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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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Episode of Tabasa 臆病者-オリヴァン-part2/必殺の魔法

それをほぼ同じ時間、タバサたちも腹をすかせてきた頃だった。
グレンは男性と言うこともあって、タバサたちとは別室を与えられていたためここにいない。
「そういえば、そろそろ腹が減ってきた思わない?」
ふと、キュルケが外が暗くなり始めたのを見て呟く。タバサも同じ事を考え頷く。見かけによらず大食らいなのだからご飯は欠かせないのだ。
部屋に設置された、用事の際に執事やメイドを呼び出すためのベルを鳴らしてみる。本来ならこれで誰かがしばらくの間を置いた後にやってくる。数秒ほどの間をおいてから、二人の部屋をノックする音が聞こえる。
しかし直後、ゴツッ!と何かを叩いた音が廊下から聞こえてきた。その音を聞いてタバサが、そして彼女に続いてキュルケも警戒して杖を取る。何かあったのか?
(考えてみれば、ここってある意味敵地って事になるのよね…)
今になってかもしれない。警戒を強めるキュルケ。
「タバサ、あたしが開けるわ」
「ダメ、私が開ける」
少しでもタバサの負担を減らそうと、キュルケは自ら扉を開くというが、タバサとしても元々関係の無かった彼女を必要以上に巻き込むわけに行かないので、自分が開けるという。
二人がそういっている間に、扉が開かれた。二人は言い争いになりかけていたところだったが、開かれた扉を見て咄嗟に扉から一歩引いて身構えた。
扉が開かれると同時に、何かが倒れこんできた。それは、アネットとは別の一人のメイドだった。彼女は気絶していて、傍らにはナイフが落ちている。
「無事か、お二人さん」
「グレン!」
後に続くようにグレンが姿を見せた。
「これは…?」
タバサが倒れてメイドを見ながら問う。
「さっきこのメイドさんが俺にナイフを向けてきやがってな。加減するのが難しくて手間掛かったけど…逆に説明の手間が省けたぜ」
「…屋敷は、敵地の中央。今まで動きは無かったけど、今になって動き出したということ?」
「ああ。どうやらこの子だけじゃないみたいだぜ」
グレンがそういったとき、ガシャン!!とタバサたちの客室の窓ガラスが割れて、中に数人ほどの人影が入り込んできた。振り向く三人だが、その侵入者の顔に驚いた。
「こいつは…確かあのお坊ちゃんのクラスメートの…!」
「まさか、直接屋敷に乗り込んで仕返ししようって腹かしら?」
侵入者は、なんとオリヴァンをいじめていたアルベールたち、いじめっ子集団だった。だが彼らだけではない。他にもこの屋敷で何度か見かけた、住み込みのメイドや執事まで混ざっている。クラスメートの屋敷に着てまで仕返しをしたがるとはたいした執念ではあるが、同時に愚かなことだと思う。自分の家名にかえって泥を塗るだけだ。
「…違うと思う。彼らの目を見て」
しかし、タバサは彼らを見て否定的な言葉を述べる。タバサに言われ、二人はアルベールたちの目を見る。彼らの目は、顔はこちらの方を向いていたが、目そのものはこちらを見ていなかった。上の空と言うか、遠くを見つめているかのようにあらぬ方を見ている。
「正気を失っている。しかも目の中に光が見えない」
「まさか、『制約(ギアス)』の魔法!?」
ギアスとは、簡単に言えば心を操る催眠魔法だ。操られた人間は、自分がそうなっていることに気づかないというもの。ハルケギニアでは禁呪扱いされている、相手の身分にかかわらず使用するだけでも罰せられる恐ろしい魔法だった。しかもタバサの言っていた、目の中に光が見えない状態のギアスは、ギアスの中でも完全なものだ。
「いじめをやらかすようなくそったれな連中だからって、薄汚ねえ真似しやがる。人の自由を踏みにじってやがるな」
グレンが露骨に嫌悪感を露にする。もちろんタバサとキュルケも同じだ。犯人は一体誰なのだろう。もしやオリヴァンか?それとも別の誰か?いや、誰にせよこんな真似をしでかす不届き者を許すわけに行かない。
三人は武器を構え、襲い掛かってきたアルベールたちと交戦を開始した。



その頃、意識を手放したアネットは、うっすらと目を開けた。いつの間にか眠っていたのだろうか…?いや、違う!さっき自分は仕事仲間から行き成り腹を殴られて意識を手放していた。しかも、あざ笑うように見下ろしていた敬愛すべき主オリヴァンの姿。
その忌まわしい記憶が蘇ったことでアネットの意識は覚醒した。自分が目覚めた部屋の光景に、目を疑った。
周囲を敷き詰めているのは鉄の壁、鉄の置物に、壁や置物につけられている点滅を続ける小さなランプ多数。何から何までが金属製の何かだけで作られていた場所だった。
「ここは…!?」
良く見ると、自分は両手両足を、円形の物体に貼り付けられた状態で拘束されている。ここは一体どこなのだ?
「お目覚めかな、お嬢さん」
その声を聞いてアネットは声の主を探そうと周囲を見回すと、真っ先にオリヴァンの姿が目に入った。
「坊ちゃま…!」
だが彼だけじゃない。獣のような黒い顔と頭に、まるで毛皮のコートのように青い毛に身を包んだ、奇妙な怪人がオリヴァンの隣に立っていた。
「あなたは…!?」
「自己紹介をさせていただこう。私は…アルファ・ケンタウリ第13惑星『ペガ星』の者だ」
その怪人は、かつて地球人を洗脳することで地球を太陽系侵略基地に変えようとしたところを、ウルトラセブンとウルトラ警備隊によって計画を打ち砕かれた、『催眠宇宙人ペガ星人』だった。


