ランス ~another story~
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第3章 リーザス陥落
第60話 森に住む少女
~迷子の森~
現在の時刻では、まだ日は真上に昇っている。……が、それでもこの森は薄暗く見通しもきかない。一歩踏み込めば、似たような景色が周囲に広がり、数分歩くだけで 来た道も判らなくなってしまう。
《迷子》と言う名前となった理由にここも恐らくあるだろう。ちゃんと準備をしてこないと、迷う確率が……と言うより間違いなく迷うだろう。更に、磁場も乱れている様で、コンパスも使えないのだ。
「おい、シィル! ここは何処だ?」
「はい、ランス様。ここは迷子の森です」
「馬鹿者! そんな事は判りきっているわ! その森のどの辺だ! と訊いてるのだ!!」
「ひんひん……、わ、判りません……」
と言う やり取りがある様に、ランスだけだったら迷子になる可能性が高い。
シィルもしっかりしているが、無理矢理連れてこられたから、そこまでの準備は出来てないし、臨機応変に対応するのにも限界はある。
「はぁ、私が マッピングしてるからある程度は判ってるわ。シィルちゃんを苛めないで私に聞いて」
かなみは、ここに入ってからずっと自身が携帯している巻物に記入をしながら歩いていたのだ。確かに同じ様な景色が続いている森だが、かなみは観察眼が養われている為、僅かな差異も見逃さず記入していく。
「助かるわ。ありがとう、かなみ」
「う、うんっ。私 忍者だし。これくらいはね?」
てへへ……と頭を掻きながら照れくさそうに頬を赤らめるかなみ。そんなかなみを見て、自然と笑顔になる志津香。……とそんな時。
「がははは! へっぽこ忍者も少しは成長したようだな?」
当然の如く、息を吐く様に 毒を吐くランス。
そして、観察眼は養われているけど、そっちの耐性は養われていないかなみはと言うと……。
「もうっ うるさいわねっ! いつまでもネチネチとっ!」
と、なってしまうのだ。
志津香は、ガキね……と、ランスに呆れており、シィルもランスを抑える様にしていた。
「やれやれ……。結構この辺りのモンスターは強い筈なんだけどなぁ?」
ミリは当初こそはニヤニヤと笑っていたが、連戦に次ぐ連戦。モンスターとの戦いが続いて、疲労が見え出してきていた。そんな中でも、いつもの調子を崩さない皆を見て、苦笑いをしていたのだ。……いつもの自分なら、きっとあの中に混ざっている筈だ。
そう、いつもの自分なら。
そんな彼女に、ユーリは近づく。
「ミリ」
ユーリが声をかけたその瞬間、ミリは手を上げた。
「おおっと、大丈夫だよユーリ。ユーリは心配し過ぎなんだよ。この程度でオレがへばる訳ないだろう?」
ユーリの出鼻を挫く様にミリはそういった。……幸いにも、会話を聞いていたのは2人だけ。いや、ユーリが意図して小声で話したのだ。誰にも聞かれない様に。
「……オレが戦線から外れるとなったら、絶対にミルに勘付かれる。オレ達はいつも一緒だったからな。少しでも、そんな所、ミルに見せる訳にはいかないんだ」
そして、ミリはユーリにそう言っていた。
ユーリが、最前線の戦線から自分を外さない様に念を押すミリ。皆に、何より最愛の妹に心配をかけたくない。……最後の最後まで、自分らしくありたい。その先で、死ぬとしても、最後の瞬間まで、自分らしく、と。
それを訊いたユーリは、軽く笑う。
「……死なない。ミリは絶対に死なない」
ユーリは、人差し指の第二関節部分を折り曲げ、その先端をミリの額にコツンと当てた。『馬鹿な事を考えるな』 そう言っているかの様に。
……そして、笑顔のまま、続ける。
「オレが 絶対に死なせない。妹よりも先に逝ってしまうなんて、さはしせないさ。……そんなのは有り得ない。たった1人の妹を不幸にするなんてな?」
「………」
ミリは、その笑顔を殆ど目の前で見てしまっていた。
『……可愛い顔をしている、とずっと想っていたが、格好イイ顔も十分出来るじゃないか』と、ミリは改めて本気で思った。
「(もし、オレが処女だった時に、この男に出会ってたら。そして、この男を好きになって、身体を重ねていたら……多分、一途になれたかもしれないな。……いや、な訳無いかな? オレだし)」
ミリは、たられば話を頭の中で思い浮かべるがそれを一笑。自分は可愛い子、いい男、どっちもイケるのだから。
そして、改めてユーリの方に視線を向けると礼をいう。
「……ありがとうよ、ユーリ」
「なに。オレ達は仲間で、友だろ? ……なら、当然の事だ」
「へっ……」
そして、お返し、と言わんばかりに、ユーリと同じ様に人差し指を折り曲げ、先端で額をこつく。
「……ただな、ユーリ。そんな顔はオレじゃなくて、ここにいる かなみや志津香に向けてやんな。それがアイツ等にとっての最高の労いになるってもんだ」
「……はぁ? なんだそれ。何で其れくらいで労いになるんだ?」
「はぁ、やっぱか」
やっぱり、判ってない様だ……と思わず思ってしまうのはミリだ。
自覚がまるで無いし、そしてその笑顔や表情、言動にはまるで計算が無いから更に強力だ。……ウチの女連中にとっては、チューリップ3号よりももっと強力。
「ほれ。行くぜ? 話してたら結構離されたみたいだ」
「ああ、そうだな」
ミリは指をさした。
その先では、かなみと志津香が待ってくれている。ランスは、ずんずんと先へと行ってるから、必然的にシィルも同じだった。そして、ミリとユーリは、少し速度をあげ、離された距離を狭めていった。……当然、追いついた所で、ユーリやミリは2人に色々と聞かれる事になるのだった。
何を話してた~等を。
ユーリはあっけらかんと返して、前に進んでいったのに対し、ミリは意味深に言ってたから、かなみは慌てて、志津香は脚に無駄な力を込める事になったのだった。
暫く一行は、森の中を探索していく。
不自然に、野原の中心に木が一本だけ生えているのが怪しく見え、志津香が調べている所で、何故かランスが笑い。小川を見つけ、シィルにランスが水を毒見させたり。
