真田十勇士
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巻ノ十六 千利休その八
「町は賑わおうとしており」
「城も見られましたな」
「はい、まだ普請ははじまったばかりですが」
「あの城はとてつもないものになります」
「安土のものよりも」
「そう思いまする」
幸村は利休に確かな声でまた答えた。
「あの城は」
「まさに天下一の城にですな」
「なりましょう」
「そうですな、そしてその城からです」
「羽柴殿は天下を一つにされる」
「そのうえで治められます」
「ですな。後は」
幸村は茶を飲みつつこうも言った。
「跡を継ぐ方がおられれば」
「万全と」
「はい、確かな方がおられれば」
「羽柴殿はお子がおられませぬ」
利休もこのことについて言った、幸村に続いて。
「奥方のねね殿、側室の方々との間にも」
「一人もですな」
「ご子息はおろかご息女もおられませぬ」
つまり完全に子がいないというのだ。
「どなたも」
「それがわかりませぬ」
猿飛が首を傾げさせつつ利休に言って来た。
「羽柴殿と言えば天下に知られた女好きでござるな」
「ははは、そう言われますか」
「あの方はおのこの趣味はないと聞きますが」
他の武士達とは違いだ、彼の主であった織田信長にしてもそちらの趣味があったし武田信玄や上杉謙信も同じだ。
「その分おなごが好きと」
「実際に羽柴殿はおのこには興味がありませぬ」
「そして、ですな」
「おなごが好きです」
「それでもですな」
「はい、あの方は子宝にはです」
恵まれていないというのだ。
「今のところは」
「しかし羽柴殿も四十を過ぎておられます」
霧隠はいささか秀吉の側に立って述べた。
「ですからそろそろ」
「人間五十年ですからな」
「お子がおられるままですと」
「はい、実際の問題としてです」
「羽柴殿が天下人になられても」
「後の方がおられませぬ」
「確か羽柴殿には甥御がおられましたな」
ここで言ったのは筧だった。
「三好家に入られた秀次殿が」
「うむ、その方がな」
「羽柴殿にはおられます」
同じ三好家、末席にしてもそうである清海と伊佐が言った。
「だからな」
「あの方が跡継ぎでは」
「そうですな、羽柴殿もそうお考えです」
「では問題はないかと、いや」
筧は言ったところでだ、自分のの言葉を即座に訂正させてだった。利休に対してあらためてこう言った。
「それはわかりませぬな」
「若し今後羽柴殿にお子が生まれれば」
「その時はですな」
「どうなるかわかりませぬ」
「確かではありませぬな」
「はい、そこがまた厄介なのです」
秀吉にとって、というのだ。
「あの方が天下人になられるでしょうが」
「その羽柴殿の後」
「そこですか」
清海と伊佐がまた言った。
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