キュルケに向けて、一発の風の刃が飛ぶ。エア・カッターだ。放った相手は、アルベールの取り巻きの眼鏡の少年だ。
「そんな風じゃ…あたしのスカートだって捲れないわよ!?」
キュルケは華麗に身をかわし、逆にその少年に向けて火球を放て相手を昏倒させた。室内なのでなるべく火を飛び散らせないように気を遣ったが、相手は他数名を巻き込んだ状態でダウンした。タバサもまた風の魔法エア・ストームを放ち、あっさりと相手を風で外の方へ吹き飛ばした。しかし、数が思いのほか多く、数人ほどタバサたちの懐の範囲にまで迫っていた。が、心配無用。魔法が使えない(炎は使えるが)が接近戦を得意とするグレンが、ファイヤースティックを構え、それを乱暴に振舞わす。
「おらおらおらおらあああ!!」
「ぐはっ…!!」
振り払い、なぎ払い、そして腹を突いて吹っ飛ばす。残った相手もグレンの活躍で一人残らず気絶させられた。
「掃除完了…っと。さて、お二人さん、怪我は?」
「ご覧の通りなんとも無いわ」
「平気。でも…」
なんたってアルベールや、このメイドと執事たちが操られていたのだろうか。
「そういや、アネットちゃんは混ざっていなかったな」
グレンが、周囲の気絶した連中を見ながら言う。確かにアネットの姿も、オリヴァンもいなかった。
「まさか…アネットに何かあったんじゃ!」
キュルケが血相を変える。これはまずい。あの娘まで何かあってはことじゃないか。
「うし、急いで探しに行こうぜ!女の子のピンチなら男である俺もいかねえとな!」
「ん」
グレンの軽い口はともかく、アネットを助けに行かなければならないことは確かだ。
「けど、そのアネットがどこにいるのかわかるの?」
「う…」
キュルケからの指摘に、グレンは息を詰まらせた。そう、千里眼なんかもってもいない彼らに、痕跡も残さず消えたアネットなど探しようが無い。
しかしそのとき、倒れた人間のうめき声が聞こえてきた。三人は直ちに構えなおす。ふらつきながらも、立ち上がったのはアルベールただ一人だった。他の人間は立ち上がる気配を見せない。
「こ、ここは…?」
タバサはアルベールの元に直ちに駆け寄る。どうやら洗脳が解けたようだが、効果が消えたばかりでまだ意識がはっきりしきれていないようだ。だが今はそんなことを言っている場合でもない。
「な!?」
杖を行き成り向けられ、アルベールは困惑する。
「何があったか話して」


「ペガ、せい…?」
アネットは困惑した。無理も無い。ハルケギニアでは宇宙の概念はサイトやシュウのような地球人にかかわっている者でなければ知ることもできない。
「まぁ君たちのような文明遅れの星の人間に説明したところで理解はしないことは承知の上だ。私のことはペガ星人とでも言ってくれればいい」
どこか馬鹿にもしているようにも聞こえる言い回しでペガ星人は言う。しかし、自分たちば侮辱されたにもかかわらず、いつもなら怒って虚勢を張った怒鳴り声を散らすはずのオリヴァンは、澄ました顔だった。
「坊ちゃま?お坊ちゃま!」
いや、澄ましたというべきだろうか。まるで服屋のガラス窓の向こうで経っているマネキンのようにその場に突っ立っている。アネットの呼びかけにちっとも動じない。
「あなた…一体お坊ちゃまに何を!?」
少なくともアネットは、この怪人がオリヴァンに何かを仕掛けていたことに気づいた。
「何、彼には少し私の言葉に、聞き分けよくしてもらっているだけだ」
「まさかギアスの魔法?なんてことを…それがどんな禁忌なのか理解しているの!?」
「君たちの星の常識や都合など我々の知ったことではない」
そう、侵略を働く異星人からすれば、別の星の存在をただの道具として扱い、卑劣な手口て相手を貶めることなど常識の範疇なのだ。
「目的は…目的は一体何なんです!?どうしてお坊ちゃまに手を出したのです!」
「我々ペガ星は、常に母星の文明発展のために日々尽力している。そのため、資源に富み、常に住みよい星を、宇宙に斥候を乗せた宇宙船を飛ばすことで探り続けているのだ。私もその一人だ。
そんなとき、クール星人共がこの星を侵略したことをたまたま知ってね。我々もまたこの星を手に入れようということにしたのだよ。
だが残念なことに、我々の体はこの星の気圧に耐えられない。だからこうして船の中に我が身を置いたまま、オリヴァン君の力を借りることにしたのだよ。
しかし面白いことに、この世界の地底生命体の一部には、『魔法』とかいう特殊能力を持つ者がいるそうだね。研究対象としては実に興味深いものなのだよ」
この怪人が魔法を持っていないとか言おうが、さっきからこいつの口から飛んできている言葉はどれもこれもが危険な臭いを漂わせるものだった。
アネットは、どんな事情があれど、このペガ星人とかいう怪人を自分の主の傍にいさせてはならないと判断した。
「お坊ちゃま!常々言っていたはずです!そのような怪しげな者の傍にいてはならないと!さあ、お屋敷に帰りましょう!」
共に帰ることを促すアネットだが、対するオリヴァンの反応はいたって淡々としたものだった。
「…何を言うんだ、アネット?」
「話しかけても無駄だ。私も独自に彼を通して魔法の研究をしていてね。彼とは交換条件をしたのだ。私の言うことを聞いてくれるのなら、君の魔法の腕を底上げして差し上げよう…とね。
彼は日ごろ、酷いいじめを受けていたようだね。試験的な洗脳によって彼の潜在能力を引き出してあげたら、意図も簡単に私を信用してくれたよ」
「…っ!!」
まるで、麻薬の密売を生業とする悪徳商人。アネットは、自分でもここまで怒りを覚えたことはないと思えた。自分の敬愛すべき主を、こんな風にしてしまったペガ星人を鋭い視線で睨みつけた。
「それと…外を見たまえ」
ペガ星人がそう言うと、周囲が暗くなり、代わりに映画館のスクリーンのように光が放たれ、ある映像が流れる。それは、夜の空を飛び回る怪しげな円盤の映像だった。地上は、遠い場所に街明かりが見える街の郊外の景色が映されている。円盤はその近くの空を呼んでいた。
「あの映像は、外に設置したスパイロボを通して我らのいる円盤を映し出したものだ。すでにここは空の上。逃げ出そうにも逃げ出すことなどできないと言うことだ」
「嘘…!」
「さて、私はこの星をペガ星の同胞たちに捧げるためにも、一人でも駒を作らなくてはならない。よって…君にも同じ目にあってもらうよ。オリヴァン君のように…ね!!」
ペガ星人は壁に掛けられていたレバーを下に下ろす。すると、アネットの両手両足を拘束している器具を通して、彼女の体に激しい電流が襲い掛かった。
「ああああああああああああ!!!」
「ふっふっふ…オリヴァン君、喜びたまえ。今までいじめられてばかりだった君を信じてきた少女が、我らの同胞となるのだからな」
「…はい、ありがとうございます」
虚ろな目と口調で、感情の篭っていない礼を言うオリヴァン。
「さて、見ているといいオリヴァン君。君を馬鹿にしてきていじめを仕掛けるような、同胞に牙を向ける愚かな連中の住まう町を、私が直々にこの円盤を用いて破壊してやろう。
そして、街でわずかに生き残った者たちは他者を頼らざるを得ない。そこを…私が手を差し伸べることで彼らを救うという名目で近づき、その人間たちも私の手駒としてくれる。くっくく………ん?」
すると、ペガ星人はまだ映しっぱなしの状態にしていた映像に、ある変化が起きていたことに気づく。円盤の近くに、何か大きな炎の塊が飛んできているではないか。
その炎は地上に降り立ち、一体の炎の巨人となった。
そう、炎の用心棒グレンファイヤーである。
「ちぃ、邪魔者が来たか…!」
ペガ星人は悪態をつくと、円盤の操作盤にあるスイッチを押したのだった。