そして、忘れてはいけないのが、ここは所謂ダンジョンだと言う事。モンスターも多数現れると言う事。
「ワープリンセスか」
「ん~、女の子モンスターにしとくのには惜しいなぁ……」
現れるモンスター達。
正直、ヒトミとの事があるから、女の子モンスターと対峙するのにはやや抵抗がある。それは、かなみや志津香も同様だった。だが、この女の子モンスター達は、彼女とは違う。他に遭遇したハチ女も、殺すつもりで襲いかかってきているのだから。
「火丼の術ッ!!」
「火爆破ッ!!」
「ファイヤーレーザー!!」
かなみのオリジナル忍術、そして志津香とシィルの魔法が女の子モンスター達に直撃する。多すぎる炎は、誰しもが怖がるもの。炎は十分に、モンスター達を追い払う事が出来ていた。このまま、逃げてくれれば問題ないのだが……。
「がははは! いただきまーーすっ!!」
「やーーーんっ!!??」
それを逃がさないのが人間側だ。
戦いで、体力の消耗した女の子モンスター達に抗う術はなく、ランスのされるがままになってしまっている。
「あぅ……、ランス様ぁ」
「ったく、アンタの為に攻撃してる訳じゃないのよ!」
女の子モンスター達を襲っているランスを見て、不快に思う志津香はそう言うが、ランスは笑いながら。
「がははは! オレ様が楽しんだらちゃんと解放してやる! 紳士だからな? オレ様は」
「ランスのどこが紳士よ紳士!」
かなみも盛大に突っ込みを入れるがランスには当然ながら通じない。ユーリは、峰打ちをしながら撃退をしていき、とりあえず、ヒトミの事もあるからと一言。
「人間の精は、女の子モンスターにとっては毒も同然だ。無闇やたらにしてやるな。襲う程可愛いなら、殺すのは本意じゃないんだろう?」
殺す、と言うその言葉に漸くランスは振り向く。
「当然だ! 男とブスとブスなモンスターはどうでも良いし、戦うなら即殺すが、可愛い子に人間もモンスターもない! ……だから、オレ様は」
逃がしてやる!というのかな?とシィルは目を輝かせている。優しい所もある~と常日頃、シィルはランスの事をそう言っていたから、更に期待をしていた。だが、他の4人は真逆の事を考えている。どーせ、ランスの事だから。
「中○しをしなければ、オールオーケーだろう! がはは! オレ様はいつも中○しなのだが、殺すのは可哀相だからな! 顔○で我慢してやろう、がははは!!」
「……火爆破」
〝どごぉぉんっ!〟
無表情な志津香の会心の魔法,無慈悲な魔法がランスを直撃! まるで、敵かモンスター相手に攻撃するかの様な感じ。本来なら、幾らランスとは言え、魔抵力が低ければひとたまりもない……気もするが、ギャグっぽい攻撃だった為大丈夫だろう。多分。
「あんぎゃあああっ!!」
「さいてー……」
無言の志津香の炎後、かなみの心底侮蔑する視線もランスに直撃していた。ランスは焦げてしまっていたが、デフォルメっぽいので大丈夫だった。
「やれやれ。困ったもんだ」
「ミリが言うとかなり違和感を覚えるがな。兎も角先に行くぞ先に。ランスなら、まぁ大丈夫だろ、あの程度。……それに、殺しても死なん」
火傷を負ったランスを置いて、先へ。ほっといても、シィルがランスを治すから大丈夫なのである。
「こらぁァ! 誰が大丈夫だ! 誰が! 志津香め、後であへあへにしてくれる!」
「うっさい! 治ったならさっさと行くわよ!」
「そうよ! レイラさんが大変なのに、馬鹿な事をしてるランスが悪い! レイラさんが死んでしまったら、どうするのよっ!」
「うぐ……、あの美人なレイラさんとはオレ様はヤらねばならないからな。むぅ、しょうがない! おい、シィル! ヒーリングだ。志津香のもそうだが、他にもちょっと怪我をした」
「は、はい。ランス様っ。いたいのいたいのとんでけー!!」
シィルは、ランスにしっかりとヒーリングをする。
優秀な神魔法の使い手がいるのは本当に好ましい。……ランス、本当に大事にしろよ、と誰もが思ってしまうのは無理ないだろう。
一行は、暫く進んでいった後。
「むぅ、段々鬱陶しくなってきたな。女の子モンスターだけなら、何ともないが、あのゴリラだけは頂けん。むっさいし、暑苦しい」
「それ、ランスが言う?」
ランスの苦言を志津香がため息を吐きながらそう言っていた。モンスターは何も女の子モンスターだけじゃない。エレファント、ゲーリング等の魔法を使うタイプのモンスターやランスの言うゴリラ、パワーゴリラZも出てくる。
女の子モンスターが一切でなくて、そんなのばっかりとなったら、更にランスは不機嫌に。
「がはは! こーんな時の為にあいつがいたのを忘れていたぞ?」
不機嫌になりかけてたランスだったが、突然陽気になって笑っていた。シィルは首をかしげる。
「ランス様、あいつとは何方の事でしょうか?」
「ぐふふ、オレ様は最強だからな! そんなオレ様にどうしても仕えたい、と涙ながらにお願いをしていたから、仕方なく奴隷にしてやったヤツだ! がははは!」
「あぁ……」
ランスがそこまで言った所でシィルは察した。誰の事を言っているのかを。
……あの忠実な下僕になると言う儀式を済ませた日の夜にも、シィルは彼女に合っているのだから。悪魔フェリス。地上灯台での時は本当に助かったのだから。ランスは、そこまで思っていない、と言うより当たり前、と思ってるから シィル程は考えてない様だが。
「よーし、もう面倒だ。ここからは、全てあいつに任せるとしよう! 日光の下では、半分、と言っていたが、ここまで茂っていれば大丈夫だろうしな! がははは! いでy「フェリス、ちょっと良いか?」んがっ!?」
ランスが悪魔召喚をしようとした所で、丁度前の方でフェリスを呼び出していたユーリがいた。
契約をした悪魔フェリスは1人しかいない。
つまり、ユーリに呼び出されたらランスはもう呼べないし、先に召喚した方に忠実に従う様になっているのだ。
「あ はい、なんでしょう? ユーリ様」
