真田十勇士
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巻ノ十六 千利休その七
「まだお仕えはですか」
「気持ちの整理がついていなかったので」
「お話はされていても」
「それまではです」
していなかったというのだ。
「前右府様にはお仕えしていましたが」
「前右府殿が本能寺で倒れられ」
「気持ちの整理がついていませんでした」
それでまだ秀吉には仕えていなかったというのだ。
「左様でした」
「そうだったのですね」
「はい、しかし」
「お心がですか」
「つきました」
即ち気持ちの整理が出来たというのだ。
「ですから」
「羽柴殿にですか」
「私のお茶をいつも飲んで頂ける様に」
「お願いしますか」
「そうお話させて頂きます」
「ですか、利休殿が羽柴殿にお仕えすれば」
幸村はその目をはっきりとさせて利休に言った。
「堺の町衆もですな」
「即ち堺自体がですか」
「はい、羽柴殿につかれますな」
「そこまで見られているとは」
利休は目を瞠った、ここで。そして幸村に対してこう言った。
「お見事です」
「そう言って頂けますか」
「幸村殿は政も見ておられますか」
「戦は政です」
幸村は利休に確かな声と顔で答えた。
「政の中にあるものと考えています」
「だからですか」
「はい、利休殿が羽柴殿にお仕えすれば」
「堺の町自体も」
「羽柴殿につきます、前右府様にそうした様に」
「そして堺の力で」
「銭とつて、それに人の見聞が集まっている場所なので」
商いによってだ、幸村は堺の力がどういったものかもわかっていた。そのうえで利休に対して答えたのである。
「その力が加われば」
「大きいと」
「そう思います、ですから」
「私が羽柴殿にお仕えすれば」
「羽柴殿は天下にさらに近付きますな」
「次の天下人は羽柴殿です」
利休はその目を確かにさせて幸村に答えた。
「そして天下を泰平にして下さいます」
「この天下を」
「前右府様が為される筈でしたが」
しかしその信長は本能寺で倒れた、跡を継ぐ筈だった彼の嫡男である織田信忠も二条城で倒れた。それで今は天下人がいないが、というのだ。
「しかしです」
「羽柴殿がおられるので」
「必ずです」
「天下はですな」
「一つになりです」
「泰平になると」
「そう見ています」
こう幸村に話すのだった。
「ですから」
「羽柴殿にですか」
「お仕えします、その返事をです」
「間もなくですか」
「大坂の羽柴殿にお伝えします」
「大坂にも行きました」
幸村は茶を飲みつつ利休に答えた。
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