「さあて…卑怯者はあそこだな」
一方、外では真の姿である炎の巨人となったグレンが待ち構えていた。
操られたアルベールの洗脳が解けたところで、彼に少し恐喝めいた形ではあったが、操られている間の記憶を思い出させ、ペガ星人の円盤の場所を特定させていたのだ。
おそらくその円盤は、レコンキスタが改造させたレキシントン号のような見たことも無い金属で構成されていることを見て三人は、町への攻撃を阻止するために外にグレンを、内部にはタバサたち二人を侵入させることにしたのだ。後はシルフィードに乗って一気に接近。今頃二人は魔法で入り口と思われる場所に穴を開けて円盤に侵入していることだろう。
予測どおり、ペガ星人の円盤からレーザーが放たれた。グレンはそのビームを片手を突き出して防ぐ。
「んだよ…こんなもんかぁ?」
せっかく変身してまで対応したのだ。もっと相手にして欲しいものなのだが、余裕をこいていた彼に向けて、円盤から猛烈なロケット弾を乱射し始めた。
「ってうおおおおおお!!?」
先日のオリヴァンとの決闘で自分より遥かに弱い人間の相手をしたためか、すっかり油断していたようだ。足元に降りかかる火の粉を何か踊らされているかのように避けている様は、まるで足元の害虫や溝鼠を嫌がっているようで、なぜか奇妙な滑稽さがあった。
「ちょ、あだだだ!!」
地味に痛がっているグレンだが、ペガ星人の円盤はなおも集中砲火を続け、グレンを始末しようとする。これだけ乱射を続ければ、意外な急所にもあたってしまうわけで…。
「ほうあああああ!!?」
偶然にも尻を数発ほど同時に被弾してしまい、グレンはまるでカンチョーでもされたかのごとく尻を押さえてもだえるというなんとも情けない姿を披露した。
「ち、ちくせう…タバサちゃ〜ん…早く中の奴をとめてよ〜…」
少なくとも自分はあくまで地上への攻撃を防ぐ役。攻撃を仕掛けるのは、内部のタバサたちが、オリヴァンとアネットを救出するまでだ。
けど、こんな…今頃どこかに隠れているガル船長たちに見られたら赤っ恥ものだ。せめて、情けないところを見せない程度には気を張らなければ。