「ああ、ちょっと用事があってな……って、オレの事を、様付けで呼ぶのはやめてくれ。口調も元に戻していい」
「あ、はい。えっと……判った。ユーリ」
フェリスは鎌を肩に担いだまま、呆けに取られた様だ。
よくよく考えたら、ユーリに呼ばれたのは今回が初めてであり、ランスばかりだったから、その呼び出された時の口調になってしまっていたのだ。それに、あの灯台での戦いも、つい最近の事であり、重労働過ぎるから、ややゲンナリともしていた。
ユーリとは、初めて契約を果たした時に、話方も言っていた筈だったけど、忘れてしまっていた様だ。それだけ、ランスとの時間が濃密過ぎるので。
「こらぁぁぁ!! このガキ! このオレ様の下僕をとるんじゃない!」
「は? って、こらぁ! 誰がガキだ、お前がガキだろうが!! さっきまで サボってたくせに! 血の気が余ってるんなら、アイツ等の相手をしろ、アイツ等の!」
ユーリが指をさしたところに、丁度モンスター達がいた。……ランスにとっては不幸な事に、全員が男の子モンスター。むさ苦しい、と言っていたパワーゴリラZも当然ながらいる。ひーふーみーよー……と増えていく。
「むがぁぁ!! こっちに寄ってくるんじゃなぁぁい!!」
「ら、ランス様ぁぁ!!」
「このバカ! 女の子を盾にするんじゃないわよ!」
シィルを全面的に前にしようとしたランスに向かって志津香が罵声をする。だが、圧倒的に強いのは此方側であり、あの程度の敵ならばまるで問題ない。
「……ふむ」
ユーリも無双している志津香、そして シィルも最初こそは慌てていた様だが、落ち着いて対処出来ており、全く問題ないのを見て、一先ず安心した。
「それで、ユーリは、私に何か話があるのか? ……ランスと違って、ユーリは……その、私に色々しないから、ありがたいけど」
フェリスは、呼ばれた以上は従わなければならない。そう言う契約だから。……が、命令らしきモノをもらってないから 特に何かをする訳もないのだ。でも、呼ばれた以上、帰れ、と指示を貰えないと帰る事ができない。
「ん、ああ。そうだったな。いや オレは お前たち悪魔の事、ちょっと聞きたかっただけだが……」
ユーリは、そう言うと 周囲を見渡した。周囲に来ていたモンスター達。自分たちを囲む様に来ている。森がモンスター達を隠し、そして野生のモンスター達は気配を断つ事も造作無い。だから、ここまで接近を許してしまったのだろう。……この場所を住処としている以上は、仕方がない。
ユーリはそれを見てかるくため息をする。
「こっちの方にも、大分来てるな。 悪い、一先ず一緒に戦ってくれ。1体1体は、別に問題ないレベルだが、如何せん数が面倒だ」
「ん、判った」
フェリスは鎌を構えて飛び込んでいった。
フェリスのその力量は、間違いなくこの中、いや 解放軍の中でもNo.1候補と言えるだろう。敵にすれば厄介極まりない、が味方だった時は、非常に頼りになるのだ。
「……神と悪魔、か」
ユーリは、フェリスを見て、そして森の木々の間から見える空を見上げた。
悪魔にも色々いるように、神にも色々といる。
レベル神もそう言った類であり、ヒトミが言ってくれた救いの神と言う形容もそうだ。
だが……、この世界の全ては、頂点から始まった。
この世界の頂点から。……そして、遠い過去に起きた、起き続けてきた悲劇も……全ては頂点からだ。
「(……まぁ、今は良いか。別に考えなくても。……考える意味も、無い)」
ユーリは首を振り、そしてモンスターたちを撃退していった。
これは共有している記憶。戦いの記憶。自身の内に住まうかの者の記憶だ。その中には、確かに憎悪の炎も共に、身に宿っている。それは消えることの無い黒き炎となって。
「おい、ユーリ?」
「ん、あ、ああ。どうした?」
そんな時だ。
突然声をかけられた。相手はフェリスだ。
「ん? どうしたんだ、ユーリ。囲んでいたモンスター共は、もう追い払ったぞ。……アイツ等、人間なのに凄いな」
悪魔フェリスでも、志津香達の力量には舌を巻くらしい。事実、さっきまで、周囲を包囲していたモンスター達の大半を屠ったのは彼女達なのだから。
「はは。人間も大したものだろ? ……まぁ、フェリスにとっては、まず間違いなく憎悪の対象だとしてると思うが、少しでも認識を改めてくれるとありがたいな」
「……それは、その憎悪って言うのは 悪魔である前の私に、そして お前達との出会いでの事を言ってるのか? それとも……別の意味があるのか? ……悪魔に関して」
フェリスはそう訝しんでいた。
ユーリの言葉は深さを感じたのだ。悪魔として降格された(自業自得だけど)挙句、ランスや他の皆に真名を知られ、悪魔としての尊厳さえも奪われてしまった。
契約と言うモノに魂まで縛られてしまっている以上、どうにもならない、と言うのはある。……だが、フェリスは 不思議とそれでもユーリと話すのは不快じゃなかった。
この場に呼ばれて、戦わされている、と言うのに 不快とは思えなかったんだ。地上灯台の時は、心底嫌だったと言うのに。
そもそも、人間と、それも交わったのは、ランスとユーリくらいであり、他の人間に対しては別に何も……。
「はは。ま、悪魔としてのフェリスにそう言うのも酷だったな。契約までの経緯を、最初から考えたら……なぁ?」
「うぐっ……」
数々の失態を見ている本人から言われればくるものがある様だ。フェリスは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「まぁ、オレ達は基本的に戦いの渦中に身を置く人材だ。不本意かもしれないが、そのオレの使い魔とでもなれば、そこで 魂を取れる機会にも恵まれるだろう。あの迷宮よりもずっとな。直接手を出して、魂を狩るのは御法度だろうけど、死者が 奴……。死者の魂が還っていく時に、狩れたりするんだろ?」
「あー、それは……、ま、まぁ 何というか~……」
フェリスは、少し苦笑いをしながら頬を掻いていた。
