままでは終わる事などできないと。だが意識は遠くなっていくばかり、これ以上歩く事など出来ないのにそれでも手を叩こうとしない。そして限界が来ようとした瞬間に水がはじけた。
「ウンディーネ……?貴方が?」
『ええ、あの方はきっと死ぬまで手を叩かなかったでしょう。だからその前に水を解きました』
「有難うねウンディーネ!」
『如何致しまして、それではスノウまた会いましょう』
アクセサリーへと戻っていくウンディーネを手で受け止め感謝の念を送るスノウ、そしてポズンのコールが響く。
「勝者、メル スノウ!!!」
後書き
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