グレンファイヤーの登場と同時に、ガシャン!!と大きな音を立てながら、ペガ星人たちのいるフロアに二つの人影が侵入した。
「そこまでよ!!」
煙の中から姿を現したのは、タバサとキュルケの二人だった。タバサは風の刃を吹かせ、アネットの両手両足を拘束している拘束具を切断。アネットはそのまま床に落ちようとしたところをキュルケが受け止めた。
「私たちの魔法でも十分壊せる程度のものだったみたいね。大丈夫?」
「は、はい…助けてくださって…ありがとうございます」
アネットはさっきの洗脳を促す電流のせいか、息を切らして疲労していた。
舌打ちするペガ星人。オリヴァンは余裕の態度を崩さない。
「問題ない。僕のスクウェアメイジクラスの魔法を使いさえすれば…」
「そのメイジって、こいつのこと?」
キュルケが杖を軽く振ると、彼女たちが入り込んできた入り口から数人ほどの、武装したメイジやガリアの魔法学院に通う学生が転がってきた。その総数は3人ほどだった。
「大方、あなたも隠れた代役を立てる形で…ライトニングクラウドを放った…と見るべきかしら?」
そう、オリヴァンはスクウェアメイジになど覚醒してはいなかった。あらかじめ別のメイジを3人用意し、彼らが互いに力を合わせる形であの時スクウェアクラスの魔法を放ったのだ。
実際、過去にウルトラセブンと戦ったペガ星人にも人間を強化させる技術など無い。当時防衛軍の狙撃の腕のトップだったソガ隊員ではなく、そのライバルだったヒロタ隊員を射撃大会で優勝させたテレキシスのような力、そしてその対価の支払いとして施した洗脳、後は円盤による攻撃くらいだった。
「あなたは何者?少なくとも、ハルケギニアでは見られない種族。それに、あれだけの数の人間の洗脳…ギアスの魔法では限界がある」
タバサは偶然なのか、確実さも持ち合わせた予測を立てる。
「ほう、それくらいは理解していたのか。案外馬鹿にできないものだ。この世界の人間も。
なら改めて…私はペガ星人だ。最も、今から死ぬか、我が手駒となるだけの君たちが知る必要は無いがね」
ペガ星人は邪魔をされていることに不快な思いを抱きつつも、素直にタバサの洞察眼を評価する。
「そ、そうだ!いくら僕の魔法の正体がわかったからって、僕たちの前に敵は無いんだ!そうだろペガ!」
一方で洗脳されているはずなのに、オリヴァンはたじろぎ、それを隠そうと虚勢とも取れる態度を示した。すると、その目の奥にやどる感情を覗き見、タバサはある予測を立て、それを口にした。
「あなた…洗脳なんてされてないの?」
「え!?」
これを聞いたアネットは驚愕する。てっきりアネットはオリヴァンがペガ星人に洗脳されているとばかり思っていた。だが、そうじゃなかった。ということは…。
(自らの意思で…この悪党に…?)
タバサからの指摘を聞いて、さらにオリヴァンは息を詰まらせた。
「…図星みたいね。大方今までやたら調子よい態度を取ってきたのって、単純にいじめっ子たちに仕返しできる手立てができたからって調子に乗っていただけなのね」
キュルケは言葉の中に嫌悪感を混じらせていた。自分の好みは、やはりサイトやシュウのような強くかっこいい、かつ自分の心の炎を燃え上がらせるような(キュルケ基準での話だが)男だ。ワルドは強かったが元々下劣な本性を隠していた下種野郎だったし、オリヴァンのような臆病でチキンな男など問題外。ギーシュにも遠く及ばない。
「坊ちゃま…なんで…」
驚きからいまだに抜け出せないアネットの、今にも失望の闇に落ちていきそうな視線を浴び、オリヴァンは震え始めた。
「な、なんだよ!僕は悪くないぞ!悪いのはあいつらだ!あの屑共、僕が太っているからって好き放題してくるからいけないんだ!!けど僕一人じゃどうにもならない!だけどそんな時、この亜人が僕に力を貸してくれるといったんだ!そして今回、やっとあいつらに仕返しできたんだ!けどあいつらはしつこく僕をまた貶めようとしている!だから絶対に歯向かわないように、徹底的にやるんだ!」
キュルケは心身ともに傷だらけのアネットと、焦りながら言い訳をするオリヴァンを見て、怒りが沸く。ペガ星人に、そして…オリヴァンに対して。
「あんた…自分がなにをしているのかわかってるの!?この子は、ひねくれて、何もしないで愚痴や弱音しか吐かないあんたを信じて、助けようとしてたのよ!」
「助け…る?」
オリヴァンは何を言われているのか理解できずにいたのか首を傾げだした。
「あんたがアネットが割った壷の件を庇ったことよ」
それを聞くと、あぁ…と声を漏らしたオリヴァンは乾いた笑い声を上げ出した。
「…は、ははは…!!勘違いしやがって…壷?僕はアネットを助けるつもりなんてなかったさ!」
「なんですって!?」
「あの時、毎年の号令だった家族旅行でラグドリアン湖に行く予定だったが、僕は行きたくなかったんだ。けど行きたくないなんていったところで無理やり連れて行かれるに決まってる。だからちょうどアネットが壷を割ったのを見て、僕がやったことにしてしまえばいいと思ったんだ。大成功だったよ。おかげで僕は自宅謹慎になって旅行に行かずにすんだ!大方僕を庇ったなんて思っているみたいだけど、馬鹿な奴だよ!
信じるだって?そんなことあるもんか!どうせアネットも、僕のことを心のどこかで笑っているに決まってる!」
「こいつ…!!」
いくらいじめの被害者だからって、その被害者面に甘えて、自分の殻に閉じこもってばかりで、自分を信じてくれているアネットを信じようともせず、彼女の目の前で、こうも堂々と酷い言葉を吐くとは。今すぐにでもこの豚野郎を焼き殺したくなったキュルケは杖を構えたが、咄嗟にタバサが冷静に止めた。
「タバサ、今回ばかりは我慢できそうに無いわ。こんな最低男、あたしの魔法で…」
「…オリヴァン。あなたみたいな子を私たちは知っている」
「なんだって?」
「彼女も自分の才能が無いことをすごく気にしている。でも、あなたみたいに他人の力を自分のものと偽ったりしない」
それを聞いて、キュルケははっとなった。タバサの言っている、『オリヴァンみたいな子』。間違いなく、あの子ただ一人しか思い当たらない。
「い、偽り?は、はん!偽りなんかじゃない!いつか必ず目覚めてやる!今はあえて他人の力を借りて先取りしているだけだ!なんたって僕はド・ロナル家の跡継ぎなんだから!」
キュルケはそれを聞くと、オリヴァンを露骨に鼻で笑った。
「いつか目覚める?はっ。笑わせないで。あんたみたいなぶくぶく太ってもダイエットする気さえ起こさないだらしの無い男が、一体何に目覚めるわけ?豚の真似事に?」
「なんだと!!」
「あの子はね、あんたなんかと違って立派なプライドがあるのよ。もうそれは高慢で単純にも見えるくらいだけど、高潔な貴族としての魂と誇りがあるわ。だから日々努力しているし、自分以外の誰かのためにできることだってやろうとしている。だからあの子は、あんたと違って友達もできているし、最高のパートナーもできた」
「あなたは…そうやっておどおどしているから、そしてなにもしないでただ怯えているだけだからいじめられている。あなたが勇気を出せばいいだけの話」
「う…うるさい!!うるさいうるさい!!」
立て続けに二人からの思い言葉を受けても、自分の非を認めず意地を張って杖を振ろうとするオリヴァン。しかし、たかが他人のスクウェアクラスの力と言うメッキがはがれた今の彼はただのドットメイジ。トライアングルクラスであるタバサとキュルケの敵などではなかった。タバサが軽く杖を振るって発せられた風に、いともたやすくオリヴァンの杖は壁に叩き落とされた。
「う、うぅ…」
また、僕は他人にこうして屈しているだけか?負けるのか?嫌だ…こんな奴らに、僕の気持ちなんかわかりもしないで馬鹿にしてくる奴らなんかに!!
「何しているんだ!早くこいつらを消してしまえ!」
追い詰められた彼は二人を排除するように命じるが、対するペガ星人は顔をしかめていた。そんな眼で睨まれている意味がわからず、一瞬固まったオリヴァンだが、次の瞬間ペガ星人が壁のスイッチを押すと、オリヴァンに向けて、円盤内に設置されていた装置からレーザーが飛び出し、オリヴァンの足を貫いた。
「ぎゃああああああああああああ!!!」
「「!!」」
「お坊ちゃま!」
「うぅ…痛い…痛いよぉ…」
さっきまでの虚勢も霧散し、オリヴァンは情けなく顔をぐしゃぐしゃにして床の上を転がっていた。それを、まるでごみのようなものを見る目で見下ろすペガ星人が口を開いた。
「一つ勘違いしているようだから教えよう。君は私以上の立場にいると勘違いしているようだが…はっきり言おう。
君は私の…『ただのモルモット』だ。それもできそこないのね。あくまで君と手を組んだのは、たまたま目に付いた君を手駒として操ろうとしただけ。誰でも良かったのさ。敢えて洗脳しないままでいたのは、君には操って私に近づくものを排除するだけの力どころか、逆らう勇気もこれっぽっちも無かったのが目に見えたからだ。だったら、せめて捨て駒、一時の身代わりとして使ってやろうと思っただけのこと。さっき、君の魔法の代役としてくれたあの3人のメイジのようにね」
「う…うあ…」
オリヴァンの表情が、だんだんと恐怖に歪んでいく。
「それにメイジの実験サンプルならもう目の前に二人いる。この二人はなかなかの才能の持ち主だ。捕らえて研究すれば、面白いものをみることができるやもしれん。よって君は用済みだ。手駒でなくなった以上、私のことを知ってしまった者を生かしておくわけにもいかん」
「た、助け……」
「ち!」
こんな奴だが、目の前で殺されるもの目覚めが悪いし、任務における保護対象者だ。一瞬の躊躇いこそあったが、キュルケ、そしてタバサはオリヴァンを救おうと杖を振るおうとするが、詠唱が間に合わない。
思わず、オリヴァンは自身の頭を両手で覆った。