それは自分自身が思っていた事である。確かに悪魔としての階級を滅茶苦茶に落とされてしまい……、魂の回収作業をする資格は得ていないが、それでも間接的に貢献をすれば、と思っているのだ。ユーリの言うとおり 魂の契約をする事はできないが、死者の魂を持ち帰る事は出来る。……勿論 短時間でしなければならない、と言う時間的制約はあるが。
「ん? その顔は少なからず期待してた、って感じだな?」
「むぐっ……ま、まぁ 否定はしないわ。でも、ちゃんとあんた達の使い魔っていう契約は結ばれてるんだから……、ユーリの言う通り、正直 不本意だけど」
「はは、まぁ安心しろ。……人間に仕える事、それ事態が悪魔にとっては最悪かもしれないが、オレはあいつのような無茶は言わないし。所謂、フェリスの身体目当て~なんて馬鹿な考えも起こさない」
ユーリは、親指でランスの方を指さした。
男の子モンスターに囲まれていた鬱憤を晴らすかの様に、無数の女の子モンスター達に襲いかかっている。どうやら、男の子モンスターに混じっていた様だ。
だが、あれじゃ、集団下校途中の女学生達に飛びかかる変態の構図だ。
「あいつは……ったく」
契約をしていても……、思ってしまうのは仕方がない。
契約された夜も散々嬲られたのだから……。悪魔だから、頑丈にできているとは言え 可哀相だと思ってしまうユーリ。
「だから これから、宜しく頼む、フェリス」
「あ、ああ。こっちこそ」
フェリスは戸惑いながらも差し出された手を握った。そして、その差し出された手を握った時もやはり思う。
――……何故だろうか……。と。
契約をしたからこそ、の関係であり……そんなものが無ければさっさと逃げる……じゃなく、ランスであれば八つ裂きにして、魂を掻っ攫ってやる! とも思っている程だった。
だが、この差し延ばされた手、握った手は温かい。とても、温かい。……悪魔になって、こんな暖かさを得た事はこれまでに無かったと思う。
もしかしたら、カラーであった時も、少なかったもかも知れない。
ユーリであれば、悪魔だろうが、カラーだろうが。……人間だろうが関係ない。そう思ってしまう自分がいたのだ。
「(……片方は最悪だが、ユーリは……っ、って違う! そんな訳無い! こいつは、こいつは 私の力を頼ってるだけなんだ! ……私の力を……)」
フェリスは 今思っている考えを一蹴。
人間を信頼する事など、カラーの時も無かった。憎悪の対象……、ユーリの言葉にもあるが、まさにその通りだった。魂の契約をする際、散々良い思いをさせてから魂を取る。
……だが、その良い思いをさせるのも、何処か不快感はあった。
仕事だから、出世の為だから、と飲み込んでいたが、それでも拭いきれない思いはある。
だからこそ、フェリスはこの時 線引きをしていた。……深く、なるべく この男に近寄らない為の線引きを。
「ちょっと、ユーリっ!」
「ん? どうした? 志津香」
そんな時だ。戦いを終えた志津香がユーリの元へと戻ってきた。
「……随分といい御身分ね? 戦いは私達に任せて、可愛い悪魔の娘とおしゃべりなんて」
「……はぁ? オレ達も戦ってたぞ?」
「ふーん、そうは見えなかったけど?」
難くせをつけてくる志津香とそれを回避しようとするユーリ。どういっても駄目だ……って思うのだけど。
「まぁ……、志津香達も、盛大に蹴散らしていったからな……。あの数のモンスター達を。オレが 目に入らなくても不思議じゃないか」
「う、うっさいわね!」
「いてっ! だから、何で脚を蹴るんだ!」
女の子相手に言う言葉じゃないだろ……、とニヤニヤと笑いながら見ているのはミリ。
「よぉ? 退屈、しないでいいだろ? アイツ等見てると」
肩に手を置いて、フェリスに語りかけるミリ。
暫くしてると、かなみまで混じってきた様だ。どうにか、宥めている様だが、少なからず嫉妬も見える。ユーリと楽しそうに?話してる志津香を見るとよく判る。2人共、ユーリに好意がある事くらい判る。悪魔の自分でも……。
「……えっと……、あそこまで鈍いのか? あれで、アイツは判ってないのか?」
「そっ、その通りだ。実は、あそこまでの域に達したのは、ロゼの調教成果だってよ?」
「ロゼ……? っ!! あ、あの時の不良神官かっ!!」
フェリスは、当然覚えている。
そりゃそうだ、自分の真名がばれる切欠である神官?なのだから。
「ははは! まぁ、それに関しては、オレも同情するよ。……だけど、時間は戻らねえんだし。仕方ないなら、今を精一杯楽しんじまえよ。その方が楽だぜ?」
「むぐっ……他人事だと思って……」
フェリスがそう思っても仕方ないだろう。だが、その言葉が見繕ったものじゃないと言うのは判っていた。
「ほれ、楽しいだろ? アイツ等見てると」
「楽しい、と言うか……、何と言うか……、私は あれ見てたら 若干イラっと来る方だ」
「お? って事は フェリスは志津香やかなみ派って事か? ふふ、フェリスもアイツに落ちるなよ? 茨の道だぜー?」
「誰が落ちるかっ!?」
ミリとフェリスは少しだけ仲良くなっていた。悪魔だと言うのに、普通に接し、話している姿を見れば、もう仲間だろう。
当然、忘れ去られていたランスも戻ってきて更にひと悶着あったようだが……、今のフェリスはユーリの使い魔だから、ランスには何も出来ない。
「こらぁっ! ユーリ! さっさとフェリスを戻せ!」
「はぁ。何でだよ」
「お前がエロい事をしようとしてるのは判っておるのだ! オレ様の目が黒い内はそんな事はさせんっ!」
ばーんっ!!と言う効果音が森中に響くかの様に……指をさしながらそう言うランス。……一体どの口が言ってるんだ!?っと思わず言ってしまいそうにn
『どの口が言ってんのよ! それはランスでしょ!!』
……思う前に身体反応してしまった様だ。勿論、かなみである。
「馬鹿ね。ユーリなら大丈夫でしょ、あんたじゃあるまいし。……こんな大変な時にそんな馬鹿な事するわけないって思うし」
そう言葉を付け加えるのは志津香。……いつも通り脚に魔力が宿っている。
『すれば、どうなるか、判ってるわよね?』
