ひねくれ騎士(ナイト)の|生存報告《ライブレポート》
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二車 奏真Ⅰ
大怪我をして翌日には全快してるというゲームみたいなことが起こるとは思っていない。だから自分も当分はベッド生活だと落ち込み半分、当分は授業を受けなくてもいいことに胸を躍らせていた昨晩。目がさめるとなぜか身体が全快していた。傷もなければ疲労感すら感じない、むしろいつもより調子がいいくらいだ。それだけではなく、背中から柔らかいかたまりを二つ感じる。よくよく見てみれば首元に細く柔らかそうな手が回されている。とどめに後ろから可愛らしい寝息が聞こえる。
「う、うーん」
声の高さから後ろにいるのが間違いなく女性であるのを確信した。
俺はゆっくりと回された手を外しこのままベッドから抜け出そうとするが、今度は着ている服を握りしめているようだ。どうしようか焦る、このまま服だけ脱げば抜け出せるか、それともこれは夢でもう一度目をつむれば覚めるのか。いろいろなことが頭をよぎり、混乱してくる。そうこうしていると
「ふぁー、おはよう。そうま。」
名前を呼ばれる。再び聞いてわかったがこの声は一度聞いている。だが、思い出せない。
「そうま、起きる。朝。」
そのまま正面を向かされ目があう。
「おはよう。そうま。」
目の前には生徒会書記の玉依咲夜がいた。しかも、生まれたままの姿でだ。
「そうま、どうしたの?顔、赤い。」
「な、なんで先輩、そんな格好で、ここに?」
慌てながら言う。
「そうま、早く元気になって欲しかった。だから、治した。」
そうこうしていると扉が開かれる。
「あらあら、まあまあ。漫画のワンシーンのような状況ですね。まさか、自身が気まずい空気というものを作り出すとは夢にも思いませんでした。」
満面の笑みを浮かべた、生徒会長こと久永真白が立っていた。
「ましろ、おはよう」
咲夜は気にせず挨拶をする。
「咲夜の格好から察するに............まぁ。これは一緒に喜んだ方が友達としては正しいのでしょうか?」
首をかしげながらいう。
「咲夜、やっぱり、初めては痛いものですか?」
「そうま、優しいから。苦しくも痛くもなかった。」
「なるほど、なるほど」
わけのわからない会話が始まっている。どうしてこうなったのだろう。
「説明しますと昨晩から咲夜には二車君の治療を頼んでいました。」
会話が終わり話が戻される。
「服を脱ぐ必要はあったのでしょうか?」
「わたし、寝るときは服着ない。」
何のためらいもなく答える。話しててわかるがこの人はとにかく純真というか無機質というかそんな感じの人だ。
「二車君の調子も良くなってるはずです。どうですか?」
改めて自分の状態を確認する。言われてみれば、傷がなくなっていること、普段より調子が良くなってるのを思い出した。
「治療が必要なほど怪我してたんですか俺?昨日は普通に会長と話せてましたし」
今思い出したがあの後すぐに眠気が誘い眠りについたのだ。だから、咲夜の進入に気づかなかったのかもしれない。
「二車君、アドレナリンってすごいですね。」
そんなことを言いながら、真白は何かを渡してくる。見たところ俺のカルテのようだ。読んでみて驚愕した。
「すごいでしょう。なぜあんな風に会話ができていたか、とても不思議です。」
真白も引きつった笑顔を浮かべている。
「もう大丈夫、私が治してあげた。」
そういえばこの人普通に俺の布団に入ってきたな。真白に頼まれたからといって、普通、昨日初めて知り合ったような男にこんなことを施してくれるのか。それとも彼女は誰にでもこうなのか。少し疑問に思っていると。
「大丈夫ですよ二車君。彼女は彼女にしか見えない精霊を見ています。それで人を判断しているのです。あなたのように気を許すのはほとんど初めてですよ。」
察したかのように真白が説明する。
「でも、俺に精霊なんてついてるんですか?」
気になったので聞いてみた。
「うん、そうまにもついてる。多分、水の精霊。そうまをすごく大切に思ってるのがわかる。」
咲夜が答えてくれた。
「そのことで一つわかったことがあるんです。」
真白が思い出したように言ってくる。
「何ですか?」
「落ち着いて聞いてくださいね。聞いたらショックを受けてしまうので。」
唾を飲んで真白の目を見る。
「実は.........二車君の魔力は平均以下なんです。」