しかしそのときだった。オリヴァンは自分がわずかに宙に浮かぶ感覚を覚えた。


その理由は、アネットだった。彼女が咄嗟に動き、自分を突き飛ばしたのだ。


結果、オリヴァンは自分が突き飛ばされた直後に放たれたペガ星人の装置のビームから逃れることはできた。しかし…。
「…う……」
閃光が、背中からアネットの胸を貫いた。体を貫かれた彼女はそのまま床の上に落ちた。
「あ、アネット!!」
「アネット!」
オリヴァンは自分でも信じられないくらいの大声を上げて、タバサとキュルケも直ちに彼女の元に向かった。足が貫かれた痛みさえも、たった今の光景のせいで微塵も感じなかった。
「タバサ、治療を!」
「…だめ。肺に穴が開けられている」
「そんな…」
すぐに治療魔法をかけることを促したキュルケだが、アネットの傷は急所…肺を的確に貫いていた。
「坊ちゃま…ご無事…ですか…?」
「なんでだよ…何で僕なんかのために!?お前だって聞いてただろ!僕がどんな奴なのか!」
アネットを抱き上げ、オリヴァンは真っ先に浮かんだ疑問をぶつけると、うっすらとアネットがその目を開いた。天使のように慈悲深い笑みがオリヴァンの脳に焼きつく。
「気づいて…おりました…壷のことなら…すでに…」
「え…」
アネットが壺を壊したのを庇った真意を、彼女自身は既に気づいていたと聞いて、オリヴァンは唖然とした。
「でも、私は坊ちゃまを…信じます…本当は…お優しい心をお持ちなのだと…此度のことは、わずかな気の迷いに…すぎない…と…」
「どうして!?そんなわけあるはずが…」
「だって…あなたの…手を通して…私には…感じられます…あなたの…暖かな、心を……」
アネットは、自分の肩に手を触れているオリヴァンの手にそっと自分の手を添えた。やがて、彼女は目を閉ざし、動かなくなった。
「…!!」
ガラスが割れたような音が響いたような気がした。オリヴァンは震えたまま、呆然とそのままアネットを抱えていた。
「手駒候補が一人死んだくらいで…まあいい」
プツン。キュルケは、自身の脳裏に、糸が切れた音が聞こえたような気がした。立ち上がり、地獄の業火のごとき怒りをその人身に宿した彼女はペガ星人をその眼で睨みつけた。
「あんた…今すぐ焼き殺してやるわ!覚悟しなさい!」
すかさず彼女は杖を振るって、燃え盛る炎の弾をペガ星人に向けて発射した。しかし、次の瞬間奇怪な光景を目の当たりにする。
キュルケの放った、激しい炎はペガ星人に当たる直前で、まるで見えない壁にぶつかったかのように反射、逆に発動者である彼女の方角へと向かって行く。
「危ない!」
タバサが咄嗟に氷の風、〈アイス・ストーム〉を発動、キュルケに降りかかろうとした炎をかき消した。そして、一端キュルケを引っ張って入り口付近へと共に下がる。
「大丈夫?」
「え、ええ…けど…今のは…?」
向こうには、いまだにアネットを抱えて呆然としたままのオリヴァンと、バリアの向こうで勝ち誇るペガ星人がいる。
「焼き殺す?誰をだね?まさか、そんな花火で私を?」
怒りでさらに威力倍増したのが目に見えるほどの、自慢の魔法を跳ね返されたキュルケは唖然としていた。
「少し説明を入れてやろう。私は最初こそオリヴァン君を利用していたが、さらに多くのメイジの手駒を使い、魔法の研究を独自にしていたのだ。我々ペガ星の技術で、どのようにバリアを展開・強化すれば魔法を跳ね返せるのか…その結果が、今の特殊バリアだよ。
このバリアの前では、君たちがたとえスクウェアクラスのメイジだったとしても、自慢の魔法を通じないぞ?」
「ぐ…」
この二人は魔法の腕は普通のメイジ、特に同年代に対しては圧倒的なものだが、それ以外はからっきしだ。魔法が使えなければ、あっさりと無力な人間に落ちてしまう。石器ね千に持ち込もうにも、タバサはその体格上力は強くないし、キュルケも殴り合いなんて得意じゃない。しかも、ペガ星人には屋内に設置されたレーザー発射装置もある。魔法と違って詠唱する必要もないし、的確に狙えば人間の体など槍よりも鋭く貫くことができる。
「そのまま動かないでいてもらおう。さっきはやむを得なかったが、せっかくのサンプルに傷を入れたくは無いのだからね」
ペガ星人はタバサたちが動けない立場にあることをいいことにケタケタ笑う。うかつに動けば、こっちはあのレーザーによって体を貫かれる。動かないままでも、どの道捕まってしまい、奴の手駒となってしまう。
万事休す…!!
しかし、次の瞬間だった。