と釘を刺してる様だ。釘刺さなくてもしないのだけど。
「はぁ……志津香の言葉じゃないが、んな馬鹿な事するかっての。ランスも戦いが楽になって良いだろ? 一々戻して、更にもう一度フェリスがここに来る、なんて面倒そうだ」
最終的には、ユーリの言葉で終息。
ランスも、自分の目の届く範囲なら、と言う事と明らかに戦闘が楽になったと言う事実もあったから、引き下がっていた。……が、それなりには色々と悶着はあるようだ。
それを見てたフェリスは再びため息。
「はぁ……、こいつらはほんと……」
「はははっ! どーだ? 面白いだろ? ラブコメでも見てる様でさ。まぁ、ランスがあの中に、絡めば ラブが退いて コメディのみになるし」
「下手なTV番組よりは、面白いかも、な」
「お? 悪魔もTV見たりするんだな」
ミリとフェリスは、苦笑いをしながらそう話していた。
―― フェリスとミリは、仲の良さが10上がった。
そして、一行は更に森の奥へと入っていく。そんな時、先頭にいたかなみは足を止めた。
「……誰かいるわ。気配を感じる……」
かなみが見つめるのは、不自然に野原の中心に生えた一本の木。同じ様な木々は至るところにあったから、もう不自然と言う訳ではないが。
「む? オレ様はなんにも感じないぞ? 気のせいなんじゃないか? へっぽこ忍者だし」
「誰がへっぽこよっ! 本当に何か感じるの! 何か、いや、誰かの気配をね!!」
「……かなみ。何者かの気配を察知してくれた事は、ありがたいが……。正直 大声でいうようなセリフじゃないと思うぞ?」
「ぁ……」
かなみは、慌てて口を噤むがもう遅いだろう。
「まって、……何か現れたわ」
注視していた志津香は、声を上げた。そこに突然湧き出る様に現れたのは1人の少女、そしてモンスターが数匹。
「お? 可愛子ちゃん発見だなぁ……」
少女の姿を見て、即座に反応を見せるランス。
「ら、ランス様……」
いつも通りと言えばそうなのだが、やはりシィルは悲しそうな顔をしてしまっていた。そうこうしている内に、現れた少女が口を開く。
「オ前ラ、コノ森、入ルカ?」
「うむうむ、その通りだ。可愛い子ちゃん。お、そうだ。この森を案内して欲しいな。礼として、オレ様が優しく抱いてやろう」
そんな礼があるか! と誰かがツッコもうかどうか迷っていた際、少女の目つきが鋭くなった。鋭く、冷たい。睨みつけている様だ。
「人間、帰レ。コノ森、スー、ラプ! ミンナノ森。人間ガ入ル場所、ナイ! オマエタチ、デテケ デテケ!!」
辛うじて言葉を発する事が出来てはいるが、カタコトだ。
言葉を使うのが慣れてないと言う印象。幼少期により、学んでいくのが言葉だが、彼女は人間界ではなく自然界に育まれてたのだろう、と言う事を直ぐに連想出来た。
彼女の傍にいる数匹のラプは、何処か悲しそうに鳴いていた。
「むむ? 一体何なんだ? ちゃんと礼をすると言っているのに」
「ランス様、どうやら森を出て行け、と言ってるみたいですよ」
「そうね、ランスは、礼なんて事出来ないし、それに言葉が聞こえないみたいだから。教えてあげないといけなかったわね」
「馬鹿言うな! 聞こえるわ! だが、何故このオレ様に向かっ出て行け、と言うのが分からんのだ馬鹿者!」
ランスは、そう叫びをいれる。
ユーリは、ゆっくりとその少女の方へと向かった。それに気づいた少女は再び声をかけた。
「コレハ、警告、ダ。ハヤク 森デテケ。次ハ、ナイ」
少女の瞳は、細く……だが、眼光は自分達を射抜くかの様にぎらつかせ。
「次ハ、シヌゾ」
その口からは不吉な言葉を発していた。が、それもまるでものともしないのがランスだ。
「がはは! 可愛子ちゃん。そんな事より、オレ様とHしないか? オレ様流の礼だ! がははは。天にも上る快感を与えてやろう!」
「こんな時に何を馬鹿な……って」
「馬鹿な事をっ! ……あれ?」
かなみや、志津香が苦言を言っていたその一瞬の隙だ。
「ミラクルミー!」
一瞬光ったかと思うと、スーの身体が、まるで森の中に溶け込むように透けていき、少女とラプ達は姿を消していた。
「むむ、せっかくオレ様が声をかけてやったというのに」
「馬鹿言うな。ランスの言動で更に警戒をさせたんだ。警戒させて どうするんだよ」
「何をいうか、オレ様は女としての喜びを教授してやろうというのだぞ? そこは泣いて喜ぶべきところだ」
ランス節を一通り言った後で、シィルが今後の事を皆に聴く。
「どうしましょう、皆さん……。彼女達、私たちに森を出て行け、と言ってました。……従わないと、殺すとも」
少し不安そうにシィルは言うが、そんな脅しに屈する様なメンタルの持ち主はここにはいない。ランスは、笑いながら。
「がははは! 馬鹿言うな、シィル。そんなもん、無視していればいい。気にするな。もし、襲ってくる様なら、しっかりとオレ様がお仕置きをしてやろうではないか」
ランスはそう言うと、大股で意気揚々と奥へと入っていく。
「はぁ……、あいつの辞書には『慎重』とか『躊躇い』とか無いのかしら?」
「ん? 志津香にはあったのか?」
「当たり前でしょっ!!!」
「いてっ」
正直、これはユーリの失言だろう。
とユーリは素で聞いてしまった0.2秒後に後悔をしていたが……、いつも通りの攻撃は正確に飛んできていた。怒りながら当たり前、と言っても説得力に欠けると思われるが、誰も突っ込みを入れたりはしなかった。
「兎も角、気をつけて進みましょう。……脅す以上は、何かをしてくるのは間違いありませんから」
「そうだな。ランスじゃねえけど、おいたをする女の子には躾ってのが必要だろう」
「……正直、ミリの口でそう言っても、説得力無いわ」
「あ、それ私も判ってきた気がする」
意外と早めに打ち解けているフェリス。
同性だから、と言うのもあるだろうけど、ここにいるメンバーは一癖も二癖もあるメンバーだから、早めに合わせたほうが楽……と思ったのかもしれない。
「とまあ、早めに進もう。またランスがヘソを曲げかねない」