そこら中から視線を感じる。自分の教室を生徒会長直々に案内してもらったので無理もないかもしれない。もちろん、それだけではない。来る途中も聞いたがみなヒソヒソと襲撃者を撃退した謎の騎士、つまり、俺のことを噂しているのだ。確かにそれだけならまだ珍獣を見るような程度で済んでいるのかもしれない。だが、今俺に向けられている視線には明らかな敵意を感じるものがある。自分は今まで普通というものを演じ続けてきた。そのために周りからの視線を一層気にしており、自分が今どのように思われているのかある程度分かってしまう。
敵意の理由として考えられるのは自分が生徒会に入ったことが原因だろう。この学園の生徒会は学内で行われる定期テストと能力同士がぶつかり合う学内戦争のシングルランカーのみ入ることができる。生徒会は生徒会長、副会長、書記、庶務2名によって構成される。しかし、例外としてシングルランカー以外から選ばれることがある。それは生徒会長に選ばれた時だ。生徒会長の成績がテスト・戦争ともに一位である場合、自分の望む生徒を一人生徒会に加えることができるのだ。
つまり、自分は生徒会長に選ばれて生徒会に入ることになり、会長を慕うものや努力して生徒会に入ろうとしている奴からは目の敵になっているのだ。
どうしてこうなった。昨日に引き続きため息が出る。ため息つくと幸せが逃げていくというのはあながち間違っていないらしい。周りからはこんな視線を受けるのは何年ぶりだろう、自分は普通であることを決意したあの時からこんな目で見られたことなんてなかった。
「おい!」
ふと声がかけられる。
うつむいてた顔を上げるとそこには鬼がいた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。だから食べないで」
条件反射で命乞いをしてしまった。
「あ、そのなんだ。そんな風に謝らんでくれ。やはり、初見のやつは厳しいな。とって食わねえから落ち着け。」
鬼?がなだめてくれる。
「落ち着いたか?」
「うん、ありがとう。」
鬼?は笑顔を浮かべ。
「俺は鬼塚 護だ。よろしく」
「二車 奏真。よろしく」
「知ってるよ噂の騎士さん。話によりゃ副会長でも勝てなかった相手を倒しちまったてな。」
「あれな、運が良かっただけだ。それに咲夜さんがいなかったら俺負けてたし。」
あたりから敵意の塊が強くなった気がする。それを察したかの鬼塚は聞いてくる。
「お前、玉依書記のこと下の名前で呼んでんのか?」
「いや、俺も初めは玉依先輩と呼んでたんだけど。成り行きで」
そうなのだ、今朝の会話の後、玉依先輩と呼んだら
「お姉と私どっち?」
嫌そうな顔をする。
「いや、あなたの方ですけど」
少ししてから思いついたように
「そうま、私のことお姉ちゃんって呼ぶ」
「なんでそうなるんですか。」
「そうま、私の弟」
と言い出した
「そうまの精霊、そうまのこと守ってって言ってる。だから、私はそうまを守る。だから、お姉ちゃん」
ボリュームのある胸を張り言ってきた。
「無理ですよ。そう呼べません。周りからだって変な目で見られますよ。」
「私もお姉のことお姉って呼んでるよ」
当たり前のように首をかしげる。
「玉依先輩たちは本当の姉妹だからでしょう。」
後ろを向き行こうとする。
「玉依先輩、玉依先輩」
自分のことではないように行ってしまう。
「.........お姉......ちゃん」
「どうしたのそうま?」
消え入りそうな声で呼んだのにそれを聞き取りすぐさまきた。
「でも、呼ぶのはやっぱり恥ずかしいので何かないですか?」
「名字で呼ばれるの好きじゃない。だから、咲夜でいい。お姉ちゃんでもいいよ」
本当の弟に向けるように微笑む。
「分かりましたなら、咲夜先輩で。」
「先輩......やだ。」
露骨に嫌がられる。
「じゃあ、咲夜さんで」
「まあまあ」
というわけで俺は玉依 咲夜のことを咲夜さんと呼ぶことになった。
「下の名前で呼べるとか、お前本当になんなんだ」
「何ってただの編入生だけど」
普通に答えると鬼塚は呆れたようにため息をつきいう。ため息するだけでも少しびびってしまう。
「いいかよく聞けよ。玉依書記と会話できるのはなぁ、生徒会メンバーだけなんだよ。玉依書記のルックスかなりいいだろ、だから、慕ってる奴らも多くて、告白に行っては相手にされず一年に一回会話できただけで奇跡と言われる人なんだ。そんな人をお前は簡単に下の名前で呼ぶもんだからな。お前死ぬな、安心しろ骨は拾ってやるからよ」
「勝手に殺すな、俺は普通に生きたいんだ。今からでもなんとか公務員になれるよう努力してやる。」
初心に戻り決意を固くする。
「そういえば、聞くのは失礼だと思うがやっぱりお前他種族なのか?」