ドス!!!

「うげ…!!?」
「!」
ペガ星人もまた、突然背後から自分の身を貫かれた。今の魔法はタバサたちには覚えがある。風で構成された、針のように鋭い貫通魔法〈エア・ニードル〉。しかし二人とも風魔法を使ったわけでもない。魔法をも跳ね返すあのバリアのせいでコモンマジックを放つことさえ許されていない。ペガ星人の背後にはバリアが展開されていなかったから、奴に魔法が届いていた。そしてちょうどペガ星人の背後に立っていたメイジとは…。
「よくも…アネットを……よくも…!!」
オリヴァンただ一人だけ。床に寝かせたアネットを傍らに、オリヴァンはみっともないくらいボロボロに泣き叫び、鼻水さえもたらし飛ばしながら咆哮を上げた。
「許さない…許さないぞおおおおおおおおおおおおおお!!!」
彼の心を支配していたのはアネットを失った悲しみと、ペガ星人…そして何よりこのような最悪の結果をもたらした最大の原因である自分への怒りだった。
本当は才能がなく、これまでタバサたちの前で見せてきた魔法は代役によるカモフラージュ。人間一人を吹き飛ばすほどの魔法の力は持っていなかった。しかし、続けて放たれたオリヴァンの魔法は、ペガ星人を思い切り吹き飛ばした。その威力はもはやドットクラス程度の威力を越えていた。皮肉にも彼は、アネットの死と、それを招いたペガ星人、そして自分自身への怒りで…いつか目覚めると口にしていた力に、ラインクラスの力へと目覚めたのだ。
「うぎゃあああああああああ!!!?」
吹っ飛ばされたペガ星人はそのまま窓から円盤の外へと放り出されると、突如奴の体は風船のように膨れ上がり、やがて豆粒よりも遥かに小さくなるほど飛ばされたところで、木っ端微塵に破裂した。
オリヴァンはすべてを出し切ったように、アネットの傍らに倒れこんだ。タバサがまずオリヴァンとアネットの元に駆け寄り、キュルケがペガ星人が突き破った窓の外を見やる。あの怪人の姿は見当たらない。
さっきペガ星人が気圧に耐え切れない、とは真実だったようだ。物体、特に人間の体は実を言うと身の回りから20トン近くもの重さが掛かっている。それが本当ならつぶれて死んでしまうと思うだろう。だが外から掛かる圧力に対して、内側からもまた同じくらいの力が働き常に押し返し続けることで、潰されることなく釣り合いが取れているのだ。だがその釣り合いは常に保たれているわけではない。エレベーターで急に上の階まで上がることで鼓膜がキーンとなるのは、外側からの力が弱まったことで力の釣り合いが崩れたために起こる。それと同じで、この星の気圧に耐性を持たないペガ星人の体もまた、自分の安全地帯である円盤から外に追い出されてしまうとその体は膨らみ、先ほどのように破裂してしまうのである。
まぐれ、ということは確かだろう。しかし、このオリヴァン少年は自らの手で異星人を倒すという快挙を成し遂げたのである。
しかし、オリヴァンが自分のいじめの被害者としての立場に甘え、道を踏み外したこと。結果として自分を慕ってくれていた少女を死なせたという事実は覆らない。
「やりきれない結果ね…」
胸を貫通され、倒れているアネットを見てキュルケが悲痛な表情を浮かべている。タバサはこんな危険で、辛いことばかりが起きる任務を続けてきたのだろうと思うと、さらにやるせない。
「…脱出」
ここで立ち止まっても仕方ない。タバサはキュルケに、ここから脱出することを促した。キュルケは、少しくらい悲しんだらどうなのだ、とはいわなかった。タバサは常に悲しい思いを抱きながら戦っている。全て、心を失ってしまった愛する母のために。ここで気を張っているかもしれないタバサの心に棘を差すようなことは避けた。
魔法でオリヴァンとアネットを浮かし、二人はペガ星人の円盤から脱出した。