ユーリはそう言って指をさした。シィルは慌ててランスの後を追い、……そして、遅いと言われ頭を叩かれていた。
「……あいつ、私が必要なのか? あのコだけで十分じゃないか。……灯台でも思ったが。……ああ、思い出しただけで、腹が立つ」
フェリスは思わずランスを見てそう呟いていた。
そして、灯台での肉体労働も思い出しているのだろう……、何やら深くため息をしつつ、苛立ちもみせていた。
ランスの傍に仕えているシィル。……あれだけ従順な奴隷がいるのなら、と思えるのだ。
……でも、ランスがシィルを見る目が他人とはまるで違うと言う事は何となくだが判っていた。
その後何度か彼女に遭遇し、ランスが捕まえようとするのだが……、森と同化する様に透けていき、見失ってしまうのだ。それが何度もあった。。
「森を知り尽くしてる、か。同化しているのが判らないな。人間である以上、何か方法があるのだとは思うが」
「そうね。……あれは魔法の類じゃないわ。魔力が感じられないもの。だからこそ、察知ができないから、厄介よ」
志津香もそう言う程のものだった。だが、これを越えられれば、光明が見えてくる事実もあった。
「だが、森を知り尽くしてる、と言うのなら、この森に生息している聖獣ユニコーンの場所とかも知ってるだろ? 闇雲に探すより、あの子を探す方が遥かに効率的だな。……この森は、矢鱈広いし」
ミリがそう言っていた。そう、森を知っていると言う事は、その可能性もかなり高い。
素直に従ってくれる……と言うのは希望的観測だが。
「む……いい加減面倒くさくなってきたぞ。おい、かなみ。さっさとあの娘を攫ってこないか」
「無茶言わないで。あれだけ森と同化して、溶け込むように逃げられたら追いきれないわ。それに、あまり分散するのも得策じゃないと思うし」
「お前の十八番だろ!」
「わ、わぁ! わぁ!! ランス! 黙って!!」
それは、かなみの過去の事だ。
リアに命じられ ……罪もない少女達を攫った時の事を言っているのだろう。あの頃のかなみではないし、罪滅ぼしらしい事は出来ているとは思えないが……、それでも あまり行って欲しい事ではないのだ。
ちゃんと、自分は出来ているだろうか、とかなみは不安に成る時だってある。……リアの事もあるからこそ、妄りに自分の過去を話したりが出来ない。……誰かに気安く打ち明ける様な事も、出来ない。だからこそ……不安になるんだ。
かなみは、そう考えていたその時だ。
「……大丈夫だ。判ってるよ」
「……っ///」
ユーリは、軽くかなみの頭を撫でた。全てを知っているユーリだからこそ、自然とそう言っていたのだろう。
そして、いつもなら 志津香の踏み抜きが待っているのだが……、何か深い事情が、特にかなみに、何かがあると察した志津香は何も言わなかった。王家に仕えている忍者なのだから、聡明な志津香であれば、容易く連想出来たのだろう。
「むむ。だが、素早さなら へっぽこでも忍者なんだから、かなみの方が上だろ?」
「も、勿論よ!! 森に同化してるアレを何とか出来れば、きっと!」
「なら、ミスったら、お仕置きだからな! あの時は、ユーリに任せてしまったのが、失敗だった。今度はオレ様が、たっぷりとお仕置きをしてやろう! がははは!」
「だ、誰がよ! それに、ユーリさんは、私には なんにもしてない……助けてくれただけよっ……! ぁぅ///」
かなみは、そう力説をしているんだけど赤くなってしまう。……ランスの言葉を聞いて,もしも ユーリにお仕置きをされたら……、そうランスが言う様なお仕置きを連想させてしまって、そう言う意味でのお仕置きをされてしまえば? と考えてしまったのだ。
これまで、ランスの行為を間近で見てきたから……連想しやすかったのだろう。
「(……お? かなみは受け責めだったら、受け側だったのか?)」
「うひゃいっ!!?? み、ミリさん、何をっ!!」
「そんなかなみには、この強力媚薬(♂)を授けてやろう! 絶倫ユーリ、さいきょーってやつだ!」
「けけけ、結構ですっ!」
「はぁ……、ほんっと楽しんでるな? コイツは」
周囲に警戒はしつつ、フェリスもそのドタバタ劇場を見て、ふっ、と軽く笑っていた。
等のユーリは、ため息をして。
「とりあえず、志津香、頼むよ。さっさと進もう」
「……そうね」
「こらっ! オレ様を無視するんじゃない!」
「ら、ランス様……」
一行は、再び行動を開始した。
何度か逃げられはするものの、確実に彼女へと近づいていく事は出来ている。森と同化、溶け込むように 移動しているのだが、その木々を切り倒していけば、追えない事はないのだ。そして。
「グ、シツコイ……」
少女は、慌てている様で動揺が見て取れた。こんな簡単に追いかけて来るとは思ってもいなかった様だ。
「力押し、ってヤツだな。盛大な自然破壊とも」
「仕方ないでしょ? 追いかけるのには、やっぱり それがてっとりばやいから。私がやったら、燃やしちゃうし」
「それは勘弁だ」
志津香の言葉を訊いて、首を振るユーリ。火爆破やファイヤーレーザーを使って道を切り開いてしまえば、あっと言うまに燃え上がってしまって 大火事になってしまうのが目に見えているから。
「グ……、ドウシヨウ。モウ、村ノチカク、キタ キタ 敵ガキタ。皆ニシラセナキャ、連絡ヲ」
追いかけてくる速度が明らかに速くなってきているのを直に感じた為、慌てて、奥へと逃げていった。
「がはは! よし、このまま行くぞ! ここまで苦労させられた分はヤってやろうじゃないか」
「和解してからにしろ。向こうはオレ達を敵だと思ってるんだから」
「よしよし、和姦と言う事だな?」
「馬鹿ランス! ぜんぜん違うじゃないっ!」
「ほらほら、さっさと行くぞ。奥に村があるみたいだ」
そして、逃げ込んだ奥へと進んでいく。そこには、ミリが言うように村があった。その村には多数の家があるが……、その大きさは凄く小さい。
「ランス様、とても小さな家がありますね? ここがあの子が言っていたラプの家みたいですね」