鬼塚の威圧は強いが悪い奴ではなさそうなので聞いてみる。
「いいや、でも、クウォーターだ。爺さんが鬼(オーガ)でな。」
「へぇー、やっぱりこの学校は他種族に関係してる人が多いんだな」
関心して言う。
「まあ、まとも喋ってくれる奴も少ないんだよな。ちゃんと流行の話についていけるよう努力してるのに誰も寄ってきてくれない何故だと思う。」
大抵の人がこいつのルックスに慣れていないようだ。まあ、普通に佇んでるだけでも鬼にしか見えない。声をかけられただけでも逃げ出してしまうだろう。
「面白そうな話をしてるね。あたしも仲間に入れてくれ。」
一人の女子生徒が話しかけてくる。
「ああ構わん。」
鬼塚が答える。
「ありがとう。あたしは浅桜 祢子。噂の騎士くんと同じ編入生だ。」
浅桜 祢子と名乗った女子生徒は、目は翡翠を思わせる緑色で、まだ、幼さが多く残る顔つきをしている。髪型は短髪のショートヘアーにアホ毛が飛び出している。背は小柄な感じのいわゆるスポーツ少女なのだろう。
「騎士じゃない。二車 奏真」
「よろしく。それで君は?」
「鬼塚 護だ。」
「二人ともよろしく。いやーはなしかけられそうなのがこのグループだけだったから困ってたんだよ。やっぱり、編入っていうのはきついね。あたし以外にもいっぱいいるのかなって希望を持ってたんだけど。」
浅桜に言われて辺りを見渡すと派閥というか仲のいいものは決まっているのを感じる。
「まあ、まだ登校初日だしね。」
「俺は入学してから事務的な会話しかされなかった。」
「鬼塚はもっと笑顔を見せれば人が寄ってくると思うな......多分」
同情したのか浅桜がフォローする。
「そ、そうか、ならこんな感じか?」
鬼塚は笑う。
クラスのどこから悲鳴が聞こえる。おそらく鬼塚と目が合ってしまったのだろう。近くにいる俺や浅桜も涙を浮かべていた。
「や、や、やっぱり自然体かな。うん、そうだよ。鬼塚は自然体が一番」
「おぅ、有難う。」
本人は気付かなかったようでなによりだ。
「浅桜は編入って聞いたが、一般試験なのか?」
「いやぁ、たまたま、異能であることが発覚しちゃってそのまま成り行きで入学することに。」
「同士よ。」
浅桜の手を掴んで涙ぐむ。
「そうかそうか。俺と同じか、お互い災難だったな。」
「でも、あたしさ。この力を人の役に立てるって素晴らしいことだと思うんだよね。だから、一人前の守護者になって平和を守りたいんだ。」
どうやら違ったらしい。俺はすぐさま手を離し子供のようにそっぽを向いた。
「なに女の子の手を勝手に掴んどいてその態度って。高いんだぞ。」
浅桜が怒る。
「うるさい。せっかく普通に生きたい同盟ができたと思ったのによ。」
そうこうしていると
「はーい。みなさん席に着いてくださいね。」
担任らしき教師が入ってきた。
「みなさん、おはようございます。では、昨日の連絡通りオリエンテーションをはじめます。」
いかにもベテランという感じの教師だ。
「それでは、みなさん第二実技室に移動してください。あー、昨日、保健室にいた二車君には自己紹介が、まだだったね。私はこのクラスの担任の笠木 冬至だ。一年間よろしくね。」
そう連絡するとそそくさと教室を出て行く。
「なぁ、浅桜。オリエンテーションってなにすんだ?」
ちょうどよく隣の席に座っている浅桜に聞いてみる。
「あー、そっか連絡行ってないんだ。生徒会の人たちに任せっきりだったし、まあ仕方ないか。二車はこの学校の成績のつけ方は知ってるよね?」
「あーまあ、要項に書いてある程度には。」
「成績は実技によるものがほとんどだから、まずは入学後すぐのテストとして一年生の能力を見る学内戦争、新人戦が行われるの。みんな中等部からきてるからこの日に設定されてるんだって。」
「ということはこれから戦うのか?」
息を呑んで聞く。確かに入学式の次の日に実力テストがあると聞いたがまさか実技とは昨日の今日でまた戦うことになるとは。
「でも、その矢先に昨日の事件でしょ、さすがに難しいだろうから今日は会場確認と対戦相手の確認、あとは代表者による模擬戦かな。」
「そうか、よかった。」
安堵の息をつく。
「事件の功労者さんが何安心してるの?」
「だってよ。戦いだなんてつらいだけだぜ。それにあれは運が良かっただけだ。」
「はいはい、じゃあ、行くよ」
そう言って浅桜とともに第二実技室に向かう。自分たちは不慣れなところがあるので鬼塚に案内してもらった。
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