「なんだ…?」
グレンは、一時円盤から攻撃がやんだことを奇妙に思った。これはこれで楽だし尻を攻撃されるという変なシチュエーションが怒らなくて済むのだが、タバサたちが脱出したことが確認されるまでは攻勢に転じることはできない。
すると、ピーッと指笛の鳴る音が聞こえる。一つの影が円盤の方に向かう。確かタバサの風竜シルフィードだ。その背にはタバサたちが四人とも乗っている。タバサがこちらを見てこくっと頷いた。
「うっし…さっきまで散々ちまちまとやらかしてくれたもんだな…!行っくぜえええええええええええ!!!」
広げた両手に炎を宿し、グレンは気合を入れなおして一気に、ペガ星人の円盤に向けて突撃した。今となっては空の城も同然。落城させるなど容易だ。すぐに円盤に掴みかかった彼はさらに高く飛び立つ。円盤を抱え、彼は地上に向けて急降下した。
「さあて、皆さんお待ちかねの…〈グレンドライバー〉あああああああああああああああ!!」
赤き流星となったグレンは抱えていた円盤を地上に激突させた。それはまるで、隕石が宇宙から降り注いできたかのごとくだった。ペガ星人の円盤は、その一撃を持って破壊、その場所からは煙が天に向かって昇っていった。





「う…」
自分の顔に降りかかっている朝日を浴びて、オリヴァンは目を覚ました。自分から目を覚ましたのはいつ振りだっただろうか。気がついたら、アネットが起こすのが当たり前だった。オリヴァンは、久しぶりに自力で起き上がった。起き上がると、体中から激痛が走る。
と、オリヴァンはアネットのことを思い出して、その胸の内に強い後悔を抱く。

あぁ、自分はなんて愚かだったのだろう。魔法の才能がないから?太っているから?…違う。

すべては、そんなちっぽけなことを気にして、何の努力もせず、いじめに立ち向かう勇気も出そうともしないで自分の殻に閉じこもり続けた…

己の心の弱さが、アネットを殺したのだ。







「もう、自分から起き上がるのはよろしいですが、お怪我をなさっている以上ご無理をなさらないで」




聞き慣れた声が耳に入る。オリヴァンはその声の方を振り向くと、信じられない人物が、水で濡れたタオルを絞りながら、そこに立っているではないか。
「あ、アネット…!?」
気がつけば、眠っていたのは自分の部屋だった。
僕は、さっきまで何をしていたんだろう。…いや、確かに覚えている。自分はいじめの仕打ちに対する報復をしたいがために悪党の甘言に惑わされ、その手のひらで踊らされた果てにアネットを失っていたはずだ。けど、現に彼女はここに生きている。
夢…だったのだろうか?けど、自分のこの体を巻く包帯の下に隠れた傷は本物だ。
「なあアネット…僕はどうして…」
「いつものように、同級生の方たちからの仕打ちで気絶なさってしまったところを、ここに来た騎士様が運んで来てくださったのですよ」
「けど、あの時確か…」
さも、あの時のことがまるで無かったかのように語るアネットに、オリヴァンは違和感を覚え、目の前で彼女がペガ星人によって命を経たれた時のことを口にしようとしたが、それを遮るかのごとく彼女が言った。
「悪い夢を見ていたのですよ。坊ちゃまは。ずいぶんうなされておりましたから」
「………」
それ以上、オリヴァンは何も言わなかった。本当に夢だったのだろうか。けど、今自分の中に渦巻いている感情やその根源たる、アネットの言う『夢』の記憶が焼きついている。ペガ星人や、いじめにただ屈するばかりで言い訳ばかりの、ふがいなくて情けない、無様な自分に対する怒り。アネットに対する感謝と、それ以上の贖罪の気持ちがこみ上げている。
「夢の中…けど僕、負けたよ。あいつらにも、自分にも…アネットにもすまないことしていたよ」
「私のことなら大丈夫ですよ。夢の中での話ですから」
「…ありがとう」
「坊ちゃま…?」
行き成り礼を言われたアネットは驚きを見せた。
「僕…学院に通うよ」
「坊ちゃま…」
「そして、今度は自分の力で立派なメイジに…ド・ロナルの家名にふさわしい男になる。だから…」
ベッドから腰を上げて、オリヴァンは正面からアネットと向かい合った。
「恥を忍んで、頼むよ。これからも僕を助けて欲しい」
それは、これまで腐るほど見せてきた、おどおどとしてばかりのいじめられっこだった弱虫オリヴァンの姿などではなかった。
本心から、自分のすべきことを見定め、迷うことなく突き進むことを選んだ、一人の男の顔だった。
その立派な顔立ちは、アネットの目に映る彼をさらに一人の男として引き立てた。
「…はい、私はどこまでもお坊ちゃまと共に」

その後、オリヴァンは学院に通い始めた。今までどおりいじめてきた者たちは、今回の彼の起こした問題行動で逆に恐れをなしていたが、オリヴァンは必死に勉強と魔法の腕を磨いていき、だんだんと周囲から一人のメイジとして、誇るべきクラスメートとして認められていった…というのは、別の話である。
ちなみにアネットとの仲は、互いに身分違いということもあって、どうなっているかまではわかっていない。が、少なくとも二人の絆が、あの事件をきっかけに深まっていたことは確かである。




