ソードアート・オンライン ~黒の剣士と神速の剣士~
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SAO:アインクラッド
第21話 ボス部屋
「それにしても君、いっつも同じ格好だね」
迷宮区へと続く森の小路を歩いているとアスナがからかうようにキリトに言った。
「い、いいんだよ。服にかける金があったら少しでも旨い物をだなぁ……」
俺は前を歩くキリトとアスナを見ながらサキに話しかける。
「随分仲良くなったんだな」
サキは2人を見て微笑みながら返す。
「最初はとても仲が悪かったのにね」
「そうだな……ん?」
索敵スキルの範囲内に反応があり俺は後方に視線を集中させる。
するとプレイヤーの存在を示す緑色のカーソルがいくつも連続的に点滅した。
犯罪者プレイヤーの集団ではないのは確実だが、それよりも気になることがあった。
「「多い……」」
キリトも同じことを思ったらしく言葉が被った。
「キリト、どうする?隠れてやり過ごすか?」
「一応確認したいし、そうするか」
「そうね」
俺たちは道を外れ土手を這い登ると密集した灌木の茂みの陰にうずくまる。
キリトたちも少し離れて茂みの陰に隠れる。
俺はアイテムの中から黒色のフードを出しておく。
「どうしようカゲヤ君。私、他に着替え持ってないよ……」
サキは自分の格好を見下ろしながら言う。
確かに緑の茂みの中じゃあ赤と白の制服はかなり目立つ。
俺はフードの前を開くと隣にうずくまるサキの体を包み込みながら言った。
「これなら多分大丈夫だろ」
「ありがとう、カゲヤ君」
サキは自分の体が全てフードに隠れるようにした。
俺たちの耳にざっざっという規則正しい足音がかすかに届き始め、やがて曲がりくねった小道の先からその集団が姿を現した。
黒鉄色の金属鎧に濃緑の戦闘服。
基本フロアを本拠地とする超巨大ギルド《アインクラッド解放軍》のメンバーだ。
「……あの噂本当だったんだ……」
軍の連中が索敵範囲外に去った後にアスナが呟いた。
「噂?」
「うん。ギルドの例会で聞いたんだけど軍が方針変更して上層エリアに出てくるらしいって」
「私も聞いたことある。なんでも少数精鋭部隊を送ってその戦果でクリアの意思を示すらしいよ」
「戦力が増えるのは嬉しいことだが、いきなり未踏破層に来て大丈夫なのか?」
「レベルはそこそこありそうだったけどな……」
「ひょっとしたらボスモンスター攻略を狙ってるのかも……」
「連中はぶっつけでボスに挑むほど無謀じゃないだろ」
「だといいんだがな」
「それよりも、俺たちも急ごうぜ。中でかち合わなきゃいいけど」
そう言うとキリトとアスナは小路に戻っていく。
それに続いて俺とサキも小路に飛び降りキリトたちの後を追う。
幸い一度もモンスターに遭遇することなく森を抜け迷宮区の中へ入って行った。
現在地は74層迷宮区の最上部近く、左右に円柱の立ち並んだ長い回廊の中間地点。
今は戦闘の真っ最中だ。キリトたちの……
「今回もあいつらだけで倒してしまうな」
「こっちとしては楽でいいんだけどね」
そう話しながらキリトたちの戦闘を見る。
戦闘は終盤に差し掛かっていてモンスターのHPは残り3割になっていた。
そこでキリトがアスナとスイッチして飛び込み、片手剣スキル7連撃技《メテオブレイク》で敵のHPを0にした。
「やった!!」
剣を納めたキリトの背中をアスナはばしんと叩く。
「もう戦闘全部あいつらに任せるか」
「そうだね〜」
そんな話をしながら俺たちは先へ進む。
進むにつれだんだんオブジェクトが重くなってくる。
そろそろボス部屋に着きそうだな……
予想通り回廊の突き当たりには灰青色の巨大な2枚扉が待ち受けていた。
扉には円柱と同じように怪物のレリーフがびっしりと施してあった。
「……これって、もしかして……」
「あぁ、ボス部屋だ」
「どうする?覗くだけ覗いてみる?」
アスナは強気な台詞を言うが声は不安を色濃くにじませていた。
やはり何度経験してもこういうシチュエーションは怖いのだ。
「ボスモンスターは守護する部屋からは絶対に出ない。ドアを開けるだけなら多分……だ、大丈夫……じゃないかな……」
「もう少し自信を持って言いなよ。キリト君」
「う……一応転移アイテムを用意しといてくれ」
キリトは青いクリスタルを取り出しながら言う。
「うん」
俺たちもクリスタルを取り出す。
「いいな……開けるぞ……」
キリトは鉄扉に手をかけゆっくりと力を込める。
扉はかなりのスピードで開き、ずしんという衝撃と共に止まった。
直後ボッと音を立てて2つの青白い炎が燃え上がり、ボボボボボ、という連続音と共に入り口から部屋の中央に向かってまっすぐに炎の道が出来上がる。
最後に一際大きな火柱が吹き上がり部屋全体が薄青い光に照らし出される。
同時に火柱の後ろにいる巨大な何かの姿も露わになった。
見上げるような体躯は全身縄のごとく盛り上がった筋肉に包まれ、肌は周囲の炎に負けぬ深い青。
分厚い胸板の上にある頭は人間ではなく山羊のようで、頭の両側からはねじれた太い角が後方にそり立っていた。
眼は青白く燃えているかのように輝きを放ち、その視線はこちらを捉えている。
下半身は濃紺の長い毛に包まれ、それも人ではなく動物のもののようだ。
その姿は簡単に言えば悪魔そのものだ。
俺は視線を凝らし出てきたカーソルの文字を読む。
《The Gleameyes》── 輝く目
それが悪魔の名前だった。
しかしそこまで読み取った時、突然悪魔が長く伸びた鼻面を振り上げ轟くような雄叫びを上げた。
そして、右手に持った巨大な剣をかざして地響きを立てながら猛烈なスピードで走り寄ってきた。
「うわあああああ!」
「きゃあああああ!」
「お、おい……はぁー」
俺はため息を吐くとキリトたちを追う。
追おうとしたが振り返って足を止めた。
目の前でサキがその場にへたり込んでいたのだ。
「……どうしたんだ?」
思わず聞くとサキは苦笑いしながら応えた。
「びっくりして力が抜けちゃって……」
「まったく、しょうがないな……」
俺はサキを抱き上げるとキリトたちを追って走り出した。
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