「本当に小さいわね。幾らラプでも、もうちょっと大きくても良いような気がするけど」
「オレ様の家の方が1000倍は立派なものだ。ま、所詮ラプなんてこの程度のものよ。オレ様には遠く及ばん」
其々各々の感想を言い合っているけど。
「そもそも、モンスターの家と張り合う時点で負けじゃない」
「ご最もな意見だ。まぁ、そこはランスだから」
志津香の苦言にユーリは同意。張り合う相手を完全に間違えているから。
「おい、御出迎えがある様だぞ」
フェリスは、陽気な皆にそう言う。村の奥から現れたのは、あの少女。
「ヨクモ、ヨクモ、ココマデキタナ。スーとラプノ村 コノ場所 シラレタ。イカシテ カエサナイ!」
「がはは、またモンスターか? 鬱陶しいがクリアした後の美少女を考えたらノー問題と言うやつだ」
「ランス様……、無理に争わなくても、事情を話しましょう」
「……残念だけど、向こうはやる気満々みたいよ」
シィルの言葉に志津香は首を振った。あの少女が呼び出した無数のモンスターが直ぐ傍に控えているのだ。
「シネ、ニンゲンドモ。カカレ ミンナ GOGO!」
その言葉に全員が飛びかかってくる。
「……私は人間じゃないんだけどな」
フェリスはやや複雑そうだが、かかってくるなら仕様がない。と言ったところだろう。
「相手は、恐らくこの村に住むラプだ。……なるべく穏便にな」
「はい!」
「ま、ここで大量虐殺でもすりゃ、和姦は無理だろうからな」
ミリが言っている言葉をとりあえず志津香が突っ込んだ後、襲いかかってくる無数のラプを迎え撃つ。数は向こうが上だが、戦闘能力の面では圧倒的に強いのはこちら側だ。超音波での攻撃が、中々厄介だったが 全員を戦闘不能にするのには時間はあまりかからなかった。
戦闘は問題なく終わった。勿論勝ったのはこちら側であり、ラプ達は とりあえず1匹も殺す事無く、気絶させる事が出来た。……ランスが殺しそうだったのが一番危なかったが。
「ソンナ ミンナガ コンナアッサリ マケル ナンテ……」
あっという間に終わったのを見て、少女は呆然としている。戦えるメンバーをより揃えてきたのだろう。そんなメンバーを一蹴されてしまったのだから。
そんな時、奥からラプが現れた。
そのラプは、何処となく風格のある白髭、そして杖を持っていた。ラプの村の長老……と言う言葉がしっくりと来るだろう。その長老は、周囲を見渡し、倒れている同胞を見て、表情を暗めた。
「……人間はなぜ 我々をそっとしておいてくれないんだ。どうして我々の生活を破壊するんだ」
「許セナイ。……コロセ、 コロセ!」
悲しそうな表情をする。
少女は、まだ諦めていないが、その数と強さを目の当たりにした以上、もう無理だろう。小さなラプ達をそっと見渡した長老は。
「もう、ここの我々村も人間に知られてしまった。幸せな生活もこれまでだ……」
最早 全滅は免れない。そう言って覚悟を決めた長老に向かって慌ててシィルは言う。
「ま、待ってください。勘違いをしていらっしゃったんですっ。私達は戦いに来たんじゃありません」
「何を今更。私達を誑かすつもりか。既に多くの同胞がお前たちにやられたのだぞ。……信じることなど到底出来ない」
「勝手なことを言うな。先に仕掛けてきたのはお前たちだろうが」
「なんじゃと……?」
ランスの言葉を聴いて驚きの表情を見せる長老。
「オレ達の元々目的はこの森に住んでいるユニコーンを探す事だ。それで、森の奥で彼女にあってな? それに、やられた、とは物騒だ。それなりに手加減をしているから、気絶しているだけだと思うぞ。……運が悪ければ、判らないが」
「っえ……!!」
ラプの長老、そして少女は慌てて倒れているラプ達に近寄って、状態を確認した。確かに、死んでいる者は誰もいなかったのだ。
――全員が手加減攻撃を習得、或いは上達した。
「……まさか、ここに来た理由も何も聴かず、このスーが貴方達を?」
「そうだ。お前たちが勝手に勘違いして、オレ達に挑んできたのだ! そして挑まれた以上、手は抜けないのが冒険者の性だ。が、情けは一応かけてやったのだ。スー、と言うのか。そのコの可愛さに免じてだぞ。がははは!」
「ランスに冒険者の性なんて無いでしょ。自分の欲望だけに生きてる癖に。それに、殺しかけたくせに」
思わず突っ込んでしまう志津香だった。それを聞いた他の皆も思わず笑ってしまう。それ程的確な突っ込みだったから。
「スーっ! これはどういう事だ! この人が言うことは本当なのか?」
対照的に、慌てているのはラプ達。どうやら、この少女の名前はスーと言うらしい。突然聴かれて、慌てて答える。
「……ア、ウッ…… ダッテ 人間、 敵デ ワルイヤツ」
「スー、相手が敵かどうか確かめずに攻撃したという事なんだな? 人間が全て敵ではないんだぞ」
「………ウ、ウ、……ゴメ、ンナサイ」
スーは、素直に頭を下げた。
それを見た長老は、この人間が言っているのが間違いない事を理解した。
「申し訳ない……。スーの早とちりであなた方に攻撃をしてしまった様だ」
そして、頭を下げた。
「よかったですね、どうやら無事に和解出来たようですよ」
「うむ。そこまで言うのなら許してやらんでもないな」
「まぁ、こっちには、実質的な被害らしい被害は無かったしな」
「思う存分暴れてたしな……、売られたケンカとは言え、経緯を考えたらちょっと悪いことしたか? って思ってしまう」
こちらの被害は、ユーリが言うように0だ。
ラプ側は、死んではいない、と言うだけで 多数の被害を出している。もう少し早くに長老と出会っていれば、と思ってしまった。
「……ゴメンナサイ」
「よしよし。以後オレ様に協力を誓うと言うのなら許してやろう」
「ユニコーンの事もあるしな。協力してくれるのなら有難い」
「ありがとうございます。協力はさせてもらいますよ。こら スー。ちゃんと礼を言わないか」
「アリガトウ」
スーの表情を見ればよく判る。慕っていると言う事がよく判る。だが、疑問も当然だがあった。
「どうして、ラプの中に人間がいるの?それに、他のラプ達に比べたら一際人間そのものを敵視していたし」