「やれやれ…世話のかかるお坊ちゃんだったわね。まあ今回のことで、少しは男が磨かれたかしら?」
日が昇りそうになっている早朝の時間、すでにイザベラへの報告は済ませ、トリステインに向けて飛行中のシルフィードの背に乗るキュルケが、自分の前に座っているタバサに話しかけていた。
「けど、驚いたわね。あの時のアネットが、まさかあの性悪王女がくれた、マジックアイテムの人形だったなんてね。あのペガ…せいじん?って奴に連れ攫われたあの時点で、アネットはその人形が化けた偽物と入れ替わっていたのね」
「…結構便利」
タバサがそういって取り出したのは、胸元に穴の開いた古い人形だった。そこは、ちょうどアネットがペガ星人によって貫かれた箇所と同じ場所だった。
その人形は、古代の魔法人形『スキルニル』。ある人物の血をつけると、その血の持ち主だった人物の姿をそのままコピーしてしまうという、古代のマジックアイテムの一種だ。イザベラがタバサたちに任務の前に与えた人形がそれだったのだ。ペガ星人に殺されたはずのアネットは、グレンに敗北して再び部屋に閉じこもったオリヴァンを訪ねたあの時点で、実はタバサが囮として利用するために作ったスキルニルの偽者と入れ替わっていたのだ。偽者ではあるものの、その心自体は本物と遜色ないため、仕込んだタバサ以外は誰も気づけなかったのだ。
「そういやよ、なんであんた、あんな我侭し放題のおぼっちゃんの肩を持ってたんだ?」
「……」
投げかけられた疑問に対して、最初は沈黙していたタバサだったが、その理由を明かした。
「私と、同じだった気がしたから」
「あんなのとタバサちゃんが同じ?何言ってんだよ。見た目からして、タバサちゃんとあの坊ちゃん全然似てねえじゃねえか」
「見た目の話じゃない。私と同じ、寂しさを埋めるものがわからなくて、もだえていた。表に出ていたものが違ってただけ」
「タバサ…」
その言葉の裏側にあるものを、任務に向かう前に知ったキュルケは、憂い顔を浮かべた。
「ところで……」
が、すぐにその表情は、すぐに呆れ顔に近いものに変わる。
「どうしてあなたまでいるのかしら?」
振り向かず、彼女は自分の後ろにちゃっかり座り込んではタバサに問いかけてきた少年に問う。
実は、さっきオリヴァンのことで質問をしてきたのはキュルケではなく、彼…人間の姿のグレンファイヤーその人だったのである。
「い、いいじゃんよ!俺トリステインにも立ち寄ろうと思ってたところだったし、そろそろ一人がいやになってきたころだったんだってばさ」
親に叱られてもふてくされている悪餓鬼のようにぶー垂れながらグレンは言った。
「彼には助けられた。これはせめてもの礼」
「まぁ…変なことはしないようにね」
別にグレンの存在を否定するつもりは無い。寧ろ今回の件も、アルビオンでも彼に助けられたことがあるので邪険にすることはもってのほかだ。タバサとしては、今回彼を本人の要望でトリステインに運んでいるのも、借りを返す一端に過ぎない。
「そういえば、そろそろラグドリアン湖かしらね」
オリヴァンが家族旅行で出かけるのを拒んだという湖が近づいている。森の木々が切り払われている場所に、ちょうど大きな湖が見えてきた。すでにトリステインの国境内部。しかし、ここで奇怪な現象が起きた。
「ね、ねえタバサ…あれって!」
「!」
「おぉ…!?」
キュルケが真っ先に指を差し、そしてグレンとタバサの二人もまたラグドリアン湖の方角を見る。
ラグドリアン湖の真上から黒い波動が空を覆い始めていたのだ。
「な、なんだこりゃあ!?」
「この現象…まさか」
グレンが驚く一方で、覚えがあるタバサとキュルケにはある確信があった。この不気味な現象…タルブのときと同じだ。あの…黒いウルトラマンが発生させている闇の空間『ダークフィールド』だ。その黒い波動はタバサたちの頭上の空をも包み込んでしまった。
その確信は間違いではなかった。
「ウルトラマンだわ!けど…」
「…苦戦している」
遠くで二人の巨人が、黒い巨人と、顔に十字の光の水晶を埋めた銀色の巨人、そして地獄の番犬をかたどったような姿をした怪獣の姿が見えた。
「グワァ!」
目の前の黒い巨人たちに一方的に伸されている、ウルトラマンゼロと、ウルトラマンネクサス・ジュネッスブラッド。
しかしそれだけではない。
「おいお二人さん。あそこにいる子…あんたらの友達じゃねえか?」
え、と声を漏らしながら二人は、グレンが指を指した、ウルトラマンたちの傍らの方角を見つめる。そこには、呆れるほど付き合ってきた学友の姿と、トリステインの姫の姿が映った。
「る、ルイズじゃない!?それに…アンリエッタ姫まで!なんでここにいるわけ!?」
また何かのトラブルに巻き込まれていると見える。どうしてルイズたちがここにいるのか、その理由はわからない。けど、タバサはここで成すべきことを見極めていた。
「タバサ?」
「ウルトラマンを援護する。少なくとも、あの黒い巨人を倒させるようにしないと、この空間からは脱出できないと思う」
以前は白い光の一撃で、タルブの戦場に展開されたダークフィールドが解けたのだが、魔法と同様発動者をどうにか倒せば、この空間から脱することも可能かもしれない。
「なるほど、この気味悪くて辛気臭え世界は、あの黒いデカブツが原因ってわけか。なら、俺も手伝わねえとな」
グレンもやる気を出して、両手を鳴らす。この面子の中で唯一ウルトラマンや怪獣と同じくらいの力を持っているのは彼だけだ。ならやはり自分も力を出し惜しまずに前に出なければならないだろう。すでに巻き込まれている身でもあるのだから。
「また一個借り」
「いいっていいってタバサちゃん。このくらい貸し借りの内に入らねえよ」

こうして、タバサたちもまた、トリスタニア城からこのラグドリアン湖という広範囲に渡った、アンリエッタ姫の誘拐騒動に巻き込まれることになったのだった。 
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