かなみがその疑問を聞いていた。長老は少し表情を歪ませながら、口を開いた。
「……スーは、心無い人間に捨てられた捨て子だったのです。……必要以上に敵視するのは、森を侵す人間。幾度となく、集落を襲われた事と、そして その捨てられたと言う事が少なからず、心に残っていたのでしょう。……私達がなんとかここまで育てる事は出来ましたが」
「スー 捨テ子。ラプ ガ 家族」
スーの見る目を見てもよく判る。ラプ達を信頼し切っていると言うのが。だが、長老は首を横に振った。
「しかしな、スー。やはりスーは人間なのだ。そろそろ人間界に戻って生活をしないと……、スーの幸せの為にも」
その長老の言葉に、村の住民であるラプ達も頷いた。スーが皆を家族と思ってたように、皆も同じ気持ちだった。だからこそ、スーにとって一番良い選択は何なのか……、それを理解していたのだ。
「ヤ! スー、ココデ スム! 人間 ノ マチ ココニイル 人間タチ ト チガウ。 ワルイヤツ オオイ!」
「これ。 スー。わがままを言うでない。……これは全部お前の為なんじゃ」
家族は、共に暮らしてこそ、それが本人にとっても幸せな事だ。それは、判る。……だが、今回のそれは違う。
ラプと人間。
モンスターと人間の距離を考えたら、長老の言葉の方が正しいだろう。
「ソレニ ダメ スー ニンゲン 文化ワカラナイ」
「……皆さん。厚かましいと思われるかもれませんが、スーを頼めませんか、あなた方は初めてラプである我々と話をしてくれて、判ってくれた」
目を瞑り、そして開いた。
「どうか、スーの事を……スーに幸せを……」
それを、その懇願を訊いて、無下に出来る者などここにはいなかった。
「今の現状を考えたら、レッドの町で保護するのが一番安全、かな?」
「そうね。レッドの町なら直ぐ近くだし、何より教会のセルさんがいる。あの人は教会で孤児院の様な事もしてくれてるし」
「そうですね。セルさんは立派な御方ですし。一番安全かと思います」
「ま、オレも色々と教えれるしな?」
「馬鹿者! ミリ。教えるのはオレ様の役目だ。人間の文化と言う物を身体に叩き込む為に!」
「馬鹿ランス!! こんな純粋無垢な子になんてこと言うのよ」
断腸の思いで頼もうとした長老だった。……そして不安だった。普通の人間なら、こんなモンスターの事など聞いてくれないだろう、と何処かで思っていた。
でも、この人たちはもう、スーの事を考えてくれていた。断ると言う選択視が最初から無かったかの様に。
「あ、ありがとうございます……。スー」
「ドウシテ チョーロー、泣ク? ヒドイコト サレタ?」
「違う、これは違うよ、スー。……この人たちは本当に良い人達だ。信じていい」
「………」
優しい目をしている事、スーは直ぐに判った。その目を人間に向けている。家族に向けている様な優しい目を。
「ワカッタ。文化イガイモ、 ワカラナイ事 多イ。 デモ スー、ガンバッテミル。ダカラ……」
スーは少し俯かせた後、笑顔で聞いた。
「トキドキ 遊ビニキテモ イイ? 戻ッテキテモ イイ?」
「そうじゃな。……人間界の生活に慣れたら、何時でも来なさい」
「ウン、スー、ガンバルッ!」
スーはその言葉を聴いて笑顔になった。
「よーし、まずは簡単な文化基礎教育だ!」
「だから まずは、ユニコーンだ。時間が惜しいだろ」
「何度も言わないの! レイラさんが大変なのにっ!」
ランスの行為は、全員が却下(シィル以外)した為、勿論無しの方向となった。この時のスーであれば、ランスの言葉でも、なんでも訊くだろう。ランスの言う文化? も何一つ疑問を持つ事なく。
だが、ここで風向きが変わる事になる。
「スーハ、ドウスレバ イイ?」
「良い? あの、がははって下品に笑うデカ口男の言うことは聞かなくていいからね? 悪影響しかないから。判らない事があったら、私達、そっちの黒い髪の男に聞きなさい。判った?」
「ワカッタ!」
志津香が、第一に教えたからだ。ランスについて、簡潔に。
「コラァ! 志津香ッ!!」
当然ランスは怒るが完全にスルーする志津香。粘着地面を使うと、構えたりもした。……事前に察したランスは、渋々飛びかかるのはやめた様だ。流石に学習しかけた、とでも言うのだろうか? 多分、偶然だろう。
「なら、オレが……」
「ミリもダメよっ!!」
色々と悶着があったが、とりあえずこうして、スーを引き取る事になった。
その光景を静かに見ていたのが、フェリスだ。
「……本当に不思議な人間達だ。見ず知らずの人間は、判らなくもないけど、モンスターと仲良くなったみたいだし」
そう、思わずつぶやいてしまっていた。
破天荒で、無茶苦茶な男も混じっているが、それを上手く操作出来る者達もいる。だからこそ、ここまで強いパーティとなっているのだろう、そう思える。
「(わ、私は何考えてるんだ。人間なんかにっ……)」
理解しようとしている自分が確実にここにいた。
だが、フェリスはそんな自分を否定して、心の奥へと封じる。繋がっているのは契約だけ。
フェリスは、そう強く思い直していたのだった。
〜人物紹介〜
□ スー
Lv25/36
迷子の森に、赤ん坊の頃捨てられてしまったと言う過去を持つ少女。
だが、心優しい丸い者の一族であるラプ達に囲まれ、幸せを感じていた。……だが、度重なる集落への襲撃もあり、人間への敵対心が強くあった。
今回の一件を機会に、長老の願いから人間の世界へと戻ることになった。一先ずレッドの町に行く予定である。
□ ラプ
分類的にはモンスターに当たるが、過去のメインプレイヤーである丸い者の仲間。
森で見つけたスーを見捨てる事が出来ず、育て上げた優しい心を持っている。
だが、やはり森を侵す人間は好ましくない印象は拭いきれていない。
そして、長老を筆頭に今回の一件で改めて、人間と言うものを見つめ直していた。
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